ALDNOAH.ZERO -Earth At Our Backs- 作:神倉棐
11の2「降る禍つ星、迎え撃つ防人」
【西シベリア平原 地球連合本部ノヴォスタリスク 連合軍司令本部発令所 11月25日15時42分】
〈West Siberia Novostarsk UFE Headquarters Allied Command HQ Office 1542hrs. Nov 25, 2014〉
ゴップの執務室で開かれた
「やはり、来るか」
《軌道上に存在した
ただし早期講和派のふたりとて、わざわざアセイラムらに伝えてこそいなかったが先程の通信で
「……仕方あるまい、火星とて一枚岩ではないのだろう。それに、我々は子供たちの純粋な祈りや行動を利用したも同然だ。恨まれても当然だろう……」
「汚い「大人」……か、辛い役回りだな」
とはいえ
「謝罪も埋め合わせも、生き延びてこそできる。この戦、少なくとも勝ち札は我々が押さえている。
「ならば、敵が打った「本部侵攻」の手。何としても乗り切らねば」
「ああ、乗り越えてこそ、また我々のターンだ」
例え汚い大人と蔑まれようと結果で示す、それこそが人類の砦を指揮する大将軍たる2人が背負う「大人」の責任であった。
「総員第一種戦闘配置、避難民の深層シェルターへの避難を急がせろ」
「防衛部隊には全力出撃を命じろ。条約禁止兵器を除くカタフラクト、戦車、自走砲全て出し惜しみはなしだ」
故に出される指揮は的確かつ迅速に
「工兵は即席陣地を構築。隔壁閉鎖に合わせバリケード設置を忘れるな」
「おそらく敵は巨大航宙要塞艦*2ごと上から来る、地上部隊は塹壕や隠蔽壕へ退避。バンカーバスターや降下兵に注意しろ」
敵の戦術は一辺倒かつ非常に
「で、だ。落ちて来るあの城、あれは誰の城か分かるかね?」
《既に開戦から数十時間経過しており、偵察情報もかなり古いですが戦略情報部の情報通りならば、あのCCFの主はザーツバルムかと思われます》
ふと、指示の合間にそう問い掛けたゴップに対し、オペレーターのひとりは戦略情報部がこれまで地道に暗号解析等で集めた情報を基にそう答える。
「……ふむ、
「……かもしれんな、だとすれば随分と現場主義な奴なのかもしれん」
「それか長年の悪巧みの集大成、裏方で居ても立っても居られなくなったか……だな」
“ザーツバルム伯爵”
アセイラム評では皇帝からの信用や信頼も厚く、月面を含む
《敵CCFの降下開始を確認!着弾予想時刻まであと327秒!》
「射程に入り次第、
そして刻々と近づく敵CCFによる直接降下作戦、地球人類の常識では埒外かつ反則級の戦術だが対処の方法自体はある。弾道弾と同様に落着前に迎撃ミサイルで撃ち落とせば良い……問題は迎撃ミサイルに揚陸城を撃ち落とせるだけの火力があれば、の話だが……残念ながら通常弾頭では多少逸らすので精一杯で核でもなければ有効打は与えられないだろう。嫌がらせで撃ち込んだEMP弾頭も、宇宙空間で太陽風の直撃を防ぐ装甲に何処まで効果があるか定かではないが無いよりかはずっとマシだ。
《着弾まで残り200秒》
「デューカリオン発進準備!地上迎撃は間に合わない、防衛部隊と陣地は設置するが
「アセイラム姫は?彼女の身柄が最優先だ」
雪がチラつく曇天のソラに、それでもなお流れ輝く一条の赤い光。徐々に肉眼でも目視できるようになって来たソレに向かい、数多の迎撃手段が放たれる。今連合本部が取り得る最大限の火力を動員しての水際迎撃だが、指揮官たるゴップらは早々に迎撃失敗と判断し邀撃作戦──敵主力兵力を地下要塞内に引き込んだ後、地上へ脱出させた
《まだ放送室に、軍曹たちが護衛に付いています》
「日本から来たあの
《着弾まで残り180秒》
と同時に、つい先程まで月面基地らに向かって停戦要求を行っていたアセイラムを避難させようとマグバレッジ大将が別のオペレーターに指示を飛ばす。ただ護衛に付いているのが第228特殊部隊*3の
《残り30秒!……20秒!……10秒!》
「来るぞ!総員対衝撃態勢!」
《……5秒前!3…2…1…今︎‼︎》
「ぐっ⁉︎……」
「これはっ……⁈」
