グリモア~守護者~   作:エウラス

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今回は京都編2日目、実質京都にいる最後の日になりますね。
次回は自由とのゲーム編を含めて学園に帰るまでの内容になるかと思われます。



第10話

第10話:

 

紫陽花「はっ、せっ……!!」

 

京都滞在2日目の早朝4時。

誰も起きてこないだろうこの時間に、俺は密かな日課をしていた。

短刀を2本、腰のホルスターから取り出す。

長さの少し違う二つの短刀を右手で普通に、左手で逆手に構える。

そこから木に吊るした細い紐に振るう。

数十本ある垂れ下がった糸の合間を縫うように舞い、断ち切っていく。

 

紫陽花「ふぅ……」

 

ハラリ、と風に乗って運ばれていく糸を横目に息を整える。

横薙ぎ、袈裟斬り、切り上げ。

その全てで糸は漏れ無く断ち切られていた。

その成果に満足し、短刀を素早く腰に戻す。

チンッ、という独特な短く鋭い音ともにホルスターへ。

 

紫陽花「ほっ!」

 

短く息を吐くのと同時に抜刀の勢いと同時に短刀を投げる。

スカンッ、という子気味のいい音が2連続で短く響く。

うん、今日も一応は絶好調のようだ。

あんまり使うことはないと思うが、いざって時のことを考えると鍛錬は必要だ。

木に深く刺さった短刀を肉体強化を込めた両手で引き抜く。

それを無造作に宙に放る。

キィンッ!

 

紫陽花「っ! はぁぁぁ!!」

 

空中で2本がぶつかり弾かれながら落ちてきた。

その片方を右手に持ち蹴りと斬撃で片方を宙に浮かせたまま斬撃を繰り出す。

地面に手をつきながら地面を跳ねるように前転を繰り返しながらの斬撃。

その一閃一閃が宙で回転する短刀を浮かし、舞わし続ける。

最後の仕上げに浮かした短刀を前転と共に取り、全身のバネを使った投擲。

スカーンッ、という音はそのままに今度は短刀が木を貫く。

肩で息をしながら、膝をついた状態でその先を見据える。

 

紫陽花「……まだまだ、だな」

 

息が整うってから、俺はようやく立ち上がった。

現状、俺ができうる一番の『攻撃手段』だ。

本来の戦闘ではまだ先があるが。

突き抜けていった短刀を回収してホルスターに戻す。

吹き抜けるように頬をかすめていく冷たい感覚。

山の中腹に近い位置だからか風が気持ち良いな。

さて、もど――。

 

刀子「……」

紫陽花「!?」

紫陽花「……いつから見てた?」

刀子「え、ええと……4時頃厠に行った帰りに……」

 

のおおおおーー!?

俺が起きて行動し始めたのがちょうどそのくらいだ。

て言うことは全て見られていたってことになる。

別に隠していたわけじゃないが、改めて見られると恥ずかしい!

俺が固まっていると、支倉の目が輝き始めた。

 

刀子「柊殿は二刀流の使い手だったのかっ!?」

紫陽花「あー……えっとだな、支倉?」

刀子「な、何でござるか?」

紫陽花「これはあくまで自己鍛錬の一貫でやってるもんなんだ」

紫陽花「だからこれで魔物と戦うことは難しい」

刀子「そ、そうなのか?」

紫陽花「ああ、俺の場合は肉体強化も満足に掛けれないからな」

 

『自分にだけはな』、と付け足して自嘲気味に笑う。

仮に肉体強化を自力で出来ていたなら、生天目と似たようなことは出来た。

魔法使いとはいっても、武器を使った肉体強化を主流としたのもいるからな。

生天目に関しては拳という更に型破りな魔法使いだが。

俺の説明に支倉はどこか納得が行っていないのか腕組みをして考え込んでいた。

彼女もまた薙刀による武器攻撃を得意としているからだろう。

 

