今回は京都編(?)ラスト、夜中の一室で行われるとある催し。
それと、これからの主人公たちの生き方に少しの変化を与える話があります。
とは言え駆け足レベルで書いてるせいか、内容が薄い気もしている作者である(白目)。ああ、文才ある人が羨ましい……。
第十一話:それぞれの思惑
自由「先輩、そっち行きましたよっ!」
紫陽花「おう、任せとけ!」
時間にして夜の9時過ぎ。
飯と風呂を済ませた後、俺と小鳥遊は俺の部屋に集合していた。
もちろん色気のある話ではなく、単純にゲームをしにだ。
小鳥遊のリクエストは某狩りゲーだ。
10を超える種類の武器の中から好きな武器を選択して使う。
その武器を使い、巨大なモンスターと戦うゲームだ。
倒したモンスターから得たアイテムを使ってどんどん強化するのが目的になる。
自由「ふう……危なげなく倒せましたね」
紫陽花「そうだな、思ったより足引っ張ることもなくてよかったよ」
自由「いや~、麻痺のタイミングも罠張るタイミングもバッチリっす」
自由「でも先輩、ゲームでもサポート役なんですね」
紫陽花「まあ、自分が戦っていくよりも引き立て役のほうが性に合っているというか」
小鳥遊は基本的になんでも使えるようだが、今は大剣。
それに対して俺は弓で、状態異常を多く使えるタイプを持って補助に徹していた。
ある意味突撃するタイプの小鳥遊とは相性がいいとも言える。
だが、意外と言えば意外なのだが小鳥遊はリアルではサポート側に近い。
言ってみれば俺と同じ立ち位置になるわけだが、俺と違い攻撃魔法も打てる。
と、考えこんでいるところにノックの音が聞こえた。
返事をして入室を促すと、野薔薇と支倉の姿が。
紫陽花「あれ? 二人もゲームしに来たのか?」
姫「ええ、自由に誘われたのでたまにはと」
刀子「拙者はその『げえむ』というのは苦手なのでござるが……」
自由「大丈夫っすよ、以前やらせたようなアクション系じゃないっすから」
紫陽花「お前……初心者にいきなりアクションさせたのかよ」
自由「ゲームとして一番いろんな要素を楽しめるもんじゃないっすかあ」
紫陽花「確かに一番とっつきやすいとは思うが……」
それはある程度ゲームに乗り気であることが前提だと思う。
ゲームの楽しさ自体を知ってもらうのに極端なアクションは向かないんだがなあ。
パーティーゲームとかなら大丈夫だろうけど。
とりあえず二人分の座布団を渡して座らせておく。
紫陽花「で、今日は何をするんだ?」
自由「これっすよ」
紫陽花「……人生ゲームか。思ったよりまともだった」
姫「人生ゲーム?」
刀子「何やら聞き覚えのある単語ではあるが……」
紫陽花「まあ、やってなくても単語位なら聞くだろうな」
刀子「どういうものなのだ?」
自由「自分の代わりになるキャラクターをサイコロで動かしていくんすよ」
自由「で、止まったマスごとにいろんな事が起きるって感じっすかね」
紫陽花「勝敗も一応あって、全員がゴールした時点でどのくらい資金を持ってるかだな」
姫「なるほど、要はすごろくゲームですわね」
刀子「姫殿は理解したようでござるが……」
紫陽花「大丈夫、どんな人でも出来る簡単なゲームだから」
刀子「う、うむ」
紫陽花「でも、本体はどうすんだ?」
自由「こうなることを予想して全員分持ってきてるっす」
どういう準備だ……一応出る時はちゃんとしたクエストだったはずだよな?
