ALDNOAH.ZERO -Earth At Our Backs- 作:神倉棐
12の5「幼年期の終わり」
【西シベリア平原 橋頭堡確保地点 11月25日17時5分】
〈West Siberian Enemy CCF bridgehead 1705hrs. Nov 25, 2014〉
《ディオスクリア────見参》
戦場に現れた、
《…………バケモノ》
果たして無線越しに聞こえた「
「これは……
眼前に出現した規格外の巨神兵を前に硬直していた重装騎兵達であったが、その時伊奈帆の
《聞こえるか、デューカリオン隊》
《これから観測隊を経由して、ヤツらがジオフロント内で暴れ回った際に、こちらで収集し纏めたデータを送る》
《何か、敵機の
《今、地球上で最も火星のアルドノアドライブ搭載機と戦った経験があるのは君たちだ。我々では集め、纏めるまでしか出来なかったが……君たちならば成し遂げられるやもしれん》
《……つ!撃てッ!》
画面に表示された数多の流血と犠牲の結果に得られた情報の山、そしてそれらを学生である伊奈帆であっても理解できるよう整理した大人たちの献身と意地を見る。そんな中でもいち早く正気に戻ったマスタングリーダーことユキの号令を受け、その場にいる全員が咄嗟に操縦桿のトリガーを弾く。伊奈帆以外は慣れない手動での射撃、それでも合体により一回り大きくなった敵機相手ならば多少照準が狂っていようがハズレる筈もなければ当たらない筈もない。
《なっ……ぁ……っ⁉︎》
だがしかし、ハズレるどころか当たらない筈もない──否、確かにハズレなどはしていない。確かに当たった、当たった筈のその弾丸は
「
命中直前に消え失せる弾丸、反則級の
《次元バリア──アクティベート》
未だ割り込まれた通信から垂れ流される
《エネルギージョイント接続》
何処を狙って撃っても消える弾。例え全てが無駄になると分かっていても、何もしない訳にはいかない伊奈帆たちは弾倉交換や弾薬の節約も兼ねて交互に射撃を継続する。
《ブレードフィールド展開────抜刀!》
《なぁっ……コイツ!今まで出会った奴らと同じっ⁈》
《び、ビームサーベル……だとっ⁈》
そんな伊奈帆達の涙ぐましい努力を嘲笑うが如く、バリアを纏ったディオスクリアは天に掲げたその右手に、これまた
《全機距離を取って!》
振るわれる一閃、間一髪ユキの発した警告により両断されるのを免れた
《う、うわぁぁっ⁉︎》
「くっ……!」
《ちょっと⁈伊奈帆!》
その一方で既にその攻撃を見たことのあるマスタング隊、それも
「
《た、助かったぜ。伊奈帆!了解だ、韻子!援護してくれ!》
《あーもう、分かったから!》
放たれたミサイルはディオスクリア──ではなく、その足元に着弾。直撃でなくとも意識外から飛び込んで来たそれらが生み出した、その爆発と閃光に怯んだその一瞬の内に
《マスタング22!無理し過ぎないで!──マスタングリーダーより全機、距離を取りつつ攻撃続行!無理に本体を狙わずに足場を狙って!》
《了解!》
構造体上を縦横無尽に駆け回る伊奈帆を援護すべく、ユキの指揮を受けた機体が続々と装備されたマイクロミサイルを垂れ流す。例え本体に直接加害することができなくとも、敵が地を蹴って動いているならばその足場を荒らせば動きを妨害し間接的に被害を与えられる。爆発による閃光や煙、一見ただの虚仮威しにしか思えないそれらでも、決して無駄ではないのはこれまでの一帆や伊奈帆たちの戦いが証明していた。
《陸戦隊より、マスタング隊──「雌鳥の伝承はレコードに収められた」繰り返す、「雌鳥の伝承はレコードに収められた」》
《っ!聞いたわね!全部隊、順次
大海に小石を投げ入れ続けるが如く弾幕を張り続ける地球軍機たちの下に、
遂に「
《デルタリーダーからマスタング各隊、これより貴隊らの後退を援護する》
《まっ、待って────!》
英雄的な
《逃さん!────
模範的軍人である彼らに非らしい非があるならば、
《なっ⁈ ぐあぁぁっ!》
《コイツっ、今度は
ディオスクリアから切り離され、射出された一対の拳が向かって来ていたデルタ隊を無惨にも蹂躙する。当然、伊奈帆たちもそれを座して見ていた訳でもなく携行していた小銃に加え韻子や起助が懸架していた
