結構早い段階で主人公を利用しようとする学園外勢力が出てきている形になります。この内容が今後どうなっていくかは作者にも分からない(こら
第九話:動き出す不穏な影
紫陽花「よいしょ……」
朝一番に電話が来たかと思えば、相手は結城だった。
確認はしてみたが、どうやら先方の勘違いだったらしいとのこと。
だが、万が一のこともあり、念のため3日間滞在して欲しいそうだ。
確認は1日に一回、当初の調査指定座標周辺の撮影でOK。
その後の時間は特に指定はなく、自由にしておいてくれとのことだ。
つまりは、結構な空き時間が出来るということになる。
紫陽花「そっちはどうだー?」
姫「こちらは大丈夫ですわ」
自由「こっちも必要な分は撮り終えましたよ~」
刀子「ちょ、ちょっと待て!」
刀子「すぐに終わらせる……」
紫陽花「焦んなくていいって、これ済んだら自由時間みたいなもんなんだし」
刀子「う、うむ……」
自由「刀子先輩、ホントそういうの苦手っすよね……」
自由「ほら、ここの小さな窓を覗いてみてください」
刀子「おおっ!? 何やら妙な模様が見えるぞっ!」
自由「それがファインダー越しの世界っす」
自由「その状態で、自分の撮りたい物を視界に入れてボタンを押してみてください」
刀子「ボタン?」
紫陽花「持ってる状態で、ちょうど右手の人差し指ぐらいに出っ張りあるだろ?」
刀子「こ、これか?」
刀子「では……せぇいっ!」
何やらご大層な掛け声とともにカメラのシャッター音が小さく響く。
当の本人はその際に出た音と光に驚いてすっ転んでいるが。
おっかなびっくりでカメラをこねくり回す支倉に手を貸す。
紫陽花「大丈夫か?」
刀子「う、うむ……かたじけない」
紫陽花「どれどれ……うん、ちゃんと撮れてるな」
刀子「本当かっ!」
姫「ええ、綺麗に撮れていますわ」
刀子「ふ、ふふ……これで拙者も『かめらますたぁ』だなっ!」
自由「なーに言ってんすか、それはまだ機能のほんの一部っすよ?」
刀子「ぬなっ!?」
姫「そうなんですのっ!?」
自由「お、お嬢まで……」
紫陽花「まあまあ、とりあえず仕事は済んだし飯にしよう」
刀子「おおっ! 今日はどんな内容なのだっ?」
荷物からレジャーシートを引っ張りだしながら苦笑い。
実は、初日に提供した弁当がえらく気に入られていた。
そのせいか3人から『昼は作って欲しい』と頼まれていたのだ。
中でも支倉は俺の作った煮物がドンピシャだったらしい。
昨日の内に3回も念を押すほどにリクエストを貰っていた。
支倉ほどじゃないにせよ、野薔薇や小鳥遊も楽しみにしてくれていたようだ。
すでに箸を持って待機してるもん。
……誰か準備を手伝おうというやつは居ないのか。
紫陽花「おまたせ」
3人『おおーっ!』
とはいえ、実は俺もこの時を楽しみにしていた。
料理はもともと、生きるために覚えたものだ。
だけど、昨日野薔薇達が美味そうに食ってくれたのが嬉しかった。
俺もまた、皆に弁当を振る舞うこの時間を楽しみにしてたわけだ。
内容ももちろん気合を入れて作ってある。
料理する場所を提供してくれた宿泊先は調理器具も使いやすく充実していた。
そのかいもあって、ついつい本腰入れて作ってしまったのだ。
米なんかこれ、窯焚きだからね!
