平和な世界での守護者の投影   作:ケリー

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やっぱ変だと思うのは自分だけだろうか?
でも、一応かけたので 投稿します。


それと長くないといったな、あれは嘘だ。





忘れてはいけないけどこの士郎はプリヤ士郎ですよ。なので考え方もSNのような壊れた考えの持ち主ではありません。(まぁちょっと正義感は強いけどSNほどではありません)。なので普通より精神力の強いだけの持ち主がエミヤの経験をトレースしたことを想像し、どのような考えになるのかをちょっと考えてみてくれたらこの話も読みやすくなる・・・・・・と思います・・・たぶん。


それとこの次か次の次で本遍へと突入します。


トレース

全身を黒に染めたヨレヨレの服装にボサボサの頭の人物、衛宮切嗣はしつこく鳴り響く心音を抑えられずに急いで病院へと駆けつけていた。

 

その隣には最愛の人で妻である女性のアイリスフィール・フォン・アインツベルンがそんな夫を心配そうに眺めつつも冷静さを失いそうなままその美しい銀の髪をなびかせている。

 

互いに切羽詰ったような表情を浮かべながら夫婦は先日家政婦から聞かされた内容を頭の中で整理していた。

 

家政婦曰く長男である士郎が突然倒れたらしい。

雨にでも打たれたかのようなほどの汗を流し、気絶してしまうほどの頭痛が彼を襲ったことしか家政婦にも分からなかったらしく。そのまま何もしないわけにもいかず、セラは迅速に士郎を近くの病院へと送り届けたようだ。

 

そんな義理の息子の事を知らされたのは三日ほど前、電話の向こうでセラが申し訳なさそうに、それでいて心配そうに言ってくれたのを覚えている。その時にセラはそうなってしまったのは自分の責任だの、子供を預かっている身でこのような失態などメイド失格だと言って家を去る勢いで謝罪していたのも記憶に新しい。

 

なんとか娘のイリヤも含めた士郎以外の家族全員で落ち着かせることは出来たもののいくつか問題があった。

 

まず一つに、切嗣とアイリスフィールの仕事が中々終わらなかったこと。家族の平穏を守るためにその身を魔術の世界に置き続ける夫婦は、その日も裏の世界で暗躍する魔術師などの討伐や聖杯戦争の証拠の隠滅、または抹消のために活動していた。途中で投げ出すことも出来ずに苦渋の決断ではあったが士郎の元へは行かずに夫婦は出来るだけ素早く(すばやく)かつ的確に仕事を終わらせていた。

 

そんな仕事も昨日で終わり、夫婦は休む暇も入れずに日本へと急いだ。

 

そして二つ目、士郎の容態が分からないこと、そして彼が三日経った今でも目を覚まさないこと。セラが言うには士郎が何故倒れたのかも気を失ったかも医者にも分からないらしい。どこを調べても、何も調べても原因不明。魔術的にも解析してみたらしいがそれでも原因が分からないらしい。

 

医者が言うには全てが謎過ぎて最悪の場合、一生目が覚めない可能性もあるかもしれないという。だがその判断も早計なので今は原因の判明と士郎の目が覚めることを祈るしかないらしい。

 

そんなことを聞かされたら急がないわけにもいかず、飛行機を降りた後、二人は荷物を自宅へと送りつけ、帰宅もせずに真っ先に士郎の下へと急いでいた。

 

タクシーを降りて運転手に代金を投げつけ、病院の者に有無を言わさず士郎の病室を聞き出した二人は怒られない程度に足早に目的地へと向かった。

 

扉の前へと到着した二人は互いに視線を交換してからゆっくりと中にいるはずの士郎を刺激しないように扉を開けた。情報通りなら士郎は寝ているはずなので刺激もなにもないはずなのにもかかわらずだ。

それはきっと信じたくもない現実が扉の向こうにあるからだろう。

 

まるで扉の向こうにある現実を恐れるように切嗣は扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

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「今日もシロウは目を覚まさなかったね。」

 

