ALDNOAH.ZERO -Earth At Our Backs-   作:神倉棐

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11/2「降る禍つ星、迎え撃つ防人」

11の2「降る禍つ星、迎え撃つ防人」

 

【西シベリア平原 地球連合本部ノヴォスタリスク 連合軍司令本部発令所 11月25日15時42分】

〈West Siberia Novostarsk UFE Headquarters Allied Command HQ Office 1542hrs. Nov 25, 2014〉

 

 

ゴップの執務室で開かれた事前停戦交渉(サロン)より数時間後、準備の整った赤外線レーザーと長波電波を組み合わせた複合通信に乗せてアセイラムが月面基地に向けて発された宣言──生存報告を兼ねた停戦要求を受けて、各火星陣営の勢力がどう動くのかを発令所にて監視していたゴップ本部大将とマグバレッジ本部大将のふたりは、司令部要員が分析した情報を耳にして大きなため息を吐いていた。

 

「やはり、来るか」

 

《軌道上に存在したCCF(揚陸城)一基に動きアリ!突入角度から見て、降下目標は当基地かと思われます!》

 

ただし早期講和派のふたりとて、わざわざアセイラムらに伝えてこそいなかったが先程の通信で()()()()()()()()()()()()()()()のも想定の内。マグバレッジ艦長が上げた報告(一帆が作成した戦闘詳報)種子島で捉えられた捕虜(フェミーアン卿やスレイン)から得た情報を基に、アセイラム姫暗殺を企み実行した黒幕が「火星貴族」であることを把握したふたりは、黒幕を誘い出す撒き餌(見せ札)*1としてアセイラムの通信を利用したのだ。暗殺と開戦を狙った黒幕からすれば、抵抗の要となる地球連合本部と新芦原市で殺し損ねたお姫様。攻め落とせば一挙両得の美味しい餌でもあるのだから、当然侵攻を受ける事態は想定もされていた訳である。

 

「……仕方あるまい、火星とて一枚岩ではないのだろう。それに、我々は子供たちの純粋な祈りや行動を利用したも同然だ。恨まれても当然だろう……」

「汚い「大人」……か、辛い役回りだな」

 

とはいえ清濁合わせ飲み(狸親父と称されたり)、伊達に「本部大将」に登り詰めた訳でもないふたりとて良心が痛まない訳でもない。開戦の引き金となってしまい誰よりも講和を望んでいたアセイラムや大人が不甲斐ないせいで少年兵として強制的に動員された一帆たちから罵られ、石を投げられても仕方ない行為をしたと思いつつも責任ある「大人」や「軍人」として、そんな感情や思いなどはおくびにも顔に出さずにふたりは行動を起こす。

 

「謝罪も埋め合わせも、生き延びてこそできる。この戦、少なくとも勝ち札は我々が押さえている。切り札(ワイルドカード)を含めて……な」

「ならば、敵が打った「本部侵攻」の手。何としても乗り切らねば」

「ああ、乗り越えてこそ、また我々のターンだ」

 

例え汚い大人と蔑まれようと結果で示す、それこそが人類の砦を指揮する大将軍たる2人が背負う「大人」の責任であった。

 

「総員第一種戦闘配置、避難民の深層シェルターへの避難を急がせろ」

「防衛部隊には全力出撃を命じろ。条約禁止兵器を除くカタフラクト、戦車、自走砲全て出し惜しみはなしだ」

 

故に出される指揮は的確かつ迅速に司令部要員(オペレーター)らを経て要塞内外に伝達、本部付きなだけあって優秀な下士官(人材)たちが将校の手足となって迎撃の準備を整えてゆく。

 

「工兵は即席陣地を構築。隔壁閉鎖に合わせバリケード設置を忘れるな」

「おそらく敵は巨大航宙要塞艦*2ごと上から来る、地上部隊は塹壕や隠蔽壕へ退避。バンカーバスターや降下兵に注意しろ」

 

敵の戦術は一辺倒かつ非常に単純(シンプル)、揚陸城を弾体に見立て衛星軌道上から目標に目掛けて落下させるだけ。開戦直後から東京等の各エリア首都に対して散々行われた直接降下作戦(弾道攻撃と強襲揚陸の合わせ技)であるが、それも揚陸城サイズの物体が軌道上から落下しても、その落っこちた揚陸城自体に大気摩擦や落着時の衝撃を無効化できる摩訶不思議な能力(アルドノアの恩恵)を持つからこそできる短絡的だが効果的な攻撃でもある。

