ALDNOAH.ZERO -Earth At Our Backs-   作:神倉棐

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12/2「奇跡の5秒間」

12の2「奇跡の5秒間」

 

【西シベリア平原 成層圏 11月25日16時44分】

〈West Siberian Plain Stratosphere 1644hrs. Nov 25, 2014〉

 

 

《高度2万メートル到達、目標高度です》

《作戦開始、マザーグース1を発進させて下さい》

 

高度2万メートル、垂直上昇を続けていたAAA/BBY-001(飛行戦艦)デューカリオンは上昇を続けつつも、艦底部格納ハッチを解放する。開いたハッチには、既に完全武装かつ射出準備を終えたVF-25メサイア(「メビウス1」こと「マザーグース1」)が固定されていた。

 

《了解。艦底部格納ハッチ、解放(オープン)。マザーグース1、射出します》

「マザーグース1 ──VF-25メサイア、出撃する」

 

垂直状態のデューカリオンから超電磁射出装置(カタパルト)により勢いよく後方へと吐き出される一帆たちを乗せた機体、しかし重力も加わったその勢いも2ndステージ熱核タービンエンジンと追加ブースターの莫大な推力によりあっという間に上昇前進へと塗り替えて、機体は上昇を続けるデューカリオンと並走する。

 

《マザーグース1の射出を確認》

《ターンオーバー》

 

高度2万、垂直から上下反転したデューカリオンを眼下に、一帆は機体を一度水平へと戻す。ちらりと見えたデューカリオンの艦橋、そこで操艦や指揮を行っているマグバレッジ艦長や不見咲副長に敬礼を返しつつ、一帆は次の段階──降下開始に備える。

 

《全砲門開け、目標──敵揚陸城。砲撃始め》

《全砲塔仰角90度、弾種HE()弾、撃ち方始め(うちぃかたぁはじめ)!》

 

天地が逆さまになりつつも、主砲たる45口径35.6cm三連装砲4基12門全ての砲身が旋回・稼働しそれぞれ捕捉(ターゲティング)された目標(降下予定地点)へと向けられる。号令とともに放たれた35.6cm HE()弾の一斉射は、各砲門毎にごく僅かに付けられた角度により散開し、その目標とした敵揚陸城の一角──花弁の様に開いた大小合わせて8つの構造体の内のひとつ──を効率良く薙ぎ払う。

 

《砲撃止め、作戦第二段階へ移行》

《了解。艦首大型VLS解放、コンテナユニット射出》

《デコイバルーン射出します》

 

軌道上より撃ち下ろすこと、三斉射目。今のところ、敵揚陸城からの迎撃らしい迎撃は皆無。どうやら要塞直上の高度2万まで届く迎撃手段は無いらしく、一方的な砲撃により満遍なく予定降下地点を()()()のを見越して、マグバレッジ艦長は続けてデコイバルーンの散布を命令する。

 

《コンテナ展開、デコイの散布完了まで50…40…30…20…10…全て完了》

 

デューカリオン艦首の大型VLSから投下された幾つものコンテナユニットは高度1万5千辺りでコンテナを開放、中に収められた数十ものカタフラクトに似せて作られたバルーンをその周囲へと放出・展開する。

 

「撃って来たか」

 

と同時に西シベリアに掛かった雪雲を貫き、幾つも閃光が展開したデコイバルーンへと突き刺さる。

 

《敵対空砲火、デコイに着弾。チャフ・フレア、予想通りに拡散していきます》

 

中々の射程と精度ではあるが、デコイが撃ち落とされるのは作戦の内。撃ち落とされたデコイからは一帆たちが新芦原(「Doll Drop」)で使ったのと似て、内部の空気に混じってジャミング効果のあるチャフやフレアもついでに周囲にばら撒くことでその精度を低下させる代物のため、寧ろ敵にはキチンと破壊して貰わねば困る。

 

《効果確認、敵命中精度低下中》

《砲撃再開、各砲門は敵揚陸城に対し各個に自由射撃》

《連合本部残存部隊、陽動作戦を開始。観測隊、地上へ出たとのことです》

 