底を突っ込んだところでどうにもならないだろう。
ある意味、小鳥遊らしいと思うことにしておくか。
紫陽花「しかし、最近は携帯ゲーム機でも人生ゲームが出来るのな」
自由「Wi-Fiさまさまっすね」
自由「ケーブルなんかでつながってなくてもこうして出来るんすから」
姫「昔はちがったんですの?」
自由「ええ、昔はこのゲーム機同士をケーブルで繋げないと行けなかったんです」
自由「しかも、今回みたいに4人とかじゃなくて2人が限界で」
刀子「ほう、そのWi-Fiというもののおかげで今は出来るということか」
紫陽花「まあ、簡単に言えば電波を飛ばして通信してるんだな」
紫陽花「携帯とかとにたようなもんだ」
刀子「ふむ……」
自由「細かいことは置いといて楽しみましょー」
紫陽花「そうだな」
自由「それじゃあそれぞれキャラ作成画面まで移動しといたんで作ってみてください」
刀子「む、これはどうすれば……」
自由「えっとですね」
姫「柊さんはお分かりなんですの?」
紫陽花「ああ、教えようか」
小鳥遊は支倉のやつを教えてるようだ。
そんなに難しいこともないし、教えていこう。
幾らかの説明を聞いて、野薔薇は律儀にふむふむと頷いていた。
要領は悪くはないから、覚えるのは早い。
そうかからずに自分の分身になるキャラクターを作り終えた。
さて、支倉の方はまだかかってるようだし今のうちに自分のも作るかな。
紫陽花「うげ、最近のは結構凝ってるな」
改めて自分の画面で設定部分を見てみると驚いてしまった。
俺が知っているのはせいぜい、名前と生年月日、性別くらいのもんだったはず。
だが、いまのを見てみれば星座やら血液型やら出身地やら。
はては性格なんかまであった。
ある意味小さな人生のようだ。
かくして、支倉だけちょっと時間がかかったものの無事に始まった。
この作品は序盤、幼稚園やら小学生時代から始まったはずだ。
案の定、小学生に入学した所から始まった。
刀子「ほう、小学生時代からなのか」
自由「そっす、んで大体大人になって老後までが一週っす」
姫「ろ、老後まであるんですの!?」
紫陽花「あ、実際やってれば分かるけど成長スピードは早いから」
姫「な、なるほど……」
刀子「この夜だけで終わるのかと本気で心配したぞ……拙者は」
自由「まー、もともとパーティーゲーっすから長くても1~2時間程度っすよ」
自由「ジュースとかも準備してるんで」
刀子「こういう時の準備のいいやつだ……」
姫「その半分でも良いから別のことに活かして欲しいですわね」
自由「さー、本格的に始まりますよー」
見事に話題を逸らしたな……。
これにはさすがの二人も苦笑い気味だ。
安心しろ、俺もなかば呆れてるから。
ともあれいまは折角だから小鳥遊の用意したゲームを遊んでみるか。
画面に目を移すと、支倉の操作キャラがマスに止まっているところだった。
あの色は……いいことが起きるマスか。
刀子「む? 何やら画面が変わったぞ」
紫陽花「基本的にマスに止まるとこういう感じで短い話が始まるんだ」
紫陽花「で、その内容次第でいろんな数値が上下する」
刀子「す、数値?」
自由「例えば今回で言えば、刀子先輩のキャラはお小遣いを貰ってますよね?」
自由「だから資金の数値がその分増えてるはずっす」
刀子「ふむ……」
姫「ということは良いことだったわけですわね」
紫陽花「ああ、基本的に数値が増えるのは良いことだよ」
姫「では次は私の番みたいですわね……えいっ」
別に気合を入れた声を出す必要もないんだけど……。
まあ、真剣に取り組んでくれていると考えておこう。
おっ、野薔薇のやつも良マスに止まっているな。
姫「あら、私のは賢さが上がりましたわね……」
紫陽花「イベントの内容はマスごとにある程度決まっているんだ」
紫陽花「どうやら野薔薇の場合はステータスが上がるマスだったみたいだな」
姫「ステータス……これはどういう利点があるんですの?」