ズゥウンッ、とまるで直下型の大地震と見紛うほど巨大な衝撃と地鳴り音が発令所どころか地下600メートルに位置する巨大要塞全域を揺らす。遂に大地へと落ちて来た敵のCCF、先程までの全力迎撃のお陰かメインシャフトから数キロ北側に落着したソレは、まるで花の蕾が開く様にして大小合わせて軸に沿って畳まれていた8つの構造体が展開する。
《敵ミサイル着弾!これは……
「迎撃しろ!高射部隊はAAM発射!」
CCFは構造体を展開するや否や、その花弁の縁から大量の大型ミサイル──バンカーバスターを射出。吐き出されたそれらは一度上空へと飛び上がり高度を稼ぐや否や目標、連合本部へと繋がるメインシャフトに向かって殺到する。
《くそっ!数が多過ぎる!弾幕抜かれました!メインシャフト付近に着弾します!》
《第4特殊装甲板貫徹!岩盤掘削されました!このままでは数発がジオフロントの基地施設まで到達します!》
落着時の爆風を避け、何とか塹壕や隠蔽豪から這い出た地上部隊のアレイオンや対空自走砲が弾幕を張るが、まるで
《敵カタフラクト出現!地上部隊が壊滅的被害を受けています!》
「地上部隊は無理せず後退!防衛線を後退させる!ジオフロントで迎え撃つぞ!」
さらに凶報は続く、
《バンカーバスター貫徹!ジオフロント天井に巨大な破口が開きました!》
「次は輸送機と降下部隊が来るぞ!着陸前に叩き落とせ!」
案の定、弾幕による傘を失って早々に降り注ぐバンカーバスターによってジオフロントの空に大きな孔が開く。地上防衛線突破から間髪入れず降下して来た対地仕様のスカイキャリアがジオフロントに突入、露払いとばかりに大量の空対地ミサイルが手当たり次第にジオフロント内に降り注ぐ。
《敵カタフラクトです!
「流石にノーマル機ではアルドノアドライブ搭載機相手には部が悪いか……だが、あの子たちとて乗り越えた道だ。我々とて軍人の端くれ、諦めるわけにはいかん」
「ああ!敵機のデータ収集を急げ!何でもいい、突破口になる欠点を見つけるんだ!」
対地支援機の攻撃を掻い潜り迎撃を試みるアレイオンたちだが、1機2機を撃墜したところでそれに続いて降下して来た複数のアルドノアドライブ搭載機に返り討ちに遭いあっという間に幾つもの防衛陣地が壊滅。一先ずの安全を確保次第、何機もの兵員輸送型のスカイキャリアが強行着陸を図る。
《第1層の第13区画にも侵入者!現在第37歩兵隊が第一防衛ラインで迎撃中!》
《生身の歩兵なら質も装備もこちらが上だ!侵略者の火星人どもを
余りの攻勢の激しさに完全に後手に回ってしまっている連合だが、それでも戦線を維持し持ち堪えていられるのは「アルドノア」という科学力に劣りながらも、地球側にそれらを凌駕する
“勇将の下に弱卒無し”
試行錯誤を行いつつも的確な指示を飛ばす二大将率いる司令部と本部付きかつ防衛戦なだけあって士気・練度共に高い兵卒や将兵を抱える地球連合軍と、技術力は高くとも貧困と低重力空間にいるが故の身体的貧弱さに加え差別主義によって最初から地球人を見下す火星貴族の私兵では、実際にぶつかり合った際には残酷なまでの
《第37歩兵隊が敵部隊の殲滅に成功!》
《他の第57・69・88区画にも敵部隊の侵攻を確認!まだまだ敵兵の侵入は続いていますが、付近の部隊が急行中です!》
カタフラクトが暴れられる地上やジオフロント上層では火星側が優勢であるものの、純粋な歩兵力がモノをいうジオフロント下層や施設内では地球側が地の利を活かし圧倒的に有利な戦況。
正に一進一退、血で血を洗う壮絶な戦いが繰り広げられる地球連合本部ノヴォスタリスク。
《ゴップ大将!トーマス大将!通信です!》
「何?この状況で何処からだ?」
《放送室の軍曹からです。至急、連絡したいことがあると》
混乱とともに高まる熱気の中、怒号のような指示が飛び交う発令所に舞い込んだのは一本の通信。
「軍曹から?よし、繋げ!」
《回線、開きます!》
《───ジェネラル・ゴップ、ジェネラル・トーマス。私の声が聞こえますか?》
「アセイラム姫殿下⁈」
「……一体、何事です?」
激化する戦いの中で、火星のお姫様から届けられたソレはこの「ノヴォスタリスクの戦い」の結末を大きく左右する代物で──
《私が、揚陸城のアルドノアドライブを強制停止させ───この戦いを終わらせます》
──戦いは、新たな局面へと移り変わりつつあった。
時は暫し遡り──その頃、放送室にて。
「アセイラム姫殿下、安全が確保でき次第ここから避難する。今はこの場に留まって欲しい」
