ALDNOAH.ZERO -Earth At Our Backs-   作:神倉棐

48 / 55
EPISODE.11/【ノヴォスタリスクの攻防 -Wind, Snow and Stars-】
11/1「早期講和に向けて」


11の1「早期講和に向けて」

 

【西シベリア平原 地球連合本部ノヴォスタリスク 連合軍参謀本部 11月25日13時30分】

〈West Siberia Novostarsk UFE Headquarters General Staff HQ 1330hrs. Nov 25, 2014〉

 

 

永久凍土の真下──地下600メートル──に作られたソレは第一内惑星戦争以後、各エリア首都を筆頭に世界各地でこぞって建造された核シェルターを兼ねた地下都市(避難場所)であり、特にノヴォシビルスク州にある連合本部はその中でも異星からの侵略者に対抗すべく作られた巨大要塞──(いわゆる)地球人類の砦*1*2である。

 

 

「極東方面軍海軍大佐、ダルザナ・マグバレッジです。入ります」

 

《入りたまえ》

 

 

そんな地球上でも有数の重要施設でもある連合本部の廊下。思惑は如何あれ建設者の威信を賭けて先進的な機構が至る所に仕込まれた幾つもの隔壁や自動ドアを超えて、マグバレッジ艦長に連れられた一帆やアセイラム、そして彼女の従者であるシャルロットとエデルリッゾを含めた4人は入室許可を得た艦長に続いてとある一室へと足を踏み入れていた。

 

「ダルザナ・マグバレッジ、アセイラム姫殿下以下3名をお連れしました」

「うむ……ご苦労だった。マグバレッジ大佐」

 

彼ら彼女らが立ち入ることとなった一室は参謀本部内の会議室……ではなく司令部内の()()()()()()()の執務室。あらかじめ伝えられていた召喚場所(会議室)から急遽場所の変更を伝えられ、多少道に迷いつつもなんとか一帆たちが辿り着いたその部屋には、既に4人もの人が集まっていた。

 

「さて……はるばるようこそお越し下さいました、アセイラム姫殿下。本来ならば盛大にお迎えしたいところでしたが、なにぶん我々も連合でもしがない庶民の出……ましてこのような()()()()()()()()では碌な準備もなく申し訳ない」

「構いません、こちらこそ唐突にお邪魔してしまい申し訳なく思っています。我々を受け入れて頂きありがとうございます」

 

部屋の中央、そこに据え付けられた執務机に座った恰幅の良い軍服姿の男は人好きのする笑みを面に貼り付けつつ、一帆やアセイラムたちの来訪を歓迎する。

 

「ああ、自己紹介がまだでしたな。私はグラン・ゴップ、地球連合軍では一応「大将」の地位と()()()()の長を任されている者だ」

 

───この男が、あの有名な「ジャブローのモグラ」か

 

“グラン・ゴップ本部大将”

 

連合内でも数少ないエリート中のエリートたる「本部付き(制服組)」の大将であり、地球連合軍統合参謀本部ではその議長(トップ)を務める男。また第一次内惑星戦争終結後、北米方面軍(旧アメリカ合衆国)主導で行われた南米の巨大地下要塞「ジャブロー」建設の際には軍官僚(最高責任者)として深刻な資材不足や資金不足により復興作業に喘ぐ現地統治機構(南米エリア政府)折衝(根回し)を行い、その手配の一切合切を指揮した手腕からついた異名(称号)が「ジャブローのモグラ」。それは彼が滅多に前線に(執務室から)出てこない()()()()()であるとの意と、一切工期を遅らせる事なく地下に広がる巨大要塞を作り上げた()()()()という二重の意味が掛かった揶揄(賞賛)でもある。

 

「歓迎感謝します、ジェネラル・ゴップ。私はアセイラム・ヴァース・アリューシア、ヴァース帝国の第一皇女です。新芦原での一件以降、我が祖国たる火星と地球の間で開かれてしまった戦端については、決して我々火星人の総意でもって行われた訳ではありません。私としても早期停戦、そして早期講和──和平を求めています」

 

ある意味、この大要塞(地球人)の中ではアセイラム(火星のお姫様)に勝るとも劣らない要人(VIP)を目の前にして、この執務室に呼び出された面々──マグバレッジ艦長やシャルロットだけでなく流石の一帆も緊張で身を固くする。ただそんな中でもただひとり、アセイラムだけはこの飄々とした古狸を前にしても、目を逸らすことなく正面から彼を見据えつつ己の意思──早期終戦の望みを主張していた。