刀子「だが、どうしてこのようなことを?」

紫陽花「こうやって体を動かして置かないとなまっちまうからな」

紫陽花「俺は他のやつよりも自身の鍛錬をしないと足手まといになる」

刀子「ひ、柊殿は足手まといなどではっ……!」

紫陽花「いや、足手まといなんだよ」

紫陽花「誰かに守ってもらわなきゃ、誰かを助けることが出来ない」

刀子「柊……殿?」

 

しまった、つい……。

取り繕うように笑い、旅館の方へ歩きながら続ける。

 

紫陽花「ま、そういうわけで俺なりに訓練してるわけだ」

紫陽花「恥ずいから内緒だぞ?」

刀子「う、うむ……」

 

支倉が頷いたのを確認してから俺はひらひらと手を振りながら自室に向かった。

しばらく歩いて、ついてくる気配がないことを探りながら俺はため息をつく。

まだ引きずっているんだな、俺は……。

今更帰ることが出来ない過去を想いながら、俺はずっと生きてきた。

破壊されていく村……響き渡る断末魔の叫び声。

何年たった今でも鮮明に覚えている。

気づけば全身から嫌な汗が吹き出していて、わずかに震えていた。

 

紫陽花「……風呂入ろ」

 

そうつぶやき、俺はきた道を引き返して露天風呂へと向かった。

 

 

役者『成敗っ!』

役者「ぐああぁっーーー!?」

紫陽花「おお……思ったよりも本格的だな」

 

あれから霧の調査を済ませた俺たちは映画村へ来ていた。

どうにも今朝の件もあってか支倉の態度がぎこちないが仕方ない。

それでも楽しんでいるのは表情を見ればまるわかりだから大丈夫だろう。

それにしても……。

 

紫陽花「何も俺たちまで仮装させなくても……」

姫「う、動きにくいですわ……」

自由「よく似あってるっすよ、二人共」

刀子「ここに来たならこれは避けては通れぬでござろう!」

刀子「郷に入れば郷に従え、でござる!」

紫陽花「支倉はなんというか……うん、イメージ通りだな」

刀子「そ、そうか?」

刀子「柊殿もその……に、似合っておるぞ」

紫陽花「無理しなくていいって」

 

顔を真っ赤にして褒めてくれてはいるが、お世辞なのは俺でもわかる。

いくらなんでも忍び装束は無いだろう。

ちなみに野薔薇はお姫様、自由は村娘、支倉は浪人スタイルだ。

皆文句なしに似合っているが、支倉のドンピシャ具合はダントツだろう。

現に道行く人々が『あの子、役者さんかしら?』とささやいて行くくらいだ。

武士っぽい口調が素になってしまっている分、堂に入っていた。

それに引き換え俺は覆面こそしてないものの忍び装束。

なんというか、真っ昼間の往来でこの格好はかなり目立つんだが。

ああっ、視線が痛いっ!

 

自由「にしてもよく出来てるっすね」

刀子「ああっ、まるで時代をさかのぼった気分だ!」

紫陽花「実際、店にも寄れるんだな」

姫「そうなんですの?」

紫陽花「ああ、茶屋とか他のお客さんがいるみたいだ」

姫「ちょ、ちょっと休憩によっていきません?」

刀子「姫殿がそういうのであればついていきます」

自由「自分もおっけーっすよ」

紫陽花「はは、そんじゃ休憩と行きますか」

 

比較的動きやすい俺や自由と違って、野薔薇たちのは動きづらそうだからな。

特に野薔薇のは何枚も重ね着するタイプの着物だから暑いんだろう。

さっきから玉のような汗が額に浮かび上がっていた。

普段している縦ロールの髪型とは違い結い纏められた髪型に少しだけ見惚れる。

上気した頬と少し荒い息遣いがなんというか……艶かしいです。

意識して視線を逸らしながら席に座ってメニューを見る。

 

刀子「やはり、この場は団子と茶を頼むのが大道でござるな!」

自由「じゃあ自分はあんみつで」

刀子「自由、お前喧嘩を売っておるのか?」

自由「ちょっ、暴力反対っす!」

自由「分かりました、分かりましたよ! 自分も団子とお茶にするっす!」

刀子「分かればよいのだ」

 

ふん、と満足気に胸を張る支倉。

その胸元は3人の中じゃ結構なもんで、目の毒である。

しかも浪人風の衣装って、大きめに胸元が開いてるから余計に……。

吸い寄せられそうになっている視線を強制的に戻す。

マジで最低だぞ、俺!

