ALDNOAH.ZERO -Earth At Our Backs-   作:神倉棐

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12の4「ソラノカケラ」

 

【西シベリア平原 地球連合本部ノヴォスタリスク ジオフロント表層 11月25日16時45分】

〈West Siberia Novostarsk UFE HQ Outer layer of the geofront 1645hrs. Nov 25, 2014〉

 

 

強襲揚陸隊の降下とデューカリオンの墜落よりも少し前、「積荷」が飛び立ってしばらくした連合本部(ノヴォスタリスク)ジオフロントの表層にて。

 

「チクショー!何でレーダー分析官の俺がこんな目にぃぃ!」

「その調子だ、上等兵!背後に居るお嬢さん方に指一本足りとも触れさせるな!」

 

デューカリオン支援の陽動作戦のため、残存戦力の全てを投じての反転攻勢に出た地球連合軍。要塞施設内や通路において、ここまで土足で踏み込んで来た火星兵を叩き出さんとする勢いで反撃を始めた連合軍将兵達の中で、とある普(・)段(・)は(・)碌(・)に(・)使(・)わ(・)れ(・)て(・)い(・)な(・)さ(・)そ(・)う(・)なジオフロント表層に続く通路にて銃撃戦を続ける青年はそう叫んでいた。

 

「おい、クエンサー!お前も銃くらい持ってんだろ⁈手伝えよ⁉︎」

「馬鹿いうなよ、ヘイヴィア⁉︎俺は派遣留学生なの!派・遣・留・学・生(は・け・ん・りゅーがくせい)!銃なんて持たせてくれるか!」

「おーおー、今の若い子は元気じゃねえか」

「泣き言ばかり言っていても始まらないぞ?今出来ることをやるんだ」

 

世の不条理を嘆きつつ叫んでいたのは、ヘイヴィア・ウィンチェル上等兵。そしてそんな彼に何か手伝えとせっつかれていたのが欧州方面軍からの派遣留学生のクエンサー・バーボタージュ。一帆曰く共に「不良軍人」との評価*1を頂いている彼らだが、そんな彼らも模範的軍人(レンジャー隊員)である軍曹達に挟まれてしまえば真面目にやらざるを得ない。そもそもこんな微妙に最前線なようで中途半端な位置にある通路に予め不良軍人コンビの彼らが布陣していたのも、一応の確認で一帆に教えたいつも使っているサボりルートを見に来た結果であり、そこに「Handful of Hope(希望という名の積荷)」作戦を経て表層の第43格納庫から撤退して来た軍曹チーム(第228特殊部隊)とそれを追撃して来た火星兵の一団と合流し(鉢合わせ)てしまったためである。

 

「止血帯を!この場では止血さえすれば十分です!あとは正規の医者がいる野戦病院に任せます」

「ああ、火星(かせっ)……いや、このお嬢さんの言う通りだ。担架だ!後方に後送しろ!」

「了解です、伍長!」

 

銃撃戦(ドンパチ)を繰り広げる軍曹達の更に後方、通路の物陰では連合軍では「看護兵」に配属されているシャルロット・ハプティズムが黒い侍従服のまま、他の戦線で負傷し腕や腹から出血した若い兵士の止血に奮闘していた。

 

「げほっ……すまないな、お嬢ちゃん」

「しゃ、喋ってはダメです!」

「落ち着いてエデルリッゾ、貴女はこちらを押さえて」

 

奪う為でなく救う為、血に塗れても生命を守るために懸命に駆け回る。そんな火星人の少女たちの姿を見て、最初は何処か複雑そうな目で見ていた伍長たち地球連合軍人らも、いつしか彼女たちを明確な味(・)方(・)として見ていた。

 

「本部(HQ)、戦況は?」

 

飛び交う銃弾の雨の中で、再装填(リロード)の合間を縫って軍曹は発令所にいるであろうゴップやマグバレッジの両大将に問う。

 

