ロアナプラ鎮守府   作:ドラ夫

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 “諸君等は人が争いを止めない愚かな生き物だと言うが、一体いつから争いが愚かな行いになったのか。
 天を、地を、海を、世界を見てみるといい。争いが行われていない場所などないではないか。
 にも関わらず、世界はこんなにも美しい”



              ──不知火


03 瑞鶴

 この鎮守府は頭がおかしい!

 私──瑞鶴は、この鎮守府に来て以来そればかり思ってる。

 だってここの鎮守府の艦娘ときたら、ほとんどの人が楽しんで拷問したりされたり、クスリをキメてるのよ! 普通じゃあないわよね!

 しかも着港した時、提督さん──提督閣下に、翔鶴姉が先に着港していると教えてもらって──ご教授いただいて、ウキウキしながら行ってみたら、翔鶴姉は◯◯◯◯をしていた。

 私がビックリして悲鳴をあげても、翔鶴姉は御構い無しに◯◯◯しまくった。むしろ、一層激しく◯◯◯を◯◯◯◯しだした。更には◯◯をまるで◯◯◯の◯◯みたいに◯◯◯◯しだして──やめた。これ以上は気分が悪くなっちゃう。

 

「瑞鶴、準備は出来たの?」

「う、うん!」

 

 翔鶴姉は◯◯◯◯をしていない時は、この鎮守府の中では比較的マトモだ。というより、空母の人達は結構マトモ……かなあ。もしかしたら私の感覚が狂いだしてるのかも。いや、重巡洋艦とかは、一人残らず狂ってるって分かるし、多分大丈夫。

 これは多分、トップに立つ人の差ね。

 この鎮守府では、一番上に提督さん──提督閣下がいて、その下に旗艦のあの人、その下に船種ごとの筆頭がいる。ぁ、秘書艦は筆頭と同じ扱いね。

 力こそ正義のこの鎮守府でトップに立つということは、その人が最強という証。だから、上の人には誰も逆らわない。中々うまい制度だよね。

 空母のトップは赤城さん。

 あの人は駆逐艦とかのほかの筆頭とは違って真面目だから、あんまり風紀が荒れない……んだと思う。

 

「それじゃあ、行きましょうか」

「ぁ、翔鶴姉! 上納金忘れてる!」

「あら、ホントね。危ないところだったわ。ありがとう、瑞鶴」

 

 今から週に一度の正規空母定例会。

 提督さん──提督閣下はあまり指示を出してくれない──御命令を下さらないから、船種ごとに方針を決めて、日々の業務をこなしてるの。

 その時に、赤城さんに上納金を納めなくちゃならない。一人当たり週に大体二百万くらい。私は今でもちょーっと高いと思ってるんだけど、他の船種はもっと高いみたいだし、我慢することにしたんだ。

 ちなみにこの上納金は、翔鶴姉がお風呂とかお洋服で稼いでるんだって。その二つでどうやって稼いでるのかはよく分からないけど、前にソープとSMがどうのこうのって言ってた。

 

「……入りなさい」

 

 部屋の前に立つと、ノックするよりも前に加賀さんが声をかけてきた。

 気配を読んだのかな、それとも呼吸音か心臓の鼓動音を聴いたのかな……足音はたててないはずなんだけど。私達の隠密スキルもまだまだ。

 部屋に入ると、もう他の空母は集まってた。

 右手最奥に赤城さん、その対面に加賀さん。赤城さんの右隣に飛龍さん、その隣に蒼龍さん。

 翔鶴姉が加賀さんの右隣に座って、私はその隣。

 そして今まで立っていた──ここでは権力()のない者は上位者が座るまで直立していなければならない──大鳳さんが蒼龍さんの隣に座って、続いてグラーフ・ツェッペリンさん、雲龍さんが座る。

 それで最後に私の隣に葛城が座って、空母一同勢揃い。赤城さんの左手側──上座の方には紫色の座布団が置いてあるけど、空席。あそこは提督さん──提督閣下が座る席だから。

 

「それでは、正規空母定例会議を開きます」

 

 司会を務めるのは加賀さん。

 筆頭である赤城さんは、目を瞑って黙ってるだけ。

 提督さん──提督閣下もそうだけど、本当の上位者はあまり言葉を発さない。そうするまでもなく、彼らを慕う者達が済ませてくれるから。

 

「ですがその前に、赤城さんが正規空母筆頭である事に異議のある人はいますか……?」

 

 ピシリと、空気が張り詰めた。

 ツゥーっと汗が首筋をつたり、背筋に氷柱が差し込まれる。

 提督さん──提督閣下の計らいで、週に一度筆頭に挑戦する権利がもらえて──与えていただいてる。提督さん──提督閣下のご慈悲を無駄にする訳にも行かないから、毎回聞いてるんだけど……空気が凍るから正直やめて欲しい。

 重巡洋艦や戦艦は毎回挑戦者が出てるみたいだけど、正規空母からは一度も出たことが無い。

 どうしてかって?