珍しく、寝転がるでもなくきちんとソファに座っているリズからそんな声が聞こえた。

 

その言葉につい先ほど士郎の病室から様子を見に戻ってきたセラは落ち込む。

 

自分が仕える主人達が日本に戻ってから数日、士郎が倒れてから一週間と少ししても未だに士郎は目を覚まさない。日に日に家族全員の顔からは不安の色が増え、妹のイリヤは笑わなくなってしまった。

 

あれだけ慕っていた兄が倒れて目が覚めないと知ればその反応も当然なのかもしれない。

 

海外から戻ってきた切嗣とアイリスフィールはそんなイリヤを出来るだけ宥め、励まそうとするがあまり効果はないらしい。当然、家政婦であるセラとリズもなんとかしようと加わるがやはり結果は変わらなかった。

 

切嗣とアイリスフィールが戻ってきた当日、二人は落ち込んだ様子で家へと帰ってきた。

その様子からしてセラとリズは思う、士郎はやはり眠ったままだったのだろうと。

家柄と二人の存在によって何かと裏の社会に狙われやすい衛宮家は今回の異変は魔術師による物なのかと思っていたがセラが調べてみてもなにも分からなかった。

なので自分と同じく魔術に詳しいアイリスフィールや家の誰よりも長く魔術と関わっている切嗣ならあるいは自分でも気づけなかった何かに気づき、それで解決できると期待はしてみたがどうやらそれも駄目だったらしい。

 

あの二人でも気づけないほどの物なのかあるいは本当に医者の言う通り、謎の病気なのかもしれない。

自分達が出来ることは出来るだけイリヤを元気付けることと士郎の目覚めを祈るのみ。

 

そんな事実がセラを襲い、日が経つ度に、士郎が眠る度に己の無力さに嫌悪する。そんな自分が顔や言動に表れていたのかアイリスフィールはやさしい笑顔で大丈夫と言ってくれていた。

 

リズは分かっているが何も言わずに暇さえあればイリヤのそばへと近づき彼女なりに元気付けようとしていた。

 

 

 

切嗣とアイリスフィールはというとどうやらしばらくの間は日本で過ごすらしい。普段であれば喜ぶイリヤであったがこの状況だからかあまり喜ぶことはしなかった。しかし、まったく意味がないというわけではなく兄がいない今は二人の存在は大きく、心の支えになっているのだろう。そのことに少しだが安心しつつ同時に不安もある。

 

もしもこのまま士郎が目を覚まさずに二人がまた海外へ飛び立ってしまえばどうなるのか。

 

この家の平穏を保つために子供との時間を削ってまで活動する二人である、このまま活動を停止させることは出来ず、士郎が眠ったままでもいづれこの家を去って行くだろう。

 

その時の対応を自分はどうすればいいのかとセラはこの頃考えていた。

 

理想はもちろん士郎が一刻も早く目覚めることではあるがその可能性ははっきりいって誰にも分からない。今の状態なら目を覚まさないことのほうが可能性としては高いかもしれない。なので最悪の場合も考慮して、セラはその時の対処法を考える。

 

その中で一番の問題はイリヤである。彼女をどのようにして精神的な負担を減らすかが難題でありそのことで頭を悩ませる。

 

 

そのような状況を想像しなければいけないことに嫌気がさすが、時間が経てばちゃんと克服できるだろうなどとそんな甘いことは言ってはいられないだろう。

 

そんなことを思いながらセラは今日も空気の重い衛宮家をすこしでも改善できるようにと料理にいつもよりも腕によりをかける。

 

 

 

 

 

 

 

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メルセデス・ベンツ300SLクーペのエンジン音を耳にしながら、今日も切嗣とアイリスフィールは士郎の眠る病院へと車を走らせる。

 

数日前から行っているこれはこのまま日課になってほしくはないなと思いながら切嗣はアイリスフィールに声をかける。

 

