ALDNOAH.ZERO -Earth At Our Backs-   作:神倉棐

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12/3「三位一体の敵」

12の3「三位一体の敵」

 

【西シベリア平原 橋頭堡確保地点 11月25日16時52分】

〈West Siberian Enemy CCF bridgehead 1652hrs. Nov 25, 2014〉

 

 

一帆(マザーグース1)単独での着陸地点(ランディングゾーン)の制圧と、その直後に降下し橋頭堡の確保に成功した伊奈帆を筆頭とした強襲揚陸部隊の一団。空爆に加え母艦(デューカリオン)が行った制圧射撃によって、橋頭堡周辺以外は装甲が叩き割られ幾つもの黒煙が立ち昇っているものの、構造体自体が崩壊する様子は今のところない。

 

《デューカリオンが……》

堕と()された……?》

 

しかし橋頭堡周辺の安全が確保されていたことに安堵する間もなく、揚陸城の一部を占拠していた一帆らに届いたのは「デューカリオン襲撃」の急報であった。

 

「っ!総員退避!デューカリオンがここに突っ込んで来るぞ!」

《全機部隊ごとに分かれて左右に散開!急いで!》

 

無線越しに聴いた轟音と悲鳴だけでなく頭上を覆った雲を突き抜けて、爆煙を上げながらも揚陸城へ向けて墜落(降下)しつつあるデューカリオンの姿を目にした一帆は、唖然とする間もなく総員退避を叫ぶ。そんな一帆に続き「散開」と叫んだユキの指示に弾かれるようにして、強襲揚陸部隊の各隊は突っ込んで来るデューカリオンの進路から蜘蛛の子を散らすようにして散開する。

 

 

《総員、振動に備えて!》

 

 

“轟音”

“振動”

 

 

眼前を過ぎて行く、空飛ぶ鉄の城。着底と同時に劈く破壊音だけでなく盛大な火花と黒煙を撒き散らし、圧倒的質量を有する筈の揚陸城をも振動させて。墜落したデューカリオンは艦底とその剣状の舳先を構造体を貫き、めり込ませつつもようやく停船した。

 

「マザーグース1より艦橋(ブリッジ)、状況は?」

 

立ち上る黒煙に包まれたデューカリオンに向けて、一帆は通信を試みる。墜落時に見えた艦容からして、艦橋部への被弾はなさそうには見えたが、船より遥かに脆い人体には被弾どころか墜落時の衝撃だけでも致命傷になり得る。

 

《ザ……ザザッ……こち…ら艦橋、マザーグース1・マスタング隊……聞こえるか?》

 

最悪の予想が脳裏へと過ぎりつつも、一帆の被ったヘルメットの通信機に一瞬の雑音(ノイズ)が走る。機材の不調か電波妨害(ジャミング)のせいか、おそらくそのどちらもが原因で途切れ気味でこそあったが、辛うじて繋がった通信にほんの少し胸を撫で下ろす。

 

《ま、鞠戸大尉!き、聴こえます!デューカリオンは……⁉︎みんなは……⁉︎無事ですか⁈》

《落ち着け……網文、……何とか、な……全員生きてはいる》

《こほっ……ごほっ……筧軍曹の艦橋部へのピンポイントバリア展開が寸前に間に合ったおかげです。ただそれ以外の被害は甚大……敵機の集中攻撃を受けた右舷反重力デバイスの大半が停止。艦内各所で火災が発生、重要防御区画(バイタルパート)にもダメージがあり「中破」といったところでしょう……》

 

被害は甚大。鞠戸大尉やマグバレッジ艦長の様子からして艦橋要員は無事な様子であるが、続けて艦長が告げた被害状況は決して軽微なものではない。

 

───防郭にダメージ……てことは、弾薬庫や揚弾装置にも被害が入っている可能性が高い。これ以降の支援砲撃は期待薄か……

 

中央防郭帯にまで亀裂が入っているともなれば、機関や弾薬庫周りが無事とは考えずらい。例え弾薬庫が無事でも精密機械たる揚弾装置が無事とは思えず、特に35.6cm×152.5cm砲弾の重量は1発概ね650kg程度、この状況下でかつ人力での装填・発射は現実的とは思えない。

 

《……しかし作戦は続行します。ダメージコントロール班と艦を運用する最低限の人員を除き、動ける者は武器を手に陸戦隊とともに出撃。いつ我々を攻撃した敵機が現れるとも分かりません、マザーグース1とともに作戦最終段階である敵揚陸城攻略を開始します》