 

「で、だ。落ちて来るあの城、あれは誰の城か分かるかね?」

《既に開戦から数十時間経過しており、偵察情報もかなり古いですが戦略情報部の情報通りならば、あのCCFの主はザーツバルムかと思われます》

 

ふと、指示の合間にそう問い掛けたゴップに対し、オペレーターのひとりは戦略情報部がこれまで地道に暗号解析等で集めた情報を基にそう答える。

 

「……ふむ、()()()か?」

「……かもしれんな、だとすれば随分と現場主義な奴なのかもしれん」

「それか長年の悪巧みの集大成、裏方で居ても立っても居られなくなったか……だな」

 

“ザーツバルム伯爵”

 

アセイラム評では皇帝からの信用や信頼も厚く、月面を含む地球圏の貴族(十字派)たちの元締めとのことだが、このタイミングで本部攻撃を敢行して来る辺り忠臣とは真逆の黒幕かそれに近しい立場の人間なのは確かだろう。正に「餌に獲物が食い付いた」状態なのだが、問題はその獲物を釣り(直接降下して来る敵の揚陸城と)上げられるのか(カタフラクトをどうやって倒すのか)だ。

 

《敵CCFの降下開始を確認!着弾予想時刻まであと327秒!》

「射程に入り次第、ABM(弾道弾迎撃ミサイル)を順次発射。……無駄かも知れんが、EMP弾頭も混ぜて発射しろ」

 

そして刻々と近づく敵CCFによる直接降下作戦、地球人類の常識では埒外かつ反則級の戦術だが対処の方法自体はある。弾道弾と同様に落着前に迎撃ミサイルで撃ち落とせば良い……問題は迎撃ミサイルに揚陸城を撃ち落とせるだけの火力があれば、の話だが……残念ながら通常弾頭では多少逸らすので精一杯で核でもなければ有効打は与えられないだろう。嫌がらせで撃ち込んだEMP弾頭も、宇宙空間で太陽風の直撃を防ぐ装甲に何処まで効果があるか定かではないが無いよりかはずっとマシだ。

 

《着弾まで残り200秒》

「デューカリオン発進準備!地上迎撃は間に合わない、防衛部隊と陣地は設置するが()()()の際はデューカリオンとともに緊急用のサブシャフトから退避させろ」

「アセイラム姫は?彼女の身柄が最優先だ」

 

雪がチラつく曇天のソラに、それでもなお流れ輝く一条の赤い光。徐々に肉眼でも目視できるようになって来たソレに向かい、数多の迎撃手段が放たれる。今連合本部が取り得る最大限の火力を動員しての水際迎撃だが、指揮官たるゴップらは早々に迎撃失敗と判断し邀撃作戦──敵主力兵力を地下要塞内に引き込んだ後、地上へ脱出させた飛行戦艦(デューカリオン)による敵要塞への逆侵攻作戦──の準備に入った。

 

《まだ放送室に、軍曹たちが護衛に付いています》

「日本から来たあの部隊(レンジャー)か、人数は少ないが腕は信頼できる。避難経路を作成、安全が確保でき次第こちらにお連れしろ」

《着弾まで残り180秒》

 

と同時に、つい先程まで月面基地らに向かって停戦要求を行っていたアセイラムを避難させようとマグバレッジ大将が別のオペレーターに指示を飛ばす。ただ護衛に付いているのが第228特殊部隊*3隊員(レンジャー)たちと知った大将は寧ろ下手に動かす方が危険と判断し、落着までその場に留まるように指示する。

 

《残り30秒!……20秒!……10秒!》

「来るぞ!総員対衝撃態勢!」

《……5秒前!3…2…1…今︎‼︎》

 

「ぐっ⁉︎……」

「これはっ……⁈」

 

ズゥウンッ、とまるで直下型の大地震と見紛うほど巨大な衝撃と地鳴り音が発令所どころか地下600メートルに位置する巨大要塞全域を揺らす。遂に大地へと落ちて来た敵のCCF、先程までの全力迎撃のお陰かメインシャフトから数キロ北側に落着したソレは、まるで花の蕾が開く様にして大小合わせて軸に沿って畳まれていた8つの構造体が展開する。

 

《敵ミサイル着弾!これは……地中貫通弾頭弾(バンカーバスター)です!》

「迎撃しろ!高射部隊はAAM発射!」

 