紫陽花「よし、それじゃあ……」
一同『いただききますっ!』
自由「じゃ、自分はこれいただきっす!」
刀子「こ、こら! それは拙者が狙っておったのだぞっ!」
自由「ひゃわいふぉのふぁちでふよ~……」
紫陽花「こらこら、食いながら喋るな」
自由「……ごくん」
自由「いやあ、すいません。つい」
紫陽花「まあ、喜んでもらえるなら嬉しいが……」
紫陽花「後、支倉。多めに作ってるから安心しろ」
刀子「そ、そうかっ!」
やれやれ、まるで餌付けをしているつばめのような気分だ。
微笑ましいなと思いながらも、ほとんど同い年なんだよなと変な気分になる。
なんなんだろう、この大きなお子さん預かってます感は。
それに引き換え、野薔薇はさすがというべきかしっかりしていた。
箸を使えたのは少し意外だったが、器用に里芋を掴んで口に運ぶ。
その顔がふにゃりと崩れたのを見て、俺も自然と頬が緩んだ。
紫陽花「結構しっかり炊いたから美味いだろ?」
姫「ええっ、味がしっかりついていて……優しい味ですわね」
紫陽花「だろ? 時々食べたくなるんだよ、それ」
自由「お嬢、煮っころがしも捨てがたいっすが、この玉子焼きもヤバイっすよ」
自由「甘いのしょっぱいので作ってくれてますし」
紫陽花「ああ、意外と好みがわかれるからな」
刀子「拙者的にはやはり、この筑前煮を推すでござるっ!」
刀子「ああ……でも握り飯も捨てがたい……」
紫陽花「白米は窯焚きさせてもらったから昨日より美味いだろ」
刀子「うむっ! これならいくらでも入りそうだ」
紫陽花「頑張った甲斐があったよ」
いやあ、ご飯を作って食べるだけが料理だと思ってた頃が懐かしい。
こうして作った料理を美味しいと言って食べてもらえる。
些細な事だけど、作る側にとっては嬉しいもんなんだよな。
しばらくそれぞれが思い思いの料理に手を伸ばす無言の時間が続く。
そして、ふと思い出したように支倉がこちらを見た。
刀子「しかし、今回の件……柊殿はどう思う?」
紫陽花「ん? うーん……」
正直に言えば、かなり胡散臭いものを感じる。
というのも、グリモアに発令されるクエストはいい加減には出来ない。
例えば発令で指定された場所がまったく違った場合だが。
言うまでもなく、大変な事態になるのはわかるだろう。
今回はたまたま、害のない内容だったから良かったものの。
などと思ったりはするが、下手に不安を煽るのもいかがなものか。
紫陽花「ま、人間なんだし間違いの一つくらいあるんじゃないか?」
結局、大丈夫だろうということで納得していただこう。
下手に深刻になりすぎて、いざって時に動けなきゃ意味が無いからな。
案の定、野薔薇と支倉は渋い顔をしていた。
刀子「うむ……」
姫「そう言ってしまえばそれまでなのですが……」
紫陽花「たまたま、珍しい事が俺たちに当たったってだけさ」
自由「まー、柊先輩はちょっと楽観視しすぎてるっすが……」
自由「お嬢と刀子先輩は深読みしすぎじゃないすかね?」
刀子「お前も柊殿と変わらんだろう……」
自由「考えても無駄っぽいから考えないだけっすよ」
自由「今頃、生徒会の人たちが色々動いてるんじゃないですかね?」
紫陽花「ああ、原因究明とかも兼ねてしっかり調査するってさ」
自由「でしょう? なら今は旅行にでも来たと思うことにしましょーよ」
刀子「呑気な……」
姫「ですが、自由の言うことも一理ありますわね」
姫「この後は時間ができてしまうわけですし……」
紫陽花「そうなんだよなあ」
義務付けられているのはせいぜい、日に一回の現場の写真撮影。
それさえ終えてしまえば特にと言ってすることはない。
どうやって暇をつぶそうかと思っていたときだった。
自由「じゃあ、折角ですから観光していきましょーよ!」
紫陽花「観光?」
いいことを思いついた、といわんばかりに目を輝かせていた。
タコさんウィンナーをつまみ上げたまま。
観光……確かに、たまたまとはいえこの近くは観光地になっている。
観光かー……今までそういうのと縁がなかったんだよな。