 バカね。赤城さんに戦いを挑むなんて、死にに行くようなものだからよ。

 赤城さんは正規空母次席の加賀さんより、遙かに強い。この鎮守府で──今はいない、旗艦であるあの人を除いた場合──最強候補の一人だ。

 そんな彼女に戦いを挑むなんて、考えただけで生きた心地がしなくなる。

 

「みなさん異存ない様ですね。では──」

「みなさん? 待っていただけますか」

 

 赤城さんが加賀さんの言葉を遮った。

 空気が凍る音が聞こえた。

 

「加賀さんが私に挑むのか、誰も聞いていない様な気がしますが」

 

 底冷えする様な圧力が、部屋の中に充満した。

 横で新人の葛城が吐きそうになってた。何やってんのよ! 今音を立てたら、殺されるわよ! そんな目で見ても、私は庇えないから、死ぬ気で耐えなさい!

 

「わ、私は、赤城さんが筆頭である事に疑問は覚えないわ」

「そうですか。話を止めてしまってごめんなさいね。少し気になったものですから」

「ええ、ええ。……大丈夫よ。大丈夫。気にしてませんから」

 

 圧力がサァーッと引いた。いつの間にか呼吸を止めちゃってたみたい。空気が美味しいわ。葛城なんか過呼吸になっちゃってるし。ホント、赤城さんはおっかない……

 

「ふぅー……。それでは、議題に移らせていただきます。先ず最初に今週の討伐目標ですが、鬼及び姫型が三〇〇、空母型が一〇〇〇、戦艦型型が同じく一〇〇〇、軽空母型が一二〇〇、重巡洋艦型が同じく一二〇〇、軽巡洋艦型が一八〇〇、駆逐艦型が二〇〇〇となっています。質問がある方は?」

 

 誰も手を上げない。前と大して変わってないし、当たり前か。

 これは毎週ごとの、各自の討伐目標。その最低数値。要は、少なくともこれだけは倒して下さいねーってコト。ま、いつもやり過ぎてオーバーしちゃうんだけど。

 提督さん──提督閣下に捧げる贄は多ければ多いほどいいし、深海棲艦のゴミ共を殺すのは良い事だし、問題はないわよね。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「アウトレンジ、決めちゃうわよ!」

 

 “第一スロット”の矢を番えて、深海棲艦の群れに放った。続いて“第二スロット”、“第三スロット”、“第四スロット”と続けて放つ。

 正規空母や軽空母には、大体四つの“スロット”があるの。その“スロット”に搭載できる艦載機の数があって、“スロット”の矢を放つとその分だけ艦載機が飛ぶ──ってちょっと分かりにくいわよね。

 そうねー。例えば、私の“第一スロット”の艦載機搭載数は四四八二。つまり“第一スロット”の矢を一つ放てば、四四八二の艦載機が飛んでいくわ。

 ちなみに“第二スロット”が三一六八、“第三スロット”が一五八四で、“第四スロット”の搭載数だけすこし少なくて七九二よ。つまりは一回の戦闘で、九九九〇機の艦載機を放てるわけ。

 ちなみに赤城さんは、一五五四〇の艦載機を同時に放てるわ。頭可笑しいわよね。

 

「妖精さん、リンクお願い」

 

 妖精さんの力で、私と全ての艦載機との意識がリンクされる。

 九九九〇の艦載機を同時に操作しないといけないから、少し大変なのよね。戦闘機とか爆撃機とか攻撃機とか、艦載機によって役割も違うし。

 とりあえず西方海域と南方海域全てに艦載機を飛ばして、一斉爆撃。

 ──うん、全滅ね!

 やっぱり鎮守府に居ながら海の屑どもを一方的に皆殺しに出来る、アウトレンジ戦法こそが最強よね!

 ホントは中部海域にも艦載機を飛ばしちゃいたいんだけど、今あそこには軽空母筆頭の鳳翔さんがいるから、おわずけ。鳳翔さんの“アレ”に巻き込まれるのは、正直赤城さんと戦うより嫌かも……

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 不覚だわ!

 深海棲艦を嬲り殺しにしてたら、いつの間にか夜が明けて朝、を通り越して昼になっちゃってたの!

 昨日の夜は加賀さんと一緒に寝る予定だったのに……

 ほんっと、深海棲艦の連中ときたらロクなことしないわね!

 しかもこのままだと、お昼ごはんにすら遅れちゃう。

 お昼ごはんの時、たまーに提督さん──提督閣下が食堂に来る──いらっしゃる事があるのよ。その時全員が揃ってなかったら不敬だから、私達はお昼ごはんを食べる時間を統一してるの。無法者の重巡連中も、この時間だけはキッチリ守るって言ったら、どれだけ重要なことか分かるかしら?

 ちなみに守れなかったら、二週間懲罰房よ。正直、提督さん──提督閣下に不敬を働いた罰としては、軽すぎる刑だと思うけど……それ以上だと業務に支障を来すから、しょうがないのよね。

 

「きゃぁ! ちょっと、気をつけなさいよ!」

 

 目の前を、何かが物凄い勢いで駆け抜けていった。

 まったく、きっとまた駆逐艦の悪ガキどもね!