《了解》

《HQとの通信については地上の観測隊にバックアップを要請。こうなった以上、もはや着弾観測は不要ですが相互連携のためにも逐一各々の戦況について発光・レーザー通信を問わず回線の維持に努めるように》

 

前門の虎(敵揚陸城)()後門の狼(敵カタフラクト)

 

橋頭堡確保にこそ成功したが要塞攻略はこれからであり、背後には母艦たるデューカリオンを堕としたであろう敵のアルドノアドライブ搭載型カタフラクトがいつ現れてもおかしくはない状況。敵中に孤立した強襲部隊としては積み一歩手前(チェック)と言った状況で、唯一自力飛行(撤退)可能な一帆のVF-25を除き、今の一帆たちに取れる選択肢は実質一択──敵機に背後を脅かされながらも、その能力を十全に発揮出来ないであろう()()()()()()()()()──すなわち、当初目的とはやや異なるが作戦通りに攻略する(進む)以外に他にない。

 

《作戦再開、予定通り母艦直掩部隊を除き降下部隊はマスタング隊を先頭に揚陸城攻略を開始。侵入経路を確保次第、陸戦隊も出撃です》

 

作戦は続行。思わぬところで「背水の陣」といった状況に陥ったのも確かだが、そもそもこの揚陸城を攻略しない限りノヴォスタリスクが落ちるのも時間の問題。それにやるからには施設占拠は可及的に速やかに実行せねばならない。さもなければ折角不意を突いての攻城戦も、ただでさえ有利な防衛側がより防備を整えて不利になってしまう。

 

《デルタリーダーから各隊に通達、ポイント04付近に艦載機発進口と思われる侵入経路を発見》

《デルタはそのまま待機、陸戦隊到着までアルファとベータの2小隊で出入り口を確保だ》

《マスタング隊はマザーグース1の直掩です。敵中枢への侵入経路が確保され次第、突入して下さい》

 

デューカリオンの()()()()により少々陣形や隊列は乱れてしまっていたが、ここまで来ればやる事自体は予定とは変わらない。

 

「本当に、私の判断は正しかったのでしょうか。これ程の犠牲を……地球人の方々の生命を賭してまで、恨まれている火星人の私のために……」

 

粛々と事前情報*1を基に作戦通りに進み始めた戦場の真っ只中で、一帆の後部座席に座ったアセイラムは眼下に広がった地球連合本部とデューカリオンの惨状を前にそう呟いていた。

 

「アセイラムさん?」

《殿下、どうすれば戦争が終わるか知っていますか?》

 

後席がこぼした呟きに、何と答えるべきか悩んでいた一帆よりも先に通信で割り込んできたのは、いつの間にか一帆らマザーグース1の真横に立っていた伊奈帆であった。

 

「そ、それは……互いに平和を望み憎む事をやめれば……」

《ええ、それもきっと間違いではないでしょう。ですが本来、戦争とは国家間の交渉──いわば「外交手段」のひとつに過ぎません。その可否や好む好まざるを問わず、必要とあらばその交渉目的を果たすべく戦争は起こります》

 

伊奈帆は言う。

 

例えば領土、先祖伝来(未回収)の地を奪い返す。大国となるため国土を増やす。

例えば資源、生存や発展に伴う不足を他所から持ってくる。資源を独占する。

例えば利権、地権や石油等の戦略物資の売買。莫大な利益を享受する。

例えば思想、特定の国家や人種を敵視し国内不和の捌け口とする。

例えば宗教、異なる教えを根絶し自己の信じる神を押し付ける。

 

よく聞く話だ、そもそも人類史の繁栄の側には常に戦争の影があった。それこそ歴史の教科書に人の争いについて書かれたページが存在しない程に、二度の大戦が起きた二十世紀が「戦争の世紀」と称されることもあるが、有史以来人類は常に繁栄と幸福を願いつつも同じ人類同士で争ってきたのである。

 

《だからこそ、その目的を達成すれば戦争は終わる。またはその利益に見合わない程の犠牲──人が死ねば戦争は終わります》

 

銃で撃てば、人は死ぬ。

それは剣であれ、礫であってもそう。

流血により刻まれた人類史、その歴史に残る数多の戦争の終わりは、例え勝者側であっても概ね悲劇しか量産していなかった。

 

