平和な世界での守護者の投影   作:ケリー

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イリヤの年齢から士郎が幼いことに気づいている人はいると思いますが一応報告しておきます。


この士郎は引き取られてから2-4年しか経っていません。


全ての始まり

 

意識が戻ったと思うとそこは病院だった。

部屋に漂う消毒液のようなツンとした臭いが鼻を刺激し、視界には真っ白なベッドに同色の枕。後ろに見える様々な機械類とさらに自身が身に着けている病衣から自分が病院にいることが容易に予想できた。

 

周りを見ればオレとは別に数人いるようでいまだに深い眠りについているようだった。

 

ぼんやりとする思考の中でオレは今の状況を確認する。

 

(確かオレは自分の部屋で_)

 

何故自分がここにいるのかが分からないので記憶の中から探ろうとする。

最後に残っている記憶は自分に水を飲ませるセラの姿。その後のことははっきりとは覚えていない。恐らくあまりの頭痛に気を失い、慌てた家族が自分を病院へと送り出したのだろう。そうだとしたら自分が何故病院にいるのかは説明がつく。

 

(迷惑かけちゃったかな・・・とりあえず、誰かを呼んで安心させないと)

 

思い立ったらすぐ行動っというように身を動かそうとしたその時、違和感を感じた。

 

(身体が・・動かない!)

 

いや、そんなはずはない。何故ならつい先ほども意識が戻ったときには身を上げていたのだから。

 

もう一度と身体を捻ろうとするとやはりと言うべきか身体は言うことを聞いてくれない。何度やっても身体は動かず視線すらも動かせない。意識してみれば呼吸すらも自分の思うとおりにできていない。

 

 

しかしこの身体はちゃんと呼吸をしている。

 

 

だがそれは自分の思うタイミングとまったく会わず、今まで感じたことのないような違和感と気持ち悪さがある。意識はあるのにまるで身体までには意識が行っていないようなそんなありえないような体験を自分はしているようだ。

 

時間が経つにつれ疑問はさらに増える。腕や手のひらなどが一人でに動き出し、自分の身体を確認するようにペタペタと触り始めた。

 

動かそうと思ってもいなかったのにこの身体はまるで『操り人形』のように勝手に動き出す。

 

声を上げようとしてもでず、目をつぶろうとしてもしない。まるで別の意思があるようにオレの意思とは無関係に動き続ける。

 

それと驚くことにどうやら感覚器官は正常のようで自分で自分を触っていることなども感じられる。思えば意識が戻った時に臭いなどが分かった時点で嗅覚は正常なのは分かっていたはずだが、思考がそこまで回っていなかった。だけどこれは呼吸同様に気味が悪い。身体は勝手に動くのに感触はちゃんと感じるなど変な気分にならないはずがない。まるで自分で触っているのに他人(・・)が触れているかのような感覚だ。

 

 

 

しばらくオレ(・・)の身体を確かめているとあることに気づく。身体中に巻かれている包帯やガーゼ。その量は身体の半分を覆いそうなほどでまるでこの身に起きた事態の大きさを物語るよう。

 

しかしオレには怪我をしたなどの記憶はない。確かに信じられないほどの頭痛は感じたが血など出ていなかったしそもそも身体にも傷なんて一つもなかったはずだ。それによく見れば身体が一回り小さくなったような気がする。立ち上がって確認したいところだがいかんせん身体の主導権はない。

 

そんなことを思っていると病室の扉が開いて一人の男性が姿を現した。

 

よれよれのスーツにボサボサの頭。服装は黒一式で手には小さめのアタッシュケース。まるで生気の宿っていそうにない瞳に穏やかな表情でその男はオレの元まで静かにやってきた。

 

その姿を確認して、俺は驚く。

 

 

オレはこの人を知っている。

このように姿を見るのは久しぶりだ。何故ならこの人は仕事で一年の大半を海外ですごしているのだから。帰ってくるのなんて滅多にないし会うことも普通の家族と比べて少ない。だらしのない格好は相変わらずのようだが、表情からはすこしばかり疲れが見て取れる。また仕事が大変だったのかな?それともいつものようにジャンクフードばかり食べて体調でも崩したのか。だからいつもそればかり食べるのはやめろといっているのに。

 

 

 

そんな親父(・・)の姿に溜息を吐きながら_実際には吐けない_オレ(・・)は切嗣を見つめる。久しぶりの再開だというのに親父は何も言わずにオレの隣にパイプ椅子を持ってきて腰掛ける。

 

座ったと思ったら唐突に親父は口を開く。

 

 

『こんにちは、君が士郎だね?』

 

 

_え?