「今日も_」

「きっと目を覚ましてくれるわ。」

 

えっ、と言葉を詰まらせる切嗣にアイリスフィールは優しく微笑みながら言葉を続ける。

 

「だから大丈夫。そんな顔をしないで。彼は目を覚ましてくれるから」

 

どこにもそのような根拠もないのに自信満々に言う妻。

何故と問いたくなるはずがそんな気はおきず、逆に何故かその言葉が自分の中では不思議と戯言だとは思えない。

 

「君にそう言われると、不思議とそうなりそうだね。」

 

「ふふ、何故だとは聞かないのね?」

 

「うん、どうしてかな。誰でもない、アイリが言えば本当に現実になってしまうような・・・そんな気がするんだ。」

 

悪い方向へと考えてしまうのは自分の悪い癖だ、っと自嘲するように小さく笑い、切嗣は先ほどよりも幾分か晴れた表情で車を運転する。

 

「あら、そう?でもね、今日は本当にそんな感じがするの。あなたを元気付けようとは思っていた事もあるけど、今日はシロウが目を覚ます。そんな気がするの。理由をあげるならそうね・・・母親の勘って言うやつかしら?」

 

すこし照れるようにそんなことを言うアイリに切嗣はさらに気分が晴れた気がした。そして、士郎に対して自分を母親と評した事にさらに嬉しくなる。養子である士郎のことをちゃんと息子だと思ってくれていることが分かり、安心したのだろう。

 

先ほどとは違う気持ちと共に切嗣は車を病院へと急がせる。

 

 

 

 

 

 

 

士郎の病室への道もすっかり覚え、慣れた様子で二人は歩く。

衛宮士郎と書かれた表札のある部屋の前で二人は揃って立ち止まり、その扉を開ける。

 

いつものように、この扉を開けたら目が覚めている士郎がいる、とすこし期待しつつ切嗣は部屋の中へと入っていった。

 

だが、やはりと言うかそこには今も眠り続けている息子がいた。その事実に小さく落胆の息をつき隣ではアイリスフィールが同じように肩を落としていた。

 

切嗣は近くのパイプ椅子へと座り、アイリスフィールはセラが毎日手入れをしている花の水を換えに士郎の隣の台に近づく。

 

静かに士郎の顔を眺め、その顔色と規則正しい呼吸のリズムから今日も異常がなしと確認する。できれば起きているという違いがあればよかったがそんなことを言っても何かが変わるわけでもないだろう。

 

確認を終えると水を換え終えたアイリスフィールが切嗣の隣へとやってくる。そのことを確認すると切嗣は閉じていた口を開け、士郎へと語りかける。

 

「今日は近状報告と一緒に別れの挨拶にきたんだ」

 

近状報告、切嗣達が戻ってきてからいつもやっていることである。意味があることかは分からないがアイリスフィールの提案で家族の誰かが訪れたら士郎に最近起こったことやこれからやることなどを報告しようと決まったことだ。

 

「明日になったら僕達はまた日本を発たなければいけないんだ。このままずっとここにいるわけにも行かなくてね。出来れば士郎が目を覚ますまでここに居たいんだけどそうもいかなくてね。」

 

「でも大丈夫よ、また絶対にここに・・・私達の家へと帰ってくるから。」

 

「うん、だからね。その時には元気な士郎の姿を見せてほしいな。士郎はお兄ちゃんなんだし、イリヤを一人にしておくわけにもいかないだろう?もちろんセラやリズもいるけどお兄ちゃんは士郎しかいないんだから。またいつものようにイリヤのことをお願いできないかな?そしていつもみたいに僕達の土産話を聞いてほしいんだ。」

 

切嗣達が帰ってきてからすでに一ヶ月が経った。一ヶ月・・・それは士郎が眠っている時間を意味することでもある。これ以上の活動停止は厳しく、明日にでもまた仕事に戻らなければならない。だから、このように毎日様子を見ることは叶わないだろう。なのでせめて、本人が寝ていて勝手かもしれないが切嗣は自分達が帰ってくる前に士郎に起きてくれと頼む。