落着直前に撃ち込んだEMP弾頭の迎撃ミサイルに加え、しこたまチャフやらフレアを撒かれては流石の火星製兵器といえど精度の低下は免れないらしい。次第にただ闇雲に降下するだけのデコイにすら碌に当たらない状態となったのを確認するや否や、艦長は支援砲撃の再開を下命する。また頃合いを見計らってジオフロント内部で抵抗を続けていた歩兵部隊が陽動として反攻を開始、更に上空からの艦砲射撃や爆撃支援のため塹壕に篭って無事だった地上の残存部隊とともにサブシャフトで地上へと上がった観測隊が決死の着弾観測を開始する。

 

《了解、マザーグース1 ──降下開始》

 

そして遂に下った、マザーグース1への降下命令。これから一帆は背後(後部座席)にアセイラムを乗せたまま、上下から飛び交う弾雨を、破壊されたデコイから撒かれたチャフやフレアと制圧射撃に紛れ目標地点へと急降下せねばならない。

 

「了解、敵防空網に突入する──行きます、アセイラムさん。覚悟は、良いですね?」

 

エネルギー転換装甲とピンポイントバリアがあるとはいえ、万が一に少しでも一帆の先読みと操縦が狂えばあの世行きの片道切符と成りかねない。故にその前席に着く一帆からバックミラー越しに問われたこれで何度目かの覚悟の問いに、アセイラムは決意を込めた瞳とともに言い淀むことなく告げた。

 

「はい、お願いします。我らに、勝利を」

 

勝利を、と彼女の意を受けて一帆もまた迷いを捨てる。

 

“迷わば敗れる”

 

死神とて、身構えている時に来ないものなのだ。

 

「突入開始!」

 

スプリットSの要領で操縦桿を左に倒し機体を180度ロール、続けてピッチアップを90度ループし機首を直下へと向けたVF-25は追加された莫大な推力とともに、重力に引かれ急降下を開始する。

 

「ピンポイントバリア、機体前面に集中展開。ISC稼働開始、アクティブステルスは……気休め程度だが無いよりマシか」

 

本来ならエンジン出力に余裕の出るバトロイド形態でなくてはピンポイントバリアの集中展開は不可能だが、追加ブースターを装備し降下中の今ならエンジンにも余裕がある。今はまだ疎らであるが、あと少しでも降下すればジャミングやアクティブステルスをものともしない、猛烈な対空砲火に晒されるであろうと考えた一帆は計器類を操作しエネルギー配分を変更する。

 

《マザーグース1、これより貴機のレーダーと地上の観測隊からの情報を組み合わせて敵防空設備を特定します。ただ、作戦空域は雲と吹雪でレーザー通信の見通しが悪く。特に敵揚陸城付近では我々が展開したチャフやフレアに加え、敵からの電波妨害(ジャミング)が強力となります。注意して下さい》

 

丁度一帆の操作が終わったと同時に、HUDに表示されたレーダーや照準に小さなブレが生じる。西シベリアを覆う雲と敵味方双方が張ったジャミング領域に突っ込んだのだ。

それに加えて減衰したとはいえ敵対空砲の有効射程圏内にも入ったらしく、降下を続ける内にいつの間にか追い付いていたデコイバルーンたちもVF-25の周りで次々に撃ち落とされていく。

 

《観測隊が敵対空砲(AA gun)の発砲位置を確認、これは……対空自走砲のようです。現在機載レーダーの情報と解析中──》

 

細かく操縦桿を動かし、最小限の機動で砲弾の雨を潜り抜け続ける一帆の機体。盾にもできる残るバルーンは僅か、まだガウォーク形態での回避が必要なくらいに命中精度は良く無いが、更に降下すればそうも言ってはいられない。

 

《──解析完了、地上目標(TGT)としてHUDにマークします》

 

雲を抜ける、高度8千。またひとつ、またひとつとデコイが破壊され、コックピットのすぐ側を吹き荒ぶ雪と灼けた砲弾が掠める中で、ようやく一帆が待ち望んでいた情報── TGTがHUDに表示される。

 

「見えた!投弾用意(Bombs away)

 

目視したモノを含めてTGTの数は2()4()、分布状況から見て降下予定地点の構造体上の対空砲は艦砲射撃で軒並み潰れているが、それ以外の構造体では撃ち漏らしが多い。*1対して一帆の機体に懸架された無誘導爆弾(Mk.82/500lb爆弾)は、機外兵装取付部(ハードポイント)に三連装支持架(パイロン)を使いかつ強引に縦列で積んでもたったの1()2()()。全て破壊するには数が単純に2倍は足りない。

