武偵の王子様   作:石田金

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Q.空から女の子が降ってくると思うか?

 

A.なるほど。SUNDAYじゃねーの

 

 

俺は遠山キンジ。ちょっとした事情があって東京武偵高校に嫌々ながら通っている高校生だ。何で嫌々なのかというとそれはそれは辛い過去があるからである。

 

身内関係の不幸って言えば分かってもらえるだろうか。誰よりも尊敬していた兄が亡くなったのだ。一年前に。武偵であったことが原因で。しかも命がけで戦ったはずの兄さんは何故か世間から無能の烙印を押された。・・・・・・その時のことはあまり思い出したくない。当時小学生だった俺の『弟』はワンワンひたすら泣くし、俺自身は悲しみと空虚感のせいで顔から表情が消えていた。

 

嫌にもなるだろう。家族が死んだんだぞ。自分の兄を殺された元凶である高校に通える人間っていると思うか? 中には兄を殺した犯人をこの手で捕まえてやるとか考える奴もいるかもしれない。だが生憎と俺はそこまで強い人間ではない。生きなくてはいけないんだ。死んだ兄の分まで。守らなくてはいけないんだ。残された弟を。

 

だから俺はとっとと武偵高校なんか辞めて一般校に転校するのだ。こんなクレイジーな奴らしかいない学校になんていつまでもいてられない。

 

普通の高校生になるんだ。友達と遊んだり、受験勉強に励んだりする普通の高校生に。

 

好きな部活をやるんだ。武偵校みたいに変なテニス部じゃなくて普通のテニス部に入ろう。『普通の』テニスプレイヤーになるんだ。分身したり、オーラを出したり、相手をスタンドに叩き込むような普通のテニスプレイヤーに。

 

そう思ってたんだけどなぁ・・・・・・。

 

「どうしてこうなった」

 

思わず呟いてしまったのは仕方ないと思う。俺は何か悪いことでもしたっけ。最近はバチが当たるようなことなんてしてないよな。春休みの間は平々凡々な暮らしをしていた。今日から弟の母校になる四天宝寺中学のテニス部員をKOしたくらいだ。楽しかったなあ。

 

だから俺は何も悪いことはしていない。幼なじみと色々あったりしてバスに乗り遅れただけなんだ。なのに俺は今、何かに追われていた。後ろを振り向く。

 

『この チャリ には爆弾 が 仕掛けられて ありやがります』

「へえ、セグウェイなんて風流だな」

 

俺も一度は乗ってみたいものだ。・・・・・・ってそんなことを言っている場合ではない。はあ、爆弾だと!? なんて物騒な物が仕込まれてるんだ。これが最近世間を騒がしている噂の『武偵殺し』の模倣犯か。本当にいるとは思わなかった。くそ、チャリジャックなんてありえないだろ。色々と無理があるぞ。だがもし本当に爆発なんてしたら何ヵ月入院コースになるかわからない。骨折くらいなら一週間あれば治るけどな。

 

『チャリを 降りやがったり 減速しやがったり したら 爆発しやがります』

「マジかよ!?」

 

ど、どうすれば良いんだ。スピードならいくらでも上げ続けられる自信はある。だがそれは足で走っている場合だけだ。自転車では車体の耐久的に出せる速度の限界があるぞ。このままじゃ本当に。ああ、誰か助けてくれ。あ、そうだ。警察とか武偵とか携帯で助けを呼べば良いんだ。こういう時のために携帯を買ったんだからな。なんて客観的に見たらとんでもなくアホなことを俺は考えていた。

 

『助け を 求めては いけません。ケータイを 使用した場合も 爆発しやがります』

「ははっ、だよなあ。・・・・・・ちくしょう!」

 

こうなってしまったら今の俺に出来ることは何もない。強いていうなら後方のセグウェイ。あれに知り合いの師範直伝『波動球』をぶちかますくらいだ。でも、仮にそれをやっても爆弾の方がどうにもならないので意味がない。今はただひたすらに自転車を漕ぐ。

 

さて、どうしたものか。とりあえず俺は人気のない場所に向かう。俺も武偵だ。爆発で多くの人を巻き込む、なんてことはあってはならない。最悪の事態だけは避けなくては。俺は始業式のため誰も使ってない第二グラウンドに向かう。全速力で。リズムに乗るくらい速く。

 

『追えないので 少し スピードを 落としやがって ください。あなたは 人間 やめて いやがりますか?』

「あ、はい。・・・・・・え?」

『大丈夫 もう限界値は 越えていやがります』

 

