グリモア~守護者~   作:エウラス

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はあい、またしばらく開きましたね。
最近とても忙しいです。おまけに首がぁ、という状況が日に日にひどくなっています(泣)
ですがそんな環境にもめげず、少しずつでも上げていければいいと思っています。
では、本編をどうぞ。


第12話

第12話:学園の問題児たち前編

 

手違いという名の虚偽のクエスト発令事件から数日経つ。

学園に戻ってきたということもあり、これといった事件もなく平穏にすごしていた。

まあ小さないざこざがあったりはしたものの特筆することはないだろう。

今は2時間目の休み時間。

喉の渇きを覚えて、購買に訪れていた。

急激にバナナオレを飲みたくなったからだ。

 

紫陽花「じゅずず……ぷはあ」

 

うん、やっぱここのバナナオレは最高だ。

こういう類の飲み物は牛乳と果実の配分が命。

俺的には牛乳成分が強く、果実分は香りづけ程度が好みである。

その理想的な~~オレを提供してくれるのがこの購買だ。

別に大好物ってわけじゃないけど、時折こうして飲みたくなる。

200mlほどのやや足りないくらいの量を飲み干すとゴミ箱へ空を捨てた。

その時である。

 

女子1「ひいいっ!? 勘弁してくださいっすー!!」

女子2「待たんかっ! 今日こそは戦ってもらうぞ!!」

紫陽花「……なんだ?」

 

妙に騒がしい声と空気に視線を泳がせる。

幾らか同じことを繰り返したところで、見覚えのある『二人』が視界に入った。

 

梓「忍者は隠密行動が基本なんですってば!」

梓「生天目先輩みたいに腕っ節がつよいわけじゃないんすよ!?」

つかさ「嘘をつけ! その身のこなしひとつとってもかなりのものだ!」

つかさ「さあ、私を喜ばせてみろ!!」

梓「聞いてくれないこの人おぉっ!?」

紫陽花「あれは……」

 

涙目で走りながらいつか見た俊足で逃げる服部を追いかける少女。

某なんちゃらファイターに出そうな風体に、やや色黒な肌をしたショートカットの女子。

あれは……間違いない。

 

紫陽花「おーいい、生天目ー!!」

つかさ「むっ?」

梓「へっ?」

 

ああやっぱりそうか。

声をかけて反応したのもそうだが、あの好戦的な目は間違いない。

数年前のあの日、傷つき満身創痍だった癖に向けてきたあの目だ。

どうやら相手はすぐに気付かなかったらしいが、すぐに目を輝かせて笑う。

 

つかさ「おお、お前は以前あったことがある特異体質のか!」

紫陽花「柊紫陽花な」

つかさ「そうそう、そんな名前だったな」

つかさ「こっちに来ていたならなぜ言わん」

紫陽花「いや、そっちがここの生徒だって知ったのもつい最近なんだぞ?」

つかさ「何?」

紫陽花「大体生天目は……」

梓「あ、あの~……」

紫陽花&つかさ『?』

 

おずおず、といった具合で手を上げながら声を上げた服部に目を向ける。

当の本人は俺と生天目を交互に見ながら困惑しているようだ。

 

梓「二人は知り合いなんすか?」

紫陽花「服部はまだしらなかったっけ」

紫陽花「こいつとは数年前に魔物の戦いの場であってるんだ」

梓「えっ!? じゃあ学園に来る前からの知り合いってことっすか?」

つかさ「そうだが、そこまで驚くことでもないだろう」

梓「いやいやいや、どういうことなんすかっ!?」

紫陽花「えーっとまあ、つまり――」

 

いつだったか生徒会の奴らに話したのと同じ内容をかいつまんで伝える。

生天目の方も特に訂正するような点はなかったのか静かにしていた。

それらを全て聞き終えた後、服部はしばらく唖然としていたが――。

 

梓「そういう経緯があったんスねえ……」

 

と、苦笑いを浮かべながら納得してくれた。

 

紫陽花「さっきも言ったとおり、同じ学園の生徒だって知ったのはつい最近だったんだけどな」

つかさ「おかしいな、確かに待っていると伝えたはずだろう?」

紫陽花「それだけで分かれば苦労しないわっ!」

梓「そっすねー……もしかして? 位ならわかるかもしれないっすけど」

つかさ「まあ、結果的にこうして再会できたのだから問題ないではないか」

つかさ「改めてあの時は世話になったな」

 

裏表のない素晴らしい笑みを浮かべて握手を求められた。

キラリと光る八重歯が気になりつつも手を取る。

ぐっ……本当にこいつ女子か!?

