武偵の王子様 作:石田金
例の女の子を振り切って安心したのもつかの間。俺を待ち受けていたのはなんと例の女の子だった。あー・・・・・・なんか我ながらとんでもなくバカなことを言っている気がする。俺はどうしてこうなったか考え直す。
あれから頑張って走ったが俺は結局始業式には間に合わなかった。普通に登校していてもギリギリなタイミングだったしそれは仕方がないものとして割りきっておこう。事件の事後報告を済ました俺はトボトボとした足取りで教室に向かった。
それにしても、だ。わざわざ起こしに来てくれた幼なじみの白雪に悪いことをしてしまったな。一緒に行こうという誘いを断った結果がこれだもんなあ。何としても今回の事件については隠さないとならかいな。あいつは間違いなく自分のせいで俺がチャリジャックに巻き込まれたと思うだろう。こんなことなら一緒にバスに乗れば良かったな。そうしたら悲しむ顔の変わりに笑顔が見れたのに。ちょっとした罪悪感が俺の足を更に重くさせた。
教室に入った俺を待っていたのは更なる追い討ちだった。
「先生、あたしはアイツの隣に座りたい」
真田よりも年上だという見た目は中学生の女の子────神崎・H・アリアが俺を指差して言った。おい、よりにもよって何で同じクラスなんだ。
「先生、あの娘の隣に座らせてください。・・・・・・武藤を」
「俺かよ!?」
俺は咄嗟に悪友である武藤を身代わりにしようとした。日頃から散々迷惑をかけられてるんだ。たまには迷惑をかけても文句は言うまい。
「あ、ならちょうど良いわ。ねえ、武藤。あたしの席とあんたの席交換しましょう」
逆効果だった。なんだか自然と席を交換する流れになってしまった気がする。え、ちょっと待ってくれ。俺はこれからずっとアリアを隣において授業をしないといけないのか。冗談はよしてくれよ。こんな初対面の人間を強猥魔扱いして発砲する女と隣になるなんて俺は嫌だぞ。俺は視線で武藤に助けを求める。友よ、俺と同調(シンクロ)するんだ。お前ならきっと俺の考えが分かるはずだ。一緒にダブルスやってる仲だろ。武藤は俺の視線に気づいたのかニカリと笑みを浮かべる。流石は俺の友人だ。
「いいよいいよ。全然いいよ! 良かったな、キンジ!なんか知らねえけどお前にも春が来たみたいだな! 先生、俺席代わります!」
「ちっ!」
何をノリノリで席を譲ろうとしているんだ、このアホは。嫌がっているのが分からないのか。いくらなんでも理解力がなさすぎる。所詮はただの知り合いか。
「おい、今明らかに舌打ちしたよな」
「してねえよ、シネ」
「今度はシネって言ったな」
「武藤コロス────いや、言ってねえよ」
「先生ー。遠山くんが僕を脅迫しまーす。俺、こんな人の隣にいたくないでーす」
「さあ神崎、俺の隣に来い! 一緒にこれから頑張ろうな!」
持つべき者は友達だな。こんな美少女の隣に座れるなんて俺は幸せだ。百八式波動球を腹に受けて不幸になる予定の武藤に比べたら本当に幸せ者である。
さて昼行灯のキンジだのなんだのとクラスメートの間でアダ名がついている俺と天才美少女帰国子女でSランク武偵のアリアが隣になったからには大変だ。バカの集まりである武偵校の生徒たちはバカのバカによ バカのための実にバカな大騒ぎを始める。俺はため息を吐く。あーあ、恐れていた通りの展開になってしまったな。だから嫌だったんだ。女の子と隣になるなんて。こうなったのも全部武藤が悪い。百八式波動球じゃなくてベレッタの弾丸をお見舞いしてやる。あれ、どっちのが威力あるんだろう?
「キ、キンジがこんは可愛い子といつの間に!?」
「テニスするしか脳のない奴だと思っていたのに!?」
案の定男どもは嫉妬(勘違い)でやかましい。
「そ、そんな!? 遠山くんが好きなのは白雪さんじゃないの!?」
「私はレキさんって聞いたよ!?」
「理子はクーくんって聞いたよ!?」
「私も白石くんだと良いなって思う!」
ちょっと待て。おかしいこと言ってるのが二人いるぞ。いや、全員おかしいこと言ってるけど。最後二つはおかしさのベクトル違うよな。何で俺が好きな人間の中に男が混ざってんの? 俺は色々あって女が苦手だけどノーマルだよ。プロフィールの好みのタイプにおとなしい女の子って書いてるんだよ。なのに何で白石が混ざってんだよ!? おかしいだろ! 特に推測じゃなくて願望の奴っ!