アセイラムが月面基地に向けて発した停戦要求から10分と経たぬ間に、CCFの直接降下攻撃を受けることとなった
「暗殺は偽りで謀略だと明かしたのに……どうして、また……」
放送終了後、間を置かずに軍曹からそんな指示を受けたアセイラムは放送室の中心──演説台に手を付きつつ、本当は自身も理解していた自問自答を繰り返す。
「やはり、初めから戦が目的……暗殺はただの言い訳、私の生死など初めからどうでも良かった……いえ、それ程
自身の停戦要求が受け入れられない、意図的に考えないようにしていたが内心であり得る事態であることは理解していた。偽物かも知れないと、そう考える者もいるだろうし既に散々交戦している中で簡単には承服できない者もいるだろうと。だが、反論どころか一切の声明もなく発信源の連合本部に直接攻撃をしてくるということは、それだけアセイラムが──彼女に流れる皇族の血がそれほど憎く邪魔だったとしか考えられない。
「そ、そんな事はありません!姫様はヴァース帝国の大切な──」
「では何故ここが攻撃を受けているのですか!」
アセイラムからこぼれ落ちた「結論」に、忠誠度の高いエデルリッゾが否定しようとするが、今正に
「……ごめんなさい」
「いえ……」
思わず大声で叫んでしまったことを謝罪するアセイラム。少女から溢れ出した慟哭に、放送室入り口で待機しつつ火星の少女たちを観察していた軍曹たちや、何を言っても慰めにしかならないことを理解していたシャルロットはその痛ましさに無言で目を伏せる。決してエデルリッゾが悪い訳ではない、寧ろ励まそうと気を遣ってくれたことを理解していても今この時、現実に起こる流血を思えばアセイラムにとっても慰めにならない。
「もう……軌道騎士を、彼らの愚行を止める者は、止められる者はいないのですか?もう……私にできるとは何も……」
おそらく、月面基地も敵。火星本星まで通信の内容が伝えられるはずもなく、皇族の威光が役に立たないのであれば自身の利用価値などもはや女であることとアルドノアドライブの起動権のみ──
「そうです、私にはアルドノアの起動権がある!」
「ひ、姫様?」
「い、一体何を……?」
どうにか、どうにかしなくては……と自身に残った数少ない選択肢を基に思考を巡らせていたアセイラムに天啓が舞い降りる。戸惑う侍女2人を他所に、壇上から飛び降りた彼女は一直線に出入り口の方へと向かう。
「軍曹さん、急ぎジェネラル・ゴップとの通信を繋いで下さい」
「は?」
向かった先は警護に付いていた軍曹たちの下、よもやこちらに来るとは露ほども考えていなかった軍曹たちは、如何に日夜戦士として鍛え続けているタフガイとはいえ唐突に発令所へ通信を繋ぐよう言われたことに唖然とする。
「私も命を賭けます。だからジェネラル・ゴップかジェネラル・トーマスに通信を、私が揚陸城のアルドノアドライブを強制停止させます」
アセイラムが言い放った、もはや正気とも思えない選択。しかし目の前の少女の眼に気が狂ったような光はなく、むしろ理性的かつ強い意思が込められた眼差しに歴戦の猛者であるはずの軍曹ですら気圧されているのを自覚する。
「……分かった、司令部に繋ごう。だがお姫様、不敬かもしれないがひとつだけ言わせてくれ……余り自分を追い詰めるな。身分的に難しいのかもしれんが、仲間を頼れ。お前には共に歩んでくれる戦友がいるんだろう」
「……はい、肝に銘じておきます。軍曹」
理性の中に狂気を感じつつも、先達としてアセイラムにその周りにいる人々にも頼るよう諭す軍曹。軍曹からそう指摘され、振り返った先にいたエデルリッゾやシャルロットの表情を見たアセイラムは自身が先走り過ぎていたことを自覚し謝罪する。
「……繋がりました、軍曹」
「分かった。殿下、発令所と繋がりました」
「はい」
そしてそれから暫しして軍曹経由で繋げられた突然のアセイラムからの通信に、当初こそ混乱していたゴップとトーマスのふたりだったが大将なだけあってすぐに冷静になり、その内容──アルドノアドライブの強制停止──について聞き返していた。
《……詳しくお聞きしても?》
「はい、まず大前提としてヴァースの兵器の大半はアルドノアドライブの恩恵によって機能しています。それは揚陸城も例外はありません、ドライブを機能停止させれば全ての機能を失います」