結局、支倉の勢いに流されて全員で団子と茶を頼むことになった。

 

自由「うぇえぇ……苦いっすね……」

紫陽花「そうか? まあ、前に冷泉に出してもらったのよりは確かに苦いが」

姫「冷泉というと……冷泉葵さんですか?」

紫陽花「ああ、なんか白藤のやつに呼び出されて抹茶をごちそうになってな」

刀子「冷泉家のご令嬢ともつながりがあるのか、お主は」

紫陽花「つながりっていうか、うーん……知り合い?」

紫陽花「ああ、そうだ。小鳥遊」

自由「なんすか~……」

紫陽花「基本的にそういうお茶は茶菓子の甘さに合わせてるらしい」

紫陽花「団子と交互に口に入れてみ」

自由「そういうもんなんすか? どれどれ……」

自由「おお、確かに団子がすごい甘い分丁度いいっすね」

姫「では私も……」

刀子「串の先に注意してくだされ」

姫「……確かに甘さが強いですね」

刀子「そこにこの茶でござる」

姫「なるほど……納得いたしました」

 

齧った程度の知識だったけど、意外好評のようだ。

しかしまあ、これ結構極端な味の差だな。

こうしてみると冷泉の点てた抹茶が特別だったのがよく分かる。

茶菓子だって上品な甘さでちょうどよかった。

少なくともここの店だって悪くはないはずだがそれくらいには差がある。

 

自由「この後はどうするんすか?」

紫陽花「さあ……俺は悪いがここに関してはさっぱりだからな」

刀子「ふふ、ここは拙者に任せてくだされ!」

刀子「拙者、今日のためにぱんふれっとを端から端まで暗記しているでござる!」

 

どんだけ楽しみだったんだよ。

目をランランと光らせて意気込む支倉に少し笑ってしまう。

この調子なら今朝の件も多少は有耶無耶に出来そうだ。

 

姫「今日は刀子のために来たのですから、刀子についていきますわ」

刀子「ぬっ、よ……良いので?」

自由「そんな今すぐ飛び出しそうな体勢されたらダメとか言えないっすよ」

紫陽花「確かに」

刀子「ぬ、ぬぐぐ……」

刀子「仕方ないだろう? 滅多とくる機会など無いのだ」

紫陽花「別に気にしなくていいだろ?」

姫「ええ、刀子のオススメの場所へ案内を頼みますわ」

刀子「! この命に代えてもっ!」

自由「大げさっすねえ……」

刀子「ではまずはここでござる!」

姫「え”っ……」

紫陽花「ん?」

 

意気揚々と指さした先に載っているのはおどろおどろしい写真。

これってお化け屋敷か?

てっきり遊園地の専売特許かと思ってたがこんなところに。

 

紫陽花「へえ、結構リアルだな」

自由「海外のより幽霊って点なら日本の作品のほうがクオリティー高いっすからね」

紫陽花「同感。なんか海外のは怖さのベクトルが違うよな」

刀子「まあ、魔物を相手にしている拙者たちには大したものではないだろう」

紫陽花「確かに」

 

実害がある魔物たちのほうがよっぽど怖い。

いくら見た目がリアルでおどろおどろしいとはいえ襲ってこないんだ。

別に気負う必要もないだろう、そう思ってふと野薔薇を見ると――。

 

野薔薇「――っ」

 

なんだか青い顔をして固まっていた。

……ま、まさかと思うがこの反応は。

 