スピード落としたら爆発するんじゃなかったのか? 疑問に思いながらも僅かに足を緩める。爆発はしない。どうやらセグウェイの言っていることは本当だったようだ。しかし、俺はそんなに早く自転車を漕いでいただろうか。乗用車くらいのスピードしか出してないのだが。ま、いいか。

 

「さて、どうしたものか」

 

人気のないグラウンド。ここなら爆弾を爆発させても大丈夫だ。問題はどうやって俺がこの自転車から脱出するか、そこにある。無難にアクロバティックなバク宙で着地すれば良いか。無難に。でも、それをやったら後ろのセグウェイに蜂の巣にされるな。ならまずは波動球でセグウェイを破壊するか。出来ればこんなことにテニスは使いたくないんだが背に腹は代えられない。『普通』の俺ではベレッタの弾丸をセグウェイに当てられる自信はないからな。

 

「────!?」

 

この窮地を乗り越える算段を立てた俺の目にあるものが写った。一人の少女。グラウンド近くのマンションの屋上に一人の少女を見つけた。彼女はセグウェイに追われている俺の姿を確認すると屋上から飛び降りた。って飛び降りただと!?

 

「聞いたことがある・・・・・・。あれが噂のスカイダイビングで登校する中学生か」

 

都市伝説で聞いてはいたが本当にいるとは。度々関東圏で目撃されていたらしいがまさかこの学校にもそんな変人がいるとは思ってもいなかった。しかも、相手は女の子。肝が据わっているな。

 

「おい、遅刻しそうで急いでるのは分かるが離れろ。この自転車には爆弾が────」

「何も分かってないでしょ!? そこのバカ、さっさと頭を下げなさい!」

 

初対面で中学生にバカ呼ばわりされてしまった。確かに武偵にはバカも多いけど。来年には一般校に転校する俺 がその括りに入れられるのはショックだ。

 

というか俺が頭を下げるより早く銃撃するこの娘もかなりのバカじゃないか。危うく当たるところだったぞ。まあ当たったのはセグウェイだから良かったけど。しかし、飛びながらセグウェイを射撃するって凄いな。射程は通常の倍で飛んでいるからとんでもなく不安定な態勢のはずなのに。常人なら絶対に出来るはずのない所業を成し遂げるなんてこの少女は────

 

────いわゆる天才(genius)というヤツだな。

 

「助かった! おい、ここから離れろ! 後は自分で何とかする!」

「はあ? 何言ってるの!? どうやって脱出する気!? 引き上げるわよ!」

「必要ない! さっさと離れろ!」

「どうなっても知らないからねっ!」

 

女の子が離れたことを確認すると俺は自転車の速度を更に上げる。ある程度勢いをつけなくては自転車と距離をとることが出来ない。出来る限りの最高速度を出した瞬間、俺は後方に勢いよくバク宙した。

 

「上手くいったか?」

 

綺麗に着地した俺は全速力で走って自転車から離れる。乗り手をなくした自転車は転倒し、そして・・・・・・。

 

爆発した。

 

「うわっ!」

 

激しい爆風に俺は吹き飛ばされる。くっ、やはり本物の爆弾だったのか。師範の二拾壱式波動球を生身で食らった時にも匹敵するのは衝撃だ。俺は失速することなくゴロゴロと転がり、そのままグラウンドの片隅にある体育倉庫に激突した。

 

「いてて!」

 

俺は痛みで腰を押さえた。

 

「そうだ、あの女の子は?」

 

さっき俺が吹き飛ばされた時に女の子も一緒に飛ばされていた。途中までしか目で終えなかったがこの体育倉庫の中に突っ込んでいったな。無事だと良いんだが。

 

俺が恐る恐る倉庫の中に入ると女の子がぐったりと倒れていた。跳び箱の中で。

 

「おい! しっかりしろ!」

 

俺は慌てて彼女を揺さぶる。大丈夫だとは思うが万が一のこともある。しばらく揺さぶっていると女の子は瞼をパチリと開けた。良かった、無事みたいだな。

 

「ん、うう。あ、あんた無事だったの?」

「まあな。テニスやってるからな。あれくらい余裕だ」

「はあ?」

 

女の子の残念そうな視線が俺を射抜く。あれ、俺は今何か変なことを言っただろうか。どこもおかしいところはないと思うんだが。

「っ! 来なさい!」

「わっ、何すんだ!?」

 

女の子は俺を跳び箱の中に引っ張った。不意を打たれた俺は抵抗することも出来ずに引きずりこまれる。俺が抗議をしようとした瞬間跳び箱が激しく揺さぶられた。な、なんなんだ?