手のひらの骨から嫌な音を感じながらもなんとか握り返す。

 

つかさ「そう言えば、お前はあれからどうしていた?」

紫陽花「ん? まあ、ここを勧められてからはその手続なんかで忙しかったな」

紫陽花「その後はいくつかのクエストに参加したり、って感じ」

つかさ「ふむ、まあ元気そうで何よりだ」

梓「そんなこと言って、一回死にかけてたじゃないっすか」

つかさ「何?」

紫陽花「あっ、こら!」

つかさ「それは本当か?」

紫陽花「むぐ……まあ……」

 

射抜くような視線に射すくめられて頷く。

実際、一度は危ない目にあってるわけだしな。

その時のことをかいつまんで説明すると生天目の奴は興味深げに頷いていた。

 

つかさ「ただのミノタウロス風情が、か……惜しいことをしたな」

梓「……惜しいっすか?」

つかさ「ああっ! その場にいたらそいつらに突っ込んでいたものを!」

紫陽花&梓『ですよねー』

 

戦闘狂って言っても差し支えない生天目のことだ。

俺たち枯らしてみれば、予定調和的なレベルでそういう思考に行き着くのは当たり前のことだった。

 

紫陽花「……で、なんで生天目は服部の事を追いかけまわしてたんだ?」

つかさ「む? そんなの決まってるだろう、戦うためだ!」

梓「ひいいぃぃ~!?」

紫陽花「お、おいっ?」

梓「自分と戦うのは勘弁してほしいっすー」

つかさ「……つまらんな」

つかさ「本気でない相手と戦っても面白くはない……今日のところは諦めよう」

梓「ほっ……」

紫陽花「いや、『今日のところは』ってことは別の機会を狙ってるってことじゃ?」

梓「へぇぁっ!?」

つかさ「はっはっは、いつかは戦ってもらうぞ?」

梓「あ、あわわわわ……」

 

盾にするように俺の背中に張り付いている服部が震え始める。

うわお、まるで携帯のバイブレーションみたいだ。

だがまあ、生天目が見初めるほどだから服部もかなりの腕なんだろう。

身のこなしは明らかに俺が見た誰よりも軽い。

どうせだから気になってたことでも聞いてみるか。

 

紫陽花「服部ってさ、もしかして忍者だったりするのか?」

梓「ほへっ?」

梓「あ、ああ……そっすよ。こう見えても伊賀流の忍者っす」

紫陽花「伊賀流って……ずいぶん有名な名前が出てきたな」

 

対してそういうことに詳しくない俺でも忍者の有名な家系なのは知っている。

それ程に伊賀流や甲賀流ってのはいろんな作品なんかで出てくるからな。

とはいえ、それがまさか本当に存在するとは思っても居なかった。

 

つかさ「忍者でありながら魔法使いに覚醒しているのが服部だ」

つかさ「恐らく、お前くらいじゃないのか?」

梓「そっすね~……少なくともウチの流派じゃ初めての事みたいっす」

紫陽花「へえ……生天目がきになるのも仕方ないな、そりゃ」

梓「なんてこと言うんすか、先輩!?」

つかさ「ふはは、そうだろう?」

紫陽花「とはいえ、俺は戦闘狂じゃないんでそこまで強さに興味はないんだけど」

つかさ「ふむ……まあ、お前は後方支援が主力だろうからな」

梓「でも、先輩がいるかいないかで大分戦況が変わるのも確かっすよ」

つかさ「ほう?」

紫陽花「そうでもないだろ。戦ってるのは他の皆なんだし」

梓「いやいや、何いってんすか」

梓「魔力供給は言うまでもないっすが、回復魔法や妨害も見事なもんっすよ」

紫陽花「うーん……そうなのか」

梓「こ、この人ってば……」

つかさ「はっはっは、惜しいな。これでお前が攻撃も出来れば文句なしなのだが」

紫陽花「いや、勘弁してくれ」

 