紫陽花「野薔薇、お前……」

姫「なっ、なんのことでしょうかぁっ!?」

自由「ちょっ、お嬢っ。声が裏返ってるっすよっ?」

姫「き、ききき、気のせいですわっ!」

紫陽花「……」

姫「さ、さあ……早速行こうじゃありませんか」

刀子「おおっ! 姫殿も楽しみにしてくれているのでござるかっ!」

刀子「それでは急ぎましょう!」

姫「う”っ……」

 

ああ、なんという清々しい自爆っぷりだ。

あんなにキラキラした目で言われたら苦手だとは言いづらいだろうが。

それにしても意外だな、野薔薇ってお化けが苦手なのか。

意気揚々と手を引く支倉に引っ張られ、ガッチガチになった野薔薇が青ざめていた。

よっぽど楽しみなのか、本人は主の異常にも気づいていないようだ。

哀れ! 野薔薇、お前の骨は拾ってやるぞ!

 

 

姫「うっ、うっ……もういやですわぁ……」

刀子「も、申し訳ありません……姫殿……」

 

あれから、さり気なく別の場所に行かないかと誘導してみたが失敗に終わった。

結果予定通りお化け屋敷に入ることになったのだが、色々と大変だったと言っておこう。

まさか悲鳴を上げて走り去ってしまうとは思わなかった。

確かに血まみれの着物の女性が壁を破ってきたのには俺も驚いたが。

ちなみに小鳥遊と支倉はどこ吹く風で、純粋に感心していた。

ある意味一番お化け屋敷を楽しめたのは野薔薇なのかもしれない。

本人の意志は別として。

出口でぷるぷると震えてうずくまる主に支倉はオロオロしていた。

そろそろ助け舟をだすとしますかね。

 

自由「もー、お嬢ってば強がるから……」

姫「つ、強がってなんかいません!」

紫陽花「涙目で言われてもなあ……」

姫「う”っ……!? そ、それは……」

紫陽花「ほら、そろそろ行こうぜ?」

紫陽花「さすがにもうお化け屋敷みたいのはないよな?」

刀子「う、うむ! ああいう催しはここだけだ」

姫「……本当ですわね?」

刀子「ええ、次は必ず喜んで貰えるはずでござるっ!」

自由「次はどこに行くんです?」

刀子「工芸体験でござる」

姫「工芸体験?」

刀子「その中でも京扇子の手書き体験というものなのでござるが……」

紫陽花「ほうほう……」

 

パンフレットに載っている情報によると、真っ白な京扇子に絵を描く体験が出来るらしい。

たしかにこれなら怖いの要素は皆無だ。

単純に絵を描くだけだからだれでも楽しめるだろうし、自分だけの扇子が作れる。

 

姫「これは面白そうですわね!」

刀子「! では行きましょう!」

刀子「柊殿も自由も、早く行くでござる!」

自由「慌てなくても、別に逃げやしないでしょーに」

刀子「時間が逃げるっ!」

紫陽花「案内頼むよ」

 

『任せるでござる!』と意気揚々と先陣をきる支倉。

今日だけで彼女の意外な面をどれだけ見せられるのだろうか。

俺は反応に困ってしまって笑うしか無い。

普段が使命感バリバリな事もあって、こういう時ははっちゃけてしまうのかもしれないな。

何にせよ、今の支倉は嫌いじゃない。

 

 

それから、支倉が連れて行ってくれたのは忍者の体験が出来る施設だった。

他にも弓を射る体験ができたり、殺陣体験だったりといろんな施設に入ってははしゃぐ。

青い顔をしていた野薔薇の方もすっかりいつもの調子に戻っていて良かった。

今は自身で描き上げた薔薇のデザインされた京扇子をドヤ顔でもってるしね。

そんな様子を笑って見ながら、俺はもうひとりの困ったさんを見る。

 

自由「お嬢も刀子先輩も、このセンスが理解できないなんてどうかしてますよ」

紫陽花「扇子だけにか?」

自由「……」

紫陽花「悪かった、悪かったから無言で扇子の柄で小突くのはやめろ」

 