《一進一退だ。歩兵部隊は全体的に優勢だが、カタフラクトを含め大半の機械化部隊が壊滅状態だ》

 

本(・)部(・)だ(・)け(・)の(・)戦況でいえば、状況は正しく一進一退。相変わらず科学力(アルドノア)*2の有無がモノを言う地上やジオフロント表層は火星側が有利だが、逆にそれらを振るうことのできないジオフロント中層以外や施設内では歩兵力に勝る地球側が優勢な状況であった。

 

「膠着状態、と言う訳か」

 

既に戦線をジオフロント表層一歩手前の地点まで押し返している地球側だが、そこから先に一歩でも足を踏み出せばジオフロント内を我が物顔で徘徊する火星側アルドノアドライブ搭載機に叩かれてしまう現状。

 

《ああ、本部(ココ)の状況だけ見ればな》

 

膠着以前に準備万端とは言い難い状況で、自陣に敵を引き込んだ時点で地球側はジリ貧と言わざるを得ないが、それでも希(・)望(・)はある。

 

《「方舟」は飛び立った。姫君を乗せて、リボン付きの少年と共に》

 

飛び立った「方舟」──航宙戦艦デューカリオン。この星で唯一、ソラを飛ぶことの出来る「奇跡」を積んだ船。そしてその方舟は今、リボン付きの騎士を伴った姫君と共に城(・)攻(・)め(・)の真っ只中であった。

 

「賭けるしかない、か。あの少年とお姫様に……」

 

軍曹の脳裏に映っていたのはつい先程まで護衛していた少女の姿、平和を願いながらもその身に流れる皇族の血筋故に戦争のキッカケになってしまった彼女。対して少年の方はそんな彼女を受け渡したほんの僅かな時間でしかないが、それでも己の半分程しか生きていない、本来ならば未だ庇護された青春(モラトリアム)の内にいるべき齢の少年少女たちに全てを託さねばならない状況に、軍人である以前に良識ある大人として軍曹は歯噛みする。

 

《─────……》

 

そんな軍曹が抱える感情を知った上で、発令所にいる将軍たちは敢えて多く語ることはない。彼らもまた軍曹と同じく良識を有してはいても、それと同等かそれ以上に数千・数万の将兵を束ね、その背後に守る市民の生死を預かる「責任」を持った軍人であるが故に。

 

「再装填(リロード)だ、援護(カバー)してくれ!……って、何してんだ?坊主?」

「了解!……どうした?」

 

大人としての苦悩と軍人としての苦悩、立場や視点の差異による悩みの優先順位について軍曹たちが苦悩している間にも銃撃戦は続いている。そんな中で、丁度いかつい声が特徴のレンジャー隊員が弾切れになった弾倉を交換しようとした時、つい先程まで叫びながら遮蔽物の裏に隠れていた 派遣留学生の(銃すら持っていないらしい)少年がしゃがんで何やら作業を行っているのを目にする。

 

「……よし、できた!」

「いや、派遣留学生……って、おい⁈危ねえぞ⁉︎」

 

銃も無しに何をしているのか、そう疑問に思い問い掛けようとしたらその瞬間に。突如遮蔽物から身を乗り出した少年は、その手に持ったナニカを前方へと投げつける。少年自体はその行動に驚いたレンジャー隊員に遮蔽物の裏に直ぐに引っ込められるも、投げられたそれらは綺麗に放物線を描き、火星兵か身を隠す遮蔽物の周辺──地面だけでなく壁や天井、挙げ句の果てには障害物(バリケード)にまで──へと張(・)り(・)付(・)い(・)て(・)いく。

 

「よしっ!今だ!」

「うおっ⁉︎なんだぁっ⁈ありゃあ?」

「手榴弾(グレネード)?粘着爆弾……か?いや、だがあれは……」

 