生天目の攻撃方法は一度見ている。

極端すぎるほどの肉体強化に特化した魔法を使ってその身一つで魔物を粉砕。

そんな戦いの中、獣のように吠えながら動きまわる彼女はまさに野獣そのものだ。

ただ、その反動なのか使用後はかなりの筋肉痛に悩まされるらしい。

最初にあった時も動けなかった理由の大半が魔法の反動によるものだ。

まったくもって、今まで生きてこれたことが不思議で仕方がない。

 

つかさ「さて、懐かしいやつと会えたし少々戦いの気も削がれた」

つかさ「私は軽く腹ごしらえを済ませてから魔物でも探そう」

紫陽花「クエスト発令されるんじゃないか? 出たら」

つかさ「そんなまどろっこしいことをしていたら先を越されるだろうが!」

紫陽花「さいですか」

つかさ「まあ、出現情報の確認をするために使っているのは確かだがな」

梓「ありゃ、なんか意外っすね」

つかさ「利用できるものはするさ」

つかさ「それじゃあまたな」

紫陽花「ああ、なるべく無茶するなよ?」

つかさ「ふ、忠告だけは受け取っておく」

 

自信に満ち溢れた表情を浮かべて去っていく生天目。

その背中には強者の貫禄が備わっていた。

同年代の女子とは思えない気迫だな。

それをぼんやりと見送っていると、服部は脱力したように肩を落としていた。

 

紫陽花「おつかれさん、なんか飲むか?」

梓「おっ、おごってくれるんすか?」

紫陽花「ああ、自販機でいいか?」

梓「オッケーオッケー、まったく問題無いっす」

紫陽花「何にする?」

梓「じゃあこれでっ!」

 

お金を入れた自販機からガコンッ、という音とともに何かが落ちてきた。

その何か……緑茶を取り出すとストローを差し込んで飲み始める。

ただ見てるのも何なので俺ももう一本バナナオレを買って飲むことにしよう。

 

梓「ふぅ~、生き返るっすね~……」

紫陽花「大変だな、あいつに目をつけられるとか」

梓「まったくっすよ、見つかる度に戦いを申し込まれちゃいまして」

紫陽花「いっそ一回引き受けてやったほうが良いんじゃないか?」

梓「う~ん、自分は忍者っす」

梓「本来の役割は諜報活動やら情報の撹乱が主だと思うんスよね」

紫陽花「そうなのか?」

梓「もちろん戦うことが出来ないわけじゃないっす」

梓「でも、自分はあくまで生き残る事が大事だと思って行動してまして」

紫陽花「生き残ること……」

梓「戦って相手を倒すことも大事っすけど、なによりもまず生きること」

梓「そして、知っている情報を仲間に託すことが大事なんス」

紫陽花「……それが服部の戦い方ってことか」

梓「えへへ、ちょいとマジになっちゃいましたね」

 

服部は恥ずかしげにそうつぶやくと再びストローに口を移す。

だけど、服部の戦い方は俺としては好感が持てる。

決して驕ることなく、常に相手との力量差を見極めて情報を確実に持ち帰る事。

だが、それが出来るのはそれ相応の力があるものだけだろう。

服部はその力があって、自分にしか出来ないと考えてそう行動している。

俺は……どうだろうか。

ひとりでも多くの命を助け、守りたいとは思っている。

だけど、そのやり方は未だに漠然としていた。

 

紫陽花(もっと、ちゃんとした方向性を決めないとダメだな)

 

そう心のなかで決めながら、俺は飲み終えた空容器を投げ捨てた。

 

 

あれから、服部と別れた後はこれといった大きな出来事もなく平和そのもの。

放課後になって学園を出た俺は町中の商店街に来ていた。

目的は食材の調達だ。

寮住まいの俺は本来ならご飯を用意する必要はない。

だが、個人的に手作りをしたいときはこうして町に来ては材料を買いに来ているわけだ。

目的の店の一つである八百屋に辿り着き、早速吟味。

 

