ALDNOAH.ZERO -Earth At Our Backs-   作:神倉棐

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12/5「幼年期の終わり」

12の5「幼年期の終わり」

 

【西シベリア平原 橋頭堡確保地点 11月25日17時5分】

〈West Siberian Enemy CCF bridgehead 1705hrs. Nov 25, 2014〉

 

 

 

《ディオスクリア────見参》

 

 

戦場に現れた、重装騎兵(カタフラクト)を超える巨人(・)兵。有人機(コア・ユニット)を軸に、5機の無人機(アームド・ユニット)を組み込んだ合体機体。火星のカタフラクトが全機アルドノアドライブを積んでいる都合上、伊奈帆たちの目の前に鎮座するその機体は、ア(・)ル(・)ド(・)ノ(・)ア(・)ド(・)ラ(・)イ(・)ブ(・)6(・)基(・)を搭載する怪物──巨神(・)兵である。

 

《…………バケモノ》

 

果たして無線越しに聞こえた「怪物(バケモノ)」との評価は誰のものだったのか。ユキか韻子か起助か、はたまた他の部隊の人のものかも知れないし、もしかしたら無線越しに聞こえたように思えても本当は伊奈帆自身が呟いた言葉なのかも知れない。しかし地球・火星をひっくるめてもなお「カタフラクト」と形容するには余りに規格外な機体を前にすれば、彼らが下した「怪物」との評価は決して間違いとは言えないだろう。

 

「これは……観(・)測(・)隊(・)からの通信?」

 

眼前に出現した規格外の巨神兵を前に硬直していた重装騎兵達であったが、その時伊奈帆の機体(ヴァーゼラルド)に擱座中のデューカリオン経由で通信が舞い込んだ。

 

《聞こえるか、デューカリオン隊》

《これから観測隊を経由して、ヤツらがジオフロント内で暴れ回った際に、こちらで収集し纏めたデータを送る》

《何か、敵機の特殊能力(アルドノア)を攻略する糸口になるかもしれない》

《今、地球上で最も火星のアルドノアドライブ搭載機と戦った経験があるのは君たちだ。我々では集め、纏めるまでしか出来なかったが……君たちならば成し遂げられるやもしれん》

 

連合本部(ノヴォスタリスク)もあまり余裕がないのか、ほぼ一方的な会話終了と同時にヴァーゼラルドに流し込まれる大量の情報(データ)。試験機*1故に潤沢かつ豪華な装備満載のYKG-X07(ヴァーゼラルド)や、複座(電子戦能力あり)の TKG-6B(スレイプニール)以外のただのアレイオンでは十中八九受け止めきれない量である。しかし受信したデータは全て綺麗に整理整頓されており、一部は推論にて補完されてはいるものの巨神機(ディオスクリア)が合体前に発動していた特殊能力についての情報もあった。

 

《……つ!撃てッ!》

 

画面に表示された数多の流血と犠牲の結果に得られた情報の山、そしてそれらを学生である伊奈帆であっても理解できるよう整理した大人たちの献身と意地を見る。そんな中でもいち早く正気に戻ったマスタングリーダーことユキの号令を受け、その場にいる全員が咄嗟に操縦桿のトリガーを弾く。伊奈帆以外は慣れない手動での射撃、それでも合体により一回り大きくなった敵機相手ならば多少照準が狂っていようがハズレる筈もなければ当たらない筈もない。

 

《なっ……ぁ……っ⁉︎》

 

だがしかし、ハズレるどころか当たらない筈もない──否、確かにハズレなどはしていない。確かに当たった、当たった筈のその弾丸は敵機(ディオスクリア)に直撃する寸前に解けるようにして跡形も無く消えてしまう。

 

「弾(・)丸(・)が(・)…(・)…(・)!これは団子虫の⁈」

 

命中直前に消え失せる弾丸、反則級の特殊能力(アルドノア)だが伊奈帆含むマスタング隊はそれと同じものを自分たちにとって始まりの地でもある新芦原*2で見たことがあった。

 

《次元バリア──アクティベート》

 

未だ割り込まれた通信から垂れ流されるザーツバルム(ロリコン伯爵)の得意げな台詞に、初めて団子虫が持っていた特殊能力の正式名称を知ることとなるが、今そんな事はどうでも良い。

 

《エネルギージョイント接続》

 