と同時に少年はその手に握っていた無(・)線(・)ら(・)し(・)き(・)装(・)置(・)を弄る。通路全体を揺るがす複数の爆発と一斉起爆したそれらによって一掃された火星兵の有様に、驚き慄くレンジャー隊員たち。そんな彼らに対し、目の前の大惨事(大戦果)を齎した少年は答え合わせかの様に、その単純なカラクリについて呟いていた。

 

「コンポジションC-4 ───」

「───つまりプラスチック爆弾か」

 

金髪の少年の答えに、軍曹もまたその正体について思い至る。

 

“コンポジションC-4”

 

通称「C-4爆弾」は、可塑性に優れ特殊な工程を踏まずとも容易に分割や整形が可能、更に起爆には起爆装置や雷管なくしては爆発しない高い安定性や耐久性を有したプラスチック爆弾の代名詞的存在とも言われる高性能爆薬である。

 

「一応俺は学生兼工兵扱いなんでね。銃は持たせてくれない癖に、何でか爆弾だけはそれなりに支給されてるんだよな」

 

投げ易いように丸く成形され、遠隔起爆用の雷管が突き刺さった簡易手榴弾を弄びつつ、何処か得意げに話す彼。純然たる爆薬を丸めただけなため、手榴弾のような破片による殺傷*3は望めずともその爆風と熱も馬鹿にはならない。

 

「バカヤロウ!ならサッサと使えよ、クエンサー!」

「しょうがないだろ!ついさっきまで持ってたのすっかり忘れてたんだがら!」

 

ただ目前の敵を一掃した一方で何とも締まらない応酬を続ける少年2人に、軍曹は機転の良さへの驚きとその前後のグダグダっぷりに何とも言い難い表情をする。

 

「そこまでだ、少年。敵は一掃した、よって我々は彼(・)女(・)た(・)ち(・)を護送せねばならない」

 

せっかく追跡部隊を一掃したのだ。護衛対象(シャーリーやエデルリッゾ)の存在もあり、いつまでもこんな中途半端な場所で立ち往生をしていられない軍曹がクエンサーとヘイヴィアの仲裁に入る。

 

「──……っ⁉︎」

「何者だ!」

 

しかしその瞬間、背後で微かに聞こえた誰かの息を呑む声を軍曹は聞き逃さなかった。

 

「待って下さい!彼は……敵ではありません!」

 

黒い服装をした少年に向けられた幾つもの銃口、あとゼロコンマ数秒遅ければ指の掛かった引き金が完全に引き切られていたであろうタイミングで、今の今まで地球兵に対し医療行為を行っていたシャーリーの制止が響く。

 

「何?待て、撃つな!」

「し、しかし……彼は火星兵の服装を……」

「そこの少年!所属と名前を言え!」

 

発砲寸前に制止の声を耳にした軍曹が即射撃中止を命じる。軍曹からの指示にやや戸惑った様子を見せるレンジャー隊員や地球兵だが、それが軍曹から放たれた指示であったのと同じくらいに今まで献身的に地球兵を癒していたシャーリーからの制止だったのもあり、何とか彼らは発砲を踏み止まった。

 

「わ、私は……「彼はスレイン・トロイヤード、あの姫(・)さ(・)ま(・)を(・)守(・)る(・)為(・)に(・)戦(・)死(・)さ(・)れ(・)た(・)クルーテオ伯爵の部下です!」……え?」

「なるほど例の火星騎士の……ならば彼も味方か?」

《一体何事だ、軍曹?……トロイヤード?何処かで聞いた名だな?》

 

スレインが何かを答える(マズいこと滑らす)前に、間髪入れずそう叫んだ彼女。そんな彼女の言葉に誰かしら本部と無線を繋いだままにしていたのか三者三様*4の反応を示すが、それとほぼ同時にジオフロントへと走った微かな、それでいて確かな振動により掻き消される。

 