《クソっ!速過ぎて弾幕が!》
《種子島の時には75mmの狙撃銃でもどうにかなったハズなのに⁉︎ 当たってるのになんで‼︎》
「……くっ、バリア以外の特殊兵装使用中ならあるいはと思ったけど……やはり同時展開可能か」
そして半ばディオスクリアを1人で相手取る伊奈帆もまた「機体の特殊能力が同時発動不能」という一縷の望みを掛け本体を狙うが、その弾丸は全て虚しくも命中目前に消えてしまう。よもや全てを取り揃えた機体が出現するとは、言霊的にも何時ぞや*5に「全部揃えたヤツが出てきたら最強」だなんてぼやいた過去の自分をブン殴ってやりたくもなるが、そんなことをしている場合でもない。
《デルタ・ハルジオン両隊壊滅!》
「──そうか、アルドノアドライブの数!基本的に奴らの機体は
現在進行形で収集されるデータと本部から送られてきたデータ、更には過去自分たちがそれぞれの特殊兵装持ちの機体と交戦した際のデータを照らし合わせ、そこから見出された差異を基に伊奈帆は目の前で大暴れする巨神機のカラクリを解き明かす。
「考えろ、考えろ、考えろ!何か、何か奴に通用する穴は──!」
まったく、らしくないのは分かっている。自身が解き明かした目の前の敵機のカラクリ、反則じみた規格外の
「っ、もしかしたら──!」
ふと、閃いた光明。
収集したデータと目視した状況を基に、自身が解き明かした敵機が持つカラクリ。十中八九正解しているであろう推論であるがもしその前提が、
「オコジョ!もう一回だ!もう一回、奴を挑発して!」
《はぁ⁈一体何……「早く!」……お、おぅ》
切羽詰まった状況で突然「相手を挑発しろ」と言われた起助も困惑するが、
《やーい、お姫様の尻ばっかり追っ掛けてた変態ロリコン伯爵!愛しの姫様を会長に取られた挙げ句、俺たちなんかにまんまと足止めされてザマァーみろ!イイ歳して
一呼吸の後、起助の口から飛び出たその挑発に敵味方を問わず戦場から音らしい音と熱が消える。
同時に、太い血管が何本か纏めて逝った音が聞こえた気もするが……多分きっと気の所為ではない。
《ひ、ひぇえぇーっ⁉︎い、伊奈帆っ⁈言う通りにしたんだぞ!助けてくれぇっ⁉︎》
効果覿面な挑発のおかげで、今まで追い掛けっこに興じていた伊奈帆から、あからさまに敵視が起助へと移る。絶対コロス、すぐ殺す。お前だけは念入りに殺してやるとばかりに、伊奈帆を無視して射出された両の拳が起助を襲う。余りに強烈な殺意に情けない悲鳴を上げ逃げ惑っているが、それこそが伊奈帆の狙い通り。
《えっ⁈》
《なっ⁉︎当たった……の?》
「!、やっぱり」
撃ち出された75mm×630mm UFE弾、これまで伊奈帆たちが散々撃ち込んでも碌に加害を与えられていなかったが故に、豆鉄砲として完全に見下し無いものとして
「……団子虫と同じだ、コイツらが纏うバリアは強過ぎるが故に全身を覆い尽くす事が出来ない。腕のスラスターとバリアが干渉するから、撃ち出す時には解除する必要がある」
そう、目の前の機体が今まで戦ってきた火星のアルドノアドライブ搭載型カタフラクトの集大成*6ならば、その弱点もまた同じはず。寧ろ単品でもあれだけ強力な特殊能力を持つ兵装を無理やりひとつに纏めているのだ、その欠点は単独の時よりもきっと明確になっている。なら、図体がデカいだけでコイツも今までの機体と変わりない。
「狙うべきは遠隔カメラと腕を操作するためのアンテナ、両方潰せば奴はバリアを解除せざるを得なくなる」
《ぬぅ!小賢しい真似をっ!》
制御を失い墜落した片腕を残し、辛うじて撃墜間際に戻せたもう片方の腕を大きく振りかぶったディオスクリア。しかし、感情まかせに大振りに振るわれたソレを伊奈帆の操るヴァーゼラルドはその高機動で持って腕の無い方へと回避、更に黒煙が噴き出てより顕著になったバリアの隙間を狙い射撃する。
《揚陸城外にいる機体は敵機周辺にチャフ・スモークグレネード!早く!》
《了解!》
駄目押しとばかりに、ユキの指示でその場に残っていたマスタング隊に加え、
《おのれぇ……おのれ、おのれ、おのれェッ!貴様ぁ‼︎》