「私は弟の金太郎くんかな」
「それなら武藤くんでしょ。ダブルス組むなんて夫婦みたいなものだよ。これは完全にデキてるでしょ」
何なんだ、これは。お前らどこで俺の弟の存在を知った。あれか、去年の全国大会で財前を応援しに東京へ来た時か。流石は武偵。きっと探偵科の仕業だな。流石は探偵だ。情報が早いぜ。・・・・・・はあ、本当にこいつらイカれてるよ。俺はため息を吐く。
「俺はキンジとそんな仲じゃねえよ・・・・・・」
ああ、誰か助けてくれ。このままでは気が狂いそうだ。宇宙的な恐怖を感じた俺は頭を抱える。あ、アリアの席に移った武藤も頭抱えてるな。しかもちょっと泣きそうになってる。可哀想だし波動球はなしにしてやろう。ああ、誰でも良いから理子を筆頭に組み合わせで盛り上がってるそこの女性陣を何とかしてくれ。俺も内心で祈りを捧げていた。
ずきゅんずきゅん!
「恋愛だなんて・・・・・・くっだらない!」
俺たちを救ったのはアリアの発砲だった。
「全員覚えておきなさい! そういうバカなことを言う奴は・・・・・・風穴あけるわよ!」
この日、武藤の好みのタイプに気の強い女の子が新たに加わった、らしい。ところであれって恋愛についての会話だったのだろうか。俺にはクッソ汚い会話にしか聞こえなかったんだが。
◇
夕方。
部活を終えて家に帰った俺は昼間のことを思い出す。
女子の噂話をこっそり聞いて分かったことだがアリアはどうやら俺のことを探っているらしい。しかも、朝から。つまりチャリジャックの事件の直後から彼女に俺はストーキングされているということだ。
勘弁してくれ。何が彼女のお眼鏡に叶ったというのだ。俺はただセグウェイをサーブで破壊しただけじゃないか。そんなのパワーテニスが得意な奴なら誰にだって出来るのに。我が弟や石田なら枕でもあんなオモチャ余裕で破壊出来るよ。
もしや本当に一目惚れとかのパターンか。いや、それはないか。白石みたいなイケメンならともかく俺だし。遠山三兄弟唯一の父親似である遠山キンジが一目惚れされることなんてあるはずがない。兄や弟と比べると俺かなり浮いてるからな。ならアリアはどうして俺を追いかけているんだ。目的は何か、気になるな。
気になると言えばチャリジャックの方も気になる『例』の事件の関係者である俺の自転車にわざわざ爆弾を設置するなんて偶然とは思えない。どうしても意図的な何かを感じてしまう。だがあの事件の犯人は捕まったはず。
単なる模倣犯だと良いのだが。
もしも、遺族として俺を狙ったとしたなら。これは少し不味いかもしれないな。じいちゃんやばあちゃん、それに金太郎が心配だ。後で連絡しよう。金太郎以外に。やられたらやり返せが座右の銘のあいつなら犯人を探す、とか言って首を突っ込みかねない。金太郎の代わりに白石か財前、それと顧問のオサムさんに気をつけるようにメールを送っておこう。
ピンポーン
あれこれ考えているとチャイムが鳴った。はて、こんな時間に誰だろう。新聞の勧誘か何かか。それとも後輩か。首を捻りながら俺は玄関に向かう。
「はい、どちら様ですか」
「遅い! あたしがチャイムを鳴らしたら5秒以内に出ること!」
「か、神崎? 何の用だ?」
「アリアでいいわよ」
疑問に答えは返ってこない。アリアは俺が呆然としていると部屋に荷物を置いてトイレに行ってしまった。
「ここ、男子寮なんだが」
誰か、誰か俺を助けてください。俺は静かにテニスをしたいだけなんです。
「あんたここ一人部屋なの?」
「ああ、だから一人にさせてくれ」
「まあ、いいわ」
俺が頭を抱えているとトイレから出てきたアリアが窓際へと向かう。なんなんだよ。本当にこの子は何がしたいんだ。誰か教えてくれ。意味が分からない。
「────キンジ。あんた、あたしのドレイになりなさい!」
だから意味が分からないんだよ!
キンちゃんはテニスの実力は通常時で毛利寿三郎くらいです