自由「んーそうっすね、例えば良い職業につけるマスに止まったとします」
自由「でも、その職業には必要なステータスが一定以上である必要があるんすよ」
刀子「む……ではステータスというのも大事だということか」
紫陽花「ほら、頭悪い奴が教師とかになれないだろ?」
紫陽花「現実でも」
姫「み、妙に現実臭いですわね」
自由「そこが人生ゲームの醍醐味っすよ」
紫陽花「つってもゲームらしい突拍子のないイベントも起きるけどな」
いきなり遺産を見つけてみたりとかな。
そういうゲームらしさと現実っぽさを兼ね備えた絶妙な具合が楽しいんだ。
実際、野薔薇たちも段々と勝手がわかってきたみたいでのめり込んでるし。
とと、次は俺の番ってことで……げっ。
紫陽花「あちゃー……体力が減ったか」
刀子「ふむ、やはり増えるばかりではないのだな」
自由「そっすね。基本的には上がるか下がるかっす」
自由「たまーにその数値が以上に大きい事があるっすけど」
紫陽花「ああ、10単位で増減する奴な」
姫「じゅ、10ですか……」
刀子「最初の数値から見るとかなり変わるんじゃないのか、それは」
紫陽花「まあな。今そんなマスに泊まろうもんなら最悪、問答無用で1になる」
幸い俺が止まったのは通常のマイナスマスだ。
減った体力も1で最大が7だったから6になった程度。
まだまだ挽回できるチャンスは大きい。
自由「さーって、自分の番っすね……」
自由「あ~……ずいぶんとまた微妙なマスに」
紫陽花「いきなりそこいっちまったのか」
姫「あれはどういうマスなんですの?」
紫陽花「あれは特定のマスまで一気に飛んじゃう奴だな」
刀子「何っ? では自由の奴は更に先に進めるというわけか?」
姫「では自由がかなり有利になるのでは……」
紫陽花「いや、一概にそうも言えない」
刀子「むっ? どういうことだ?」
自由「今自分がすっ飛ばしたマスの中に、この段階では破格の優良マスがあるんすよ」
自由「それを引くことが出来るかもしれないって権利が無くなったわけっす」
紫陽花「更に言えば、この先に進学イベントがあってな」
紫陽花「いい学校へ進むにはそれだけ必要な数値が増えてくるんだよ」
自由「その辺の数値を上げる可能性も一気に少なくなったわけです」
姫「な、なるほど……早く進めばいいというわけでもないのですね」
刀子「急がば回れということか? 現実もそんなところがあるが……」
紫陽花「まあ、早くゴールに着いた事による利点ももちろんあるけどな」
紫陽花「まずはやってみて慣れてみようぜ」
先を促すと、それぞれの表情を浮かべながらゲームに臨んだ。
良いマスに止まったかと思えばその直後に足をすくわれたり。
と思えばその全てをひっくり返すぐらいの良アイテムを手にしたりと。
慣れてない二人を入れた4人プレーは予想以上の展開を見せ……。
刀子「せ、拙者が一位か?」
姫「くっ、気持ち資金が足りませんでしたわね……」
紫陽花「……どんまい」
自由「同情するなら金をくれっすよー!」
という順番で決着がついた。
いやー、序盤は経験者ってこともあってトップにいたんだが……。
自由「ビギナーズラックってやつっすかねえ……」
刀子「?」
紫陽花「初めてやる人が異常なくらいついてる状態のことだな」
紫陽花「まさに今日の二人だと思うが」
自由「何回も最良マスに止まるなんてイカサマっすよー……」
ぶっちぎりの一位だったはずだけに、小鳥遊はイジケているようだ。
ゲームが大好きで、ゲームに関しては負けず嫌いだからなあ。
ゲームを嗜んでいる端くれとしては分からなくもない心境だ。
一位余裕! とか思ってたら最下位に叩き落とされたらああもなるだろう。
やけ食いとばかりにお菓子を口に突っ込んでいた。
やれやれ、その膨れた頬は怒りによるもんなのかお菓子によるもんなのか。
刀子「……そう言えば、拙者ひとつ気になることがあったのだが」
紫陽花「ん?」