仮にも繊細な道具でなんてことをするんだ。

しかも意外といてえし。

膨れっ面の小鳥遊が持つ扇子に描かれているのはゲームのモンスターだ。

そりゃまあ、二人が理解できないのは仕方ないだろう。

薔薇も大概だが、二次元のモンスターとか扇子に合うわけがないんだし。

さり気なく狐っぽいモンスターを描いてたのは精一杯の妥協なのだろうか。

 

刀子「自由、お主の趣味は前から思っておったが理解がしにくい」

自由「自分からしてみれば二人の趣味も理解し難いっすよ」

紫陽花「まあ、趣味なんてのは人それぞれだからな」

姫「そうですわね」

姫「周りに強制されてする趣味などすぐにやめてしまいがちですわ」

刀子「……そうでござるな」

姫「ところで、柊さんはどんな趣味を持っているのですか?」

紫陽花「えっ」

 

思わぬとこから飛び火した。

いや、話の流れ的にこうなるのはわかるんだけどさ。

飲んでいたペットボトル入りのお茶を脇に置いて真剣に考える。

……趣味、か。

 

紫陽花「そうだな……強いていうなら料理か?」

紫陽花「後はたまに詩を書くくらいで……」

 

と、そこまで言ったところでしまったと口をつぐむ。

しかし、ときはすでに遅く3人とも目を丸くしてこちらを見ていた。

 

姫「詩、ですか……柊さんってロマンチックなところもあったのですね」

紫陽花「い、いや……そんなだいそれたもんではなくてだな」

自由「恥ずかしがらなくてもいいじゃないっすか」

刀子「うむ、世の偉人も数多くとは言わぬが詩や言葉を遺しているものだ」

刀子「特段恥ずかしがる必要もないと思うぞ?」

紫陽花「ま、まあ……そうなんだけどさ」

姫「?」

自由「あー、まあ……世の中のイメージで言えば男が詩を書くって想像はしないかもですね」

自由「実際には、男の詩人なんていっぱいいるもんですけど」

姫「そうですわよね」

刀子「ほれ、柊殿も恥ずかしがる必要はないではないか」

紫陽花「あ、あはは……ありがとうな」

 

満足気に笑う野薔薇と支倉に対し、小鳥遊は苦笑いだ。

恐らく俺が恥ずかしがっている理由を根本で理解できてるのは彼女くらいだろう。

そりゃ俺だって男の詩人がいっぱいいるのは知っているさ。

だけど、問題なのは俺が学生だってことなんだよなあ。

男子学生が趣味に詩を上げるのは

 

紫陽花「ま、俺の趣味は置いといてだ」

紫陽花「次はどうする?」

刀子「む、そうだな……皆が構わないというのであれば次はあそこだ」

紫陽花「ん?」

 

言われて指された方を見ると、『からくり屋敷』の文字が。

ほう、からくり屋敷か。

これはなかなかに興味の惹かれる響きだ。

いわゆる隠し扉があったり、仕掛けがあったりするアトラクションだな。

案の定、野薔薇はいまいちよく分かっていないみたいだが。

 

姫「刀子、そのからくり屋敷というのは一体なんですの?」

刀子「うーむ、それを言ってしまっては楽しみが半減してしまうが故……」

紫陽花「そうだな、野薔薇のそれはマジックショーの種明かしをしてくれって言ってるようなもんだ」

姫「えっ、そういう感じなんですの?」

自由「ああ~そっすね、種やら仕掛けやらが盛り沢山のおもしろ屋敷っすね」

自由「言ってみればでっかいびっくり箱みたいな?」

 

でっかいびっくり箱か、言い得て妙だな。

ただ、びっくりという言葉に野薔薇の口元が引きつってるぞ。

あいつどんだけお化け屋敷にトラウマ持ってるんだよ。

 