 後ろ姿を見れば、案の定夕立だったわ。注意しようと声をかけようとした、その瞬間──“カチリ”。

 何かを踏み抜いたような音。次の瞬間大爆発。まあ、地雷ね。

 

「ゲホッ、ゲホ!」

 

 地雷を受けて咳き込む夕立。

 危なかったわ。もし夕立が先に行ってくれてなかったら、私が地雷を踏み抜いてお洋服が汚れちゃうところだったじゃない。

 

「に、偽の情報を掴まされた……!? し、時雨ェ!」

 

 あー、今日の秘書艦は夕立なのね。それで時雨がその座を奪う為に、夕立を大破させようとした、と。

 不味いわね。だったらこの程度(地雷)じゃ済まない。駆逐艦の装甲は薄いとはいえ、地雷程度では青あざ程度だ。

 壁と床と天井からロケットランチャー、ガトリングガン、ライフル──様々な武器が出てきた。時雨が明石に頼んでつけてもらったのね。

 一斉掃射。

 火薬に混じるこの臭いは……毒ね。最近明石が発明した、5mgくらいで日本が鬼畜米国が滅ぶやつ。毒で私達を殺すことは出来ないけど、再生を遅らせる事くらいは出来る。

 上から天井を突き破って、ミサイルが降ってきた。夕立に見事命中して、キノコ雲が上がった。

 あのミサイルは、不知火が神の存在しない事を証明しようとしてゲシュタルト崩壊を起こして自殺しようとした時に輸入したやつかな。在庫がはけて良かったわね、大淀。

 

「あっ」

 

 ソニックブームで私のツインテールの片方が切れちゃった! 直ぐに生えて来るけど、頑張ってお手入れしてる髪が切れちゃうのは、やっぱり面白くない。

 また何処からかミサイルが飛んできた。これ以上はお洋服が汚れちゃうし、何よりもう片方のツインテールが切れちゃうのは嫌だ。

 私はほんの少し急ぎ足で、食堂に向かった。

 昨日の夜セ◯クス出来なかったし、食堂で加賀さんに抱いてもらおっと! いや、たまには私が抱くのもありかな……

 でも同じ鎮守府に住む者同士で殺し合うなんて、ホント何考えてんのかしら。やっぱりこの鎮守府の艦娘達は、頭がおかしいわね。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 私の機嫌は、ここ最近で一番悪かった。

 昨日食堂で加賀さんのア◯ルを犯して、その後提督さん──提督閣下の話を聞いた──お言葉を頂戴した時までは最高の気分だった。

 その後お返しとばかりに加賀さんに「瑞鶴バリアー」されたのも許す。

 でも次の日、翔鶴姉が訳の分からないレースに参加してた事は許せない! しかもその日の秘書艦だった鈴谷が、演習で負けたっていうのも、正直気にくわないわ!

 提督さん──提督閣下は非は自分にあるって言ってるけど、この世で最もお優しい方だ。鈴谷を庇うためにそう言ってるに違いない。だって提督さん──提督閣下は頂点に立つお方、負けるはずがない。鈴谷の落ち度に決まってる。

 鎮守府のみんなもそう考えてるみたいで、昨日の夜から殺気立ってた。まあ、自業自得よね。

 

「おっ、瑞鶴じゃん! チィーッス!」

 

 ──はっ? 殺すぞ?

 おっとと。危ない、危ない。廊下で心構えなしにバッタリあったものだから、うっかり鈴谷を殺すところだった。

 こんな奴でも提督さん──提督閣下の所有物。傷つけるわけにはいかない。ほんっと、お互い殺しあってる奴らはその辺りのことどう思ってんのかしら? 分かっててやってるんだったら、頭可笑しいわね。

 私は鈴谷の首に手をかけそうになるのをグッと堪えて、一緒に朝ごはんを取りに食堂に向かった。

 今日は私が秘書艦の日だ。ホントはもっと朝早くから提督さん──提督閣下のトコロに行きたいけど、提督さん──提督閣下は朝に弱いから。

 私はたっぷり朝食を摂った後、提督さん──提督閣下の部屋の前に来た。

 提督さん──提督閣下って、もう面倒くさい! 赤城さんの方針で、空母は提督さんの事を提督閣下と呼ぶ様統一されてるけど、私はそんな必要まったくないと思う。

 提督さんはお優しい方。呼び方一つ、話し方一つで怒るような事は絶対にない。

 鈴谷なんかは提督さんの前だと喋り方とか態度を普段のギャルっぽい感じからガラッと変えるけど、敬意はそんなところじゃなくて、普段の行動に出ると思う。

 はぁ……やっぱりこの鎮守府にいる人達は、頭が変だ。

 唯一話が分かる提督さんと、この鎮守府にいる艦娘達の頭の可笑しさについて語ろっと。

 私はウキウキして、ノックもせずに執務室に入った。

 そしたら敵襲と勘違いした闇に潜む者達──潜水艦にボコボコにされた! ホンット、この鎮守府は頭がオカシイ!


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