何処を狙って撃っても消える弾。例え全てが無駄になると分かっていても、何もしない訳にはいかない伊奈帆たちは弾倉交換や弾薬の節約も兼ねて交互に射撃を継続する。

 

《ブレードフィールド展開────抜刀!》

 

《なぁっ……コイツ!今まで出会った奴らと同じっ⁈》

《び、ビームサーベル……だとっ⁈》

 

そんな伊奈帆達の涙ぐましい努力を嘲笑うが如く、バリアを纏ったディオスクリアは天に掲げたその右手に、これまた見(・)た(・)こ(・)と(・)の(・)あ(・)る(・)青(・)白(・)い(・)刃(・)*3を灯す。

 

《全機距離を取って!》

 

振るわれる一閃、間一髪ユキの発した警告により両断されるのを免れた経(・)験(・)済(・)み(・)のマスタング隊以外の機体たちは火星脅威のメカニズム(ビックリドッキリメカ)から大きく距離を取る。

 

《う、うわぁぁっ⁉︎》

「くっ……!」

《ちょっと⁈伊奈帆!》

 

その一方で既にその攻撃を見たことのあるマスタング隊、それも並の機体(スレイプニールやアレイオン)より遥かに機動力に勝るヴァーゼラルドを駆る伊奈帆は、回避後何(・)故(・)か(・)ひとり追撃を受けていた起助を救うべくスラスターを吹き返し前進。戦闘機顔負けの負荷に耐えつつ、コンフォーマルパワーアシスト(オプションパック)に内蔵されたマイクロミサイルを放つ。

 

「ブ(・)レ(・)ー(・)ド(・)の(・)範(・)囲(・)が(・)、(・)広(・)い(・)……⁈マスタング44……オコジョ!退がって!」

《た、助かったぜ。伊奈帆!了解だ、韻子!援護してくれ!》

《あーもう、分かったから!》

 

放たれたミサイルはディオスクリア──ではなく、その足元に着弾。直撃でなくとも意識外から飛び込んで来たそれらが生み出した、その爆発と閃光に怯んだその一瞬の内に起助(マスタング44)は韻子(マスタング33)の張った弾幕を避けつつ後退。退がった起助と入れ替わる(スイッチする)形で割り込んで来た伊奈帆が、その有り余る高機動でディオスクリアを翻弄しつつその敵視(ターゲット)を掻っ攫う。

 

《マスタング22!無理し過ぎないで!──マスタングリーダーより全機、距離を取りつつ攻撃続行!無理に本体を狙わずに足場を狙って!》

《了解!》

 

構造体上を縦横無尽に駆け回る伊奈帆を援護すべく、ユキの指揮を受けた機体が続々と装備されたマイクロミサイルを垂れ流す。例え本体に直接加害することができなくとも、敵が地を蹴って動いているならばその足場を荒らせば動きを妨害し間接的に被害を与えられる。爆発による閃光や煙、一見ただの虚仮威しにしか思えないそれらでも、決して無駄ではないのはこれまでの一帆や伊奈帆たちの戦いが証明していた。

 

《陸戦隊より、マスタング隊──「雌鳥の伝承はレコードに収められた」繰り返す、「雌鳥の伝承はレコードに収められた」》

《っ!聞いたわね!全部隊、順次ポイント04(艦載機発進口)まで後退開始!殿(しんがり)はマスタングが務めます!》

 

大海に小石を投げ入れ続けるが如く弾幕を張り続ける地球軍機たちの下に、マザーグース1(一帆とアセイラム)突入前の前哨部隊兼直掩を務めた歩兵部隊(陸戦隊)より2人が遂に作戦目標──アルドノア・チャンバーへと到達した事が伝えられる。

遂に「Heaven's Feel(天の杯)」作戦も大詰め、少なくともアセイラムがそこに収められたアルドノアドライブの機能を停止させれば、それを基幹とする揚陸城自体の機能も停止し、唯(・)一(・)の(・)例(・)外(・)*4を除き連合本部を攻撃する火星兵たちもまた士気の低下あるいは攻勢を頓挫させることも不可能ではない。

 

《デルタリーダーからマスタング各隊、これより貴隊らの後退を援護する》

 

艦載機発進口(ポイント04)を確保していたデルタ隊が順次後退を始めた第147機動歩兵(オルデンブルグ)隊や第149機動歩兵(ハルジオン)隊の援護すべく、殿(しんがり)を務めるマスタング隊が相手取るディオスクリアに向け前進する。

 

