ALDNOAH.ZERO -Earth At Our Backs- 作:神倉棐
11の3「ドラゴンキラーな少年たち」
【西シベリア平原 地球連合本部ノヴォスタリスク技術研究本部研究区画第7格納庫 11月25日14時22分】
〈West Siberia Novostarsk UFE HQ Technical Research Headquarters Research Area Hangar No. 7 1422hrs. Nov 25, 2014〉
敵CCFによる
「さて、それじゃあ「特別塗装」の前に、色々と調べさせてもらおうかしら」
ゴップたちとの会合の後、士気高揚も兼ねて許可された「特別塗装」や「V作戦」なる計画の一環でデューカリオンから降ろされた一帆の駆るVF-25/JP25メサイアはジオフロント中層に位置する技術研究本部の格納庫内へと移送されていた。
「……すごいところに連れて来られたな」
芦原高校を筆頭に、日本の標準的な公立高校の体育館より大きい格納庫内。VF-25のアルドノアドライブ制御のために機体共々デューカリオンから連れて来られた一帆は、所狭しと詰め込まれた最新機材や動き回る何人もの整備士たちのせいで随分と手狭にも感じる格納庫の中央に駐機された愛機の
「お前が八朔一帆か?」
「ええ、そうですが……」
地面へと着地し、ふと機体へと振り返っていた一帆に対し背後から声が掛けられる。声の方向へと振り向くと、そこには琴乃と同様に白衣を身に纏い銀色の髪色をした壮年の男が立っていた。
「そうか、貴様の活躍があったから俺が呼ばれたんだ。俺が作った理論がどうしてもその機体の変形には必要で、
「貴方は?」
突然の話の内容に頭にハテナを浮かべつつ、その名を問う一帆。そんな一帆の様子を見て、目の前の男は忘れていた自己紹介を始めた。
「モスク・ハンだ、見ての通り技術屋兼科学者さ。まっ、変形云々が難しいからって恨むなよ?何しろ実戦テストも碌にしてないのにお前が機体をブン回したんだからな」
“モスク・ハン技術中尉”
民間出身の伊吹琴乃とは異なり、テム・レイと同じく連合軍技術本部直属の工学博士。あの島──種子島の秘密研究基地では設計主任を務めた琴乃の下で、可変戦闘機VF-25が如何なる環境下*1であっても高速変形できるよう彼が提唱したとある「理論」を基に駆動系を含む大部分の変形機構を設計した設計者であり、この連合本部で進められている「V作戦」の責任者の1人でもある。
「ハン博士、若い子にちょっかい掛けてないで手伝って下さい!」
「へいへい、分かったよ。今行きますよっと」
己の機体を組み上げたもう1人の設計者を前に、驚いた顔をしていた一帆を他所にして琴乃に「油を売ってないで手伝え」と苦言を呈されたハンはやれやれといった様子で機体*2の解析へと向かう。
そして十数分後、接続された幾つもの機材越しにVF-25のメインOSに掛けられたプロテクトを解除。琴乃たちはその中に記録・格納されていた一帆の戦闘データを機体の解析結果と照らし合わせていた。
「嘘でしょ……戦闘時の機体の平均稼働率が98.27パーセント。酷い時は120パーセントオーバーなんて想定以上どころじゃないわ」
「随分、無茶な操縦をしているな。機体全体もそうだが、特に変形機構に大分負担が掛かっている。俺の理論──マグネット・コーティング*3があってこれか……泣けるぜ」
出力されたデータに唖然とするふたり、作りはしたがよもや
「ま、まあ……折角の実戦データだ。ありがたく活用させて貰おう。ついでに言えば、これからもデータだけでもなんらかの方法で私の手元に届けて欲しいものだ」
「ハン博士!」
余りのドン引きレベルに慄く琴乃の横で、同じくらいドン引きながらも口を滑らせたハンに彼女の鋭い声が飛ぶ。流石にいい歳した大人であり、良識を持った社会人でもある琴乃から拳が飛んでくることはなかったが、その声と視線は下手な暴力よりも恐ろしい圧を伴っている。
「構いませんよ、まあ気持ちの良いものではありませんが」
ただそんな失言を受けた一帆の方はというと、大してショックを受けることもなく構わないと言う。転生特典のおかげで
「ああ、まったくだ」