 

 

『率直に聞くけど、孤児院に預けられるのと、初めて会ったおじさんに引き取られるの、君はどっちがいいかな?』

 

 

_なにを・・・言っている?

 

 

数秒、考えるようにうつむくと、オレ(・・)はゆっくりと親父を指さす。

その瞬間、親父は目に見えて喜び、せかすように身支度を始める。

 

新しい家に一刻でも早くなれるように次の日からオレは親父の家に移り住むらしい。だがその前に言い忘れたと言わんばかりに親父はまたもオレに向き直り、その口を開いた。

 

『―――うん。初めに言っておくとね、僕は_』

 

その表情は、どこか悲しくそして痛々しく、けれどもやりきれないような・・・そんな表現しようのない顔だった。今まで見たこともないようなそんな親父の表情に、どこか自嘲気味に言うその表情に・・・・オレは言葉を失った。

 

そして親父は、子供であるオレに夢でも見せるかのように。

その続きを言った。

 

 

_魔法使いなんだ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まるで初めて会ったかのような会話に胸を締め付けられるような気がした。

本当の家族のことなんて記憶にない。だからこそ、今いる家族がオレはなによりも大好きだし、大切にしたかった。

 

本当の家族が誰なのかも分からず、恐らく亡くなっているだろうと教えられたとき、オレは恐ろしいほどに何も思わなかった。

 

悲しめたらよかった、苦しめればよかった、泣ければよかった、膝から崩れ落ちることができればよかった。

 

だけど_オレは何も思わなかった。

ただただ、事実を知るように。教科書の情報を脳裏に刻むようになにも思わずにその言葉を受け止めただけ。

 

 

記憶がないから悲しむこともできず、記憶がないから泣くこともできない。

 

 

そんな自分が気持ち悪くて、悔しくて、許せなくて_

 

 

 

なによりも嫌いだった。

 

 

だからこそ、イリヤや切嗣やセラやリズやアイリさんを大切に思いたいと思った。記憶が失っても魂が覚えれるくらい、心に残るくらいに愛そうと思った。

 

オレは俺を受け入れてくれたみんなが好きだ。血なんて一滴もつながっていないのに、どこの誰かも分からない俺なのに、昔の名前すら分からない俺なのに、なにもかも失い士郎という名前しか持っていない俺なのに、俺を大切に思ってくれて家族として接してくれて、愛してくれるみんなが好きだ。

 

そんな大好きな家族に・・・・父親にまるで知らない人のように接せられてショックを受けた。

 

 

しかし同時に何かに気づく。

 

 

_これはあの時と酷く似ている。

 

 

 

目覚めた病室に現れる二人。

だらしない格好の親父に息を呑むような美しさを持つ銀髪の女性。

微笑むように俺の容態を気にする女性とそれをやさしそうに見つめる親父。

 

『あのね士郎君、率直に聞くけど・・・孤児院に預けられるのと、初めて会った夫婦に引き取られるの、君はどっちがいいかな?』

 

さきほど聞いたものとそっくりな言葉で俺に問う女性。

それに俺はなんと答えたのかはわかっているし覚えている。

 

 

 

これが俺の持つ原初の記憶で最古の記憶。

 

これより前のことなど一切___

 

 

 

 

___知らない・・・はずだった。

 

 

あれが衛宮士郎になる前の■■■士郎だった頃に持っていた最後の記憶のはずだったが今は違う。すべてはあの夢から始まる。

 

 

 

あの夢の地獄を、俺は知っている。

あれとそっくりな体験を俺はしている。

忘れるはずのないことなのに何故か俺はそのことを記憶から失っていた。

 

 

しかし、今は違う。

 

 