八百屋店主「あんらぁ、柊ちゃんじゃないのお」

紫陽花「あっ、おばちゃん。こんばんは」

八百屋店主「あいよお、こんばんは」

八百屋店主「今日は何にするの?」

紫陽花「んー、実は決まってなくて……安いのがあったらそれをベースに考えようかなって」

八百屋店主「それじゃあ玉ねぎとじゃがいもなんてどうだい?」

八百屋店主「今日はいいところから仕入れてるから美味しいわよぉ」

紫陽花「へえ、どれどれ」

 

気になって訪ねてみたら現品を出された。

なるほど、一目見てまずその玉の大きさに驚く。

じゃがいもも玉ねぎもそれぞれに普段とは違う大きさなのだ。

じゃがいもは普通よりも1.5倍くらい大きい。

玉ねぎはその逆に、やや小振りだ。

 

紫陽花「玉ねぎはやけにちっさいですね」

八百屋店主「その分旨味が凝縮されてるのよ」

八百屋店主「極秘の仕入先でしか手に入らないし、次の入荷はいつかはわからないのよねえ」

紫陽花「むっ……」

八百屋店主「じゃがいもも似たようなものね」

紫陽花「むむむっ」

 

そう言われるとこれを買わないと損をしたような気分になってしまう。

ニコニコと返事を待ち続けるおばちゃんを見て、俺は苦笑いを浮かべた。

その手に財布を持って。

 

紫陽花「3個ずつもらっていくよ」

 

 

紫陽花「やれやれ、まさかこんなに買いこむことになるなんてなあ」

 

両手に大きな袋を2つずつぶら下げてぼやく。

正直なところ世話になった人への仕送りを差し引いてもかなりの手持ちがある。

それほどにクエストで貰える報酬は高い。

だからこそこれだけ買ってしまっても別に問題はないとも言えるのだが……。

 

紫陽花(貧乏性ってのはぬけないな……どうにももったいなく感じる)

 

そう、どれほど生活水準が上がろうともこれは変わらない。

染み付いてしまった貧乏生活はそう簡単に拭えるものじゃないみたいだ。

もちろん、軍に引き取られていた頃は何不自由ない生活をしていた。

強いて言うなら、学園に通えなくて学園生活を知らなかったくらいだ。

それでも何かあった時のため、必要以上迷惑をかけないために節約してすごしていた。

その結果、なるべく安くいいものを見つけることが半ば習性のように鳴っている。

買いだめというのもその一つだ。

冷凍すれば長く使えるものも多いしね。

と、一人で節約に関して考えていると――。

 

女子「こらっ、はしゃぎだっての!」

犬「わんっ、わんわんっ!」

紫陽花「ん?」

 

ふと、路地裏の方から聞こえてきた声に一瞬身を硬くする。

しかし、聞こえてくる会話の内容があまりにも平和だった。

通り過ぎたばかりの路地裏を覗きこんでみると、女の子と箱に入ってる茶色の犬が戯れている。

犬はあの様子から察するに捨て犬だな。

女の子の方は……見覚えがあるような気がする。

ドレだけの時間だったか、ずっと眺めているとこちらに気づいた犬が一鳴き。

更にそれを見て女の子の方もこっちに気づいたようだ。

 

女子「げっ……お前、転校生じゃねえか」

紫陽花「? 俺のことを知って……」

龍季「お前なあ……クラスメイトの顔ぐれえ覚えとけよ」

紫陽花「クラスメイ……あっ! お前、朝比奈か!」

 

『気づくのおせえよ』、と悪態をつきながらその場に立つ。

そうか、いつも授業にまともに出ない上に服装が特殊だから気付かなかった。

確か水無月たちが問題児扱いしているウチの一人だっけ。

言動がやさぐれてるし、授業もサボってるみたいだし仕方ないんだろうけど。

しかし何でまたこんなところにいるのだろうか。

思いつつ視線は自然と先ほどの箱のなかに居る犬に向いた。

 

犬「へっへっへ……!」

 

キラキラとした目をこちらに向け、期待しているように尻尾を振っている。

その後、そばに来ていた朝比奈に目を向けると思いっきりそらされた。

 

龍季「~♪」

 

おもっきし不自然なくらいにあさっての方向を向きながら口笛まで吹き始めた。

ただし、顔が真っ赤なのでまったくごまかしきれてない。

何だこの正直過ぎる生き物は。

 