ぶっちゃけるとかなり興味があります。
刀子「観光というが……自由、我々は任務でここに来ておるのだぞ?」
姫「魅力的な提案ですが、ちょっと不謹慎すぎるのでは?」
紫陽花「いや、結城には空いた時間は好きにしてくれと言われてるんだよな」
紫陽花「不手際で妙な事に巻き込んでしまったからと」
自由「ならいきましょーよー!」
自由「刀子先輩もお嬢も、おみやげ屋を物欲しそうに見てたじゃないっすかー」
姫「なっ、何のことかしら?」
刀子「な、ななな、何のことやらさっぱりだなっ!」
紫陽花「その反応でバレバレだぞ、二人共」
姫「ち、違うんですのよっ?」
姫「確かに、綺麗な置物が気にはなりましたけども……」
刀子「そ、そうだそうだ!」
刀子「拙者だって刀剣屋が気になっておったわけじゃないからなっ!?」
紫陽花「……二人って面白いな、小鳥遊」
自由「でしょ?」
『どういう意味っ!?』と二人に言われたが揃って口笛でごまかす。
隠し事が出来なさそうな二人だ、いい意味でも悪い意味でも。
ともあれ、二人は分かりやすい反応を見せてくれた。
なんとなく彼女たちが行きたいであろうところにも目星ついたし。
紫陽花「小鳥遊はどうなんだ?」
自由「自分っすか? うーん……」
自由「ま、適当に二人をいじりつつ楽しむ感じっすかねえ」
紫陽花「そういや小鳥遊ってゲームが趣味だったもんな」
自由「ええ、埋め合わせは旅館での狩りゲーでお願いしますよ」
ちゃっかりしてるなー、とか思いながら頷いておく。
なんだかんだとやってるとは聞いたがどの程度の強さなのかしらないからな。
もしかしたら俺よりもはるかにうまいかもしれない。
とりあえずこの後は町へ降りて軽く観光かな。
そこまで考えがまとまったところで、弁当箱は空になった。
細かい場所は省くが、今俺達が来ている場所は京都だ。
山があるような所から離れて町中にくれば結構賑やかなもので……。
気になって調べてみれば結構な観光地が存在するらしい。
ほとんどが寺とかだったりするのは仕方ないが。
パンフレットに載っている内容が多くかなり迷った。
その中で野薔薇さんが一番反応したのがガラス細工のものだ。
職人手作りの品、と謳われた紹介文に薔薇の模様の作品が置かれていた。
薔薇が大好きな彼女のことだ、かなり心惹かれたのだろう。
一方、支倉の方は映画村のページに釘付けだった。
ああ……こっちも連れてってあげないと可哀想なくらい分かりやすい。
小鳥遊の奴は自然体で、『こんなところがあるんすねー』という反応だ。
多分、彼女は帰ってから行われるだろうゲームの時間が楽しみなんだろう。
……腕落ちてなければいいけど。
紫陽花「今日含めて3日あるわけだし、野薔薇たちで行き先を決めてくれ」
姫「えっ、柊さんはよろしいのですか?」
紫陽花「んー、俺はこうやって皆と遊びに行くのも久しぶりでさ」
紫陽花「ついていくだけでも満足っていう感じだ」
自由「……」
姫「そうだったのですか……では私はこのガラス細工を見に行ってみたいですわね」
刀子「ガラス細工、ですか?」
姫「ええ、同じガラスでもこのように美しい物が作れるようです」
刀子「ほお……これは面妖な……」
刀子「本当にこれ、ガラスなのでござろうか」
自由「間違いなくガラスっすよ」
自由「簡単なものなんかは安く、学園の近くの店でも売ってるくらいっす」
紫陽花「ああ、中には体験することが出来る店もあるらしいけどな」
紫陽花「で、支倉はどうなんだ?」
刀子「せ、拙者だな……そのぉ~……」
分かりきった答えだと思って気軽に聞いたのだが返答を渋っている。
何度か困ったように視線を泳がせた後に観念して1ページを指差す。
案の定、映画村みたいだな。
紫陽花「やっぱ映画村か」
紫陽花「前から思ってたけど、支倉って時代劇みたいなの好きなのか?」
刀子「うむ……余暇はよく大河ドラマを見て過ごしておるな」
紫陽花「大河ドラマ……確か日本史上で起きた事をテーマにしたもんだっけか」