刀子「心配ござらぬよ、姫殿」

刀子「びっくりとはいえ、お化け屋敷とは趣向が違うでござる」

姫「……ほ、本当ですわね?」

姫「嘘だったら帰ってから酷いですわよ!」

自由「お嬢……」

紫陽花「ま、まあ……意外っちゃ意外だったけど良いんじゃないか?」

紫陽花「可愛らしい弱点で」

姫「か、かわっ!?」

姫「……そ、そう言われると少々、気が削がれてしまいますわね」

紫陽花「うん?」

姫「なんでもありませんわっ!」

 

周りの声が大きすぎて一瞬聞き逃してしまった。

まあ、本人がなんでもないって言ってるんだからなんでもないんだろう。

その割には従者二人の視線が妙に痛いんだけどね?

そんな突き刺さる視線をあえてスルーしてからくり屋敷へ。

受付を見るに結構繁盛してるみたいだな。

入場料を支払い、早速入り口を潜った。

 

 

中に入ってまず思ったことは普通、という印象。

ごく一般的な和室同士の繋がりがあるTHE昔の家である。

しかし!

 

紫陽花「うおっ!?」

 

襖を開けて通ろうとするとゴム製の槍が顎にあたった。

 

自由「あはは、何やってんすか先輩」

紫陽花「う、うっさいな」

自由「ぷふっ、さっきの先輩の顔ったらないっすわー」

自由「あはは……!?」

姫「じ、自由!?」

 

こちらを見て笑っていたと思ったら小鳥遊の姿が急に消える。

どこに行ったのかと思ってみれば、畳の一部が抜けて穴が。

底を覗きこんでみれば――。

 

自由「あいたた……落とし穴まであるんすか……」

紫陽花「くく……小鳥遊だって人のこと言えないじゃん」

自由「こ、これは油断しただけっすよ!」

 

小鳥遊はムキになりながら壁をよじ登ってくる。

せいぜい人一人分くらいの深さだからよじ登るのは余裕か。

こっちは笑いをこらえるので精一杯だが。

そんな俺を見て小鳥遊は頬をふくらませていた。

こいつにしては珍しい反応だ。

 

刀子「ふっ、油断していると足元をすくわれるぞ?」

刀子「拙者のように常に気を張って……」

 

自信満々。

そんな顔をしてドヤ顔のまま勝ち誇ったように踏み出した足が細い何かに絡め取られる。

それに俺たちが気づいた時には……。

 

刀子「ぬおおおおっーーー!?」

一同『あっ……』

 

とんでもない勢いで天井に釣り上げられていた。

ぷらーん、という擬音つきで真っ逆さまになった支倉は目を丸くしている。

驚きすぎて理解が多いついていないって感じだな。

それを見た俺たちは顔を見合わせて――。

 

紫陽花「ど、どんまいっ!」

姫「ふ、ふふ……だ、誰にだって間違いは……くふふ……!」

刀子「あ、ああ……」

自由「あははは! ドヤ顔でそれはもう狙ってるとか思えませんよ!?」

自由「お腹が……腹が割れるっ……ははは!!」

刀子「ぬあああああっ!!」

姫「と、刀子。あまり暴れると下着が見えてしまいますわ!」

刀子「ぬ、ぬぐぐ……」

紫陽花「大丈夫大丈夫、すぐに降ろすから」

 

顔を真っ赤にしたまま頬を膨らませてる刀子を脇に周囲を見る。

よく見てみれば、解除方法が書かれた紙が目立たないところにあった。

ふむふむ、部屋の隅にある糸を緩めればゆっくりと落ちてくる、と。

部屋の隅を探すと、3カ所目でようやく糸があったのでそれをいじる。

 

刀子「お、おお?」

紫陽花「よし、これで大丈夫か」

刀子「う、うむ……かたじけない」

紫陽花「い、いや……俺も笑って悪かった」

 