《まっ、待って────!》

 

英雄的な殿(しんがり)を助けんとする、英雄的な行動。本部付きなだけあって歴とした軍人たる彼らが選んだ選択は、決して間違っていた訳ではない。

 

 

《逃さん!────飛(・)べ(・)ッ(・)!我(・)が(・)眷(・)属(・)よ(・)!》

 

 

模範的軍人である彼らに非らしい非があるならば、機体性能と対火星戦闘経験(地球の常識が全く通じないという認識)が致命的なまでに不足していた。ただ、それだけである。

 

《なっ⁈ ぐあぁぁっ!》

《コイツっ、今度は種(・)子(・)島(・)の(・)奴(・)と(・)同(・)じ(・)!》

 

ディオスクリアから切り離され、射出された一対の拳が向かって来ていたデルタ隊を無惨にも蹂躙する。当然、伊奈帆たちもそれを座して見ていた訳でもなく携行していた小銃に加え韻子や起助が懸架していた狙撃銃(10式/SAM-R 75mm狙撃銃)や軽機関銃(10式/LMG 75mm軽機関銃)を発砲していた。しかしそれを物ともせず、拳はデルタ隊を襲った後には後退中のハルジオン隊にも喰らい付く。

 

《クソっ!速過ぎて弾幕が!》

《種子島の時には75mmの狙撃銃でもどうにかなったハズなのに⁉︎ 当たってるのになんで‼︎》

 

団子虫(ニロケラス)やジ・●モドキ(アルギュレ)に比べ、比(・)較(・)的(・)容(・)易(・)な対処法を既に知っているハズの能力であるというのに、彼ら彼女らの抵抗は最早悪足掻き程度にしかなっていない。

 

「……くっ、バリア以外の特殊兵装使用中ならあるいはと思ったけど……やはり同時展開可能か」

 

そして半ばディオスクリアを1人で相手取る伊奈帆もまた「機体の特殊能力が同時発動不能」という一縷の望みを掛け本体を狙うが、その弾丸は全て虚しくも命中目前に消えてしまう。よもや全てを取り揃えた機体が出現するとは、言霊的にも何時ぞや*5に「全部揃えたヤツが出てきたら最強」だなんてぼやいた過去の自分をブン殴ってやりたくもなるが、そんなことをしている場合でもない。

 

 

《デルタ・ハルジオン両隊壊滅!》

 

「──そうか、アルドノアドライブの数!基本的に奴らの機体は動力源(アルドノアドライブ)1基の出力で機体制御や特殊兵装含めて賄っているのに比べて、合体したこの機体は動力源を複数積んでいる分、ドライブごとに役割分担できる。だから特殊兵装の出力が上がっているのか」

 

 

現在進行形で収集されるデータと本部から送られてきたデータ、更には過去自分たちがそれぞれの特殊兵装持ちの機体と交戦した際のデータを照らし合わせ、そこから見出された差異を基に伊奈帆は目の前で大暴れする巨神機のカラクリを解き明かす。

 

「考えろ、考えろ、考えろ!何か、何か奴に通用する穴は──!」

 

まったく、らしくないのは分かっている。自身が解き明かした目の前の敵機のカラクリ、反則じみた規格外の超兵器(バケモノ)を打ち倒す方策を編み出さなくてはならない。死ぬ気で脳漿を搾り、高速機動による負荷や全身を伝う汗などものともしない。例え伊奈帆自身の足掻きそのものが無駄で虚しいものであろうとも、己の思考と判断で救われる(守れる)ものがたったひとりでもいるならば、それでも全てを諦める理由にはならない。

 

 

「っ、もしかしたら──!」

 

 

ふと、閃いた光明。

 

 

収集したデータと目視した状況を基に、自身が解き明かした敵機が持つカラクリ。十中八九正解しているであろう推論であるがもしその前提が、与(・)え(・)ら(・)れ(・)た(・)衝(・)撃(・)故に状況を読み間違っていたのなら……「可能性」はある。思い当たる過(・)去(・)の(・)記(・)憶(・)を基に急いで計器画面(モニター)を操作し必要な情報を参照し確認する──その陰で対空レーダーに何か映っていた気もするが、それどころではない。

 

「オコジョ!もう一回だ!もう一回、奴を挑発して!」

《はぁ⁈一体何……「早く!」……お、おぅ》

 