刀子「ああ、だが実際には関わっていない空想の人物も出ているらしい」
刀子「だがそれもまた一興。拙者にとっては見ていて飽きぬよ」
紫陽花「ほー……渋いな」
刀子「へ、変か?」
紫陽花「いや、良いんじゃないか?」
紫陽花「そんなこと言ったら俺、男のくせに料理が趣味だからな」
自己嫌悪に囚われながらもそう笑う。
だが決してすべてを悲観しているわけじゃあない。
人は人、自分は自分である。
紫陽花「で、聞くまでもない気がするが小鳥遊は?」
自由「自分すか?」
自由「自分は先輩とのゲーム時間さえ取れればそれで満足っすよ」
紫陽花「お、お手柔らかに頼むぞ?」
自由「だーいじょうぶっすよ」
すでに手がわきわきと動いてる辺り病気に近いな、アレは。
手の動きからあの動きかな? とか予想出来ている辺り俺も危ないかも知れない。
それから皆で相談し、俺たちは今日は土産を見にいくことに決定。
姫「こ、これは……!」
紫陽花「おー」
近場にそれなりに大きなおみやげコーナーがあったらしく寄ってみた。
そこまで大きなものではなかったが、それなりに充実している。
あー……日持ちしそうなのをお土産に買って帰ろうかな……。
クラスメイトやら知り合いの顔を思い浮かべながら吟味。
一方、野薔薇は野薔薇でご所望のガラス細工コーナーを見ていた。
大小様々なガラス細工が飾られていて、そのどれもが繊細な作りをしている。
特に、小さいがバラの花を象ったガラス細工。
これが見事なもんで、どうやって作ったんだろうと素直に疑問を浮かべたくらいだ。
その一つをじっと見つめながら、野薔薇は目を輝かせている。
刀子「ほお、これがガラスなのか……」
紫陽花「ああ、ほんとすごいよな」
自由「ただこういうのは取り扱い注意っすよ」
自由「陶器と同じくらい脆いんすから」
姫「ふふ、それでも美しいものは美しいですわね」
刀子「むっ……これは真剣ではないのか……」
紫陽花「さすがに観光客が通る場所に本物の刀剣は売ってないだろ」
おまけに無造作に傘立てのようなものの中に刺された木刀を見て苦笑い。
それを刀剣なのではないかと勘違いするのもおかしな話だ。
小鳥遊は小鳥遊でおみやげコーナーのはしにあるゲームコーナーにいるし。
うむ、名前に恥じない自由っぷりである。
紫陽花「……ん?」
ふと、視線を彷徨わせていたら何かの視線を感じた。
気になって3人の方を見てみたけどこちらを見ている様子はない。
勘違いだっただろうか……なんか妙に突き刺さるような感じだったが。
それからしばらくして急に店の外が騒がしくなった。
姫「何でしょう?」
紫陽花「分からん……何かあったのかな?」
刀子「お嬢、ご無事で?」
姫「ええ、問題ないわ」
自由「んー、どうもチラッと聞いた感じだとちょっとした喧嘩みたいっすね」
自由「とんでもない速度でどっか行っちゃったみたいですけど」
紫陽花「喧嘩かあ……」
特段気にするようなことでもない。
珍しいなとは思うが無いことじゃないだろう。
姫「ところで、柊さん」
紫陽花「うん?」
姫「これは何なのでしょうか?」
姫「初めて目にするものなのですが……」
紫陽花「ああ……これはけん玉だな」
姫「けん玉……武器ですか?」
紫陽花「いや、確かに武器と考えたのが居ないわけじゃないけど……」
その発想するのはかなり古いドラマのセーラー服着た3人組の一人くらいだろう。
見本と書かれたけん玉を手に持つ。
やったことはないけど、知識としてはあるから見せてやろう。
紫陽花「よっ、ほっ……」
紫陽花「うーん、やっぱテレビとかで見るようには行かないな」
姫「ええっと……」
紫陽花「ああ、つまりはこんな感じで遊ぶ道具なんだ」
紫陽花「穴が空いたとことか、左右と下のくぼみに玉を乗っける感じの」
姫「ああっ、そういうことでしたのね」
やっぱり実演するには実力不足だった。
しかし、改めて説明してやると納得はしてくれたようだ。
合点がいったようで、両手を合わせてけん玉を見る。