CCFは構造体を展開するや否や、その花弁の縁から大量の大型ミサイル──バンカーバスターを射出。吐き出されたそれらは一度上空へと飛び上がり高度を稼ぐや否や目標、連合本部へと繋がるメインシャフトに向かって殺到する。

 

《くそっ!数が多過ぎる!弾幕抜かれました!メインシャフト付近に着弾します!》

《第4特殊装甲板貫徹!岩盤掘削されました!このままでは数発がジオフロントの基地施設まで到達します!》

 

落着時の爆風を避け、何とか塹壕や隠蔽豪から這い出た地上部隊のアレイオンや対空自走砲が弾幕を張るが、まるで雷雨(スコール)の如く降り注ぐそれらに対処が追い付かない。懸命な弾幕形成によりメインシャフト自体は死守するもその周辺には何発ものバンカーバスターが重なって着弾し、永久凍土の地表だけでなく岩盤やジオフロントに至るまでに重ねて配置された特殊装甲板すら吹き飛ばしていく。

 

《敵カタフラクト出現!地上部隊が壊滅的被害を受けています!》

「地上部隊は無理せず後退!防衛線を後退させる!ジオフロントで迎え撃つぞ!」

 

さらに凶報は続く、弱り目に祟り目(畳み掛けん)とばかりに現れた敵のアルドノアドライブ搭載型カタフラクトにより地上部隊が大損害を受け完全に基地上空の航空優勢──否、それどころか制空権が奪われたのだ。

 

《バンカーバスター貫徹!ジオフロント天井に巨大な破口が開きました!》

「次は輸送機と降下部隊が来るぞ!着陸前に叩き落とせ!」

 

案の定、弾幕による傘を失って早々に降り注ぐバンカーバスターによってジオフロントの空に大きな孔が開く。地上防衛線突破から間髪入れず降下して来た対地仕様のスカイキャリアがジオフロントに突入、露払いとばかりに大量の空対地ミサイルが手当たり次第にジオフロント内に降り注ぐ。

 

《敵カタフラクトです!()2()()!第一・三・六防御陣地壊滅!第24区画に敵輸送機が強行着陸中です!》

「流石にノーマル機ではアルドノアドライブ搭載機相手には部が悪いか……だが、あの子たちとて乗り越えた道だ。我々とて軍人の端くれ、諦めるわけにはいかん」

「ああ!敵機のデータ収集を急げ!何でもいい、突破口になる欠点を見つけるんだ!」

 

対地支援機の攻撃を掻い潜り迎撃を試みるアレイオンたちだが、1機2機を撃墜したところでそれに続いて降下して来た複数のアルドノアドライブ搭載機に返り討ちに遭いあっという間に幾つもの防衛陣地が壊滅。一先ずの安全を確保次第、何機もの兵員輸送型のスカイキャリアが強行着陸を図る。

 

《第1層の第13区画にも侵入者!現在第37歩兵隊が第一防衛ラインで迎撃中!》

《生身の歩兵なら質も装備もこちらが上だ!侵略者の火星人どもをこの地球上(俺たちの星)から叩き出せ!》

 

余りの攻勢の激しさに完全に後手に回ってしまっている連合だが、それでも戦線を維持し持ち堪えていられるのは「アルドノア」という科学力に劣りながらも、地球側にそれらを凌駕する精神的優越(懸命さ)があったからに他ならない。

 

“勇将の下に弱卒無し”

 

試行錯誤を行いつつも的確な指示を飛ばす二大将率いる司令部と本部付きかつ防衛戦なだけあって士気・練度共に高い兵卒や将兵を抱える地球連合軍と、技術力は高くとも貧困と低重力空間にいるが故の身体的貧弱さに加え差別主義によって最初から地球人を見下す火星貴族の私兵では、実際にぶつかり合った際には残酷なまでの戦意や覚悟(モラール)に差があったのだ。

 

《第37歩兵隊が敵部隊の殲滅に成功!》

《他の第57・69・88区画にも敵部隊の侵攻を確認!まだまだ敵兵の侵入は続いていますが、付近の部隊が急行中です!》

 

カタフラクトが暴れられる地上やジオフロント上層では火星側が優勢であるものの、純粋な歩兵力がモノをいうジオフロント下層や施設内では地球側が地の利を活かし圧倒的に有利な戦況。

正に一進一退、血で血を洗う壮絶な戦いが繰り広げられる地球連合本部ノヴォスタリスク。

 