袴の裾を抑えながら顔真っ赤である。

いつも凛としている支倉も綺麗だ。

しかし、こういう無防備な顔を見れば可愛いと感じる。

……なれない場所に来て舞い上がってるのかな、俺。

降ろされる最中しきりに『?』を浮かべる支倉に愛想笑いで返した。

 

紫陽花「しかし、ここそれなりに広いんだな」

姫「そうですわね……もう10分程歩いているとは思いますが」

自由「さすがに自分も、これ以上は罠にかかりたくないっすね」

刀子「それに関しては同感だ」

刀子「だが、子供も対象とした催しとして出している以上そう複雑ではないはず」

紫陽花「……?」

刀子「? どうかしたでござるか?」

紫陽花「いや、ちょっとな……」

 

支倉の言葉にほんの少し引っかかる物を感じた。

しかし、その違和感の正体がつかめると思った矢先――。

 

姫「きゃっ!?」

刀子「姫殿っ!」

自由「な、なんすか一体!?」

紫陽花「っ!」

自由「あっ、先輩っ?」

 

突然隣の部屋から響いた爆発音に重ねて軽い振動。

かすかに聞こえた男の悲鳴に反応して音のした壁の方へ走る。

調べてみると、そこの壁が隠し扉になっていたようだ。

迷わずその扉を押し開き、中へ入る。

すると――。

 

自由「先輩、一人で行かないでくださいってば」

刀子「敵襲かっ!?」

姫「……柊さん?」

紫陽花「……なんだ、これ?」

一同『えっ?』

 

指さした先にあったのは焦げた跡と、周囲に向かって散らばった色んな破片。

微かに鼻に入ってきた匂いから察するに、恐らく爆発物の類によるものか。

少し不思議なのが、何故かその辺りからすこしだけ魔力を感じたことだ。

ゆっくりと周囲を警戒しながら、しっかりと調べる。

……火薬の匂いが強まった、これは爆発物で間違いないな。

 

自由「薄暗い部屋っすね……」

刀子「うーむ……妙だな。いくら催しとはいえこれはやり過ぎだ」

刀子「下手をすれば怪我どころではすまない騒ぎになっていたぞ?」

紫陽花「ああ、これは通報しとかないとまずいな」

姫「そうと決まればまずはここを出ましょう」

姫「怪我をしている方がいたら大変ですわ」

紫陽花「よし、行こう!」

自由「こういう時に魔法使うのはルール違反っすけどしゃあなしですね」

 

小鳥遊はそう言って風系の魔法を発動させていた。

恐らく、出口からの風の通り道をさぐろうという魂胆だろう。

 

紫陽花(……それにしても)

 

小鳥遊達が出口探しを始めたのを見つつ、俺は部屋を振り返る。

部屋がくらいということを除けば、特段変わったところのある部屋じゃない。

何故こんなところに魔力の残りカスのようなものを感知したのだろうか。

もしかしたら、先日の店前のやつと関係があるのかもしれない。

 

紫陽花「……一応、警戒しとくか」

自由「先輩ー! 見つけましたよー!」

紫陽花「ああ、今行く!」

 

 

結局あの後、俺たちは係の人へ状況を説明した。

しかし、それだけにとどまらず警察がきての捜査に発展。

聞き取りなんかも兼ねて待機させられてしまい、旅館に戻ったのはすでに19時を迎えるかという頃だった。

今はなんとなくで二人きりになった支倉と縁側に居る。

ちなみにすでに服はちゃんと制服だ。

 

紫陽花「すまんな、支倉」

紫陽花「せっかくの機会だったのに……」

刀子「む? 何を言う、拙者は十分に満足しておるでござるよ」

紫陽花「そっか……」

刀子「ああ、拙者は普段……なかなかこうして遊ぶことが出来んからな」

刀子「姫殿がいて……自由がいて、そして柊殿がいる」

刀子「この4人で職務も忘れて楽しめた、十分過ぎるほどだよ」

 

支倉はそう、満足気に空を見上げた。

夕日で紅く染まった横顔は笑顔だ。

うん……そう言ってもらえるなら嬉しいかな。

 