 

「あなた達が平和に、そして平穏に暮らせるように私達は頑張るわ、だからシロウも早く目を覚ましてイリヤちゃんのことをお願いね。まだ子供だけど私達がいなくなれば男の子はあなただけなんだから。男の子なら、ちゃんとお家のことを守ってもらわないとね。だからシロウも頑張ってね。外のことは私達に任せて、その代わりシロウにはうちのことを任せたわ。お母さんと約束よ。」

 

そう約束をして

最後に、その小さな額へと口付けをしたその時。

 

 

 

 

 

士郎の目がゆっくりと開いたのであった。

 

 

 

 

 

士郎とアイリスフィールの視線が交差し、

その事にアイリスフィールは離していた顔を止め、笑顔を浮かべながら切嗣へと振り返り、また士郎へと振り返って勢い良く抱きついた。まるで御伽のような展開と突然の事に切嗣は固まったままで、士郎自身も目が覚めたばかりだからか寝ぼけたまま、そしてまともに身体に力が入らないのでアイリスフィールにされるがままの状態で無言で周囲を観察していた。

 

「目が覚めたわ!キリツグ!シロウの目が覚めたわ!言った通りでしょキリツグ!やっぱり私の予感は当たっていたのよ!」

 

ただ一人この状況で動けていたのは士郎に抱きついたままのアイリスフィールだけだった。そんな彼女は自分の予想が的中したことと何より士郎が目覚めたことに喜びを士郎に抱きつくことで(あらわ)している。切嗣はと言うと自分も士郎に抱きつきたい衝動を抑え、妻にその役目を譲り、急いで医者に士郎が目覚めたことを伝えようとする。しかし、その行動は士郎によって遮られるのであった。

 

「爺さんと・・・・イリ・・・・・・?」

 

アイリスフィールをイリヤと間違えたのだろう。それは起きたばかりで寝ぼけている頭では仕方のないことなのかもしれない。夫である切嗣からしても娘のイリヤスフィールと妻は瓜二つと言ってもいいほどに似ている。普段の娘は髪を結んでいるので間違えることはないし体格もまだ小さい子供だが髪を解いて顔だけを見ればアイリスフィールととても良く似ている。違いをあげるとすればその体格と小さな違いだが髪の分け目だけであろう。

 

発育のことはイリヤはまだ子供なので違いには含まれない。母親があんなのだからイリヤもいづれアイリに似て美人なモデル体系になるだろうと切嗣は思っていたりする。

 

 

 

それはさておき、医者に連絡を入れる事よりも切嗣が違和感を覚えたのは士郎がイリヤとアイリスフィールを間違えたことではなく、士郎が彼女を見てどこか首をかしげるように、顎に手を添えながら見つめていることだ。そう、まるで目の前の人物が誰だか分からないというように。いつまで経ってもアイリスフィールの名を呼ばない士郎。

 

「どうしたのシロウ、そんな困ったような顔をして?まだ寝ぼけているの?」

 

アイリスフィールもその様子がおかしいことに気づいたのだろう。そしてどこか焦るように不安げな様子で士郎に問いかける。だが士郎はなにも言わず、苦い顔を浮かべながらアイリの顔を見つめ続けるだけであった。

時間が経つにつれて士郎の顔は険しくなる一方でアイリスフィールも徐々にその瞳を潤ませる。

 

切嗣は何も言わずにただその様子を眺めるだけであった。

 

様々な人と出会い、裏の世界での経験から切嗣は人の表情や声、仕草などからその者の内側を推測することに長けていた。その能力とも言えることから分かったのは、士郎は恐らくアイリスフィールの名前を忘れているということであった。

 

すくなくともまったく分からないということはないだろうが、その様子から名前が出てこないのが分かる。ここで切嗣がさりげなくアイリスフィールの名前を呼べばいいのだろうが何故かそれをしようとは思わなかった。