まあ、いまどきの子供でも知らない子がいる位だし仕方ないだろう。
俺だって実物を見るのは今回が初めてだ。
刀子「懐かしいな、けん玉でござるか」
紫陽花「ああ、支倉は知ってるんだな」
刀子「うむ、実家のばあやがよく歌って見せてくれたものだ」
姫「歌いながらするものなのですか」
刀子「うぅむ、そういうわけでも無いのですが……」
刀子「いくらかある遊び方の一つとでも言うのでござろうか」
紫陽花「まあ、このけん玉を使った競技もあるくらいだからな」
姫「こ、この道具でですか?」
自由「ええ、有名じゃないんでそんなに取り上げられないですけどね」
紫陽花「野薔薇はやっぱり、こういう庶民的な遊び道具は知らないか」
姫「そうですわね、チェスなどはわかるのですけど」
姫「あまり体を動かすような遊びはやって来ませんでしたわね」
刀子「当時の姫殿はあまり、屋敷から出してももらえなんだでござるからな」
そんなことが……。
まあ、いいところのお嬢さんだもんな。
誘拐でもされたら……とかんがえる親がいたって不思議じゃない。
ただでさえ野薔薇は軍事を預かっているお家柄。
魔物の恐怖もよく知っているとなれば余計にだろう。
紫陽花「じゃあ後で軽く遊んでみるか?」
紫陽花「庶民風の遊び」
姫「え、ええ……でもどういうものなのでしょう?」
自由「まあ、簡単なものだとしりとりですかね?」
姫「しりとり……確か、単語の言葉尻をつなげる言葉遊びの一つでしたわよね」
紫陽花「そうそう、外でたらやってみるか」
自由「暇つぶしにはいいっすよね」
姫「面白そうですわね、ぜひやってみましょう!」
紫陽花「あ、でもやるのは外に出てからな?」
『そうですわね』と笑いながら、野薔薇は会計に向かっていった。
どうやらあの時見ていたガラス細工を買うことにしたらしい。
嫌味のないほほ笑みを浮かべ、嬉しそうに包まれるガラス細工を見ていた。
お気に入りのものが包まれた物を手に野薔薇が戻ってきた。
それを見て一緒に外へ出る。
観光客「やっぱり魔法使いは怖いな……」
そんな声が聞こえたのは俺たちが買い物を済ませて店を出た時だった。
入口付近はかなりの人間が居る。
そんなに時間が経った訳じゃないにせよ、野次馬の数が減っているようには見えない。
ふと、人々が見ている方に目を向けてみると――。
姫「……少しだけですが、魔力の気配がしますわね」
紫陽花「ああ」
割と激しく陥没している地面。
野薔薇が言うように微かにそこから魔力を感じられる。
恐らく魔法を放つような何かがあったんだろう。
だが、それもちょっと不自然な話だ。
紫陽花(ん? これは……)
そんな中、俺は転がっていた鉄の杭のような物を見つけて拾い上げた。
一見なにかの建築に使われるようなものにも見える。
だがこれは……。
姫「? どうしたんです?」
紫陽花「ああ、魔力から逆探知が可能かなって思ってな」
紫陽花「それより、ここから離れよう」
その場から離れながら小声で会話を続ける。
拾い上げた鉄の杭をばれないようにポケットに忍ばせながら。
紫陽花「魔法学園ってグリモアの他にあるのか?」
姫「いえ、ですが魔法を使えるのは学生だけではありませんから」
紫陽花「そうか……一応別にもいるんだっけ?」
刀子「だが、そんな地位にいる人間が無闇に魔法を使うとも思えぬ」
刀子「それもこんな人通りの多い中だ……余計に不自然ではござらんか?」
自由「そっすね……喧嘩ってのに魔法使いが絡んでいたとして……」
自由「喧嘩を収めた側のやったことと思うのが自然じゃないすかね」
紫陽花「そうだろうな」
同意はしたものの、詳しいことはわからない。
どこか引っかかるものを感じながらも次の目的地へ向かった。
◯生徒会◯
虎千代「そうか……ああ……ああ、引き続き警戒を頼む」
虎千代「……ふう」
薫子「状況は?」
虎千代「早速、霧の守り手と疑われる奴を捕まえたそうだ」
聖奈「では?」
虎千代「いや、残念だが末端も末端……」
