『僕』が異世界へ   作:真似人

2 / 2
第二話

 ……ごめんなさい。

 

 僕が十六歳の時、十五歳の彼女はそういって頭を下げた。その瞬間、僕は宇宙空間に放り出されたような気がした。冷たく暗い、呼吸の出来ない空間に。身につけた宇宙服だけが、僕を守ってくれている。そのお陰で、僕は少なからず、体中が干からびて凍りつくことがなかった。

 

 どうすることもできない。

 

 トラックに撥ねられて異世界にいくこともあれば、そこで出来た幼馴染との恋仲が上手くいかなくなることだって、十分にあるのだ。

 

 それでも僕は、光りに続いている先の見えない糸をなんとか手繰るように、なんとか、今あるこの時間を手元におこうとした。

 

「頭を上げて、エーリカ。君が頭を下げることなんてないんだ、きっと僕が悪いんだよ」

 

 ……いいえ、きっと、あなたは悪くない。誰も、悪くなんてない。

 

 頭を上げた彼女は、僕よりも一層、苦しそうな顔をしていた。きっと、彼女も上手く息を吸うことがなきないのだろう。

 

 宇宙空間にいるのは、何も僕だけではないみたいだった。

 

「じゃあ、誰が悪いんだろうね」

 

 僕はことさら、明るく言った。見ように由っては、軽薄な表情に見えたかもしれない。

 

「きっと、森に出たっていうゴブリンが悪いんだ。あついらが畑を荒らして、ゴートンさんが怒るって、そうすると息子のキッドだって怯えて、その内どんどん村の皆がおかしくなってその結果―――」

 

 ……ごめんなさい。

 

 その言葉は、最初よりも強く拒絶の色が出ていた。

 

 これが僕の初恋の終わり。

 

 

======

 

 師匠は言っていた。

 

「お前は、もっと自分のことを良く知ったほうがよい。自分のことも良くわからないやつが、魔法を使える道理もない」

 

 実に、その通りだ。

 

======

 

 『凱旋通り』にある冒険者ギルドから小道を抜けて右に一回、そして左に一回曲がりると、冒険者クラン『新たな風』の、そこそこ大きな石造りの『ポスト』がある。

 

 僕は街外れにある小さな物置みたいな自宅から通っている。一般的に金の無い冒険者達はクランにホームに住み着いているから、僕は冒険者としては珍しいということになる。しかし、この『新たな風』ではそんなに珍しいことではない。有望であったり立場があったりする新人の集まるこのクランは、多くの場合、この街に自宅を持っている。だから、ここは『ホーム』ではなく『ポスト』と呼ばれている。

 

 誰かが出した手紙を、然るべき人に、然るべき形で渡す。

 

 悪くない名称だ。ここに入ってよかったと、それだけで思える。

 

 気がつけば、もうここに四年間、通い続けている。

 

 あの日から四年。気がつけば、クランのリーダーを除けば最年長になってしまった。

 

 二十歳になった僕は、一つため息をつく。

 

 やれやれ、二十歳? そんな年齢が存在するのだろうか? 前世は十六歳でトラックに撥ねられた。合計すれば三十六歳ということになるが、まったくそんな実感は湧いてこない。二十歳であれば、その年齢に相応しく酒場で浴びるようにアルコールを摂取し、ぶっ倒れればいいのだろうか。三十六歳であれば、息子や娘の育児と仕事に追われ疲労し、薄くなっていく髪に心を痛めればいいのだろうか。

 

 時折、彼女のことを思い出す。もし、彼女と上手く言っていれば、僕はそれなりに、自分が納得できる年齢であれたのだろうか?

 

 ……あなたは、悪くない。誰も、悪くなんて無い(・・ ・・・・・・・)

 

 もう四年経っているんだ。何故、今更彼女のことなんて思い出すのだろう。二十歳になったからだろうか?

 

「きっと、ゴブリンのせいだ」

 

 そう呟いて、僕は『新しい風』へと入っていった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。