大前提として、「アルドノア」は起動因子を持つ者でなくては起動させることができず、そしてその主幹システムに「アルドノアドライブ」を埋め込むことで恩恵を受ける物は全て機能停止してしまう。これはどうしても「アルドノア」の利便性が高く、そして比較的量産しやすい火星側にとって非常に強い傾向があり、地球側とて亡命科学者の証言や過去種子島において鹵獲した火星製のアルドノアドライブ搭載型カタフラクトを解析して理解していることでもある。
《ほう……ではどうやって?》
「アルドノアドライブを停止させる方法はふたつ、起動させた者が命を失うか、それかヴァース皇帝の血を引くものなら強制的に止めることが可能です」
その上でアルドノアを停止させる要因として、地球側でも理解していたのはひとつ。起動者の死、もしくは
《それはつまり……アセイラム姫殿下なら停止させられる、と》
そこにアセイラムから明かされたふたつ目の停止方法。ただ、
「はい、だから……私を揚陸城の中枢、アルドノアドライブまで連れて行ってください」
《………》
《無謀過ぎる、どう足掻いても敵陣に突っ込むことになる……実行したとて反抗が果たしてそこまで届くのか……うむむ》
論理的に考えて、アセイラムの言うことは確かに通りには適っている。白兵戦では優勢とはいえ、内部に侵入されている時点でジリ貧と言える状況。一発逆転を狙う
《やらせてみましょう》
《トーマス?》
しかし、そんなゴップの迷いと悩みをブッダ斬ったのはもうひとりの大将。トーマス・マグバレッジ本部大将であった。
《アルドノアドライブを搭載した揚陸城に対抗するには、同じくアルドノアドライブを搭載したデューカリオンとメサイアしかない》
正に極論、しかしこれまでの戦績を鑑みて通りでもある。何せ
《軍曹、行き先変更だ。アセイラム姫殿下をデューカリオンまで護衛しろ、命に換えてもだ》
「サー・イエッサー!了解した、安心しろ君たちを無事に船まで連れて行ってやる」
トーマスからの指示に軍曹もまた敬礼で答える。彼らもまた自身の命の賭け時は「今」だと理解していたのだ。
《全く……無茶をする。分かった、だが道中には大量の火星兵が展開している。大半は施設内に敷いた臨時防衛線で抑え込んでいるが、デューカリオンが係留中の6番ドッグは敵カタフラクトにより既に防衛部隊が半壊しデューカリオンへ撤退中だ。今は別方面に向かったようだが……》
お姫様だけでなく、そんな腐れ縁の親友と部下たちからの熱意を受けて遂にゴップもまた折れる。折れたからには全力で作戦成功に導くべく、
《HQ、迎えはこちらで用意します》
「デューカリオン、ダルザナ・マグバレッジ大佐か」
《はい、内容はこちらでも傍受しました。現在本艦はカタフラクトを含む多数の残存防衛部隊を収容、緊急発進シークエンスを実行中です。そちらには「翼を持つ者」を向かわせます》
《ほう、彼──「リボン付き」をか》
特別塗装を許可した少年を思い出し、ゴップはそのエンブレムから受けた印象──「青いリボン」を思い浮かべる。この青き惑星を背景に、
《
《了解した、これより連合本部はデューカリオンによる反攻作戦を総力を持ってして支援する!》
ゴップの宣言を受けて、通信の繋がっている発令所や放送室だけでなく連合本部全域に熱が、兵士だけでなくそこに避難していた避難民たちの心にも「奇跡」を、「勝利」を掴まんと足掻く「希望」が灯る。
《総員、これは決戦である!死守せよ!その背中には数千の避難民だけではない、この星に住まう全ての者の命運が掛かっていると知れ!》
《各員、己の持ち場にて奮励奮起努力せよ!》
2014年、最後にして最大の戦いが佳境を迎えようとしていた。
火星のヴァース帝国において建造された既存の宇宙船とは一線を画す巨大さの航宙艦であり、その性質は宇宙空間という海原で漂い戦う「戦闘艦」というよりも拠点防衛に特化した「要塞」や敵地で相手の動きに睨みを効かせる「出城」といった側面の方が強い。
第二次内惑星戦争が開戦した西暦2014年においては火星陣営の名門貴族たる37家門、その中でもさらに地球の衛星軌道上に展開した軌道騎士たちが
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