 

「ええ、その報告は既にマグバレッジ大佐から受けています。我々──()()()()()としましても殿下の生存と早期停戦を望む意思は非常に喜ばしい。現在、我々地球連合もまた現状最も通信(ホットライン)開設が容易であり地球軌道上で最大の火星勢力である月面基地に対し交渉に移れるよう手配を進めております」

 

そんなアセイラムの要望に、ゴップは澱むことなく地球連合内の「早期講和派」の一員(トップ)として同意を示す。

 

“この馬鹿げた戦争を終わらせる”

 

地球側にも不手際が無かったとは口が裂けてもいえないが、それ以上に火星側の大暴走により起こったともいえる第二次内惑星戦争。開戦以後のあれこれ*3や戦後のあれこれ*4など、地球・火星に関わらず互いに思惑や確執は大なり小なりあるものの、それでもなお「この戦争を終わらせること」こそがこの場に集った者が共有するたったひとつの意思でもあった。

 

「ただ今後の詳細については申し訳ありませんが、本来この場に同席する予定の者が諸用で遅れておりましてね。本題に入る前に今、この場にいる者を紹介しましょう」

 

地球連合の重鎮と火星のお姫様を筆頭に意思を同じくする者たちとはいえ、あらかじめ選別された限られた者しか集められていないがためにちょっとした秘密会議(サロン)の様相を呈している執務室の状況だったが、そんな空気を一度断ち切るようにゴップは「遅刻者」の存在と彼自身が選定し一帆たちより先に呼び出していた早期講和派のメンバーについて紹介を始めた。

 

「彼はテム・レイ技術大尉。我が軍がかつて主力量産機として配備していた()()軍用カタフラクト──「KG-6 SLEIPNIR(スレイプニール)」の生みの親だ」

 

ひとり目はゴップの座る執務机の右側に立っていた軍服ではなくスーツ姿で眼鏡を掛けた青髪の男、テム・レイ技術大尉。

 

「テム・レイです、よろしく」

 

お辞儀とともに掛けた眼鏡の位置を直しつつ、言葉少なげに自己紹介を切り上げたテムは中央に立ったアセイラム……ではなく何故かその後方に立った一帆に対し視線を向ける。

 

───……?何だ?

 

一帆を見て何か思うことがあったらしいものの、結局再び口を開くことなく一帆から視線を逸らした(戻した)テムの様子に一帆は内心で首を傾げる。軍人(ユキ)だけでなく高校生(一帆や伊奈帆)にとっても馴染みのある「スレイプニールの父」といえる人物から向けられた視線、そこに込められた様々な思いと願いに今の一帆では気付くことができなかった。

 

「そしてもうひとり、こちらの彼女は──「ゴップ大将、彼女については私から説明しましょう」」

「──うむ、まぁ技術屋同士のことだ。君に任せよう」

 

少しばかり違和感を感じていた一帆を他所に、ゴップが今度は執務机の左側に立つ白衣の女性について紹介しようするが、それに割り込む(カットインする)ようにしてテムがその役割を買って出る。そんなテムの行動に少しばかり驚きつつも、ゴップは彼の職人気質の強い真面目な性格と今彼が担当している()()のことを考えその許可を出す。

 

「感謝します、大将。彼女は伊吹琴乃(いぶきことの)博士、歳は若いが航空機設計技術者の権威であり、種子島基地に秘匿されていた可変戦闘機(ブァリアブル・ファイター)「YF-25/VF-25」の設計主任だ」

VF-25の設計者(VF-X計画の責任者)……だって?」

 

目の前に立つ歳若い──おそらく20代後半か30歳前半──白衣の女性がVF-X計画(Project Variable Fighter-eXperimental)の責任者と聞いた一帆とマグバレッジ艦長が反応した。

 

───つまり、この人がマクロスの無いこの世界(アルドノア・ゼロ)で「バルキリー(メサイア)」を生み出した人……か

 

己が「◼️◼️(誰か)」から贈られた、もうひとつの転生特典たる「VF-25メサイア」を作り出した存在を前に一帆は女性の姿を凝視する。ただそんな一帆の珍しい様子に、その前や隣に立っている少女たちが纏う雰囲気が非常に恐ろしいことになっていたことに、一帆()()が最後まで気付いていなかった。

 

「え、えっと……伊吹琴乃です。元三蔆重工航空機・飛昇体事業部航空機部門所属の技術者で、一時凍結されてしまいましたが「VF-X」では主に機体本体の設計に携わっていました」