《怒りや憎しみも、感情は戦争を有利に運ぶための手段でしかない。でもそれは幾重もの痛ましい流血を経て、それでも無駄な犠牲を失くそうとどうしても争うことをやめられない人類が結んだ戦争条約(最低限のルール)を蔑ろにしかねない。強過ぎる感情は戦争を悪化させかねないんだ》

 

「……人は獣にあらず、人は神にあらず」

 

伊奈帆の言葉を受けて、一帆はぽつりとそうこぼす。

 

“人には獣にはない理性がある、選び、他者を思い遣る心と流すことのできる涙がある”

“しかし人は神ではないからこそ、感情に振り回され、間違い、悩み、苦しむのだろう”

 

最初にこれを口にした者が意図した本来の意味や意図とはきっと異なるが、一帆の思うその台詞は「警句」ではなく「人類讃歌」というべきものだ。

 

《だからこそ、僕は火星人だからといって恨まない。恨むつもりはない。大切なのは目の前にいる人がどういう人なのかということ、先入観ではなくその人個人の言動や行動で相手を信じ手を取り合いたいんだ……カズ兄のように》

「伊奈帆さん……」

 

決して感情がない訳ではないが、普段はまるでロボットの様に合理的で理性的(理屈屋)な判断や発言ばかりする伊奈帆の口から語られた理想論。ただその思想や考えも、あるべき原作の伊奈帆からすれば随分とずっと近くにいた誰かさん(ロマンチスト)から影響を受けた理想主義的な祈りであることに当の本人たちは全く気付いていなかった。

 

 

 

《随分と理想主義(ロマンチスト)なのだな、地球人とは》

 

 

 

「っ⁉︎いよいよお出ましか!」

《っ、全機散開!》

 

 

 

そんな祈りを嘲笑うかのように、影も無く一帆らの頭上から現れたその機体──十中八九デューカリオン中破の下手人たる黒い人型機が現れる。

 

《ヴァース軌道騎士37家門よりザーツバルム、参上致しました。お覚悟を、アセイラム・ヴァース・アリューシア殿下》

 

SFS(下駄)に乗りつつも、レーダーに映らぬその機体。そして強引に割り込まれた無線越しにその乗り手の名を「ザーツバルム」と名乗った男の声に、後部座席に座ったアセイラムは半ば消去法で理解していた「黒幕」を前にして様々な感情を込めた視線を向ける。

 

《やはり、貴方が私の生命を……!》

《その通りにございます、殿下。そしてこの我が揚陸城、此処を貴女の墓標として献上させて頂く!》

 

ガウォーク形態故に、キャノピー越しに向けられた彼女の視線を目視してなお、何処か芝居掛かった台詞回しと振る舞い見せるその機体。マザーグース1やマスタング隊だけでなく、未だ周囲にいた強襲揚陸部隊のアレイオン達が一斉に銃口を構えているというのに、黒幕たるザーツバルムの声に焦りや恐れなどカケラも存在していなかった。

 

《各機、以後通信はレーザー通信に限定!距離を取りつつ各個射撃開始!》

《了解!》

《撃て!撃てぇっ!》

 

ユキの合図で庇われている一帆の機体以外のマスタング隊を含め、半包囲でかつ10機近い数の機体から一斉射撃を受けるその機体。

 

 

《立ち向かうか、しかしそれは蛮勇というものだ。地球人よ》

 

 

《なっ⁉︎》

《当たらない……⁈》

 

放たれた銃弾、例え火星製のアルドノアドライブ搭載機であっても十二分に有効打になり得る十字砲火(クロスファイア)を受けてなお、黒い機体は()()()その場に立っていた。

 

《バリア⁈いや……これは、FCS(射撃統制システム)に干渉されている?》

 

初撃を外され、それ以降の射撃も碌にかすりもしない事態に一瞬「団子虫(ニロケラス)」のバリアを思い浮かべるも、弾丸自体が消失している訳でなく回避されていることに伊奈帆は着目する。

 

《⁉︎……当たった?》

《……やっぱり、強力なデコイやジャミングでコチラの照準が狂わされている》

 

回避するとは当たったらマズいということ、さらに先程からやけに照準(ロックオン)がブレていることに気付き、咄嗟に機械(オート)による照準から手動(マニュアル)での照準に切り替える。そして射撃を行う者の中で唯一、手動で照準を合わせて発砲した伊奈帆の銃弾が掠めるどころか命中したことでそれは確信へと変わる。