「な、何だ?」

《緊急事態だ!観測隊からの情報ではデューカリオンが謎の敵性不明機から攻撃を受けて墜落したらしい》

「何だと⁈被害状況は?」

《何とか敵揚陸城への不時着(強行接舷)には成功したらしいが被害は甚大。作戦は続行するらしいが……これは……》

 

急転した事態に、今目の前に居る火星兵の少年のことなどそっちのけで通信を続ける軍曹と本部。

 

「──ならば、寧ろこれは好(・)機(・)です」

「何?どういう意味だ?」

「私の知る限り火星騎士たちの戦闘教義(ドクトリン)*5*6から考えて、これほどまでの火星兵が侵入しているならジオフロント表層には彼らが乗って来たスカイキャリアがそのまま駐機されているはず。アルドノアドライブ搭載機が居ないであろう今、機体を強奪し揚陸城に侵入します」

「勝算は?」

 

しかし、そんな彼らの通信を耳にした火星の少年──スレイン・トロイヤードは敢えてこの戦況を「好機」と言ってみせた。

 

「確実、と言いたいところですが五分五分といったところでしょう。幾ら服装が同じとはいえ機体に乗り込む瞬間を見られれば疑われます。垂直離着陸可能とは言え、離陸直後に歩兵からSAMを撃ち込まれたら一貫の終わりです」

 

スレインの提案に間髪入れず勝算を尋ねる軍曹、それに楽観や嘘で包み隠さず「五分五分」と答えたことに軍曹は決意を決めた。

 

「だがやる価値はある」

 

膠着した本部の戦況と一転悪化した「方舟」の戦況、状況を再度好転させるにはさらなる奇策や奇貨を居く他にない。

 

「正気ですか軍曹!まだ彼が信用できるかすら分からないのに」

「勿論正気だ。本部、敵輸送機の着陸地点を送ってくれ!」

《待て── 確認した、ジオフロント表層第24区画に3機着陸している。本気でやる気なんだな?》

 

ほぼ即決でスレインの案に乗ることを決めた軍曹に反意を促さんと隊員やマグバレッジ大将が揃ってそう問うが、軍曹の決意は固いらしい。

 

「無論だ、ここまで来てすまないがお嬢さん方は別行動になる。負傷兵と共に深層まで退げさせるんだ。伍長、頼んだぞ」

「りょっ、了解です。軍曹」

「ウィンチェル上等兵とバーポタージュ留学生は俺たちとともに来い。トロイヤード少年を地上へ送り出す手伝いをして貰う」

 

あっさり自身の提案が通ったことに驚くスレインや最前線行きが確定したクエンサーとヘィヴィアのムンク顔、軍曹の無茶振りには慣れているレンジャー隊員たちやたった2人後方に退げられる事が確定し悔しさや不安の混ざった表情のシャーリーたち、そしてそんなお嬢さん方の護衛という重要任務を与えられ緊張した面持ちの伍長たちを見渡し軍曹は宣言する。

 

 

 

「行くぞ!奴等に一発食らわせてやる!」

 

 

 

地球連合本部総力を挙げての一大反転攻勢の只中で、小さな反抗作戦が始まろうとしていた。

 

 

〈*〉

 

 

【西シベリア平原 地球連合本部ノヴォスタリスク ジオフロント表層 11月25日17時5分】

〈West Siberia Novostarsk UFE HQ outer layer of the geofront 1705hrs. Nov 25, 2014〉

 

 

先程一掃した火星兵の侵攻ルートを逆侵攻(逆走)し、命知らずどもを率いてジオフロント表層部へと出た軍曹たちは、施設や貨物コンテナの陰を縫う様にして一途目的地──敵橋頭堡確保地点──へと進んでいた。

 

「……よもや奴ら、後詰めすら用意していないとはな。お陰で戦闘無しでここまで来れたが……」

 