「全機、ポイント04へ至急後退。ユキ姉……マスタングリーダーは内部に侵入済みの部隊には更には奥まで侵入して待ち構えるように言って」
《分かったわ!マスタングリーダーから作戦参加全機、これより敵機を揚陸城内に引き込み殲滅します!》
形勢は逆転した。
「さあ、こっちだ」
《おのれぇッ!ちょこまかとッ!》
雪の様に舞う金属片と白煙に視界の大部分を潰され、飛ばすに飛ばせない左腕から時折ビームを伸ばし振り回すも機動力の差から伊奈帆には届かず、寧ろ攻守共に明確な死角となった右腕側を陣取り続け一方的に弾丸を浴びせ続ける。
《伊奈帆の奴、えげつねぇー……》
押されれば引いて、引けば詰める。付かず離れず、とにかく有利な距離と立ち位置を維持し続けて相手を攻撃し続ける伊奈帆の姿に起助は「えげつない」とこぼす。ただそうでもしなければ碌に戦えない相手な事、そしてそれ以上に奴がこの碌でも無い戦争開戦の黒幕な点を思い出して「もっとやれ」と思ってしまうのも仕方ない話であった。
《マスタングリーダーよりマスタング22!残存全機配置完了、いつでも行けるわ!》
そうこうしている間にも徹底的にディオスクリアを叩き潰すべく、
「了解。さあ、コッチに来い。……ロリコン伯爵!」
《
そして炸裂する伊奈帆から正面切っての
《分かるか……貴様らに!植え付けられた地球人への憎悪と羨望がいつまでも我々火星人の魂を歪め濁らせ続け人としての生き方を奪う!豊かなこの惑星で漫然と生きる者に、我々の想いが分かるハズがない……!》
伊奈帆に翻弄されながらも、感情が爆発するがままに叫ぶザーツバルム。
《憎しみを植え付けられた恨み!そしてそれに気付いた時の虚しさ!》
煽られ仕向けられた地球への憎悪と、火星の生命線であるアルドノアドライブの起動権を唯一保有する皇族への絶対的忠誠。それらが一から十までレイレガリア・ヴァース・レイヴァースやギルゼリア・ヴァース・レイヴァースの歴代皇帝たちにとって統治に都合が良い事実だけで塗り固められた欺瞞であり、国も民もそして己さえも皇帝たちの消耗品でしかなく、それ以上にその欺瞞に誰ひとり気付こうともしない愚民の愚かしさに気付かされた。
《……愛する者を守れなかった。無能な己への怒りと無念!》
アルドノアドライブの価値を維持する、それだけの為だけに企てられた杜撰な第一次内惑星間戦争の戦争計画と、それにまんまと乗せられて何の価値もない名誉と共に何より大切だった筈の婚約者を失った。
《分かるか!地球人の小僧!》
只管に叫ぶザーツバルムであるが、別に目の前にいる怨敵に自分の主張を理解させたい訳でも納得させたい訳でもない。一方的に己の主張を押し付けるただの八つ当たり、子供が癇癪を起こしているの大差はない。
《我は、憎む全てを壊し……憎しみの連鎖を断つのだ……!》
皇族を、それも第一皇女たるアセイラムを意図的に狙うのも彼女がレイレガリア・ヴァース・レイヴァースの孫であり、ギルゼリア・ヴァース・レイヴァースが正室に産ませた唯一の直系だから。戦争は手段であると同時に目的でもあり、憎悪の対象である地球人と愚蒙な火星人を効率良く大量に殺戮するのに便利な点と、その開戦事由にアセイラムの死を使ったのは皇帝への嫌がらせも兼ねている。
「……いい加減にしろ」
そんな
「お前の癇癪に!地球人を、僕たちを巻き込むな!」
この場でザーツバルムの叫びを聞いている者全てが思っているであろうことを代弁した伊奈帆の指摘、意図せずザーツバルムへの最後の挑発ともなっていたその言葉を皮切りに2機は激突。ザーツバルムは大破した
「これでっ!……っ⁉︎」
《やらせぬわっ⁈》
弾切れで遺棄した小銃から銃剣に持ち替え振り被った伊奈帆、しかしその伊奈帆の機体にザーツバルムの機体が機体ごと突進した。
《ナオくん⁉︎》
《伊奈帆⁈》
《マスタング22‼︎》
揚陸城の
【西シベリア平原 敵揚陸城アルドノア・チャンバー前 11月25日17時19分】
〈West Siberian In front of the Enemy CCF ALDNOAH Chamber 1719hrs. Nov 25, 2014〉
丁度、伊奈帆がディオスクリアを揚陸城内へと引き込んだ頃。一方で小銃や拳銃を手に、