紫陽花「朝比奈って暴力的なイメージだったけど、割と可愛いとこもあるんだな」

龍季「ああっ? 何だとてめえっ!」

紫陽花「怖っ! なんだよ、犬と遊んでたんだろ?」

龍季「んなわけ無えだろ。あたしはあの哀れ過ぎる生き物をあざ笑ってただけだ」

紫陽花「……後ろに持ってるドッグフードは?」

龍季「こ、こここ、これは……そ、そう! あたしのおやつだ!」

 

く、苦しい……苦しすぎる言い訳だ!

不自然なほどに声を震わせていたのもそうだけどなくても分かる。

なんだか勝手なイメージを着せていたかもな。

苦笑気味に朝比奈の隣を通りすぎて犬のところへ行く。

 

紫陽花「まだ子犬じゃないか……ほれほれ」

犬「くぅん?」

 

ゆっくりと近づけた手の匂いをかがれた。

しばらくしてから安心したのか、ペロペロとなめられる。

ううん、こそばゆいけど可愛いな。

よく見ればとても捨てられたとは思えない環境が箱を彩っていた。

雨よけの屋根もあるし、整えられた寝床もある。

なにより、子犬であるにもかかわらず衰えた様子が見られない。

多分定期的に様子を見ている誰かさんがいるからだろう。

 

龍季「……そいつ、ひと月前に見つけたんだよ」

 

ポツリと、いつの間にか後ろに居た龍季が言った。

俺の隣に片膝を着くと、箱の中に居た犬を抱き上げる。

犬もかまってもらえて嬉しいのか、千切れんばかりに尻尾を振っていた。

 

龍季「信じらんねえよ、こんなに可愛いのによ」

紫陽花「……そうだな」

龍季「拾ってください、て紙だけ置いてこいつを置き去りだぜ?」

龍季「……命をなんだと思ってんだ」

紫陽花「……」

龍季「あっ? なんだよ、その鳩が豆鉄砲食らったような顔は」

紫陽花「いや、ちょっと意外だなって思ったんだよ」

紫陽花「発言も不良っぽいし、素行だってそんなにいいわけじゃない。

    クエストにだって積極的であるようにも見えないし、誰かと

    仲良くしてるような姿だってあんまり見ないような奴だって

    思ってたけど……」

龍季「おい、さすがに言いすぎだろ」

犬「くぅん?」

 

仏頂面でそう返す朝比奈に、犬は不思議そうに首を傾げていた。

 

紫陽花「悪い悪い」

紫陽花「でもさ、お前は本当は優しい奴なんだなってのはわかったよ」

龍季「はあ? ったく、よく分かんねえ奴だなお前は」

龍季「いいか? 汚したくなけりゃあたしに近づかないようにするんだな」

紫陽花「はいはい、分かりましたよ」

紫陽花「お前のご主人はずいぶんとトゲトゲしてるなー?」

犬「わんっ」

龍季「てめっ、ゴロウまで同意してんじゃねえ!」

紫陽花「ほうほう、お前はゴロウっていうのか」

ゴロウ「わんわんっ! くぅん?」

紫陽花「俺か? 俺は柊紫陽花だ。機会があったらまたな」

ゴロウ「わぉーん!」

龍季「……」

紫陽花「そう睨むなって、もう帰るから」

 

じっと半めでこちらを見ていた朝比奈に肩をすくめて通り過ぎる。

しかし、その瞬間――。

 

龍季「……ゴロウが認めたなら仕方ねえか」

 

そうつぶやくのが聞こえて振り返った。

しかし、朝比奈の方は話すことはないのかそのままゴロウと戯れている。

空耳かな、とか思いつつその場を離れることにしたのだった。

 

 

朝比奈と別れてからはこれと言って特に問題もなく帰路に着く。

さすがに買いすぎたのもあって両腕がだるくなってきた。

ちょっとだけ後悔したものの、大分安く仕入れられたからなあ。

しばらくは買い出しに出ることもないだろう。

そんなことを考えながら歩いていると見覚えのある影が浮いていた。

向こうもこちらに気づいたのか、ぶんぶんと手を振っている。

 