切羽詰まった状況で突然「相手を挑発しろ」と言われた起助も困惑するが、鬼気迫る(らしくない)様子の伊奈帆に押し切られる。

 

 

 

《やーい、お姫様の尻ばっかり追っ掛けてた変態ロリコン伯爵!愛しの姫様を会長に取られた挙げ句、俺たちなんかにまんまと足止めされてザマァーみろ!イイ歳して気色悪(きっしょくわり)ぃー!》

 

 

 

一呼吸の後、起助の口から飛び出たその挑発に敵味方を問わず戦場から音らしい音と熱が消える。

同時に、太い血管が何本か纏めて逝った音が聞こえた気もするが……多分きっと気の所為ではない。

 

《ひ、ひぇえぇーっ⁉︎い、伊奈帆っ⁈言う通りにしたんだぞ!助けてくれぇっ⁉︎》

 

効果覿面な挑発のおかげで、今まで追い掛けっこに興じていた伊奈帆から、あからさまに敵視が起助へと移る。絶対コロス、すぐ殺す。お前だけは念入りに殺してやるとばかりに、伊奈帆を無視して射出された両の拳が起助を襲う。余りに強烈な殺意に情けない悲鳴を上げ逃げ惑っているが、それこそが伊奈帆の狙い通り。

 

《えっ⁈》

《なっ⁉︎当たった……の?》

「!、やっぱり」

 

撃ち出された75mm×630mm UFE弾、これまで伊奈帆たちが散々撃ち込んでも碌に加害を与えられていなかったが故に、豆鉄砲として完全に見下し無いものとして油断していた(対処を後回しにされていた)伊奈帆の攻撃は、敵機に触れると同時に消失──するのではなくバリアを通過し敵機の、ディオスクリアの左(・)腕(・)部(・)付(・)け(・)根(・)へと着弾した。

 

「……団子虫と同じだ、コイツらが纏うバリアは強過ぎるが故に全身を覆い尽くす事が出来ない。腕のスラスターとバリアが干渉するから、撃ち出す時には解除する必要がある」

 

そう、目の前の機体が今まで戦ってきた火星のアルドノアドライブ搭載型カタフラクトの集大成*6ならば、その弱点もまた同じはず。寧ろ単品でもあれだけ強力な特殊能力を持つ兵装を無理やりひとつに纏めているのだ、その欠点は単独の時よりもきっと明確になっている。なら、図体がデカいだけでコイツも今までの機体と変わりない。

 

「狙うべきは遠隔カメラと腕を操作するためのアンテナ、両方潰せば奴はバリアを解除せざるを得なくなる」

《ぬぅ!小賢しい真似をっ!》

 

制御を失い墜落した片腕を残し、辛うじて撃墜間際に戻せたもう片方の腕を大きく振りかぶったディオスクリア。しかし、感情まかせに大振りに振るわれたソレを伊奈帆の操るヴァーゼラルドはその高機動で持って腕の無い方へと回避、更に黒煙が噴き出てより顕著になったバリアの隙間を狙い射撃する。

 

《揚陸城外にいる機体は敵機周辺にチャフ・スモークグレネード!早く!》

《了解!》

 

駄目押しとばかりに、ユキの指示でその場に残っていたマスタング隊に加え、艦載機発進口(ポイント04)付近にいた機体が一斉にフレア・チャフ・スモークディスペンサーを起動。戦場となっている構造体に光学的かつ電子的に不可視の霧を作り出す。

 

《おのれぇ……おのれ、おのれ、おのれェッ!貴様ぁ‼︎》

「全機、ポイント04へ至急後退。ユキ姉……マスタングリーダーは内部に侵入済みの部隊には更には奥まで侵入して待ち構えるように言って」

《分かったわ!マスタングリーダーから作戦参加全機、これより敵機を揚陸城内に引き込み殲滅します!》

 

 

 

形勢は逆転した。

 

 

 

「さあ、こっちだ」

《おのれぇッ!ちょこまかとッ!》

 

雪の様に舞う金属片と白煙に視界の大部分を潰され、飛ばすに飛ばせない左腕から時折ビームを伸ばし振り回すも機動力の差から伊奈帆には届かず、寧ろ攻守共に明確な死角となった右腕側を陣取り続け一方的に弾丸を浴びせ続ける。

 

《伊奈帆の奴、えげつねぇー……》

 