《ゴップ大将!トーマス大将!通信です!》

「何?この状況で何処からだ?」

《放送室の軍曹からです。至急、連絡したいことがあると》

 

混乱とともに高まる熱気の中、怒号のような指示が飛び交う発令所に舞い込んだのは一本の通信。

 

「軍曹から?よし、繋げ!」

《回線、開きます!》

 

《───ジェネラル・ゴップ、ジェネラル・トーマス。私の声が聞こえますか?》

「アセイラム姫殿下⁈」

「……一体、何事です?」

 

激化する戦いの中で、火星のお姫様から届けられたソレはこの「ノヴォスタリスクの戦い」の結末を大きく左右する代物で──

 

 

 

《私が、揚陸城のアルドノアドライブを強制停止させ───この戦いを終わらせます》

 

 

 

──戦いは、新たな局面へと移り変わりつつあった。

 

 

〈*〉

 

 

時は暫し遡り──その頃、放送室にて。

 

「アセイラム姫殿下、安全が確保でき次第ここから避難する。今はこの場に留まって欲しい」

 

アセイラムが月面基地に向けて発した停戦要求から10分と経たぬ間に、CCFの直接降下攻撃を受けることとなった地球連合本部(ノヴォスタリスク)

 

「暗殺は偽りで謀略だと明かしたのに……どうして、また……」

 

放送終了後、間を置かずに軍曹からそんな指示を受けたアセイラムは放送室の中心──演説台に手を付きつつ、本当は自身も理解していた自問自答を繰り返す。

 

「やはり、初めから戦が目的……暗殺はただの言い訳、私の生死など初めからどうでも良かった……いえ、それ程()()()()()()()()のですね」

 

自身の停戦要求が受け入れられない、意図的に考えないようにしていたが内心であり得る事態であることは理解していた。偽物かも知れないと、そう考える者もいるだろうし既に散々交戦している中で簡単には承服できない者もいるだろうと。だが、反論どころか一切の声明もなく発信源の連合本部に直接攻撃をしてくるということは、それだけアセイラムが──彼女に流れる皇族の血がそれほど憎く邪魔だったとしか考えられない。

 

「そ、そんな事はありません!姫様はヴァース帝国の大切な──」

「では何故ここが攻撃を受けているのですか!」

 

アセイラムからこぼれ落ちた「結論」に、忠誠度の高いエデルリッゾが否定しようとするが、今正に連合本部(この場所)が攻撃を受けているという「現実」がそんな彼女の心遣いを否定する。

 

「……ごめんなさい」

「いえ……」

 

思わず大声で叫んでしまったことを謝罪するアセイラム。少女から溢れ出した慟哭に、放送室入り口で待機しつつ火星の少女たちを観察していた軍曹たちや、何を言っても慰めにしかならないことを理解していたシャルロットはその痛ましさに無言で目を伏せる。決してエデルリッゾが悪い訳ではない、寧ろ励まそうと気を遣ってくれたことを理解していても今この時、現実に起こる流血を思えばアセイラムにとっても慰めにならない。

 

「もう……軌道騎士を、彼らの愚行を止める者は、止められる者はいないのですか?もう……私にできるとは何も……」

 

おそらく、月面基地も敵。火星本星まで通信の内容が伝えられるはずもなく、皇族の威光が役に立たないのであれば自身の利用価値などもはや女であることとアルドノアドライブの起動権のみ──

 

「そうです、私にはアルドノアの起動権がある!」

「ひ、姫様?」

「い、一体何を……?」

 

どうにか、どうにかしなくては……と自身に残った数少ない選択肢を基に思考を巡らせていたアセイラムに天啓が舞い降りる。戸惑う侍女2人を他所に、壇上から飛び降りた彼女は一直線に出入り口の方へと向かう。

 

「軍曹さん、急ぎジェネラル・ゴップとの通信を繋いで下さい」

「は?」

 

向かった先は警護に付いていた軍曹たちの下、よもやこちらに来るとは露ほども考えていなかった軍曹たちは、如何に日夜戦士として鍛え続けているタフガイとはいえ唐突に発令所へ通信を繋ぐよう言われたことに唖然とする。

 

「私も命を賭けます。だからジェネラル・ゴップかジェネラル・トーマスに通信を、私が揚陸城のアルドノアドライブを強制停止させます」

 

