ALDNOAH.ZERO -Earth At Our Backs- 作:神倉棐
11/1「早期講和に向けて」
11の1「早期講和に向けて」
【西シベリア平原 地球連合本部ノヴォスタリスク 連合軍参謀本部 11月25日13時30分】
〈West Siberia Novostarsk UFE Headquarters General Staff HQ 1330hrs. Nov 25, 2014〉
永久凍土の真下──地下600メートル──に作られたソレは第一内惑星戦争以後、各エリア首都を筆頭に世界各地でこぞって建造された核シェルターを兼ねた
「極東方面軍海軍大佐、ダルザナ・マグバレッジです。入ります」
《入りたまえ》
そんな地球上でも有数の重要施設でもある連合本部の廊下。思惑は如何あれ建設者の威信を賭けて先進的な機構が至る所に仕込まれた幾つもの隔壁や自動ドアを超えて、マグバレッジ艦長に連れられた一帆やアセイラム、そして彼女の従者であるシャルロットとエデルリッゾを含めた4人は入室許可を得た艦長に続いてとある一室へと足を踏み入れていた。
「ダルザナ・マグバレッジ、アセイラム姫殿下以下3名をお連れしました」
「うむ……ご苦労だった。マグバレッジ大佐」
彼ら彼女らが立ち入ることとなった一室は参謀本部内の会議室……ではなく司令部内の
「さて……はるばるようこそお越し下さいました、アセイラム姫殿下。本来ならば盛大にお迎えしたいところでしたが、なにぶん我々も連合でもしがない庶民の出……ましてこのような
「構いません、こちらこそ唐突にお邪魔してしまい申し訳なく思っています。我々を受け入れて頂きありがとうございます」
部屋の中央、そこに据え付けられた執務机に座った恰幅の良い軍服姿の男は人好きのする笑みを面に貼り付けつつ、一帆やアセイラムたちの来訪を歓迎する。
「ああ、自己紹介がまだでしたな。私はグラン・ゴップ、地球連合軍では一応「大将」の地位と
───この男が、あの有名な「ジャブローのモグラ」か
“グラン・ゴップ本部大将”
連合内でも数少ないエリート中のエリートたる「
「歓迎感謝します、ジェネラル・ゴップ。私はアセイラム・ヴァース・アリューシア、ヴァース帝国の第一皇女です。新芦原での一件以降、我が祖国たる火星と地球の間で開かれてしまった戦端については、決して我々火星人の総意でもって行われた訳ではありません。私としても早期停戦、そして早期講和──和平を求めています」
ある意味、
「ええ、その報告は既にマグバレッジ大佐から受けています。我々──
そんなアセイラムの要望に、ゴップは澱むことなく地球連合内の「早期講和派」の
“この馬鹿げた戦争を終わらせる”
地球側にも不手際が無かったとは口が裂けてもいえないが、それ以上に火星側の大暴走により起こったともいえる第二次内惑星戦争。開戦以後のあれこれ*3や戦後のあれこれ*4など、地球・火星に関わらず互いに思惑や確執は大なり小なりあるものの、それでもなお「この戦争を終わらせること」こそがこの場に集った者が共有するたったひとつの意思でもあった。
「ただ今後の詳細については申し訳ありませんが、本来この場に同席する予定の者が諸用で遅れておりましてね。本題に入る前に今、この場にいる者を紹介しましょう」
地球連合の重鎮と火星のお姫様を筆頭に意思を同じくする者たちとはいえ、あらかじめ選別された限られた者しか集められていないがためにちょっとした
「彼はテム・レイ技術大尉。我が軍がかつて主力量産機として配備していた
ひとり目はゴップの座る執務机の右側に立っていた軍服ではなくスーツ姿で眼鏡を掛けた青髪の男、テム・レイ技術大尉。
「テム・レイです、よろしく」
お辞儀とともに掛けた眼鏡の位置を直しつつ、言葉少なげに自己紹介を切り上げたテムは中央に立ったアセイラム……ではなく何故かその後方に立った一帆に対し視線を向ける。
───……?何だ?