 

「シロウ、あなた・・・・記憶が・・」

 

涙声でアイリスフィールは恐る恐る言う。下唇を噛むようにして今にも号泣しそうな勢いだ。切嗣はそんな妻を見ていられず、すぐにでも彼女をこの場から放そうとしたその時_

アイリスフィールの様子に一瞬固まっていた士郎はゆっくりとその口を開けた。

 

「アイリさん・・・」

 

やっと出てきたその名に、アイリスフィールは今度こそ泣き出し、もう一度士郎に抱きつくのであった。切嗣も士郎がちゃんとアイリスフィールの名を思い出したことに安堵し、妻の肩に手を置く。子供のように泣く彼女を見て、士郎はそんな子をあやすように優しい手つきで彼女の頭を撫で、語りかける。

 

「すみません、大切な・・・・大切な家族の名前を一瞬だとは言え忘れてしまって。本当にごめんなさい」

 

心の底からの謝罪と悲しみの含んだその言葉には一体どれほどの想いがこめられているのか。まるで自分自身に言い聞かせるように士郎はごめんなさいと自分は最低だと繰り返していた。

 

 

 

 

 

ほどなくしてアイリスフィールはその謝罪を受け入れ、自分も病み上がりの士郎に泣きついた事を謝罪し士郎が目覚めたことに感謝した後、切嗣は遅れてしまった連絡を医者に伝えた。

 

軽い検査と士郎にいくつかの質問を聞いた医者は調査と検査の結果、問題なしと判断し、面会時間が終わるまでも一緒にいてもいいと言う許しが出て、夫婦二人に配慮して部屋を去っていった。

 

未だに士郎が倒れた理由は不明ではあるが今まで寝たきりで体力が落ちたこと以外は今のところ健康だとのこと。その結果に夫婦は安堵し、面会時間ぎりぎりまで士郎の元にいようと決めた。

 

「士郎も無事に起きたことだし、家で待ってるみんなにも教えてあげないとね。」

 

「そうね、イリヤちゃんもきっと、いえ絶対に泣いて喜ぶわ。」

 

検査が終了してからも上機嫌の二人はいそいそと携帯を取り出そうとするがここが病室だということを思い出し部屋を後にしようとする。

 

最近の病院では精密機械が置いてある部屋以外は携帯の使用は許されるのだが嬉しさでそのことさえも二人は忘れているらしい。機械にあまり詳しくないアイリスフィールはともかく、様々な文明の利器を使いこなしている切嗣までも忘れるということはそれほど喜んでいるということか?

 

だが、そんな二人を見ていた士郎は待ったをかける。

 

「爺さん、連絡は後でもいいかな?」

 

そんなお願いを聞いてくる士郎に二人は揃って首を傾げ理由を問いかけてみると、士郎は落ち着いた様子でしかし強張った表情で言う。

 

「爺さんに・・・・聞きたいことがあるんだ」

 

見たこともなく真剣な表情でこれまた感じたこともない雰囲気で言う士郎に、二人はまるで士郎が別人に見えてしまった。

 

 

 

 

 

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聞きたいことがある、

その事に切嗣は何かいやな予感がしてしまった。

裏の世界で過ごし、幾たびの戦場を経験した彼だから身についたその予感がハズれた事はない。一体まだ子供の、しかも先ほど起きたばかりの士郎に何故違和感を感じなければいけないのか。

 

何故自分は息子が持つ疑問に恐れなければいけないのか?