「こほん……本来彼女は三蔆重工総科学研究所に勤める技術者なんだが、極東方面軍先進技術研究所を介して連合軍技術本部に招聘し我々のチームの一員として引き続き研究を続けてもらっている」

 

若干、少女ふたりが放つ雰囲気(プレッシャー)に「ひぃんっ!」と押されつつ自己紹介を行う琴乃。しかしマクロス(OTM)に近しいアルドノア(AOTV)が存在するものの、マクロス劇中では50年もの月日を掛けて開発・更新を重ねてきたVFシリーズを、比較的機体形状が近いとはいえ世代的には「VF-0フェニックス(劇中西暦2008年・第0〜1世代)」から一足跳びで「VF-25メサイア(劇中西暦2059年・第5世代)」まで発展させた機体がこの世界では 初手で(初代機として)生まれて出てきたのだから機体設計のみであれ主任設計者であった彼女の閃きや才能は正にとんでもない代物*5であったといえよう。

 

「我が軍でも指折りの技術者である彼らには今、()()()()()の責任者をそれぞれ務めてもらっている。元は連合本部の支援の下で極東方面軍単独が進めていたものだったんだが、肝心の()()がどうしても起動できなくてね」

「肝心のモノ?……まさか」

「ああ、君たちも知っての通り種子島のアルドノアドライブのことだ」

 

地球連合の頭脳の塊と称しても遜色のない、錚々たる顔触れがこの場に揃っていた理由についてゴップは話し出す。

 

「火星のカタフラクトから取り出した()()()のアルドノアドライブと、そこから解析して我々が作り出した()()()のアルドノアドライブ。火星からの亡命科学者の力も借りたが、純正品程の完成度も起動させる起動因子さえも全てが足りなかった」

 

知見も、何もかも足りない状態で試行錯誤された研究と開発。それでも亡命科学者や鹵獲された火星製カタフラクトの残骸から抽出された運用データを基に幾つも革新的技術── 「2ndステージ熱核タービンエンジン」や「慣性制御技術」等── が生み出され、AAA-777(トリプルA7)計画艦を筆頭とした対火星兵器群が完成した訳である。ただし、その中核に起動因子を必要とするアルドノアドライブを搭載した「AAA/BBY-001デューカリオン」と「VF-25/JP-25メサイア」を除いて。

 

───だから、遺されていたのか。あの場所に、種子島にデューカリオンとバルキリーが

 

時間と金、そして貴重な資源を湯水の様に注ぎ込んでなお成果を見せないそのふたつに、損切りしろとうるさい政治屋連中から守るべくゴップも極東で研究を続けさせていたが、流石に一向に成果を見せられないともなれば一時的に研究を止めなくてはならなくなる。ただ、そのおかげで優秀な技術者であるテムや琴乃が戦火に巻き込まれる前に本部に引き上げ温存でき、さらには運良くアルドノアを起動できるアセイラム(火星のお姫様)とともに種子島に逃げ込んだ一帆たちの反抗の手段となり得たのだから思わぬ怪我の功名と言えた。

 

「しかし、起動因子と成果を得た今。頓挫した計画は新たな段階、作戦を実行に移すことができる。それこそが──

 

 

── 「V作戦」」

 

 

「軍事的・技術的に圧倒的劣勢に立たされている地球連合を救う、()()()()()()()()()ための起死回生の計画だ」

 

ゴップが告げた作戦名に被せるようにして、執務室に現れた新たな人物の声が響く。その場の全員の視線を一身に受けたその男は、ゴップと同じ色の軍服をその身に纏っていた。

 

「……おやおや、随分な重役出勤じゃあないか。どうやら根回しは無事済んだようだ……()()()()()()()()

「マ、マグバレッジ……大将?」

「ああ、参謀本部だけでなく連合政府議会と辛うじて避難してきた各エリア議員たちを説き伏せてきた。まもなく月面との外交 窓口(チャンネル)開設の用意が整う」

 

絶妙な表情をした約1名を除き、「えっ」とした表情の一帆たちを他所に狸親父らしいどこまで本気なのか分からない、茶目っ気が混ざった台詞に真面目に答えた男はゴップの横まで歩いて進むと振り返り一帆たちに向き直る。

 

「対等であってこそ、停戦も講和も結ぶことができる。現状ではいくらアセイラム姫殿下の呼び掛けがあっても開戦以前までの状況には戻せまい。長く、長期的な停戦や講和を目指すのであれば互いに技術的・軍事的対等な立場にあるべきだ」