刀子「柊殿はこちらに来た当初、勤め先を探していたであろう?」
刀子「今更だが何故なんだ?」
紫陽花「あー、あれか」
別に大した理由があったわけじゃないんだけどな。
まあ、それなら逆に言っておいたほうがいいか。
紫陽花「俺は孤児みたいなもんでさ、世話になってたところがあるんだよ」
刀子「孤児……ということはまさか……」
紫陽花「うん、まあ……俺、実は親が居ないんだよね」
刀子「そうか……すまん、言いづらいことを」
俺は苦笑いを浮かべてそう答えた。
まあ予想通りの反応だな。
小鳥遊だけはちらっと匂わす程度のことを言ってるから冷静だが。
紫陽花「あんまり気にしないでくれるとありがたい」
紫陽花「孤児なんて俺以外にもいるし」
姫「……柊さんはお強いのですね」
紫陽花「まー……うん、色々経験してきたからかな」
刀子「そうか……」
刀子「では、勤め先を探していたのは恩を返すためというわけか」
紫陽花「まさかクエストをこなすことで報酬が貰える思ってなかったからなあ」
自由「まあ……でも、命を懸けてやるもんすからね」
紫陽花「そう言われれば納得できるけどな」
最初クエストの達成を条件にお金が手に入るってことを知った俺は驚いたもんだ。
紫陽花「ちなみに、俺の世話になったところは軍隊だ」
姫「軍隊に?」
紫陽花「俺の住んでたところは魔物に襲われて無くなっちまってな」
紫陽花「そんときに助けに来てくれてた軍隊の人に拾ってもらったんだ」
自由「そんな経緯があったんすね……」
紫陽花「いい人だったぜ。今思えば俺が魔法使いだってことには気づいてたんじゃないかと思ってる」
紫陽花「でも魔法関係者に何も報告しなかったのは、俺がガキなりに隠していたからかもな」
姫「そうですわね、本来であれば覚醒を確認した時点での報告が上がるはずですから」
そう考えると、あのおっさんは色々と見守ってくれてたんだな。
朝早くの訓練と夜遅くの訓練ももしかしたらバレてたかもしれん。
紫陽花「それにしても、野薔薇ってやけに軍事関係に詳しいっぽいけど」
姫「私の家は軍事関係を担っていますもの」
紫陽花「え、マジで?」
姫「あら、言ってませんでしたっけ……」
自由「あー、そういえば言ってなかったと思いますよ」
自由「ほら、色々ありましたしね」
刀子「出会いからして特殊であったし仕方ないでござろう」
紫陽花「うーん、でも何かどっかしらでちらりと聞いた覚えはあったけど……」
紫陽花「こうしてしっかりと聞いたのは初めてだな」
姫「私自身が偉いのではないですから普段通りでお願いしますわ」
姫「とはいえ、いつかは家の名に恥じないよう何事においても完璧を目指します!」
刀子「拙者もお伴します」
紫陽花「そう言えば、野薔薇ってよくその完璧をって言葉を口にするよな」
姫「ええ、野薔薇の家に生まれたからには完璧でなくてはならないのです」
紫陽花「そうか……名家は名家で色々大変なんだな」
姫「ふふ、私からしてみればもう当然のようなものですわ」
やんわりと浮かべた微笑みに気負ったものはない。
言葉通りに考えていることはその顔からもはっきりしていた。
野薔薇も、きっと先のことを見据えて生きてる。
ふと会話が途切れ、互いの飲み食いする音が響く。
考えてみれば俺、女の子3人とおんなじ部屋に一人なんだよな。
……やばい、地味に緊張してきたかもしれない。
刀子「? 柊殿、何をそわそわしておるのだ?」
紫陽花「へっ? いや、そんなことはないと思うぞ?」
姫「なんだか落ち着かなさそうではありましたけど」
紫陽花「……えーっとだな」
自由「おやおやぁ? 先輩ってばもしかして今更緊張してます?」
紫陽花「ぐっ……!」
さすがにこういうところの察しが良いな、こいつは!
ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながらにじり寄ってくる。
いや、理解してんのに何で寄ってくんの!?