 

 

「聞きたいこと?それって何シロウ?」

 

内心焦っている切嗣とは違いアイリスフィールは自分の知っている士郎との違和感が残ったままだが素直に聞き返す。そんな妻の問いかけに切嗣は更に焦り、思わず止めようとするがもう遅い。

士郎は決心したように頷くと初めて会ったときと同じような空虚な瞳で切嗣を見つめた。

その瞳が自分を咎めるような攻めるような視線のようで切嗣は更に居心地が悪くなり、金縛りにあったように両足は地面に縫い付けられていた。

 

「今更かもしれないし、突然だとも思うけど。爺さんはさ・・・・・なんで_____俺を引き取ったの?」

 

その問いに切嗣だけではなくアイリスフィールも固まる。

何故このタイミングでしかも目覚めた後に問うのか、

何故今になってそのような疑問がわいてきたのか、

 

疑問は色々あるが切嗣はとりあえず答えることにした。

 

「なんでって、そりゃぁ士郎を家族にしたかったからさ」

 

まだ幼い士郎にはこれくらいの答えがいいだろうと、切嗣は思った。もちろん嘘だというわけでもなくちゃんとした本心である。だが、その答えは士郎が聞きたかった答えとは違っているとは切嗣はまだ知らない。

 

「アイリさんも?」

 

自分にも聞かれるとは思わなかったアイリスフィールだったがすぐさま切嗣同様に答える。

 

「えぇそうよ、あなたを息子にしたいと思ったから、イリヤのお兄ちゃんになってほしかったからあなたを引き取ったのよ」

 

いつものような雪原に反射する太陽のような優しい微笑で言うアイリスフィール。そんな二人の様子を見て、士郎はそれが嘘ではないことが分かった。

 

しかし、それが全てではないとも同時に思った。

 

「そう・・か。うん、そうみたいだけど。ねぇ爺さん?」

 

「なんだい士郎?」

 

「もしかして・・・だけどっさ、自分の罪悪感から逃れるために、俺を引き取ったんじゃないの?」

 

「っ!?」

 

その瞬間、病室を支配したのは不気味なほど静かな間であった。

まるでこの部屋一帯の時が止まったかのような感覚。

切嗣は驚いた様子で士郎を見つめており、アイリスフィールも夫同様に驚愕していた。

 

「そっそれは一体どういう_」

 

「俺が覚えている最古の記憶は数年前に起こった大火災での光景なんだ。」

 

切嗣の言葉を遮って、士郎は己の記憶を語り始める。

その内容に切嗣だけではなくアイリスフィールも表情を驚きの色で染める。

切嗣たちの記憶が正しければ士郎は大火災での記憶を_いや、病室で初めて会ったとき以前の記憶をまったく持っていなかったはずだ。最初にそのことを聞いた時に切嗣たちはよかったと思ってしまった。そんなことを思ってしまった自分達に嫌気がさすが、まだ小さい士郎にトラウマなど抱えてほしくなかったし、何より自分達の罪を覚えていないというのは少なくともそれを語られることがなくそれによってこちらが傷つくことはなかったと言う事だ。自分達の罪をなかったことにしようなどとは思わなかったが、覚えていない事実は切嗣達にとっては幾分か心にダメージを負わずにすんだはずだったが_

 

しかし、目の前の息子はそれ以前の記憶になるであろう大火災でのことを覚えているといっている。そのことがどうしたというかもしれないが、もしも自分達が知られて欲しくないようなことを知っていたらと思うと切嗣達はゾッとする。

 

「苦痛と息が出来なかったことは覚えているし、見渡す限りに広がるのは誰かの死と炎だけ。」

 

やめてと、これ以上言わないでくれと思う二人であったが、そんなことを言ってはいけないのは分かっていた。これは今まで先延ばしにしていたことのつけが回ってきたのだろうと、そう思った。

 

「その中でも覚えているのは地獄の中で伸ばした俺の手を握った二人の顔なんだ。」

 

「救われてるのは俺のほうなのに、まるで俺が救われることで自分が救われたような表情を浮かべる人が二人いてな。」

 

「その顔がさ、どうしようもなく美しく思ったんだ。」

 

「でもさ__」

 

 

 

 

__なんで二人は救われたような顔をしなければいけなかったの?

 

 

 

またしても空気が凍るような感覚が二人を襲う。

その答えは自分達が一番良く分かっている、

 