随時安全確認(クリアリング)を挟みつつ、軍曹はここに至るまで一切会敵することなく第24区画へと到達できたことにそう呟く。幾ら連合本部が広大で、かつ部隊の大半がジオフロント表層や中層へと侵攻中とはいえ、普通ならばごく少数でも後方の安全確保や支援の為に部隊を置く筈。それがここまで一切いないのは火星の少年──スレイン・トロイヤードの言う通り火星騎士たちの戦闘教義(ドクトリン)は超攻勢偏重主義なのか、はたまた盤上競技(ゲーム)のように配置した駒の間を敵兵がすり抜けて来ないと思い込んでいるかの二択だろう。*7

 

《待て、軍曹!そのエリアでは戦(・)闘(・)が(・)行(・)わ(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)、退避せよ!》

「戦闘?ジオフロント表層だぞ、火星のカタフラクト相手に今誰が戦っているんだ!」

 

敵橋頭堡確保地点まで残り数百メートルを切った頃、輸送機(スカイキャリア)強奪の為に一度目標付近を偵察出来そうな建物内に侵入した軍曹へ本部からの制止が届く。ジオフロント内で絶え間なく響く突発音や爆発音、今日だけでもいい加減耳がおかしくなりそうなくらい聞いたそれらだが、確かに本部の言う通り軍(・)曹(・)た(・)ち(・)の(・)い(・)る(・)建(・)物(・)付近から聞こえている。

 

《いかん!伏せろ!》

 

瞬間、軍曹たちの目の前で衝撃と轟音が響く。

 

「うわぁぁあぁっ⁈」

「何だ!」

 

間一髪、建物内ににいた軍曹たちに被害は無かったものの、目の前の状況は酷い。突っ込んで来た物体によって軍曹たちが通りたかった通路は寸断され、その圧倒的質量によって通路だけでなく建物の一部が崩壊している。そして、

 

「こいつは……アレイオン?まだ火星機と戦えるパイロットが居たのか⁈」

 

建物外壁を突き破って来た大質量の正体、それは地球連合軍の主力量産機「KG-6アレイオン」であった。

 

《あぐっ……⁉︎、く……ッ!はっ、はっ……貴方達、どうしてここに?》

「おいおい……しかも声からして女の子だぜ」

 

無線越しに聞こえた少(・)女(・)の声に、レンジャー隊員の男がそうぼやく。何(・)者(・)か(・)によって吹き飛ばされ、倒れ込んで来た機体。直前までそのナニカと交戦していたであろうことに思い至った軍曹がたった今空けられた穴から外を窺うと、案の定そこには火星のアルドノアドライブ搭載機であろう漆黒の機体が立っていた。

 

「マズい!この状態では緊急脱出(ベイルアウト)出来ない!援護しろ!」

「機体ハッチの開け方は知ってるな?上等兵と留学生は彼女を保護するんだ!」

「りょっ、了解!行くぞクエンサー!」

「分かった!」

 

漆黒の機体──両腕のビーム兵器を含め、カマキリみたいな外観をしたソレ──に向け、軍曹たちレンジャー隊員が小銃で的確に装甲が薄いであろうセンサー類の塊たる頭部や関節部を狙う。せめてLAM(110mm個人携帯対戦車弾)か贅沢は言わないのでRPG-7でもあれば、まだやりようはあるのだが無い物強請りをしていても仕方ない。幾ら効果が薄かろうとパイロット救出の時間稼ぎになるならばと撃ちまくっていたが、肝心のその漆黒の機体に動きはない。

 

「待て!何処へ行く!」

「なんだぁ……そりゃぁ?」

《何……?》

 

状況を訝しみつつも銃撃を続けていた軍曹たちの目の前で、漆黒の機体は備え付けられていたブースターを点火。射撃を続けていた軍曹や転倒したアレイオンを一瞥だにすることなく上昇を開始し、ジオフロントの狭い空を飛び抜けて行く。

 

「クソッ、どうなっている!」

《っ、観測隊から緊急入電だ!あの機体、あれと同じアルドノアドライブ搭載機5機がメインシャフトから飛び出たぞ!》

「なんてことだ……デューカリオン隊が危ない!かくなる上は……」

 