一帆を見て何か思うことがあったらしいものの、結局再び口を開くことなく一帆から視線を
「そしてもうひとり、こちらの彼女は──「ゴップ大将、彼女については私から説明しましょう」」
「──うむ、まぁ技術屋同士のことだ。君に任せよう」
少しばかり違和感を感じていた一帆を他所に、ゴップが今度は執務机の左側に立つ白衣の女性について紹介しようするが、それに
「感謝します、大将。彼女は
「
目の前に立つ歳若い──おそらく20代後半か30歳前半──白衣の女性が
───つまり、この人がマクロスの無い
己が「
「え、えっと……伊吹琴乃です。元三蔆重工航空機・飛昇体事業部航空機部門所属の技術者で、一時凍結されてしまいましたが「VF-X」では主に機体本体の設計に携わっていました」
「こほん……本来彼女は三蔆重工総科学研究所に勤める技術者なんだが、極東方面軍先進技術研究所を介して連合軍技術本部に招聘し我々のチームの一員として引き続き研究を続けてもらっている」
若干、少女ふたりが放つ
「我が軍でも指折りの技術者である彼らには今、
「肝心のモノ?……まさか」
「ああ、君たちも知っての通り種子島のアルドノアドライブのことだ」
地球連合の頭脳の塊と称しても遜色のない、錚々たる顔触れがこの場に揃っていた理由についてゴップは話し出す。
「火星のカタフラクトから取り出した
知見も、何もかも足りない状態で試行錯誤された研究と開発。それでも亡命科学者や鹵獲された火星製カタフラクトの残骸から抽出された運用データを基に幾つも革新的技術── 「2ndステージ熱核タービンエンジン」や「慣性制御技術」等── が生み出され、
───だから、遺されていたのか。あの場所に、種子島にデューカリオンとバルキリーが
時間と金、そして貴重な資源を湯水の様に注ぎ込んでなお成果を見せないそのふたつに、損切りしろとうるさい政治屋連中から守るべくゴップも極東で研究を続けさせていたが、流石に一向に成果を見せられないともなれば一時的に研究を止めなくてはならなくなる。ただ、そのおかげで優秀な技術者であるテムや琴乃が戦火に巻き込まれる前に本部に引き上げ温存でき、さらには運良くアルドノアを起動できる
「しかし、起動因子と成果を得た今。頓挫した計画は新たな段階、作戦を実行に移すことができる。それこそが──
── 「V作戦」」
「軍事的・技術的に圧倒的劣勢に立たされている地球連合を救う、
ゴップが告げた作戦名に被せるようにして、執務室に現れた新たな人物の声が響く。その場の全員の視線を一身に受けたその男は、ゴップと同じ色の軍服をその身に纏っていた。
「……おやおや、随分な重役出勤じゃあないか。どうやら根回しは無事済んだようだ……
「マ、マグバレッジ……大将?」
「ああ、参謀本部だけでなく連合政府議会と辛うじて避難してきた各エリア議員たちを説き伏せてきた。まもなく月面との外交
絶妙な表情をした約1名を除き、「えっ」とした表情の一帆たちを他所に狸親父らしいどこまで本気なのか分からない、茶目っ気が混ざった台詞に真面目に答えた男はゴップの横まで歩いて進むと振り返り一帆たちに向き直る。
「対等であってこそ、停戦も講和も結ぶことができる。現状ではいくらアセイラム姫殿下の呼び掛けがあっても開戦以前までの状況には戻せまい。長く、長期的な停戦や講和を目指すのであれば互いに技術的・軍事的対等な立場にあるべきだ」
相互確証破壊、ではないが少なくとも地球側が一方的に火星側の慈悲を乞う、そんな状態ではダメだと男は言う。確かに「V作戦」なる代物を実行したとて短期間で火星に追い付けるという甘い考えはゴップらにも流石にないが、それでも自分たちに迫る技術力と軍事力が地球にもあると思わせることさえできれば両者ともに交渉のテーブルにつくことができる筈である。
「申し遅れました、お初にお目に掛かります。プリンセス・オブ・ヴァース、アセイラム姫殿下。私はトーマス・マグバレッジ、ゴップ大将と同じく早期講和派に属する軍人のひとりです」
そして軍服の男──トーマス・マグバレッジ本部大将はアセイラムを含め、そこに並んだ少年少女たちに対し敬礼を捧げる。アセイラムが皇女だからだけではない、一帆を筆頭にそこに並ぶ彼らが歴戦の兵士──英雄と認めるが故に。
「ジェネラル・マグバレッジ……もしやマグバレッジ艦長の……」
「……ええ、彼女は私の義娘です」
ただ、そんな場の雰囲気もそれ以上にアセイラムたちに引っかかっていたふたりの「マグバレッジ」に引っ張られイマイチ厳粛な雰囲気にもなり切れない。挙げ句の果てにはアセイラムからの質問に「自慢の娘です!」と満面の笑みで
「……養父です」
日頃の冷静沈着かつあまり感情を面に出さない彼女らしくなく誰とも視線を合わせないようそっぽを向いて── 髪で隠れていない左耳が羞恥で赤くなっているのは隠せていないが── そう呟く艦長の姿があった。
「やれやれ……いつもの悪い癖が出たか」
珍しいものを見たとばかりに目を丸くする一帆やアセイラム一行。そして遂に始まった腐れ縁のトーマスの娘自慢に、グッダグダではあるが狸親父に似合わない笑みで呆れつつも微笑ましく見守るゴップであった。
中でも特に連合本部である
なお、敗戦国との面では旧人民共和国・現中華民国もまた同じであるが、こちらは「
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