なぜ、救っているはずの自分達が逆に救われたような表情を浮かべたのか。

 

なぜ、士郎を引き取ろうと思ったのか。

 

答えはある、だがそのことを自ら暴露しようとはどうしてもできなかったししようとも思わなかった。言ってしまえば何かが壊れてしまうような気がしたから。

 

しかし、現実は非情であり士郎は言葉を続ける。

自分達が恐れていたことが現実になってしまっていた。

 

 

「あの事件ってもしかして・・・・・切嗣達も関わっていたりするの?」

 

 

その言葉が発せられると、切嗣とアイリスフィールは息をするのも忘れて顔を青ざめる。

それが答えを表す事だと言うことも忘れて二人は取り乱す。

 

これ以上続けても二人を傷つけるだけだろうと言うことは分かっているが士郎はこの後にどうしても聞きたいことがあった。確かに二人が本当に関わっているのかは知りたいことではあるが二人が関わっていようがなかろうが士郎にはあまり大きな問題ではなかった。

 

聞きたいのはそのことではない。

 

「自分達が助けることが出来た俺を、その成果を・・・手元に置いておきたかっただけなのか?」

 

ついに耐えられなくなったのかアイリスフィールが声を荒げながら否定するように言う。

 

「いいえ違うわ!違うの!違うのよシロウ!切嗣は、私達は決してそんな・・・そんな理由であなたを引き取ったわけじゃないの!あなたを成果だなんて思って、物のように扱ったなんてそんなことあるはずが・・・あるはずがないのに。違うの・・・・違うのよ・・・・」

 

後半になるにつれて、アイリスフィールの声から力が抜け、両の瞳からは涙がぽろぽろと流れ落ちる。自分で口にすることで今まで気づかなかった、気づきたくなかった己の内側をしってしまったアイリスフィールはゆっくりと力なく崩れ落ちるのであった。

 

そんなアイリスフィールの隣で、切嗣はアイリスフィールの言葉を聞いて己に自問自答を繰り返す。

 

アイリスフィールが先に声をあげなかったら自分がそうなっていたであろう事は容易に想像できた。しかし、アイリスフィールが先に言ってしまったこともあり切嗣は彼女ほど取り乱すことはなく幾分か冷静なまま士郎に言う答えを探し出す。

 

嘘や誤魔化しは何も解決しない、ただ状況を悪化させるだけ。ならば今の自分が出せる心からの本音で答えるしかない。その結果が最悪の結果になる恐れもあるがこうするほかには今の切嗣には思い浮かばなかった。

 

「士郎」

 

 

 

「そう・・・なのかもしれない。いや、きっとそうなんだろうね。士郎の言う通りだ。せめてもの罪滅ぼしと、自分達の罪悪感をすこしでも和らげるために士郎を引き取る事にした。」

 

自白する切嗣の隣では、アイリスフィールが今もなお泣き続けている。切嗣の告白を聞き、さらに泣き出しているのかもしれない。

 

「でもね士郎、確かにその通りではあるけど、さっき言った答えも嘘じゃないんだよ。信じてくれるかは分からないけど、僕は、アイリは君と家族になりたいと思ったんだよ。」

 

「士郎のことも本当の息子のように思っているしイリヤと同じくらいに愛してもいるよ。」

 

「えぇ、私もキリツグと同じよ。もう誤魔化そうとは思わないわ。ごめんなさいシロウ・・・確かに罪悪感から始まったかもしれないけど、私は・・私達は今でもあなたを家族と思っているし愛しているわ!」

 

切嗣の言葉を聞き、少しは回復したらしいアイリスフィールはその顔を涙でぬらしたまま力強く断言した。

 

そんな二人の答えを聞いた士郎は無言で二人を見つめたままであった。

 

 

 

しばらくしてから士郎は小さく微笑み、突然二人に頭を下げた。

 

 

 

突然の行動に意味が分からなく夫婦二人は互いに視線を交換する。

そんな二人に目もくれず、今もなお頭を下げる士郎は言う。

 