アセイラムが言い放った、もはや正気とも思えない選択。しかし目の前の少女の眼に気が狂ったような光はなく、むしろ理性的かつ強い意思が込められた眼差しに歴戦の猛者であるはずの軍曹ですら気圧されているのを自覚する。

 

「……分かった、司令部に繋ごう。だがお姫様、不敬かもしれないがひとつだけ言わせてくれ……余り自分を追い詰めるな。身分的に難しいのかもしれんが、仲間を頼れ。お前には共に歩んでくれる戦友がいるんだろう」

「……はい、肝に銘じておきます。軍曹」

 

理性の中に狂気を感じつつも、先達としてアセイラムにその周りにいる人々にも頼るよう諭す軍曹。軍曹からそう指摘され、振り返った先にいたエデルリッゾやシャルロットの表情を見たアセイラムは自身が先走り過ぎていたことを自覚し謝罪する。

 

「……繋がりました、軍曹」

「分かった。殿下、発令所と繋がりました」

「はい」

 

そしてそれから暫しして軍曹経由で繋げられた突然のアセイラムからの通信に、当初こそ混乱していたゴップとトーマスのふたりだったが大将なだけあってすぐに冷静になり、その内容──アルドノアドライブの強制停止──について聞き返していた。

 

《……詳しくお聞きしても?》

「はい、まず大前提としてヴァースの兵器の大半はアルドノアドライブの恩恵によって機能しています。それは揚陸城も例外はありません、ドライブを機能停止させれば全ての機能を失います」

 

大前提として、「アルドノア」は起動因子を持つ者でなくては起動させることができず、そしてその主幹システムに「アルドノアドライブ」を埋め込むことで恩恵を受ける物は全て機能停止してしまう。これはどうしても「アルドノア」の利便性が高く、そして比較的量産しやすい火星側にとって非常に強い傾向があり、地球側とて亡命科学者の証言や過去種子島において鹵獲した火星製のアルドノアドライブ搭載型カタフラクトを解析して理解していることでもある。

 

《ほう……ではどうやって?》

「アルドノアドライブを停止させる方法はふたつ、起動させた者が命を失うか、それかヴァース皇帝の血を引くものなら強制的に止めることが可能です」

 

その上でアルドノアを停止させる要因として、地球側でも理解していたのはひとつ。起動者の死、もしくは臨死(それに近しい)状態に陥ることであり、それは過去種子島で機体を鹵獲した時や11月24日(破綻の前触れ)のデューカリオン墜落事故*4で地球側も身を以て経験し理解していた。

 

《それはつまり……アセイラム姫殿下なら停止させられる、と》

 

そこにアセイラムから明かされたふたつ目の停止方法。ただ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なら、逆説的に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というのは通りに適っている。それも起動因子の大元、皇族に連なる者ならばその対象が全てのアルドノアであってもおかしくはない。

 

「はい、だから……私を揚陸城の中枢、アルドノアドライブまで連れて行ってください」

《………》

《無謀過ぎる、どう足掻いても敵陣に突っ込むことになる……実行したとて反抗が果たしてそこまで届くのか……うむむ》

 

論理的に考えて、アセイラムの言うことは確かに通りには適っている。白兵戦では優勢とはいえ、内部に侵入されている時点でジリ貧と言える状況。一発逆転を狙う手札(デューカリオン)自体は揃っているが、思っていた使い方*5以外で切り札(アセイラム)を切るべきか、切り時に迷うゴップの迷いや懸念は当然のものといえる。

 

 

《やらせてみましょう》

《トーマス?》

 

 

しかし、そんなゴップの迷いと悩みをブッダ斬ったのはもうひとりの大将。トーマス・マグバレッジ本部大将であった。

 

《アルドノアドライブを搭載した揚陸城に対抗するには、同じくアルドノアドライブを搭載したデューカリオンとメサイアしかない》

 

正に極論、しかしこれまでの戦績を鑑みて通りでもある。何せノーマル機(アレイオン)では敵のアルドノアドライブ搭載型機に碌に勝てていない。例外はトーマスの養女であるダルザナ・マグバレッジ艦長率いた「わだつみ」組だが、そんな彼ら彼女らも今やアルドノアドライブを搭載した「デューカリオン」や「メサイア」に乗り換えている。連合本部そのものの命運を賭けるなら、彼女たち以外に他にない。

 

《軍曹、行き先変更だ。アセイラム姫殿下をデューカリオンまで護衛しろ、命に換えてもだ》

「サー・イエッサー!了解した、安心しろ君たちを無事に船まで連れて行ってやる」

 