しかしそんな一帆の一言に、ハン自身もまた先程の自身の発言が気持ちの良いものではなかったと同意する。
「……必ず生き延びて、生きて帰って来いよ。お前のデータ
「ええ、勿論です」
デリカシーのない、ズケズケとモノを言う良くも悪くも技術屋気質の男だが、それを自身の悪癖と定義できる程度にはハンもまた歴とした大人であり、良識を持った社会人であった。
「ところでさっきの、どういう意味なんです?」
「ん?何がだ?」
「俺以外が帰って来れるようにってところです」
ハンから求められた握手に、固く握り返した一帆。握手を終えて手を離した一帆はふと、そんなハンが途中に話していた内容──一帆以外も帰って来れる── との部分について聞き返す。
「話して良いのか?」
「構わないと思います、ゴップ大将ら直々にV作戦のことは伝えられていますから」
一帆からの疑念に、答えていいのか?と琴乃に確認するハン。それに対し琴乃から大丈夫ですとの答えを得た彼は、少しばかり頭を掻くとその詳細について話し出した。
「なら構わないか、今俺たちは新しい可変戦闘機を開発しているんだ」
「新型機、ですか?」
琴乃やハンたちが一帆の戦闘データからやろうとしていたこと、それはVF-25に次ぐ新型可変戦闘機の開発であった。
「ええ、まぁ実際には今のVF-25の機能制限版になりそうだけど……ね?」
「機能制限版?」
とはいえ一言に「新型」といってもそれほど単純な話でもないようで、琴乃曰くこれから開発されるのはVF-25以上の性能を持った
「幾ら今の主力量産機が力不足とはいえ、流石にお前さんの乗ってるVF-25をまんま量産する訳にはいかないからな。機能制限……特にアルドノアドライブが無いと話にならないISC*4周りは制限か削除した機体を造らなきゃならない」
「あと変形機構も見直してできる限り簡素化しないと……となると今のVF-25みたいに無理に全領域対応型にせずに運用領域に合わせて型式で棲み分けした方がマシかも知れませんね」
しかしそれでも完成させるには問題は山積みの様で、いくら実機と一帆の戦闘データがあるとはいえそう簡単に物事は進まないらしい。
「それでも一機作るのに一体幾ら掛かるのやら……アレイオンの全機置き換えは夢物語かも知れんな」
火星のアルドノアドライブ搭載兵器に唯一正面から対抗可能な可変戦闘機の現実的量産体制の構築──それこそが「V作戦」の要目であり、それを達成することこそが本部に招集されたテム・レイ含む琴乃やハンたちに課せられた使命。前線には立てないからこそ、その最前線で命懸けで戦う兵士たちが生きて帰って来れる翼を生み出すことこそが、技術屋である彼ら彼女らの戦いなのだから。
「あはは……それは、再設計してみないことには何とも」
ただまあそんな理念はともかく、腹立たしいことにそもそも
「うぉぉおおっ!」
「おいバカ、静かにしろよ!」
「すげぇぇええっ!これが噂の新型機!火星のアルドノアドライブ搭載機をバッタンバッタン薙ぎ倒してるって噂の可変戦闘機かぁっ!」
そんな苦労人2人の様子に苦笑をしていると、格納庫内に聞き慣れない声がふたつ響く。
「君たち!ここは関係者以外立ち入り禁止!官姓名を言いなさい!」
3人が振り返った先、駐機されたVF-25の反対側ではそれぞれ金髪と茶髪の少年たちが騒いでいた。
「く、クエンサー・バーボタージュです!へ、兵科は工兵になりますっ!」
「へ、ヘイヴィア・ウィンチェル上等兵!兵科はレーダー分析官です!」
やべっ、とした顔をしたふたりに琴乃の鋭い声が飛ぶ。自分たちで不法侵入しておきながら、ガッチガチに固まって官姓名を名乗る少年ふたりに最初こそ厳しい顔をしていた琴乃やハンだったが、次第に困惑した表情になる。
「クエンサー……クエンサー・バーボタージュ……確か貴方、欧州方面軍からの派遣留学生の子よね?兵器設計士希望の、貴方はともかく何でレーダー分析官のヘイヴィア上等兵がここに?」
「いやぁそうなんですよ!新しい兵器には目がないっていうか!」
「いいからお前は黙ってろ!……こほん、えー……コイツとはなんと言いますか腐れ縁でして……えー、どーしても今日来たこの機体が見たいからって言うもんですから心配でですね……あと設計主任で