「意地悪なことを言ってごめん。だけどどうしても二人の本音が聞きたかったんだ。二人が罪悪感から俺を引き取ったとしても、俺は二人には感謝しているし愛していると胸を張っていえる。二人を傷つけたことは分かっている。だけどやっぱり気になって仕方なかったんだ。それに、二人にはずっと逃げていて欲しくなかった。俺も家族が大好きだからさ、二人には逃げていて欲しくなかったし、俺ともなんの後ろめたさもなく接して欲しかったんだ。二人に愛してるといってもらえて俺は嬉しいよ。だからさ爺さん、アイリさん、俺からも言わせてくれ。」

 

そう区切り、士郎は顔を上げる。

その顔には滅多に目にすることはなかった_いや、恐らく今まで見たこともないような_士郎の笑顔が浮かべられていた。

 

「ごめん、そしてありがとう。」

 

その言葉に、今度は切嗣とアイリスフィールの両方が士郎に抱きつき、瞳から涙を流していた。その事に士郎はいい大人がなにやってるんだよと照れ気味に言うがそんなことは知ったことかと二人は士郎を抱きしめ続けた。

 

 

 

 

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そんな互いの心のうちをさらけ出した3人は、今は落ち着いた様子で別れの挨拶を告げようとしていた。面会時間ももうそろそろで終わり、窓から見える光はオレンジ色へと変色していた。

 

「じゃぁね士郎、目が覚めて、本当の事が言えて本当によかったよ。」

 

「私もよシロウ。それとあなたが息子で本当に嬉しいわ。明日には私達はいないけどイリヤちゃんの事、お願いね。」

 

「あぁ、俺もよかったと思ってるよ。イリヤや家の事は任せてくれ。」

 

お互いに満足な、それでいて晴れた気分で別れられるとおもったが_

 

「あっそうだ爺さん、最後に聞いてもいいか?あっいや、そんな身構えないでくれよ今度のはさっきみたいな質問じゃないからさ。たださ、爺さんの()の夢って・・・・一体なんなの?」

 

いきなりの質問に切嗣は疑問を浮かべるが、その質問に切嗣は小さく微笑んで即答する。

 

「僕の夢はね、家族の味方になることさ。そして、家族の平穏を保つこと。」

 

なんの恥ずかしげもなく切嗣はそう答えた。その答えを聞いた士郎もまた、小さく微笑み、満足そうな笑みを浮かべながら切嗣に言う。

 

「そっか、なら大丈夫(・・・)だな。だったら安心してくれよ爺さん。ここを離れることになる爺さんには家を守ることは難しいだろ?仕方のない事だってのは分かってるさ、あぁ仕方ないな、本当に。だから安心してくれ」

 

 

 

 

「爺さんの夢は、俺が一緒に手伝ってやるからさ」

 

 

 

 

そう答えた士郎にアイリスフィールは嬉しそうに微笑み、切嗣は驚いた表情から少ししてアイリスフィール同様に微笑む。そして、どこか満足そうな顔でかつての別の世界の自分と同じようにしかし、その者とは違い、元気に、力強くそれでいて安心したように言う。

 

 

「あぁ、安心した。」

 

 

 




この後、無事に退院した士郎を迎えたのは泣きじゃくり、抱きついてくる妹と照れくさいがしかしやっぱり我慢できなくなった家政婦が抱きついてくるという大変なものであった。

だが、更に大変なことに妹が数週間は兄の元を離れることはなかった。どこに行くにしても士郎にべったりになり、まるでコバンザメのように四六時中士郎と共に過ごしていた。その事に多少苦笑いを浮かべる士郎であったが別にやめさせることはしなかった。さすがにトイレまでついていこうとしたときは止めたが。



次に、学校に復帰してみればクラス全員の名前を忘れてしまったことで大変な目にもあったりする。だが何故か藤村大河の扱いが完璧になって戻ってきていたことに周りのみんなは首を傾げていた。

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