押されれば引いて、引けば詰める。付かず離れず、とにかく有利な距離と立ち位置を維持し続けて相手を攻撃し続ける伊奈帆の姿に起助は「えげつない」とこぼす。ただそうでもしなければ碌に戦えない相手な事、そしてそれ以上に奴がこの碌でも無い戦争開戦の黒幕な点を思い出して「もっとやれ」と思ってしまうのも仕方ない話であった。

 

《マスタングリーダーよりマスタング22!残存全機配置完了、いつでも行けるわ!》

 

そうこうしている間にも徹底的にディオスクリアを叩き潰すべく、敵揚陸城内部(ポイント04付近一帯)の制圧エリアを活用した囲んで叩く準備(キルゾーン構築)が済んだらしくユキから「準備OK!」との無線が入る。

 

「了解。さあ、コッチに来い。……ロリコン伯爵!」

《貴様(きぃさぁまぁ)ぁあぁぁツツ‼︎》

 

そして炸裂する伊奈帆から正面切っての罵倒(煽り)を受けて、憤怒するザーツバルム──(もとい)ロリコン伯爵。例えそれが己を死地(キルゾーン)に誘なう挑発であると冷(・)静(・)な(・)部(・)分(・)で理解していても、既に冷(・)静(・)で(・)は(・)な(・)い(・)ザーツバルムにはそこで踏み止まる選択肢など最初から存在しなかった。

 

《分かるか……貴様らに!植え付けられた地球人への憎悪と羨望がいつまでも我々火星人の魂を歪め濁らせ続け人としての生き方を奪う!豊かなこの惑星で漫然と生きる者に、我々の想いが分かるハズがない……!》

 

伊奈帆に翻弄されながらも、感情が爆発するがままに叫ぶザーツバルム。

 

《憎しみを植え付けられた恨み!そしてそれに気付いた時の虚しさ!》

 

煽られ仕向けられた地球への憎悪と、火星の生命線であるアルドノアドライブの起動権を唯一保有する皇族への絶対的忠誠。それらが一から十までレイレガリア・ヴァース・レイヴァースやギルゼリア・ヴァース・レイヴァースの歴代皇帝たちにとって統治に都合が良い事実だけで塗り固められた欺瞞であり、国も民もそして己さえも皇帝たちの消耗品でしかなく、それ以上にその欺瞞に誰ひとり気付こうともしない愚民の愚かしさに気付かされた。

 

《……愛する者を守れなかった。無能な己への怒りと無念!》

 

アルドノアドライブの価値を維持する、それだけの為だけに企てられた杜撰な第一次内惑星間戦争の戦争計画と、それにまんまと乗せられて何の価値もない名誉と共に何より大切だった筈の婚約者を失った。

 

《分かるか!地球人の小僧!》

 

只管に叫ぶザーツバルムであるが、別に目の前にいる怨敵に自分の主張を理解させたい訳でも納得させたい訳でもない。一方的に己の主張を押し付けるただの八つ当たり、子供が癇癪を起こしているの大差はない。

 

《我は、憎む全てを壊し……憎しみの連鎖を断つのだ……!》

 

皇族を、それも第一皇女たるアセイラムを意図的に狙うのも彼女がレイレガリア・ヴァース・レイヴァースの孫であり、ギルゼリア・ヴァース・レイヴァースが正室に産ませた唯一の直系だから。戦争は手段であると同時に目的でもあり、憎悪の対象である地球人と愚蒙な火星人を効率良く大量に殺戮するのに便利な点と、その開戦事由にアセイラムの死を使ったのは皇帝への嫌がらせも兼ねている。

 

「……いい加減にしろ」

 

そんなザーツバルム(敗北者)から一方的に垂れ流される言い訳に、これまで無言で揚陸城内に敷かれたキルゾーン一歩手前までザーツバルムを引き込んでいた伊奈帆が初めて口を開いた。

 

「お前の癇癪に!地球人を、僕たちを巻き込むな!」

 

この場でザーツバルムの叫びを聞いている者全てが思っているであろうことを代弁した伊奈帆の指摘、意図せずザーツバルムへの最後の挑発ともなっていたその言葉を皮切りに2機は激突。ザーツバルムは大破した合体機体(パーツ)を分離しほぼコア・ユニットのみに、伊奈帆もマイクロミサイルとプロペラントがカラになったオプション・パックを分離しつつも、最大出力で突撃する。

 

「これでっ!……っ⁉︎」

《やらせぬわっ⁈》

 