さり気なく寄ってくる分だけ間を空ける。
刀子「一体何をやっているんだ……お主たちは」
姫「何やら隠しているのでしょうか?」
自由「いや、そういうんじゃないっすよ」
紫陽花「……」
刀子「では一体何をそんなに慌てている?」
紫陽花「……いや、改めて考えたんだけどさ」
紫陽花「女の子3人と同じ部屋に一人って状況だと思って……」
刀子「……はっ!?」
姫「そ、そう言われてみればそうですわね」
紫陽花「ゲームしてたせいで意識がそれてたからなあ」
自由「でも、教室でだって似たようなもんじゃないっすか」
紫陽花「そりゃそうだけどさ、シチュエーション違うと戸惑うんだよ」
自由「そういうもんすかねえ……」
紫陽花「ま、変に意識しすぎだってのは分かってるんだけどな」
ゲームしたり話してたりする時の空気であればそうでもないんだがな。
教室みたいに人が多かったり、広かったりするわけじゃない。
おまけにくつろぐことが前提である部屋に集まっているとどうしても意識してしまう。
一度気になってしまったら余計に、だ。
刀子「拙者はいまいち、男女のアレコレは理解しがたい」
刀子「だが、確かに年頃の男女が同じ部屋と言われてしまうと緊張してしまうな」
紫陽花「だろ? ただでさえ綺麗どころが揃ってるんだし……」
紫陽花「同年代の女子とこうして遊びに行くことすらなかった俺には刺激が強いよ」
10歳の頃にはすでに軍隊での生活を余儀なくされていた。
だからといって訓練させられたりってことはなかったが……。
負い目もあって積極的に手伝えることは手伝った。
当然、同年代の友人なんて出来るわけもなくて本が友達状態だったっけな。
自由「あれれ~? 先輩、自分のことも少しは意識してくれてるんすか?」
紫陽花「当たり前だろ? 小鳥遊だって十分可愛いし」
自由「へっ?」
紫陽花「まあ、性格に若干の難があるとは言えるけど些細なことだろうしさ」
紫陽花「逆に俺からしてみれば取っ付き易くて助かってる面もああるんだよな」
自由「お、おおぅ……なんか意外な反応で逆に困るっすね……たはは」
紫陽花「照れることはないと思うけどな」
紫陽花「正直、俺はこの場に俺がいること自体がちょっと現実離れしてる気がする」
刀子「そ、そこまで卑下することもなかろう?」
紫陽花「いや、前々から思ってたけどさ。皆レベルが高すぎ」
紫陽花「支倉や野薔薇だって綺麗で可愛いと思うぞ?」
刀子「なっ!?」
姫「そ、そんな……急に言われるとさすがにドキドキ致しますわね」
紫陽花「あ、悪い」
紫陽花「でも本当にそう思うぞ?」
刀子「~~~っ!」
刀子「せ、拙者はそろそろ失礼するっ!」
姫「と、刀子っ? お待ちなさい、刀子っ!」
自由「ありゃ……」
紫陽花「……発言まずったかな?」
ドタバタと走って行く音に静止をかける野薔薇の声。
程なくして何やら倒れるような音が響いていた。
ちょっと心配だけど、俺が言ったら余計に面倒なことになりそうだな。
自由「まー、女子としては悪い気はしないと思うっすよ」
自由「自分もその……ちょっとドキっとしたっすから」
紫陽花「うっ……」
自由「自分はこれから二人を適当になだめてくるっすよ」
紫陽花「悪いな、あまり付き合えなかった気がする」
自由「自分の場合は学園に帰ってからでもできることっすから」
自由「また機会があったら付き合ってくださいね」
紫陽花「おう、お休み」
自由「ええ、そんじゃ失礼するっす」
シュビっと手を頭に添えてポーズを取ったかと思うと部屋を去った。
『なーにやってんすかー』という間延びした声が遠ざかる。
一人部屋に残された俺は頬を描きながらため息をひとつ。
紫陽花「……改めて考えてみると、まるでナンパしてるかのような発言だったな」
ぐああ、それに気づいた瞬間恥ずかしさが異常がこみ上げてきた!