 

相互確証破壊、ではないが少なくとも地球側が一方的に火星側の慈悲を乞う、そんな状態ではダメだと男は言う。確かに「V作戦」なる代物を実行したとて短期間で火星に追い付けるという甘い考えはゴップらにも流石にないが、それでも自分たちに迫る技術力と軍事力が地球にもあると思わせることさえできれば両者ともに交渉のテーブルにつくことができる筈である。

 

「申し遅れました、お初にお目に掛かります。プリンセス・オブ・ヴァース、アセイラム姫殿下。私はトーマス・マグバレッジ、ゴップ大将と同じく早期講和派に属する軍人のひとりです」

 

そして軍服の男──トーマス・マグバレッジ本部大将はアセイラムを含め、そこに並んだ少年少女たちに対し敬礼を捧げる。アセイラムが皇女だからだけではない、一帆を筆頭にそこに並ぶ彼らが歴戦の兵士──英雄と認めるが故に。

 

「ジェネラル・マグバレッジ……もしやマグバレッジ艦長の……」

「……ええ、彼女は私の義娘です」

 

ただ、そんな場の雰囲気もそれ以上にアセイラムたちに引っかかっていたふたりの「マグバレッジ」に引っ張られイマイチ厳粛な雰囲気にもなり切れない。挙げ句の果てにはアセイラムからの質問に「自慢の娘です!」と満面の笑みで断言(悪ノリ)するトーマスの姿にそんな空気は完全に霧散してしまい一斉に艦長へと視線を向ける一帆たち。一方、視線を向けられたマグバレッジ艦長の方はというと……

 

「……養父です」

 

日頃の冷静沈着かつあまり感情を面に出さない彼女らしくなく誰とも視線を合わせないようそっぽを向いて── 髪で隠れていない左耳が羞恥で赤くなっているのは隠せていないが── そう呟く艦長の姿があった。

 

「やれやれ……いつもの悪い癖が出たか」

 

珍しいものを見たとばかりに目を丸くする一帆やアセイラム一行。そして遂に始まった腐れ縁のトーマスの娘自慢に、グッダグダではあるが狸親父に似合わない笑みで呆れつつも微笑ましく見守るゴップであった。

 

 

*1
地球人類の砦として整備された地下都市、あるいは地下要塞は地球復興事業の傍で地球連合政府が音頭を取って(大幅な助成金を出し)各方面軍・各エリア首都によって各々整備されている。

中でも特に連合本部であるユーラシア(ロシア)の「ノヴォスタリスク」と連合総軍の一大根拠地たる南米(南アメリカ)の「ジャブロー」は地球連合成立やユーラシア大陸紛争以前のそれぞれの陣営盟主の影響を非常に強く受けており、その確執(政府と軍部の対立)は第二次内惑星戦争開戦以前からの各方面軍の軍閥化を進める要因の一端ともなっている。

*2
ちなみに第二次世界大戦以後、改めて国連主導で再編された「新秩序(ニューオーダー)」である地球連合体制に反旗を翻したユーラシア大陸紛争の()()()たる旧ソビエト・現ロシアに連合本部が設置された理由については立地的な要因ももちろんあるが、それ以上に「厄災(ヘヴンズ・フォール)」により元々使っていた旧国連本部が壊滅したこと、そして開戦すれば即攻撃対象となるであろう地球連合の中枢を自国内に置きたくなかった(あとただでさえ復興で忙しいのにそんな建設費や維持費を出したくなかった)()()()北米(アメリカ)極東(日本)欧州(EU)・インドが「自国土(エリア)内に地球連合本部を有する」という名誉とともに金銭負担などを押し付けたためである。

なお、敗戦国との面では旧人民共和国・現中華民国もまた同じであるが、こちらは「厄災(ヘヴンズ・フォール)」の被害が洒落にならないレベルだったため最初から除外された。憎い相手とはいえ、瀕死の重症者にあまりにもあんまりな死体蹴りをしないだけの人間性(憐憫)を、この時の戦勝国側はまだ持っていた。

*3
地球連合の大劣勢や火星貴族が起こした数々の南極条約違反

*4
捕虜・占領地返還や賠償といった和平交渉

*5
◼️◼️(誰か)」の干渉によるご都合主義といわれればそれまでだが




非ログイン状態でも感想受け付けておりますので、よろしければ感想・評価もお待ちしてます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。