きっかけはあの夢だった。

その後から襲う頭痛に俺は今まで持っていた最古の記憶とは別の新たな記憶がよみがえるのを感じた。

 

あの地獄こそが俺の知る最古の記憶であり、俺の始まりだった。

 

■■■士郎の最後の記憶であり、衛宮士郎の最初の記憶。

 

 

だが、疑問はいまだに尽きない。

何故忘れていたのか。

何故いまさらになって夢にでたのか。

何故夢なのに痛みがあったのか。

何故いまさらになって思い出したのか。

そして、

 

 

 

何故記憶と今経験しているこれはわずかに違うのか。

 

今の状況がまったくと言っていいほどに分からなかった。

 

時間はどうやら戻っているらしい。オレ(・・)が確認したから分かる。

だけど、この出来事をオレは知らない。こんな記憶なんてない。まるで巻き戻しのように始まった夢でのことから、オレは過去をもう一度経験する。

 

だけどオレは動けない。身体は一人でに動くし、口も勝手に言葉を口にする。

これは俺の記憶じゃないし俺の人生ではない。

 

オレであるけど俺でない他人の過去をなぞるようにこの物語は進み続ける。

 

 

 

そして5年の月日が流れた。

 

 

 

思えば色々なことがあった。

俺の知らない新しい親父の一面なども見れたし、藤村先生とも仲良くなれた。

初めて住む大きな武家屋敷にも慣れてきたしそこで過ごす時間も悪いものではなかった。

 

切嗣は俺の知っている切嗣らしくよく海外に行くしジャンクフードが好きだった。このままでは駄目だと家事を始め、切嗣によりよい食事を取らせるために料理も始めた。そこに藤村先生が乱入し、三人で楽しく食卓を囲んだのもいい思い出だ。だけどたまに帰ってくる親父の姿は会う度に元気をなくしていた。疲れが顔にでるようになったし、どこか辛そうだったのを覚えている。それは今でも変わらず、むしろ悪化していた。その姿を見ていられず声をかけようとしたがこの身体はやはり動かない。ただできるのは見ることと感じることだけ。

 

 

特に驚くこともあった。

あの時言っていた言葉の意味が始めて分かったときだった。

 

切嗣は本当に魔法使いだったのだ。

切嗣が言うには正確には魔術師、より詳しく言うなら魔術使いらしいがそれを知ったオレは好奇心から魔術を教えてくれと頼み込む。

 

しかし、切嗣はその頼みを断った。

その時の表情を今でも覚えている。まるで必死に力強く駄目だと言う切嗣に恐怖を感じたのを覚えている。

 

しかしオレも諦めが悪かったらしく、来る日も来る日も頼み続けた。

 

そうしてようやく、切嗣は渋々ながらもオレに魔術を教えてくれた。

 

どうやら魔術を使うには生まれつきできる人とできない人がいるらしい。

それを確認するために切嗣はオレの身体を調べたが、結果はというとできるらしい。

 

その時のオレは喜びにはしゃいでいたがそれとは逆に切嗣は苦い顔を浮かべていた。

 

 

 

そこからオレは切嗣に従い魔術の基礎と修行法を学んだ。

 

それは想像を絶する痛みではあったが始めて感じる感覚からと魔術を扱えるという希望からオレはその痛みを耐えて魔術の鍛錬を続けていた。

 

そんなある日、切嗣にオレは新たな魔術を学んだ。

 

今まで教えてもらっていたことは、基礎中の基礎である強化と解析の魔術だけであった。

しかし強化の成功率はまったくの皆無というほどに低くとても使えるようなものではなかった。逆に解析の魔術は強化の魔術よりはうまく扱えていたがそれでも三流程度だった。

 

あたらしく教えてもらった魔術の名は投影というらしく魔力で物質をつくりだす魔術らしい。その説明を聞いて、オレはさらに好奇心を膨れ上がらせた。物質をポンっと作り出すなどそれこそ子供の思い描く魔法使いのようで興奮していたのを覚えている。

 

さっそくやってみたところ、あっさりと成功してしまった。

 

そのことにさらに興奮するオレであったが、切嗣はそれを見て顔を驚きで染めていた。最初はあっさりできたことにびっくりしたかと思ったがそれは違ったらしく。

 