転げまわるのは我慢しつつ、頭を抱えて身悶えする。
これが旅行中におきるという開放感が起こす過ちか……恐るべし。
紫陽花「はあ、ばかなことやってないでさっさと……」
そこまで考えて、俺はとあることに気づいてしまった。
視線の先にあるのはさっきまで『野薔薇達が座っていた』布団だ。
一応座布団を用意したんだが、人生ゲーム中に白熱していつの間にかそこに居た。
この部屋には布団は一組しか存在していない。
ってことは必然的にあの布団で寝ることになるわけだが……。
紫陽花「今日、寝れるかな……俺」
そんなことをぼやきながら、俺は小さくため息を付いた。
虎千代「調査の件、ご苦労だったな」
紫陽花「ふあ~……とと、すまん」
紫陽花「こっちとしてはこんなことで報酬貰っていいのかって感じだよ」
虎千代「構わんよ。今回の件は明らかにこちらの不手際だ」
結局、あれから明け方近くまで寝れなかった俺は寝不足気味だ。
朝早く、少しだけ時間を遅らせて帰ってきたもののまだ寝足りない。
だがクエストの報告を怠るわけにも行かないからこうして生徒会室に来ていた。
ちなみに今話している内容は今回のクエストの手違いの件だ。
武田は申し訳無さそうに顔をしかめていた。
彼女も彼女なりに色々と動いただろうことは知っている。
だから彼女たちに対して不満をいうつもりは一切ない。
姫「それで……私も同伴させられたのには何か事情がおありのようですが」
虎千代「……ああ、実を言えば野薔薇だけじゃない」
姫「それはどういう……」
薫子「失礼します、両名をお連れしました」
虎千代「ああ、入ってくれ」
姫「? 冷泉さん……それに神宮寺さんまで」
葵「あら、数日ぶりです」
初音「お姉さま直々の呼び出しかと思えば、意味深な組み合わせじゃん」
初音「一人見覚えのないのがいるみてーだけど」
紫陽花「おう、柊紫陽花っていうちょいと前に転校してきたばっかだ」
初音「お? あ~……なるほどな」
生意気そうなお子様だな。
年齢的には多分、見た目相応に幼いと思う。
ポニーテールにまとめた髪、悪戯っぽい目元を見てると余計に拍車がかかる。
だが、わざわざこの場に呼ばれたってことは何らしかあるんだろう。
意図を求めて武田に視線を向ける。
分かっていると言わんばかりに頷き口を開いた。
虎千代「今回の件の詳細を伝えるにあたって色々と困った問題が出てきた」
虎千代「そのことを説明するのに、柊と御三家に集まってもらったわけだ」
初音「何かあったのか?」
虎千代「クエストの発令が誤った内容で届いた」
虎千代「柊及び野薔薇以下2名がそのクエストを受け、事実に気づいたんだ」
葵「本来であれば起きてはならないことのはずですわね」
葵「ということは、今回の件は私たちの『家』も関わる事なのですか?」
虎千代「察しがよくて助かる」
虎千代「水瀬、結城。頼む」
薫子「ええ、まずはこちらを見てください」
紫陽花「これは……?」
姫「……何かの会話記録のようですが」
書かれているのはどうやら、とある二人の会話内容だ。
詳しく読み進めていると、ちらほら霧の守り手という単語が出ている。
霧の守り手……聞いた覚えがある。
確か魔法使いを敵視している集団だったか。
姫「……真偽の程は?」
虎千代「すでに対象は捕縛済みだ」
結城「ご丁寧に会話ログもPCに残ったままで証拠としても十分だった」
薫子「今はつながっていた霧の守り手を追跡調査中です」
姫「事実ですか……これは由々しき事態ですわね」
葵「このことをお父様は知っているのでしょうか?」
虎千代「分からんが、今回の件は大事になっている」
虎千代「ニュースなりを見ていれば耳には入っているとは思う」
初音「なんか予想してた以上に面倒なことになってるみたいじゃん」