 

《マスタング22からマザーグース1、行って!ここは僕らが食い止める!》

「マスタング22?」

《全機、照準を手動に切り替えて。ここは僕らで抑える!マザーグース1は一刻も早くアルドノアドライブを!》

 

伊奈帆の指示によりすぐさま手動での照準へと切り替えた地球連合軍機からの射撃に、ザーツバルムが回避一辺倒となった隙を見計らい、今のうちに一帆に進むよう伊奈帆は告げる。

 

「……分かった、この場は頼む。……死ぬなよ」

《モチロン、そっちこそお姫様のこと頼んだよ。専任騎士(ナイト)様?》

 

本作戦の最重要目標は「敵揚陸城(攻勢拠点)のアルドノアドライブ停止」ただひとつ。連合本部内での戦闘や降下作戦でさえその前提条件に過ぎず、ましてや敵火星製アルドノアドライブ搭載機の撃破はオマケに過ぎない。

 

“何に変えてもお姫様を中枢にあるアルドノアドライブの下へと無事に送り届けること”

 

それこそが唯一現状を打開可能なアセイラム(希望という名の積荷)を後席に乗せた一帆だけでなく、この作戦に参加した全ての将兵をすり潰して(如何なる犠牲を払って)でも達成すべき使命なのである。

 

「皆様……ご武運を!」

 

この場に残ることとなる伊奈帆の存在に後ろ髪を引かれつつも、操縦桿を押し込み、デルタ隊が維持しているポイント04付近の艦載機発進口へと向かう。ただ、シレっと最後に茶化すように言ってきた伊奈帆のことは、絶対に作戦終了後に〆てやると一帆は内心で誓っていた。

 

《行かせぬ!……ぬぅっ⁉︎》

《行かせないよ!》

《妬かない妬かないロリコン伯爵!火傷すっぞ!》

 

反転した一帆の機体を追わんとしたザーツバルムに対し、マスタング33こと網文韻子とマスタング44こと箕国起助の空挺オプションに増設されたマイクロミサイルポッドが火を噴く。ジャミングで碌に誘導されないミサイルも数撃ちゃ当たるの要領(撃ち切る勢い)でぶっ放せば弾幕にもなる。

 

《……いい気になるなよ!地球人ども!》

 

マスタング隊を軸にした統制取れた進路妨害に加え、起助が放った挑発(揶揄)*2にカチンと来たのかこれまで余裕な態度を崩さなかったザーツバルムの声色に明確な苛立ちが混ざる。

 

《アルドノアの力よ!》

 

ザーツバルムが1発放てば10倍以上の弾丸や誘導弾*3が返ってくる状況に余裕もなくなったのか、遂に奥の手──アルドノアドライブの能力を発動させるらしい。

 

《我に力を!》

 

無線越しに(オープンチャンネルで)垂れ流される叫びを他所に攻撃を続ける伊奈帆たち、しかしそんな弾雨を掻い潜り、上空へと飛び上がったザーツバルムの機体に5()()()()()が迫る。

 

 

《緊急!緊急!観測班よりデューカリオン隊!メインシャフトから5機──おそらく()()()()()()()()()()()()が飛び出たぞ!》

 

《ごっ、5機⁉︎》

 

 

同時に地上に残る観測班から告げられた報告に韻子が驚愕した声を漏らす。

 

《落ち着いて!1機ずつ推進器を狙って!》

《ですが!速い!》

 

撃ち上げた弾幕を物ともせず、揚陸城上空でザーツバルムの乗った機体(コア・ユニット)を中心に集った5機は変形し、分離し、合体し始める。

 

《おいおい……なんだありゃ……!》

 

組み上がった機体、素になった機体や地球連合軍機(アレイオンにヴァーゼラルド)の全高を優に2倍を超える超大型機の(巨体を誇る)ソレが伊奈帆たちの目の前に着地する。

 

 

 

《ディオスクリア────見参》

 

 

 

重装騎兵(カタフラクト)を超える巨人兵の出現。

 

「ノヴォスタリスクの戦い」の終結は、目の前まで迫っていた。

 

 

 

*1
アセイラム姫からのリーク情報

*2
ロリコン扱い

*3
ジャミングの所為で碌に狙った場所にも飛ばないほぼ無誘導(ロケット)弾と化しているが




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