 

───それにアレは()()()じゃない、()()()なら各々が好き勝手に動き回る

 

現にHUDに表示されたTGTマーカーは艦砲射撃を躱すべく時折前後左右に動いており、素直に爆撃を受けてくれそうもない。

 

投下(now)

 

それでも、やりようはある。HUDに表示されたCCIP(連続的弾着点計算)を基に、TGTとの偏差を読んだ上で必要最低限の機動でもって攻撃の軸線上に乗ったと同時に適宜爆弾を切り離す。高高度付近からの全弾投下、たった数秒あるいはたった数度、投弾のタイミングや角度をズラすだけで着弾位置は数十メートルから数百メートルは変わる。

 

《注意!敵揚陸城からレーダー照射を受けている!》

 

距離故に爆弾の着弾まではしばらく掛かるが、誤差程度とはいえほんの少しだけ身軽になったVF-25に明確にレーダーが照射される。

 

───吹雪が、ジャミングが途切れたか

 

いつの間にか、VF-25周囲の環境は激変していた。母艦からのジャミングこそ健在だが、レーダーを撹乱するデコイバルーンやチャフ・フレア、赤外線センサを妨害する吹雪も途切れている。アクティブステルス以外にはほぼ丸裸の機体へのレーダーロックとほぼ同時、眼下に展開した小型の構造体から発射されたのは対空用にしてはやけに大型のミサイル。

 

───あれは……!

 

自機に向け撃ち上げられた、たった4発のそれ。飛翔速度は遅く、回避は容易。幾ら大気圏内での戦いに慣れていない火星勢力といえど、この期に及んで理由もなくそんなミサイルを選ぶとは思えない。ならば、

 

「多弾頭ミサイルか!」

 

VF-25の目前で、一発の大型ミサイルが数十数百のマイクロミサイルへと分裂する。それが4発分、合わせて千にも上るミサイル弾幕が傘の如く花開く。

 

《目標高度です。第二陣、強襲揚陸部隊降下開始》

 

そしてこのタイミングで一帆に引き続き、第二陣として伊奈帆たち強襲揚陸部隊の降下が開始される。

 

───時間が無い。ISCの稼働限界まで残り58秒、瞬間最大荷重で27.5Gまでいっても多少なら待つ!

 

操縦桿を右に倒しての右ロール、さらにベクタースラスト・ノズルを操作することで僅かに機体をズラしつつチャフとフレアを放出。ばら撒かれたマイクロミサイル群の内、真っ直ぐ一直線に突っ込んできた優等生なミサイルたちを紙一重で躱す。

 

「ぐっ……⁈安全装置(リミッター)解除、高機動(ハイマニューバ)モード!」

 

ロールにより反転した機体、更にオプションパックの安全装置をも解除し追加ブースターを操りその噴射口を上下に指向。噴射により強引に機体に急制動と方向転換を行い、姿勢制御と方向転換が間に合わないミサイルの雨を斜めに潜り抜ける。

 

《ISC稼働限界まで残り30秒!》

 

次、強引な姿勢転換により失速状態となりかけた機体。傘の如く拡散した後に急角度で方向転換、これまでの一帆の回避機動を読んで先回りして来たミサイル。迫り来るそれらを目前に、一帆は操縦桿を縦に引く。

 

()()()()()()

 

高度、進行方向を変えずに機体姿勢がピッチアップ。機首を旋回円中心方向に向けた後、やや機体を左にロールさせ(捻り)主翼下の対艦対空両用76mm単装速射旋回砲塔2門の速射で当たりそうなミサイルのみを迎撃する。

 

《ミサイル、ミサイル》

 

曲芸飛行じみた回避機動、それでも機体を巻いて包み込むようにして追い縋ってきたミサイルは追加で再びチャフとフレアを放出。先程と同じ追加ブースターに加え、一瞬のガウォーク・ファイター形態による急制動で、たった今出したフレアらを自身のいた位置に置きすり替わる事でそこまで縋ってきたミサイルをも置き去りにする。

 

「──神様っ!」

 