初音「これ、対岸の火事ってわらってらんないかもな」
姫「ええ、国の……それもクエストに関わる立場に内通者がいる……」
姫「私たち御三家に内通者が存在している可能性がありますわ」
紫陽花「……」
内容が内容だけに蚊帳の外感が半端ないな。
というか、俺がこの場にいてもいいのだろうか。
物々しい空気が漂ってるし、居心地悪いなあ。
初音「内部調査は確実にするとして、今回の件は動機があったのか?」
聖奈「恐らくだが、柊が目的だろう」
紫陽花「……へっ? 俺?」
関係ないかなと思っていたところに急に話をふられて反応が遅れた。
うわ、皆に見られるのってちょっと緊張するな。
紫陽花「何で俺?」
初音「噂の転校生ってことは……もしかして能力が原因か?」
聖奈「まあ、まず間違いないだろうな」
紫陽花「能力って魔力の譲渡だろう?」
紫陽花「こんなのがあって価値があるのってせいぜい魔法使いくらいだろうに」
葵「そうですわね……一体何故?」
聖奈「だからこそだ」
聖奈「霧の守り手は魔法使いに対して訳の分からない敵意を持っている」
紫陽花「そう習ったな……ええと、確か……」
聖奈「『霧の魔物は進化を促し、魔法使いはそれを邪魔している。魔物が消滅すれば、魔法使いが人類を支配する世界が来るだろう』」
聖奈「そんなことを素面で謳っているようなバカどもだ」
紫陽花「でも、それなら俺なんか以外にも狙う相手がいるだろうに……」
虎千代「お前は自分を過小評価しているが、実際にお前の能力は強力だ」
薫子「魔力総量が物を言う魔法使いにとって魔力残量は死活問題ですからね」
聖奈「その点お前は魔力の総量が異常に多い上に魔力を渡せる」
聖奈「言い方は悪いが、動けて支援もできる魔力タンクのようなものなんだ」
虎千代「考えても見ろ、戦場のどまんなかで魔力切れになった状況を」
紫陽花「……そういわれると確かに重要なのか」
うーん、なるほど。
とあるアクションゲーでいうE缶みたいなもんなのか俺は。
しかも怪我さえしなければ携帯する必要はない自律移動つき。
便利っちゃ便利なのかな?
ここまで考えておいてなんだけどフクザツな気分である。
虎千代「少しは警戒してくれ……現地でも狙われていたんだぞ?」
紫陽花「えっ? 冗談だろ?」
梓「冗談でそんなこと言わないと思うっすよ」
紫陽花「うおっ!?」
姫「あら、貴女は確か……」
梓「服部梓っす、どうぞお見知りおきを」
『よろしくお願いしますわ』などと呑気に自己紹介。
突然現れたっていうのにずいぶんと自然体だ。
驚いてる俺のほうがおかしいとでも言うのだろうか。
誠に遺憾である。
紫陽花「えっと、まさかだが……服部も京都に来てたのか?」
梓「およ、気づいてたんすかっ?」
紫陽花「いや、その時に気づいてたってわけじゃない」
紫陽花「ただ、ある場所に棒手裏剣が落ちててさ……」
梓「あちゃ~……焦ってたとはいえ、落としてましたか」
紫陽花「まあ、魔力痕とそれを見てもしかして……ていう程度だったよ」
梓「なーるほど……まあ、改めて説明させてもらってもいいっすかね?」
虎千代「そうしてやれ。どうにも柊は危険意識が足りないようだ」
そんな呆れ気味に言わなくていいじゃないか。
後、何で一部除いた大多数も頷いてるんだよ。
ほんの少しだけアウェー感を味わいながらも服部の説明を受ける。
梓「事の発端は武田先輩に先輩の護衛を頼まれてからっす」
紫陽花「そんなところだと思ったよ」
紫陽花「でも狙われてるって分かった時点でどうして言ってくれなかったんだ?」
虎千代「……あくまで可能性の域をでなかった、と言いたいところだが」
虎千代「今回の事件を企てた輩を引きずり出したかったんだ」
姫「それは、柊さんを囮に使ったということでしょうか?」
わずかながら眉を潜めながら問う野薔薇に武田は頷く。