刀子「そもそも、柊殿は責任を感じ過ぎでござる」

紫陽花「そ、そうか?」

刀子「今回の件、柊殿が言わずとも拙者か姫殿が通報していたであろうからな」

刀子「結局のところ、こうなるのは必然だろう」

紫陽花「そこに小鳥遊が入ってないのがさすがだな」

刀子「あやつが通報などと面倒になりそうなことはせぬだろう」

紫陽花「はは、確かにな」

紫陽花「『面倒事は店の人に任せましょーよ』とか言いそうだ」

刀子「ふふ、奇遇だな。拙者もそう思う」

 

ここに小鳥遊がいたら非難轟々だろう。

しかし今は居ないわけだから好き放題言わせてもらうとする。

ひとしきり笑った後、短めのため息をついて支倉がこちらを見た。

何かな、と思っていたがその表情があまりにも真剣で驚く。

 

刀子「柊殿」

紫陽花「……どうした?」

刀子「うむ……言おうか言わまいか迷っていたのだがな」

刀子「今朝の件、拙者何も聞かなかったでござる」

紫陽花「支倉?」

刀子「拙者にだって言いたくないことの一つや二つくらいあるでござるよ」

刀子「柊殿のそれは、きっとそういうことなのだろう?」

紫陽花「……」

刀子「だから今は何も聞かんでござるよ」

紫陽花「……そっか」

刀子「うむ」

刀子「では拙者はこれにて。姫殿の様子が気になるのでな」

紫陽花「ああ、またな」

 

軽く手を上げて応えた後、支倉は廊下の曲がり角に消えた。

その背中を見送った後、俺は所在をなくした視線を正面に戻す。

そこに広がっていたのは、俺が早朝訓練をしていた庭だ。

遠目にも幾らか傷のついた木が見受けられる。

一応旅館側にはきっちりと許可を取っておいたけど、大丈夫だろうか。

 

紫陽花「それにしても……何だったんだろう?」

 

一人になって、俺はようやくあることに意識を向ける。

それは昨日今日と起こった不可解に使用された魔法の痕跡だ。

警戒はしてみたものの、つけられているような感じはしなかったし。

 

紫陽花「ま、考え過ぎってことにしとくかな」

 

口に出しては見たもののまったくもって腑に落ちない。

何か関係があるかも知れないし、明日にでも生徒会に連絡入れてみるか。

そう結論づけて立ち上がったところで、俺の肩が叩かれる。

 

紫陽花「うおっ?」

自由「おおっとっ」

自由「驚かしちゃいましたかね」

紫陽花「小鳥遊か」

 

『どーもっす』と笑いながら、隣に。

ちょっと不穏なことを考えていただけにびっくりした。

 

自由「どーしたんすか? 難しい顔してましたけど」

紫陽花「ん? ああ、ちょっとな」

紫陽花「それより、そっちこそどうしたんだ?」

自由「いや~、結局昨日はできませんでしたし――」

 

そう不敵に笑い、小鳥遊がポケットからゲーム機を取り出した。

 

自由「今日こそ、一緒にやりません?」

紫陽花「……しゃあないな、付きあおうか」

自由「やったあ! じゃあ先輩の部屋でいいっすかっ?」

紫陽花「ああ」

自由「よーっし、じゃあお菓子とかも準備してから行きますねっ!」

紫陽花「おう、こっちも幾らか用意しとくわ」

 

『速攻で準備しますから!』と言い残して去っていく背中を見送る。

しょうがない奴だな……。

とはいえ、実質夜にゲームに付き合えるのは今日しかないだろう。

明日は調査をしたらすぐに学園に向かわないと行けないしな。

 

紫陽花「さて、そうと決まれば早速準備に移りますかね」

 

きっとあいつの腕は相当なもんだろう。

ついていけるように頑張らないと。

やれやれ、今日の夜は長くなりそうだ。

苦笑いを浮かべながら部屋へ戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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