トーマスからの指示に軍曹もまた敬礼で答える。彼らもまた自身の命の賭け時は「今」だと理解していたのだ。

 

《全く……無茶をする。分かった、だが道中には大量の火星兵が展開している。大半は施設内に敷いた臨時防衛線で抑え込んでいるが、デューカリオンが係留中の6番ドッグは敵カタフラクトにより既に防衛部隊が半壊しデューカリオンへ撤退中だ。今は別方面に向かったようだが……》

 

お姫様だけでなく、そんな腐れ縁の親友と部下たちからの熱意を受けて遂にゴップもまた折れる。折れたからには全力で作戦成功に導くべく、その称号通り(縁の下の力持ち)の働きを始めたゴップの通信にさらに別の人物が割り込んでくる。

 

《HQ、迎えはこちらで用意します》

「デューカリオン、ダルザナ・マグバレッジ大佐か」

《はい、内容はこちらでも傍受しました。現在本艦はカタフラクトを含む多数の残存防衛部隊を収容、緊急発進シークエンスを実行中です。そちらには「翼を持つ者」を向かわせます》

《ほう、彼──「リボン付き」をか》

 

特別塗装を許可した少年を思い出し、ゴップはそのエンブレムから受けた印象──「青いリボン」を思い浮かべる。この青き惑星を背景に、無限大(メビウス)の名を示す青い「8」の字が中央に据えられたソレ。敵からは「白い死神」、味方からは「白のエース」と称されつつある少年が付けるには少々可愛らしいエンブレムだが、意外とその意匠をゴップも気に入っていた。

 

合流(ランデブー)ポイントはそちら側で設定して下さい。殿下を収容次第、本艦は連合本部を緊急発進。その後敵揚陸城への強襲作戦を展開します》

《了解した、これより連合本部はデューカリオンによる反攻作戦を総力を持ってして支援する!》

 

ゴップの宣言を受けて、通信の繋がっている発令所や放送室だけでなく連合本部全域に熱が、兵士だけでなくそこに避難していた避難民たちの心にも「奇跡」を、「勝利」を掴まんと足掻く「希望」が灯る。

 

 

《総員、これは決戦である!死守せよ!その背中には数千の避難民だけではない、この星に住まう全ての者の命運が掛かっていると知れ!》

《各員、己の持ち場にて奮励奮起努力せよ!》

 

 

 

 

 

 

作戦名(オペレーション)天の杯(ヘヴンズ・フィール)」───発動

 

 

 

 

 

 

2014年、最後にして最大の戦いが佳境を迎えようとしていた。

*1
無論、早期講和に繋がるならばそれはそれで好しと考えていたが

*2
▶︎巨大航宙要塞艦(CCF:Cosmos Cruiser Fortress)

火星のヴァース帝国において建造された既存の宇宙船とは一線を画す巨大さの航宙艦であり、その性質は宇宙空間という海原で漂い戦う「戦闘艦」というよりも拠点防衛に特化した「要塞」や敵地で相手の動きに睨みを効かせる「出城」といった側面の方が強い。

第二次内惑星戦争が開戦した西暦2014年においては火星陣営の名門貴族たる37家門、その中でもさらに地球の衛星軌道上に展開した軌道騎士たちが有する(居城とする)「揚陸城」がこれに該当し、アルドノアドライブ搭載型カタフラクトに並ぶ権威の象徴かつ戦略兵器として度々地球侵攻にも用いられている。

*3
正確には「極東方面軍第228特殊部隊」であり、部隊長の軍曹を軸に3人の部下たちがメンバーとして登録されている少数精鋭部隊。元々はその部隊名の由来となった第228駐屯地所属の部隊だったが、その高い能力を買われて伊吹琴乃やモスク・ハンら科学者たちが種子島秘密基地から地球連合本部へと異動する際の護衛として動員されていた。

*4
墜落の原因たるライエ・アリアーシュによるアセイラム姫殺害未遂事件については外交問題や収容中の捕虜が暴れ回るのを恐れ……というよりかは被害者であるアセイラムが被疑者のライエを裁くことを断固として拒否したため、事件に立ち会った者が関係者ばかりだったこともあり完全に隠蔽。ゴップやマグバレッジ大将へ報告した以外では、表向きの墜落原因は「不明」とされた。

*5
停戦交渉や戦後処理等




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