 

「まだ追っ手が残ってたのよ!」

「追っ手ってなんだよ?」

「あの変な二輪! 『武偵殺し』のオモチャよ!」

 

二輪ってことはさっきのセグウェイか・・・・・・。ってま、まさか銃撃されてたのか。女の子に引っ張っられてなかったら俺は死んでたかもしれない。俺は冷や汗を流れるのを感じた。

 

しかし武偵殺しだと? 武偵殺しはとっくに捕まっているはずだ。これは最近世間を騒がしている模倣犯ではないのか。この女の子は訳ありそうだし少し気になるな。特に武偵殺しは俺にとっても因縁がある相手だからな。

 

「助かった。ありがとう」

「礼はいいわよ! あんたも戦いなさい!」

「無茶を言わないでくれ。この狭い場所で二人で戦うのは無理だ」

「何とかしなさいよ! このままじゃあ火力負けする! 向こうは七台いるわ!」

 

嘘だろ。七台も銃が向けられてるっていうのか!?

 

「くそ、何とか追い払え! そしたら俺が前衛に出る!」

「言われなくても分かってるわよ! あんた頭を下げなさい!」

 

射撃がさして得意ではない俺はこんな所では戦えない。女の子は俺を強引に押し付けて射撃を開始した。あれ、ナニか柔らかい物が頭に当たっている。これってもしかして・・・・・・胸、か?

 

「おい、当たってる俺の頭に当たってる!?」

 

それを理解した瞬間頭の中に血液が上っていく感覚を覚えた。ヤバい。このままだと『アレ』になってしまう。それたけは避けなくては。俺は強引に女の子を押し退けた。

 

「っ!!? 何してんのよ!? 離れなさい! ヘンタイ! ヘンタイ!」

「お前が押し付けたんだろ!? いてて! 蹴るな!」

 

女の子は俺の頭をゲシゲシと蹴りまくる。ちょっと待った。この中学生本当に何者だよ。華奢な女の子とは思えない蹴りの威力だ。滅茶苦茶痛い。しかも、俺に蹴りを入れながらも正確にその銃はセグウェイを狙っているのだから恐ろしい。とんでもなく器用な女の子である。

 

「・・・・・・音が止んだな。倒した、って訳ではないよな」

「注文通り追い払ってやったわ! すぐに戻ってくるからさっさと行きなさい、この強猥魔!」

「待て待て待て待て! その呼び方は止めろ! こら、押し出すな!」

 

女の子に押し出される形で俺は跳び箱から追い出された。確かに胸に頭は当てたけど悪いの俺じゃないよな。なんで強猥魔扱いされてんだろう。完全に不可抗力なのに。あまりの理不尽さに自然とため息を吐いてしまう。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい! あんた銃は!?」

 

背中のラケットケースに手を掛けた俺に女の子は目を見開く。彼女は知らないだろうが『今』の俺は銃よりこっちで戦った方が強いんだ。

 

「まあ見てろ。・・・・・・流石は体育倉庫だ。よし、これならいける!」

 

俺は目の前にあったテニスボールの山から7球をラケットの上に乗せる。

 

「7球同時打ち出来るか?」

 

不安に思いながらも体育倉庫から出た俺をセグウェイが取り囲む。7台のサブマシンガンの照準が俺に向けられる。その銃口から無数の銃撃が放たれた。

 

「当たるかよ!」

 

その瞬間、俺は7人に分身した。と言っても本当に7人いる訳ではない。実際に分身している忍者と違って原理は簡単だ。7人に見えるくらいに高速で移動しているだけ。これくらいテニスをやっていれば中学生でも出来るだろう。セグウェイは分身した俺に照準を合わすことが出来なくなり、棒立ちになった。

 

「『七式波動球』!」

 

俺の腕から必殺のパワーショットが放たれた。

 

ドゴォォォォォォォン!

 

打球は吸い寄せられるように7つのセグウェイに向かう。それに当たったセグウェイは跡形もなく粉々になる。流石は師範の必殺技。俺が打ってもセグウェイくらいなら簡単に破壊出来る威力だ。波動球。四天宝寺中学に通う石田銀の開発した必殺技。その威力は凄まじくセグウェイだろうと照明だろうと容易く砕く国内最高峰のパワーショットだ。これを打ち返せる中学生は全国区でも一握りだろうな。

 

「な、何今の!?」

 

女の子は波動球の威力に驚いている。

 

「ただのサーブだよ。あれくらいは中学生でも出来るぞ」

「はあ!? 中学生があんなの出来るの!?」

「筋力がある程度あればな」

 