紫陽花「よっ、卯ノ助じゃないか」

卯ノ助「よお、しばらくぶりだな。大分無茶してたらしいな」

紫陽花「よく言われる」

紫陽花「それよりも、寮の近くまでくる何で珍しいよな」

卯ノ助「ああ、ちょーっとわけありでたまに顔を見せに来るんだよ」

紫陽花「訳あり?」

卯ノ助「ん~……まあ、ざっくり言っちまうと問題児の更生を促しにだ」

紫陽花「問題児かあ……問題児って漠然としてるよな」

卯ノ助「もちろん、基準は多少あるんだぜ?」

卯ノ助「正当な理由なしに授業に参加してない奴なんかも該当するぜ」

 

正当な理由……朝比奈なんかもそれに分類されるんだろうな。

あいつが授業に参加してるのを見たのはぶっちゃけ、数える程度しかない。

あ、後今日会った時の様子を見るに生天目のやつもだな。

卯ノ助は俺の表情から何かを悟ったのか深い溜息をつく。

その表情にこそ変化がないが、声音から妙に疲れた色が窺える。

苦労してんだな……兎ロボットの割に。

 

卯ノ助「まー、他にも魔法の不正使用だったりもあるな」

卯ノ助「後、正式な手続きなしにクエストに参加とか」

紫陽花「生天目は問題児扱いになりそうだな」

卯ノ助「あいつか……って、知ってるのか?」

紫陽花「ああ、こっちに来るきっかけになったようなもんだしな」

卯ノ助「そういやそんなこと言ってたか」

 

卯ノ助にはこっちに来るときの手続きなんかで色々と事情を話してある。

その関係で生天目のことについても話してたはずだけど忘れてたっぽいな。

別に問題があるわけでもないしいいっちゃいいけどさ。

 

紫陽花「じゃあ今もその問題児とやらと話してきたってところか?」

卯ノ助「正確には問題児とも言いづらいんだがな……」

卯ノ助「お前と同じクラスに楯野望ってのがいるだろ?」

紫陽花「んー……?」

卯ノ助「まあ、居るって言っても多分、紫陽花は会ったこと無いよな」

紫陽花「……あっ、もしかして一回しか登校したことがないっていうやつか?」

卯ノ助「おお、そいつだ。知ってんのか?」

紫陽花「いや、野薔薇たちに聞いた」

紫陽花「やっぱり不登校だからか?」

卯ノ助「ま、そうとも言えるが楯野の場合はちょっと事情があってな」

卯ノ助「霧過敏症になっちまってるんだよ」

紫陽花「霧過敏症……?」

卯ノ助「もちろん、普通の霧のことじゃないぜ?」

卯ノ助「霧の魔物を払ったりなんかする時に出る特殊な霧に拒絶反応がでるんだよ」

紫陽花「それって……大丈夫なのか?」

 

以前、宍戸が言ってた感じだと霧は人体に害があるってことだったはずだ。

俺の懸念を感じ取ったのか、卯ノ助は心配ないというふうに首を振った。

 

卯ノ助「霧過敏症はどちらかと言うとアレルギー反応に近いんだ」

卯ノ助「直ちに命にかかわるようなもんじゃねえよ」

紫陽花「……そうか」

紫陽花「でも、そうなると魔物の討伐にもあまり参加できないんじゃ?」

卯ノ助「参加はできるが、無理をすればってレベルだな」

紫陽花「大変だな……」

 

回復魔法でどうにか出来るようなもんでもないだろうし。

出来るなら助けてあげたいと思うけど、そういう単純なものでもないんだろうな。

なんとなく微妙な空気になりながら、俺は卯ノ助と分かれて寮へと戻った。

 

紫陽花(そういえば、振り返ってみると今日は問題児二人と出会ったのか)

 

ふと気づいてみれば、話題に上がっていた問題児っぽい二人と会っていた。

なーんとなく嫌な予感を覚えながらも、気にしないふりをする。

やめだやめ、変なコト考えてないで今晩の献立でも考えますかね。

と、そんな気軽な考えで居た。

……後日、そんな嫌な予感が当たることをこの時の俺は知らなかったのだが。

 

 

 

 

 

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