本部経由で伝えられてた観測隊からの急報に、軍曹は更なる決断が迫られていることを認識する。

 

「……トロイヤード少年、俺に命を預けてくれるか?」

 

軍曹の決断とは、発案者でありこの場で唯一輸送機を操縦できるスレインただ1人を、軍曹がたったひとりで送り届けることであった。

 

「危険過ぎます、軍曹。彼の安全だって」

「百も承知だ、だがパイロットの少女を置いて行く訳にもいかない。お前たちは救助完了まで此処に残れ、俺たちが輸送機に着くまで援護だ」

 

流石に博打(一か八か)過ぎて反対するレンジャー隊員を他所に、その当事者たるスレインもまた確と頷く。

 

「……分かりました、行きましょう」

「よし……、行くぞ」

 

軍曹とスレインのふたりの覚悟に押されてか、渋々とその無茶苦茶に頷いた残りのレンジャー隊員たちの支援を受けて、ふたりは建物を飛び出し駐機された機体の内で最も近くに駐められた輸送機に向かって走る。近くでカタフラクト同士が戦っていた影響もあってか、目視できる範囲に敵兵は確認できないが油断は禁物だ。

 

「……敵兵だ」

 

命懸けで到着した機体、予想通りコックピットは無人となっているが接続された兵員輸送コンテナには何人かの火星兵が残っていた。

 

「行け、少年!此処は俺が時間を稼ぐ!」

 

未だ軍曹らに気付いていない火星兵らに対し、先制攻撃として軍曹は射撃と幾つもの手榴弾をコンテナ内へと投げ込む。爆発と閃光、続けて響く連続した突発音を背にスレインは待機(アイドル)状態のまま維持されていた輸送機の操縦席に滑り込むや否や推力桿を押し込む。と同時に、コンテナの接続を解除した機体は驚く程軽やかにソラへと舞い上がる。

 

 

 

「軍曹さん!」

《行け、トロイヤード少年!君も、成すべき事を為すために!》

 

 

 

舞い上がった黒い翼、火星の少年を乗せたその翼は対空砲火に晒されることなく、メインシャフトを抜けて次なる戦火のソラへと飛び立って行った。

 

 

 

*1:
サボり癖があるくせに、その分サボるための前準備には真面目で余念がない

*2:
ヴァース驚異のメカニズム

*3:
その辺の釘や鉄片を混ぜ込めば可能だが

*4:
当のスレイン含め、軍曹やマグバレッジ本部大将等

*5:
超攻勢特化

*6:
そもそも火星独立時に学者はいても軍人どころか軍事を齧った人材さえいなかったため、第一次内惑星間戦争を経てもなお、全て科学力(アルドノア)に頼り切った「平押し戦術(脳筋戦法)」が基本という戦闘教義(ドクトリン)と呼ぶことさえ烏滸がましい代物である

*7:
軍曹たちは知る由もないが実際のところは、侵攻開始直後はちゃんと後詰めの部隊が配置されていた。そこを強行突破した一帆操るVF-25や離脱したデューカリオンの艦砲射撃で壊滅的打撃を受けたこと、地球兵らがジオフロント中層へと後退したことも相まって、このまま押せば陥せると確(・)信(・)し(・)た(・)各部隊を率いる現場指揮官らの独(・)断(・)でその大半が侵攻部隊に組み込まれたため、ここまで軍曹たちは火星兵と接触せずに済んでいた




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次回、第1クール最終話(予定)
──タイトル「幼年期の終わり」

遂にきた第一クール最終エピソード、今のところ貴方が思うメインヒロインは誰?

  • アセイラム姫
  • エデルリッゾ
  • シャーリー
  • ニーナ
  • フェミーリアン卿
  • マグバレッジ艦長
  • 不見咲副長
  • ユキさん
  • ライエ
  • その他
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