なるほど、だから手違いだったって言ったのに3日も滞在させたのか。
魔物発生の可能性があるっていうのも、相手に気づかれてないと錯覚させるため。
そのためには当事者である俺たちが本当の意味で無警戒な方がいい。
結果、俺たちには内密の間に行われたわけだ。
姫「もし柊さんの実に何か……!!」
紫陽花「いや、いいんだ。野薔薇」
姫「柊さんっ!」
紫陽花「悪いが、武田の案は間違いではなかったと思う」
紫陽花「野薔薇なら、間違いなく必要以上に警戒してただろ?」
姫「当たり前ですわ! 来ると分かっていて警戒しないなんて……」
紫陽花「それじゃあ、犯人を突き止めることは難しいだろ?」
姫「うぐっ……ですが……」
紫陽花「それに、そのもしもが起きないようにするためなんだろ?」
紫陽花「服部を京都に派遣したのは」
虎千代「その通りだ」
紫陽花「な? 武田たちだって何も考えてないわけじゃなかったんだ」
紫陽花「だから俺は何も気にしない」
姫「まったくもう……!」
姫「当の本人にそう言われては、何も言えないですわ」
やや機嫌を損ねたのか、小さく頬をふくらませてそっぽを向かれた。
そんな様子にちょっと困ってしまいながらも、服部に先を促す。
梓「えーっと……まず、先輩は2回襲われかけてるっす」
梓「一回目は察しがついてると思うんですが、お土産買ってた時っすね」
紫陽花「やっぱその時か」
姫「喧嘩のようだという噂のようでしたが……そうだったんですね」
梓「2回目はからくり屋敷に入った時ですね」
紫陽花「もしかして、あの爆発音って……」
梓「最初のと違って軽く抵抗されちゃいましてね」
梓「だーいじょうぶっす、峰打ちっすから」
紫陽花「……大丈夫なんだろうな?」
聖奈「心配いらない、きちんと意識は戻っている」
そんな言葉を聞いてひとまず安心したよ。
だが、爆弾を使ったんだと思うが……どうやって峰打ち?
つくづく、服部の奴は謎が多い。
忍者っていうのはこういうもんなんだろうか。
梓「とにかく、その二名は明確に先輩を狙っていたことを自白しました」
梓「目的までは……口が堅くて吐きませんでしたけど」
紫陽花「そうか……」
虎千代「分かってくれたか? お前は今や狙われる身だ」
初音「だけどさ、転校生も言ってたけど何でこいつを襲うんだ?」
薫子「いいですか? 今はまだ、大規模な戦いにもある程度は対応はできています」
薫子「ですが、いずれは対応できない時もくるかもしれない……」
葵「そのようなことが?」
聖奈「ああ、可能性は高い」
聖奈「現に近頃現れる魔物は個体の強さだけでなく、出現報告も多くなっているからな」
虎千代「大規模侵攻が起きた場合、柊の存在は要といっても良いだろう」
大規模侵攻、か……。
北海道で起きたという第六次侵攻のようなこともある。
その大きな原因は体勢が整っていなかったってことらしいが。
だがもし、仮にきちんと体勢が整っていたとしても相手が多かったら?
もしも相手が手強く長期戦になるような戦いになってしまったら?
しかもそれが様々な場所で起きたら?
考えるだけで寒気がする状況だ。
ちなみに現在、こちらがわが優っているのは知恵のみといわれている。
虎千代「今は大々的にどうとは言えない」
虎千代「しかし、今回のような件があったことについて警戒しておいてくれ」
武田の重みのある声音で発せられた言葉に、それぞれの表情で受け止めた。
そんな中、俺は未だに自分が狙われているという自覚はもてないでいる。
いや、説明されたことにもある程度の納得ができるものだった。
とはいえそれを頭から信じられるほど俺が優れているとは思っていない。
警戒は一応するけど、きっと何かに間違いだろう。
そう自分の中で納得して、その日の会議を後にした。