そんなに驚くほどのことなのだろうか。波動球なんてただ威力がある技なだけで全然普通だ。所詮は中学生が生み出した技だからな。高校生なんてもっとえげつない技を使うぞ。

 

「ワケわかんない。最近の中学生はどうなってるの?」

「そんなに驚くことなのか?」

「驚くことよ。普通の中学生があんな芸当出来るなんて信じられないわ。本当はAランクの超偵なんじゃないの?」

「超能力なんて使ってない。何度も言わせんな。あれくらい中学生でも出来る。現に今日から中学生になる俺の弟はあれより威力ある技を打てるぞ。まだテニスを始めて数ヶ月でな」

「・・・・・・本当にワケわかんない」

 

女の子は混乱からか頭を押さえている。

 

「君だって中学生であんなとんでもない射撃をやってのけたじゃないか。それに比べれば波動球なんてただのテニスの技だぞ」

 

俺からしたら空を飛びながら正確な射撃が出来るこの女の子のが化け物だ。とてもじゃないが俺が中学生の頃に同じことを出来たとは思えない。中学生の俺が出来たのはせいぜい相手のガットを突き破るスマッシュを放つことくらいだ。大したことはない。今だって他人の真似事の技を使うくらいしか出来ないし。我が弟もそうだが最近の中学生は本当に天才のバーゲンセールだな。

 

「今なんて言った?」

「えっ? 波動球なんて『その前!』・・・・・・君だって中学生であんなとんでもない射撃をやってのけたじゃないか」

「はあ!?」

 

俺は一歩後ろに下がった。女の子から殺気が溢れだしている。

 

「あ! もしかして小学生だったのか!? ご、ごめんな。勝手に中学生とか言って悪かった。いや、弟と同じくらいだから勘違いしちまっ、たよ?」

「あんたみたいな無礼者・・・・・・助けるんじゃなかった・・・・・・!」

 

俺は女の子から背を向けて走り出した。殺気が溢れるどころか殺気そのものになった彼女にただならぬ雰囲気を感じたからだ。

 

バキュン!

 

その直感は当たる。女の子は俺に向けて発砲を始めた。

 

「何だよ!? 俺は何か悪いこと言ったか!?」

「あ た し は 高 二 だ !」

「はあ!? 高二!? まじで!?」

 

何という衝撃の事実。俺は思わず目を見開いて振り返る。女の子は顔を真っ赤にして激怒していた。

 

「見れば分かるでしょ!? この強猥魔!!」

 

銃撃の勢いは増す一方。分身してなければあっという間に鉛玉を背中にぶち込まれているだろう。というか何発かは既に身体を掠めている。やべえ、俺とんでもない娘を怒らせたみたいだ。

 

「ほんとごめん! ほんとに悪かった!! 許してくれ!」

「謝ったって許さないんだから! あたしはあんたをぼこぼこにして警察に突き出してやる!」

「やめろ! それは冤罪だ!」

 

もはや女の子は俺を完全に強猥魔として扱っているようだ。このままでは新学期早々前科持ちになってしまう。仕方ない。誤解は解きたいところだがここは逃げるしかないな。

 

「どっかであったら詫びは入れる。じゃあな」

「逃がさないわ! あたしは逃走した犯人を逃がしたことは! 一度も! ない!」

 

それが本当ならこの女の子はSランク武偵なのだろう。だとしたら『普通』の俺なんかじゃあ絶対に逃げ切れないな。だが今の俺でも逃げる手段がない訳ではない。アレを使えばいい。

 

「────なら俺が第一号だ」

 

俺は足に力を込める。『アイツ』の技なら例えFBIが百人いようと鷲に追いかけ回されようと逃げ切れる。その技の名を俺は叫ぶ。

 

「『疾きこと風の如しっ!』」

 

俺はみるみる女の子から離れていく。今の俺は文字通り風のように素早いからな。どれだけ強くても彼女が普通の人間である内は絶対に追うことが出来ないだろうな。そう思いながら俺は彼女の捨て台詞を聞き流す。

 

「卑怯者! でっかい風穴───あけてやるんだからぁ!」

 

それが俺と女の子『神崎・H・アリア』との世にも奇妙な出会い。後の戦いへの序曲だったのだ。だが俺はまだこれがとんでもない戦いの始まりとなることに気づいていなかった。俺がこの時に気づいていたのはある一つの驚愕の真実だけ。

 

 

 

 

 

 

 

神崎・H・アリア 『十六歳』

 

真田弦一郎 『十四歳』

 

 

俺はただその事実に驚愕するしかなかったのである。

 

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