虎千代「任務だけを伝えられていてそれ以外は何も知らない、と」
薫子「……相手も一筋縄ではいきませんね」
物々しい空気に包まれた生徒会室。
その中で役員の中でも特に信頼のおける二人と集まっていた。
今回の件は虎千代にとってもかなりのイレギュラー。
まさか学園への依頼を利用して学園生を誘い出すなどと誰が考えただろう。
今までに前例がないだけに、完全に逆手に取られた状態だ。
ノックのする音が聞こえて、虎千代は短く入室を促す。
鳴子「失礼するよ」
風子「……邪魔しますよ~」
虎千代「! 水無月に遊佐。何かわかったのか?」
風子「とりあえず、これを見てくだせー」
虎千代「……これは?」
小さな、それこそ200mlの紙パック程度の大きさの黒い物体を掴み上げる。
目立たないが、よくよく見ればレンズのような物が付いていた。
似たような別の物にはマイクのような部品。
鳴子はそれを渋い顔で見て告げる。
鳴子「盗聴機器だね……色々と学園内を調べてみたら出てきたのさ」
鳴子「僕が仕掛けるならここだな、と思うポイントを調べてみたらね」
風子「それと……どーも、外部からの侵入が疑われる部分がありまして」
虎千代「……なるほど」
薫子「それもかなり高性能なもののようですね」
虎千代「すまない、結城。これを宍戸博士のところへ持って行ってもらえるか?」
風子「ひつよーねーですよ。すでに宍戸さんのとこに持ってってます」
鳴子「ここに持ってきている物も後で持って行くことにはなるだろうけどね」
腰を浮かせかけた聖奈はほんの少しだけ眉を動かす。
何かと因縁深い両名。
その二人に踊らされている気分になってしまったわけだ。
半分はあたっているのだがそれはさておき。
虎千代は『そうか』、と短く告げると溜息をついて立ち上がる。
そのまま窓の近くまで歩き、外を見た。
いつもと変わらない学園の生活風景の一部を見て顔をしかめる。
虎千代「まさかここまで踏み込まれていたとはな」
風子「認めるのはちょいと癪ですが、どーかんです」
風子「ウチらもウチらなりに目を光らせていましたが……『つもり』だったみてーですね」
虎千代「いや、水無月たちはちゃんとやっている」
虎千代「本来、こういった外部相手の対策はこちらの領分だ」
風子「……虎、ウチはアンタさんと慣れ合うつもりはねーです」
風子「今回協力するのは、あくまで柊さんのためってことをわすれねーでくだせー」
薫子「水無月さん、少し言葉遣いに気をつけたほうがよろしいのでは?」
風子「それはもーしわけねーですね」
暖簾に腕押し、糠に釘。
いくら言ったところで風子に態度を改めるつもりはなかった。
本来、彼女にとっては生徒会との協力などありえない話なのだから。
だからこそ、風子自身が今の状況に一番釈然としない物を感じていた。
風子(あちらさんから頭を下げに来るとはね……)
つい先日、風紀委員に足を運んだ虎千代は頭を下げていた。
柊紫陽花を助けるために協力して欲しい、と。
そんな彼女の行動に驚いていた風子は、その次の言葉に更に驚くことになる。
そこから詳細を聞いて今に至るわけだ。
正直な話、彼女も思うところがなかったわけではない。
なにせ、虎千代だけでなくあろうことか鳴子との共同捜査だったからだ。
それでも協力を受けたのは、紫陽花の存在がでかい。
風子(アンタさんを見捨てるのはどうも……気が引けますからね)
世話が焼ける、と思いながらも彼女の顔は自然と緩んでいた。
その次の瞬間にはすでにいつもの表情に戻る。
風子「……ウチの服部の勘ですが」
風子「まだ仕掛けてくるかのーせいがあるみてーです」
虎千代「ああ、さっき服部からの電話は受けている」
風子「ありゃ、そーでしたか」
鳴子「ふむ……だけどそう簡単にしっぽをつかませるようなヘマをするかな?」
虎千代「ああ、相手も馬鹿ではないらしい」
虎千代「おそらくは捕まったとしても足のつかない捨て駒だろう……」
鳴子「まあ、そんなところだろうね」
風子「めんどくせーかぎりです」