切嗣曰く、それは使わないほうがいいっとのことらしい。

 

せっかく成功したと思った魔術は失敗だといわれむくれるオレであったが仕方がないと切嗣の言うことを聞いていた。

 

聞いてはいたのだが切嗣の見ていない間にたまに投影魔術を行うこともあった。やはりというかこれは強化と違い、すぐに形になる。失敗だと分かっているが、しかし形になっているものが目の前にあることがオレのつらい魔術の鍛錬を続けさせていた。

 

 

しかし、切嗣から教わる魔術はそう長くは続かなかった。

 

 

ある月がきれいな日のこと、オレと切嗣は縁側で月を眺めていた。

そんな爺さんは、やはり悪化しているのか酷く弱弱しかった。

 

このままでは眠りそうだったので風邪を引いてしまうからと布団に入れというオレ。

 

しかし切嗣は相槌を打ち静かに語り始めた。

 

『子供の頃、僕は正義の味方に憧れてた』

 

いきなり語りだす切嗣の夢にオレは眉をひそめる

 

『なんだよそれ。憧れてたって、諦めたのかよ』

 

自分を救ってくれた切嗣のそんな言葉に少しムッときてしまった。

 

『うん、残念ながらね。ヒーローは期間限定で、オトナになると名乗るのが難しくなるんだ』

 

そんなことを言う切嗣にオレは静かにうつむき腕を組んで考える。

 

『そんなコト、もっと早くに気付けば良かった』

 

まるで悔いるように言う切嗣を数秒見て、オレは切嗣と同じように大きな、それでいて綺麗な月を見上げる。どこか遠くを見るような視線を追うようにオレはその月から目を離さない。

 

『そっか。それじゃしょうがないな』

 

なんでもないように言うオレ

 

『そうだね。本当に、しょうがない』

 

言葉の通りに心底しょうがないと言う切嗣。

そんな姿を見て、オレは自身の思ったことを言う。

 

『うん、しょうがないから俺が代わりになってやるよ。

爺さんはオトナだからもう無理だけど、俺なら大丈夫だろ。』

 

そんなことを言うオレに、切嗣は驚いたようにオレを見る。

 

 

オレにとっては切嗣はオレの正義の味方(ヒーロー)だった。

あのまま死に向かっていくオレを助け出し、もう感じることもできなかったであろう幸せを再度感じさせてくれた。

オレに未来をくれた。

 

オレを救い出すことで自分が救われているその姿が美しいと思った。

 

心底あこがれた。

自分もそうなりたいと思った。

しかしそれは切嗣の役目だと思っていた。

 

だけどそんな彼が諦めたといっている。その事が気に食わなかった。

だからオレは言う。彼のようになるために。

彼の夢を継ぐように。

 

諦めることで切られた(・   )彼の夢はオレがもう一度継ぐ(・ )

 

だからオレは言う、

 

『まかせろって、爺さんの夢は――――俺が、ちゃんと形にしてやっから』

 

笑顔を浮かべながら言うオレに切嗣は数秒息を呑み、その表情をやわらかくする。

 

『ああ――――安心した』

 

という言葉と共に、親父はピクリとも動かなくなった。

 

 

 

一向に動く気配がない親父を不思議に思ったオレは、親父に近づく。

全身からいやな予感を感じ、ありえないと、そんなまさかと彼に近づく。

しかし、現実は非情であの言葉を最後に親父は息を引き取った。

 

あの地獄が脳裏によみがえる。

 

多くの人の死を見た。

だからか、親父の状態がすぐに分かってしまった。

 

受け入れがたい現実

しかしそれは現実。

否定なんてしたくてもできない、うそであってほしいと思ったがそれも無理。

 

そのことに気づいてから、オレは瞳に大粒の涙を流しながら親父との最後の夜を過ごした。

 

 

 

そして亡くなった親父の表情は・・・・・死んでいるのに、どこまでも柔らかくて、静かで、とても安心しているような顔だった。




このまま 次にいきたいが駄目だ、区切るところがなくなってしまう・・・・・・。
ごめんよ。


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