遂には目の前の2人組が
「それで一緒に付いて来た、と?……はぁ、大体分かったわ。どうします?ハン博士?」
「まあ、いいんじゃないか?クエンサー君は技術習得が目的の派遣留学生だし、ヘイヴィア上等兵はあのウィンチェル兵器廠の御曹司だろう?身元は確かだし、丁度色んな視点から見た問題点を洗い出したかったところだしな」
ひとまず、責任者として同僚であるハンにどうするかを尋ねる琴乃。VF-25自体に機密指定がされている訳ではないが、だからと言って見せびらかすものでもない。ただ相手が遥々欧州方面軍から来た「派遣留学生」と欧州きっての軍事産業家の「御曹司」であったこともあり、ハンは見せても良いんじゃない?と答える。
「……それも、そうですね。クエンサー君、ヘイヴィア上等兵。機体について君たちにも説明してあげますからこちらに来て下さい」
「うひょー!やった!」
「うっしゃぁ!キレーなお姉さんに色々教えて貰うぜ!」
そんなハンの後押しもあってか見学を認めた琴乃だったが、それを聞いたバカふたりのはしゃぎ様を見て早まったかと内心さらに頭を抱えたのは内緒である。
「あはは……」
「あれ、もしかして君がこの機体のパイロットの……!」
そんなグダっぷりに
「ああ、一応専属パイロットということになるのかな?八朔一帆だ、階級とかはまだ無いから好きに呼んでくれて構わないよ」
「よろしく!カズホ!」
「ああ、頼んだぜ。カズホ」
ちょっとばかり馴れ馴れしい気もするが特に拒否感もなく受け入れられるあたり、このふたりは中々のコミュニケーション能力の持ち主である。
「ああ、あと初めて会ってすぐに申し訳ないんだけど、ちょっと聞きたいことっていうか……お願いがあるんだけど」
「「?」」
思わぬ一帆からの提案に首を傾げるクエンサーとヘイヴィアのふたり、連合本部での勤務が長そうな彼らに
【西シベリア平原 地球連合本部ノヴォスタリスク捕虜収容所 11月25日15時12分】
〈West Siberia Novostarsk UFE HQ POW camp 1512hrs. Nov 25, 2014〉
「貴方は」
「久しぶり……といっても前に会ってからそう何日も経っていないけどね」
いつぞやと同じ様に、唐突に己にあてがわれた収容室を訪ねて来た男にスレインは無意識に身構えていた。
「スレイン・トロイヤード」
思えば、目の前にいるこの男──八朔一帆とは何者なのか。「連合のエース」「白い死神」「翼を持つ者」そして「専任騎士」……呼び名は多いが、そのほとんどが又聞きでしか知らない。何度か直接会ってこそいるが、人となり等はほとんど知らないスレインからしてみれば、彼自身が敬愛するお姫様とやたら距離感の近い謎の人物としか思えていない。
「おそらく、数時間以内にこのノヴォスタリスクも戦場になる」
「は?何を、言って……?」
そんな正直言って
「1時間以内にアセイラム姫が月面基地に向け生存報告に合わせて停戦要求を行う」
「それが……「月面基地が暗殺者の一派に与していた場合、全ての宣言が握り潰される可能性が高い」……ならどうして!」
「それ以外に、方法がないからだ。地球から火星本国に対して直接通信を行う手段がない。他の揚陸城に行うにせよ、開戦当初に大半の偵察・通信衛星が破壊された以上
「……」
アセイラムに危険が及びかねないと激昂し掛けたスレインに対し、淡々と一帆は現実を──それもより最悪なものを突き付ける。
「これは博打だ、それも随分と分が悪い」
十中八九、戦いになる。それもこの場所、地球連合本部が決戦の場に。
「そんな……」
現実を理解したスレインが言葉に詰まる。
「だからこそ、君が守れ」
「……え」
しかしだからこそ、そんな時に一帆が言った言葉にスレインは己の耳と同時にその相手の正気を疑った。
「勿論、俺だって最善を尽くす。だが戦争に絶対はない。俺だって死なない保証はない。だからこそ、その時は君がアセイラムを、彼女を守って欲しい」
スレインは、ここにきて
「そんな……そんなこと言われたって……」
迷うスレイン、そんな彼に向けて一帆は指先で挟んだ紙片のようなものを投げ渡す。
「これは……」