虎千代「ああ、まったくだ……うん?」
結城「失礼するわ」
心「失礼します」
再びのノックが聞こえた後、返事もろくに待たずに結城と心が入ってきた。
凛と落ち着いた心の声に一瞬だけ首を傾げたが、すぐにとある事に思い当たり頷く。
薫子「今日はそちらなのですね」
心「心ちゃんに任せてしまうと謝りっぱなしになってしまいますから」
虎千代「すまんな、急に手伝ってもらうことになってしまって」
心「問題ありませんよ。柊さんが居なくなってしまうのは私も寂しいですから」
結城「本題にはいっても?」
『ああ、すまない』という虎千代の言葉と同時に心がノートパソコンを開く。
鈍い音を立ててスリープモードから戻った画面に幾つものファイルが開いた。
心が叩くキーボードの音が止み、彼女は虎千代を促す。
パソコンの画面をのぞき込む虎千代の表情が凍り付く。
虎千代「……!?」
虎千代「これはまさか……国のパソコンに繋がっているのか?」
心「いいえ、常時は危険ですから今は繋がっていませんよ」
結城「これはとある人物たちのチャットソフトでの記録」
結城「これだけでも相当な事実だけれど」
薫子「失礼……」
薫子「……これが事実であれば、大問題ですわね」
風子「やってることに関しては……きんきゅーじたいですから見逃しましょー」
鳴子「相変わらず見事な腕だね」
心「遊佐さんには負けますよ」
鳴子「謙遜だね」
風子「褒められた能力じゃねーですよ、本来ならね」
『これは手厳しいね』と鳴子は苦笑いで返した。
これにはさすがに心も気まずそうに笑っている。
彼女たちが話しているのは一般的にハッキングと言われる行為だ。
時には必要だとはわかっていても、風子には割り切れない部分があった。
今がその時と場合に因る状況でなければ懲罰房行きになっていただろう。
風子「……で、どーいう状況なんです?」
虎千代「ん?ああ……国の中枢に居る立場の人物が、霧の守り手と繋がっている……」
虎千代「その証拠があったようだ」
風子「……はぁ~、そこまでですか」
心「こちらに来る前まで覗いていましたが、本日捕まった人物について話をしていました」
虎千代「疑いようがないレベルに黒だな」
聖奈「他にもこれは……幾らかの政治資金が動いているな……」
聖奈「恐らく、このあたりの不審な金の動きは裏の組織に回っているだろう」
数字関係に強い聖奈は目ざとく資金運用のデータに目を通していた。
会計という立場であり、几帳面な彼女からは逃れられはしないだろう。
彼女によって整理されていく不正の証拠に次ぐ証拠の嵐に、それぞれに呆れの表情を浮かべる。
裏組織との会話記録、政治資金の不正流出……etc。
これだけ出揃っていれば最早言い逃れの一つもできない状態だった。
虎千代「双美は引き続き可能ならばハッキングを頼む」
虎千代「宍戸博士はこの機器の出処やデータの調査を」
結城「分かったわ、じゃあ預からせてもらうわね」
心「私ももう少しだけ時間を置いてやってみます」
薫子「双美さん、くれぐれも慎重に」
心「大丈夫です、引き際はわきまえていますから」
その言葉を最後に、結城と心は生徒会室を出て行った。
これで間違いなく、今回の件の犯人は捕まるだろう。
だが恐らくこれでも黒幕までは引きずり出せない。
そう誰もが考えていた。
『あまりにも出揃い過ぎているね』、そうつぶやく鳴子に虎千代は額に手をやる。
先日、聖奈からの電話を受け取った時点ですでに頭を抱えていたのだが。
虎千代「やれやれ、疑心暗鬼になりそうだ」
薫子「少なくとも、これで柊さんの存在が漏れているのは確定のようです」
薫子「より一層に警戒を強めねばなりませんわ」
風子「こーいっちゃなんですが、柊さんのクエスト参加をおさえられねーんですか?」
鳴子「そうだね。学園内であれば彼を保護するのはたやすいだろう?」
虎千代「……すまんが、それが難しい状況なんだ」
薫子「そうですわね……彼の能力は長期戦においては重宝します」
虎千代「それに、最近は更に魔物の出現情報が増えている」
