……ごめんなさい。
僕が十六歳の時、十五歳の彼女はそういって頭を下げた。その瞬間、僕は宇宙空間に放り出されたような気がした。冷たく暗い、呼吸の出来ない空間に。身につけた宇宙服だけが、僕を守ってくれている。そのお陰で、僕は少なからず、体中が干からびて凍りつくことがなかった。
どうすることもできない。
トラックに撥ねられて異世界にいくこともあれば、そこで出来た幼馴染との恋仲が上手くいかなくなることだって、十分にあるのだ。
それでも僕は、光りに続いている先の見えない糸をなんとか手繰るように、なんとか、今あるこの時間を手元におこうとした。
「頭を上げて、エーリカ。君が頭を下げることなんてないんだ、きっと僕が悪いんだよ」
……いいえ、きっと、あなたは悪くない。誰も、悪くなんてない。
頭を上げた彼女は、僕よりも一層、苦しそうな顔をしていた。きっと、彼女も上手く息を吸うことがなきないのだろう。
宇宙空間にいるのは、何も僕だけではないみたいだった。
「じゃあ、誰が悪いんだろうね」
僕はことさら、明るく言った。見ように由っては、軽薄な表情に見えたかもしれない。
「きっと、森に出たっていうゴブリンが悪いんだ。あついらが畑を荒らして、ゴートンさんが怒るって、そうすると息子のキッドだって怯えて、その内どんどん村の皆がおかしくなってその結果―――」
……ごめんなさい。
その言葉は、最初よりも強く拒絶の色が出ていた。
これが僕の初恋の終わり。
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師匠は言っていた。
「お前は、もっと自分のことを良く知ったほうがよい。自分のことも良くわからないやつが、魔法を使える道理もない」
実に、その通りだ。
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『凱旋通り』にある冒険者ギルドから小道を抜けて右に一回、そして左に一回曲がりると、冒険者クラン『新たな風』の、そこそこ大きな石造りの『ポスト』がある。
僕は街外れにある小さな物置みたいな自宅から通っている。一般的に金の無い冒険者達はクランにホームに住み着いているから、僕は冒険者としては珍しいということになる。しかし、この『新たな風』ではそんなに珍しいことではない。有望であったり立場があったりする新人の集まるこのクランは、多くの場合、この街に自宅を持っている。だから、ここは『ホーム』ではなく『ポスト』と呼ばれている。
誰かが出した手紙を、然るべき人に、然るべき形で渡す。
悪くない名称だ。ここに入ってよかったと、それだけで思える。
気がつけば、もうここに四年間、通い続けている。
あの日から四年。気がつけば、クランのリーダーを除けば最年長になってしまった。
二十歳になった僕は、一つため息をつく。
やれやれ、二十歳? そんな年齢が存在するのだろうか? 前世は十六歳でトラックに撥ねられた。合計すれば三十六歳ということになるが、まったくそんな実感は湧いてこない。二十歳であれば、その年齢に相応しく酒場で浴びるようにアルコールを摂取し、ぶっ倒れればいいのだろうか。三十六歳であれば、息子や娘の育児と仕事に追われ疲労し、薄くなっていく髪に心を痛めればいいのだろうか。
時折、彼女のことを思い出す。もし、彼女と上手く言っていれば、僕はそれなりに、自分が納得できる年齢であれたのだろうか?
……あなたは、悪くない。
もう四年経っているんだ。何故、今更彼女のことなんて思い出すのだろう。二十歳になったからだろうか?
「きっと、ゴブリンのせいだ」
そう呟いて、僕は『新しい風』へと入っていった。