弾切れで遺棄した小銃から銃剣に持ち替え振り被った伊奈帆、しかしその伊奈帆の機体にザーツバルムの機体が機体ごと突進した。

 

《ナオくん⁉︎》

《伊奈帆⁈》

《マスタング22‼︎》

 

揚陸城の中(・)枢(・)へ(・)と(・)続(・)く(・)通(・)路(・)を守る隔壁を破りつつ、纏めて背後の壁へと突っ込む2機。崩壊した通路の残骸に行手を阻まれたユキたちの声を置き去りに、伊奈帆とザーツバルムは壁の奥へと消えて行った。

 

 

〈*〉

 

 

【西シベリア平原 敵揚陸城アルドノア・チャンバー前 11月25日17時19分】

〈West Siberian In front of the Enemy CCF ALDNOAH Chamber 1719hrs. Nov 25, 2014〉

 

 

丁度、伊奈帆がディオスクリアを揚陸城内へと引き込んだ頃。一方で小銃や拳銃を手に、それ以外の装備(防弾チョッキ)すら充分ではない生身かつ即席編成の陸戦隊らとともに、犠牲を払いつつも何とか揚陸城の中枢たる基幹部──アルドノア・チャンバーへと到達した一帆とアセイラムの一行。流石に外壁をぶち壊してチャンバー内に直接機体(VF-25)で乗り付ける訳にも行かず、多少のリスクを承知で機体から降りた2人は、その出入り口とそこに残される機体の防衛に全ての陸戦隊の人員を残し、チャンバー中央に鎮座した制御端末の下に向かっていた。

 

「死守しろ!ここでアルドノアドライブ停止まで火星兵を食い止める!」

「撃って撃って撃ちまくれ!奴らにお姫様と機体に指一本足りとも触れさせるな!」

 

断続的に響く怒声や銃声を背に、片手に護身用の機載銃(FN P90)を、もう片方の手でアセイラムの手を引いた一帆は眩い光を放つ周囲のアルドノアドライブの輝きの下をひた走る。

 

「アセイラムさん!」

「はぁ、はぁ……はい!」

 

距離にして十数、いや25メートルもない程度の遠さ。前世今世を含めて人生で最も遠い二十数メートルを駆け抜けた2人は、煌々と光を湛えた何時ぞやに一帆の目の前でアセイラムが起動したモノと同じ球体の付いた制御端末に手を触れる。

彼女が呼吸を整える一拍の空白の後、アセイラムはあの時(デューカリオン)とは真逆の号令を口にした。

 

 

 

「アセイラム・ヴァース・アリューシアの名において──

 

──眠れ!アルドノア!」

 

 

球体から溢れていた光が急速に失われて、起動時とは逆に今度は鈍色へと戻ってゆく。あれ程光に溢れていたアルドノアチャンバーが闇に包まれた事で、本当にこれまで揚陸城にエネルギーを供給していたアルドノアドライブが完全停止した事を認識した一帆とアセイラムの2人は、思わずほっと揃って息を吐き──

 

 

 

「──っ(・)⁈危(・)な(・)い(・)!」

 

 

 

その瞬間に一帆が危機を察した、できたのは文字通り「奇跡」だったのだろう。

 

 

 

「……え?」

 

 

余りに唐突な出来事に、アセイラムが事態を認識できたのは空白となった記憶、事態発生直後から1分程が経った後の事であった。

 

「う、くっ……」

「かず……ほ、さん……?」

 

気付けば周囲は飛散し積み上がった瓦礫だらけ。何(・)処(・)か(・)ら(・)か(・)差(・)し(・)込(・)ん(・)だ(・)光(・)によって辛うじて、チ(・)ャ(・)ン(・)バ(・)ー(・)外(・)壁(・)が(・)破(・)壊(・)さ(・)れ(・)た(・)事だけを認識できた彼女だが、何故自身には傷ひとつない状態なのか。記憶にはなくとも身体に残った何か柔らかいモノが当たり突き飛ばされたような感覚──それは自身を瓦礫の下敷きから庇ってくれた存在が居たからに他ならない。

 

「ぐっ……、ゔっ……」

 

身を起こし起き上がった彼女が目にしたのは多数の瓦礫に挟まれ、潰されたのであろう己が生涯で唯一を共にする騎士にして最愛の人。砕けたヘルメットのバイザーから血を流す一帆の姿であった。

 

「そ、んな……」

 