虎千代「どうしても、魔力が供給できる柊の参加は多くなってしまうんだよ」
風子「その分、ウチらが――」
虎千代「何より」
言葉を遮られ、風子は顔をしかめる。
その視線を受け流しながら、虎千代は今までで一番大きなため息をつく。
虎千代「彼自身がクエストに積極的過ぎるんだ……」
虎千代「それがなければまだ、その手もとれたのだが」
風子「……あー」
思い当たる節がないわけじゃない風子は天を仰ぐ。
彼女がクエストへの参加を依頼した日。
彼は救えなかった人間のことを深く後悔していた。
そして同時に、従来とは違うという魔物相手にほぼ即答で参加を承諾。
普通の生徒であれば、普通と違うと聞けば大抵は躊躇する。
しかし、そんな素振りが紫陽花にはなかった。
恐怖という感情が希薄なのではないかと思うほどに。
鳴子「ちなみにこの件、彼には?」
虎千代「まだ伝えては居ない」
虎千代「出来れば冷静に話が出来る環境で話す必要があると思うからな」
鳴子「そうだね……確か、野薔薇家のお嬢さんたちも一緒なのだろう?」
薫子「ええ、現状京都に向かっているのは隠密中の服部さんを含め5名ですわ」
鳴子「なら帰ってきてからの説明は正しいかもしれないね」
鳴子「『あの』野薔薇家のお嬢さんのことだ……暴走しかねない」
風子「確かに、野薔薇はちょーし乗って色々やらかしそーですね」
鳴子「いや、今回はそれだけじゃあ済まないだろう」
風子「もったいぶった嫌味ないーかたですね」
嫌味たっぷりな声音に、『そんなつもりはなかったんだけどね』と苦笑。
鳴子「彼女の家は軍事関係に強い家柄だろう?」
鳴子「ならば、クエストの発令を務めている組織にも少なからず関係があるんじゃないかな?」
風子「っ!」
風子「なるほど……それで」
聖奈「野薔薇は非常に優秀であり、真面目な性格をしている」
聖奈「そんなあいつが真相を知ればどう行動するかは火を見るより明らかだ」
風子「そんで、その行動を見て柊さんがほうっておくわけもない……」
風子がそうつぶやき、周囲を見回した。
その後皆、一様に困ったような顔をして頷く。
『なんと分かりやすい構図だろう』、と。
虎千代「水無月、不本意なのは分かっているがしばらくは協力を頼む」
風子「不本意なのは間違いねーですが、てぃーぴーおーくらいわきまえてますよ」
薫子「状況次第では、御三家への協力も得る必要が出てきそうですわね」
虎千代「ああ、そうなった場合は頼んだぞ。水瀬」
薫子「会長のご命令のままに」
鳴子「さて、それじゃあ僕らもそろそろ行くよ」
鳴子「ちょっと気になることが出来たからね」
虎千代「そうか、何か分かったら連絡を頼む」
鳴子「ああ、すぐにでも連絡するよ」
風子「じゃー、ウチもこの辺で」
風子「浮き彫りになったセキュリティー関係を見なおして来るですよ」
聖奈「場合によってはこちらからも予算を出そう」
風子「ありゃ、めずらしーですね」
聖奈「必要経費だろう?」
聖奈「……もう少しセキュリティー面に金を回すべきだったと反省はしている」
風子「……ウチらも油断してたのは確かですから」
それだけ伝えて、風子も鳴子の後に続くようにして生徒会室を出た。
3人になった生徒会室の中で、ため息をついて虎千代が背もたれに身を預ける。
普段は自信に溢れた表情の浮かぶ彼女もさすがに疲れきっていた。
薫子が差し出した茶に一言礼を返しながら手を付ける。
虎千代(私たちは一体、何と戦っているのだろうか……)
魔物の活発化や異常な行動。
それに加えての今回の不祥事。
何かが起こる前触れだと警戒しないのは無能のすることだ。
虎千代は過去の事例から、そろそろ魔物側にタイコンテロガ級が出ることを危惧していた。
資料からみても先2ヶ月の間にあらわれても何ら不思議ではない。
そんな緊迫している状況下でどれだけ学外に目を向けられるかを危惧していた。
虎千代(最悪の結果だけは防がねば……)
そう改めて決意をし、熱いお茶を飲み干した。