飛んで来たものを、なんとか目の前で受け止めたスレインが手の内に収まったソレについて問おうとするも、一帆はスッと口の前に伸ばした人差し指を当てる。
「解錠コードだ、もし何もなければ通路には見張りがいる。逃げられない、だが何かあれば……」
「誰も、いなくなる?」
ジェスチャーで一度スレインを黙らせた一帆は渡したモノ、さっきくすねて来た収容所の解錠カードキーとその使いどきを話す。
「おそらく、もうひとりの方はともかく。君の方は重要度が低い、服装もそのままだから火星兵が来ても紛れられるはずだ」
「……その代わり、地球兵に見つかったら終わりですね」
「だからこそ、逃走経路も用意した。不良少年……もとい軍人たちのお墨付きだ。ジオフロントに出たら火星兵と合流できるだろう」
不良少年──例のクエンサーとヘイヴァたちのことだが、やたら不真面目でサボり癖のあるふたりだがその分サボるための前準備には余念がない。平時・非常時を問わず碌に使われていない通路や通風口等、ジオフロントへの抜け道についてお姫様の直筆サイン入りブロマイドを対価に聞き出した一帆はそれをスレインへと丸ごと伝えたのだ。
「地上の防衛線が突破されるのは織り込み済み、ですか?」
「当たり前だ、並のアレイオンじゃ火星のアルドノアドライブ搭載機は止められない」
ジオフロントまで出られるのは当然とばかりに言う一帆にスレインが突っ込むが、一帆のノーマル機じゃアルドノアドライブ機は止められないとの言葉に半ば納得する……ただ、そんなノーマル機でトリルラン卿のニロケラスやフェミーリアン卿のヘラスを討ち倒したのは何処の誰だと言いたいスレインだったがこの場では飲み込んだ。
「そこから先は?」
「後は野となれ山となれ、というのは酷かな?」
「クソッタレですね」
ここまできて出た
「だからこその、保険だ。現状、アセイラム姫の生存、これこそが全てに優先する」
「……初めて意見が合いましたね、それには同意見です」
優先されるのは「アセイラムの生存」ただひとつ。
方や護衛対象で、方や主君。
早期に戦争を終わらせる鍵であり、自身の事を好きだと言ってくれた女性。
かつて自身を救い守ってくれた、己の全てを賭けて守り通すと決めた女性。
全く似ていないのに、似た者同士の少年たち。
いずれ戦う宿命にあれど、今だけは共通の目的の為に共に戦わんとその拳を合わせていた。
モスク・ハンが大学助教授時代に提唱した、重力下であっても安定して実用可能な次世代反発型磁気軸受理論。
主にカタフラクトを筆頭とした機動兵器の関節部等に装備された各種アクチュエーター等の駆動系に存在する可動摩擦面へ特殊な磁気コーティングを施すことで完全な非接触支持を実現、駆動時の抵抗を減らすことで機体の駆動性を改善し反応速度を向上させるというもの。発表当初は技術未達により画期的ながらも机上の空論であると評価されていたものの、火星のアルドノアドライブ搭載機鹵獲により各種アルドノア技術を有していた地球連合軍技術研究本部の目に留まり、実用可能との目論見から技術中尉の身分で
その後は実用化に向け、種子島秘密基地の研究棟にて可変戦闘機たるVF-25の駆動系設計のために用いられるも、肝心のアルドノアドライブが起動できなかったために実戦データが不足しており、本格的な実用化には至れていない状態である。
重力制御を司るアルドノアドライブの機能を利用して対象周辺に生じた機動慣性を一時制御・待機させ、後に少しずつ還元することで瞬間的な慣性負荷から対象内部を保護することを目的とした慣性制御技術の一種。
ただし、制御や待機可能な慣性には限りがあり、オリジナルのアルドノアドライブを搭載したデューカリオンならばともかく、劣化版アルドノアドライブを搭載したVF-25では最大稼働時でも瞬間最大荷重27.5Gを120秒間軽減するのが限界。
さらにそもそもアルドノアドライブそのもの自体が希少かつ製造が困難であり、それ以上に起動因子問題があるため、製造コストの高騰化と調達可能な機体数の制限に繋がる欠点や機体の安定供給を行ううえで大きな課題を抱えている。
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