鳴り止まない警報音と後部座席から聞こえた神への祈りさえ置き去りにして、ここまで躱してなお尽きないミサイル群。押し込みっぱなしの左手の推力桿のおかげで、狂気的な再加速を果たしたVF-25は縦横無尽に上空を飛び回り、残りのミサイルを撒き散らしたチャフとフレア、インテークの近接ミサイルCIWSや単装速射旋回砲塔で迎撃する。

 

《──残りミサイル、21!》

 

あれ程あったミサイルも、残りはたった21発。相対速度が速過ぎて従来の近接信管では碌に作動しないおかげなのもあるが、ここまでの僅か5秒間で大半のミサイルを始末し、生き残っていられるのは正に「奇跡」──伝説を見せられているとしか言いようがない。

 

《ISC稼働限界まで残り20……いえ15秒!》

《爆撃命中!爆撃命中!対空砲13基沈黙!》

 

そして一帆が最後のミサイルを躱して撃ち抜いた直後、直前に投下した爆弾の命中を知らせる通信が入る。デューカリオンからの支援砲撃により密集した所を叩く、動き回った対空砲の動きを読んで落とした爆弾で纏めて数台を吹き飛ばすのは先読み能力があっても苦労した。ただここまで来ればあとは本隊の到着を待つばかり、先程のミサイル回避で瞬間的に30Gをも超える負荷が掛かりISCの稼働時間がやや短くなってしまっていたが、それでも残った対空砲やミサイル発射口を叩き潰す時間は残っている。

 

《対空砲等の全TGTの沈黙を確認》

《マザーグース1、降下目標地点に到達しました》

 

敵揚陸城の上空を軽く旋回しつつ、マイクロミサイルで残った対空砲とミサイル発射口を吹き飛ばし、一帆はガウォーク形態にて降下目標地点へと着陸する。

 

「はぁ……はぁ……つ、着いた…んですか?」

「はい、こちらマザーグース1。ランディングゾーンを確保」

 

機体が着地したことに気付いたのか、後部座席にて息も絶え絶えとなったアセイラムが周囲を見渡しつつそう言う。そんなアセイラムに答えつつ、一帆は周辺の安全確認を行うと降下地点確保との通信をデューカリオンと降下中の強襲揚陸部隊へと繋げる。見上げた空、そこには特徴的な伊奈帆の機体を先頭に、雲を突き抜けて続々と降下してくるカタフラクト部隊がいた。

 

《……本当に全部の対空火器が潰されている。本当の本当にメビウス1が、ひとりでこれを……?》

《ええ、貴女の前には彼しかいません》

《信じられない……なんてパイロットだ》

 

落下傘を展開して降り立つ重装騎兵たち、そんな中で一帆の活躍を見たエリエラが唖然とそう溢していたが、これまでの航海で一帆に毒され(慣れ)ていたマグバレッジ艦長は特段驚くこともない。

 

《カズ兄、おかしい》

「マスタング22?」

 

降下地点を橋頭堡として確保しつつある状況で、ふと息を入れた一帆に先程まで橋頭堡確保の陣頭指揮を取っていたハズの伊奈帆の通信が入る。

 

《やけに通信がクリアだ。いや、()()()()()()!》

「なんだって⁉︎」

 

割と作戦中は呼称等はしっかりしているハズの伊奈帆からコールサインでなく、いつもの呼び方で呼ばれた時点で嫌な予感を感じていた一帆だが、伊奈帆から言われた通信が()()()()()()()()()との言葉に心臓を掴まれた気分になる。

 

 

 

 

 

《艦長!前に!》

《前方!敵機です!》

 

 

 

 

そして、そんな予感は的中した。

 

 

 

 

《対空戦闘用ッ……!》

《きゃぁぁあぁぁぁっ⁉︎》

 

 

 

無線に響き渡る轟音と悲鳴。

 

「まさかっ⁉︎」

 

無線に釣られ全員が見上げたソラ、そこには──

 

 

《デューカリオンが……》

《堕とされた……?》

 

 

雲を突き抜けて、爆煙を上げながらも揚陸城へ向けて墜落しつつあるデューカリオンの姿があった。

 

 

 

*1
大小合わせて8つある構造体上に、大きいものには9台、小さいものには6台の自走対空砲がそれぞれ配備されており、万全の状態では合わせて合計60台もの対空砲が配備されていた。




現在、活動報告にて主人公のTACネーム案を募集しております。よろしければ活動報告までお願いします。
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  • その他
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