ふらふらと一帆の下に近づくアセイラム。近づく事で潰されているのではなく、何とか僅かにできた瓦礫の隙間に挟まっている状態だと認識できた彼女だが、好い人の危機を前にして冷静にいられる程彼女も大人ではない。

 

「一帆、さん?」

 

その上で、辛うじて意識を取り戻したであろう一帆から何故か片手に持った拳銃の銃口を向けられていたともなれば思考が停止してしまっても仕方ない事だろう。

 

ふ、せ、て

 

一帆の口が僅かに動いた気がする。

 

 

 

思考が停止してしまっていたアセイラムがその意図に気付くより先、拳銃の引き金に掛かっていたその指が弾かれ──

 

 

 

銃口から放たれた銃声が、アルドノアチャンバー内に木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《マザーグース1!応答して下さい!返事を!カズくん!》

 

《そんな……救助班を!お姫様は?》

 

 

《瓦礫の撤去が必要です。ただ殿下に関しては残念ながら……》

 

 

《マスタング22、ナオくんの方は?》

 

 

《機体は中破していますが、無事です。対衝撃装置が起動していることからおそらく、敵機とアルドノア・チャンバー外壁に衝突し突っ込んだ際に頭部を打ったのか軽い脳震盪を起こしていると思われます》

 

 

《両パイロットの保護を最優先に、機体の保護と揚陸城の制圧も同時に行います》

 

《連合本部に通信、「我ら、城を落せり」……ひとまず、この戦いは終わりです》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

── 2014年11月25日18時44分

地球連合本部へと強襲を掛けた第二次内惑星(地球-火星)間戦争の「黒幕」と目されるザーツバルム伯爵の揚陸城はデューカリオン率いる少数部隊の反攻強襲揚陸作戦により陥落

ノヴォスタリスクの攻防は地球連合軍の辛勝に終わる

 

しかし

 

敵味方双方に戦死者多数

本部内に侵攻した火星兵の大半が捕虜となり、揚陸城内の兵の大半が降伏勧告前に自決

敵首魁たるザーツバルム伯爵の拘束に失敗

その一方で地球連合本部内では迅速な避難により民間人の死傷者はなし

 

そして

 

ヴァース帝国皇位継承権第一位・第一皇女たるアセイラム・ヴァース・アリューシア姫の消息は未だ知れない

 

 

 

 

*1:
特にやたら高機動かつリミッター解除状態なら、短時間であれ飛行可能な膨大な出力とその制御をするため

*2:
「Doll Drop」作戦

*3:
「Shadow Master」作戦と「Battle of Camlann」作戦

*4:
自前でアルドノアドライブを搭載した黒幕ザーツバルム操るディオスクリア

*5:
7/3「オレンジ色とコウモリ」

*6:
なお、厳密にはディオスクリアは集大成なのではなく、火星で最初に造られた全てのアルドノアドライブ搭載機の試験機(テストベッド)として寧ろ「原点にして頂点(マスターピース)」の様な存在なのだが、そんな事は地球人で今もなお交戦中の伊奈帆たちには知る由もないどうでもいい話である




現在、活動報告にて主人公のTACネーム案を募集しております。よろしければ活動報告までお願いします。
また非ログイン状態でも感想受け付けておりますので、よろしければ感想・評価もお待ちしてます。




次回予告
EPISODE.12.5/【地上からソラを見上げ焦がれて、貰い物の翼を得て空を飛ぶ人 -Let's get the beginning.-】

遂にきた第一クール最終エピソード、今のところ貴方が思うメインヒロインは誰?

  • アセイラム姫
  • エデルリッゾ
  • シャーリー
  • ニーナ
  • フェミーリアン卿
  • マグバレッジ艦長
  • 不見咲副長
  • ユキさん
  • ライエ
  • その他
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代償があるタイプの異能持ち女の子vsチートヒーラーvsダークライ(作者:らっきー(16代目))(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

HPを犠牲にしてスキルを発動するようなソシャゲキャラvsその世界には存在しないヒーラーvsダークライ▼もしくは自爆技持ちにガッツをかけられる人。▼まあ一緒に戦ってる訳でもないし、嫌われない程度にだけ関われば十分だろ。▼なお女の子達からは何があっても見捨てずに助けてくれる人と思われてる模様▼ハメ匿3 一位です。読者に感謝


総合評価:33710/評価:8.95/連載:11話/更新日時:2026年10月05日(月) 07:03 小説情報


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