「死守しろ!ここでアルドノアドライブ停止まで火星兵を食い止める!」
「撃って撃って撃ちまくれ!奴らにお姫様と機体に指一本足りとも触れさせるな!」
断続的に響く怒声や銃声を背に、片手に
「アセイラムさん!」
「はぁ、はぁ……はい!」
距離にして十数、いや25メートルもない程度の遠さ。前世今世を含めて人生で最も遠い二十数メートルを駆け抜けた2人は、煌々と光を湛えた何時ぞやに一帆の目の前でアセイラムが起動したモノと同じ球体の付いた制御端末に手を触れる。
彼女が呼吸を整える一拍の空白の後、アセイラムは
「アセイラム・ヴァース・アリューシアの名において──
──眠れ!アルドノア!」
球体から溢れていた光が急速に失われて、起動時とは逆に今度は鈍色へと戻ってゆく。あれ程光に溢れていたアルドノアチャンバーが闇に包まれた事で、本当にこれまで揚陸城にエネルギーを供給していたアルドノアドライブが完全停止した事を認識した一帆とアセイラムの2人は、思わずほっと揃って息を吐き──
「──
その瞬間に一帆が危機を察した、できたのは文字通り「奇跡」だったのだろう。
「……え?」
余りに唐突な出来事に、アセイラムが事態を認識できたのは空白となった記憶、事態発生直後から1分程が経った後の事であった。
「う、くっ……」
「かず……ほ、さん……?」
気付けば周囲は飛散し積み上がった瓦礫だらけ。
「ぐっ……、ゔっ……」
身を起こし起き上がった彼女が目にしたのは多数の瓦礫に挟まれ、潰されたのであろう己が生涯で唯一を共にする騎士にして最愛の人。砕けたヘルメットのバイザーから血を流す一帆の姿であった。
「そ、んな……」
ふらふらと一帆の下に近づくアセイラム。近づく事で潰されているのではなく、何とか僅かにできた瓦礫の隙間に挟まっている状態だと認識できた彼女だが、好い人の危機を前にして冷静にいられる程彼女も大人ではない。
「一帆、さん?」
その上で、辛うじて意識を取り戻したであろう一帆から何故か片手に持った拳銃の銃口を向けられていたともなれば思考が停止してしまっても仕方ない事だろう。
ふ、せ、て
一帆の口が僅かに動いた気がする。
思考が停止してしまっていたアセイラムがその意図に気付くより先、拳銃の引き金に掛かっていたその指が弾かれ──
銃口から放たれた銃声が、アルドノアチャンバー内に木霊した。
《マザーグース1!応答して下さい!返事を!カズくん!》
《そんな……救助班を!お姫様は?》
《瓦礫の撤去が必要です。ただ殿下に関しては残念ながら……》
《マスタング22、ナオくんの方は?》
《機体は中破していますが、無事です。対衝撃装置が起動していることからおそらく、敵機とアルドノア・チャンバー外壁に衝突し突っ込んだ際に頭部を打ったのか軽い脳震盪を起こしていると思われます》
《両パイロットの保護を最優先に、機体の保護と揚陸城の制圧も同時に行います》
《連合本部に通信、「我ら、城を落せり」……ひとまず、この戦いは終わりです》
── 2014年11月25日18時44分
地球連合本部へと強襲を掛けた第二次
ノヴォスタリスクの攻防は地球連合軍の辛勝に終わる
しかし
敵味方双方に戦死者多数
本部内に侵攻した火星兵の大半が捕虜となり、揚陸城内の兵の大半が降伏勧告前に自決
敵首魁たるザーツバルム伯爵の拘束に失敗
その一方で地球連合本部内では迅速な避難により民間人の死傷者はなし
そして
ヴァース帝国皇位継承権第一位・第一皇女たるアセイラム・ヴァース・アリューシア姫の消息は未だ知れない
現在、活動報告にて主人公のTACネーム案を募集しております。よろしければ活動報告までお願いします。
また非ログイン状態でも感想受け付けておりますので、よろしければ感想・評価もお待ちしてます。
次回予告
EPISODE.12.5/【地上からソラを見上げ焦がれて、貰い物の翼を得て空を飛ぶ人 -Let's get the beginning.-】
遂にきた第一クール最終エピソード、今のところ貴方が思うメインヒロインは誰?
-
アセイラム姫
-
エデルリッゾ
-
シャーリー
-
ニーナ
-
フェミーリアン卿
-
マグバレッジ艦長
-
不見咲副長
-
ユキさん
-
ライエ
-
その他