ようやく大規模信仰の話に持って行こうという感じになってきました。時系列? そんなの関係ねえ!(
冗談はさておき、あくまでIFストーリーということですので、本来の時系列、行われていた行事などはあくまですっぱ抜きます。こんなことが起きていた未来も合ったかもしれない、そういう話であると再認識してもらえればなーと思います。
では、本編をどうぞ!
第十三話:学園の問題児たち後編
生天目との再会があった日から2日経ったある日のこと。
今日はクエストが発令されていたこともあって久しぶりにそれに参加することにした。
内容としては、校外の町付近に現れた犬型の魔物の討伐。
すでに何名かが受けていたようだが、ちょうど支援担当が空いてるようだ。
紫陽花「……見ない名前だけど、折角だし受けるか」
何気ないそんな一言を呟きながら、俺はクエスト参加の旨を送信した。
紫陽花「この辺……か?」
クエストの受注が完了され、集合場所などの詳細メールが届いた。
その内容から俺はすぐに集合場所らしい噴水の近くへ。
周囲を見て回ってみるが、それらしい影は見えない。
おかしいな……集合場所を勘違いしてるのか?
ノエル「おっにいさーん! こっちこっちー!」
紫陽花「……?」
ノエル「お兄さん、柊さんだよね?」
紫陽花「あ、ああ……ってまさか君たちが?」
ノエル「その通りっ!」
さら「よろしくおねがいします~」
秋穂「ふ、ふふ、不束者ですけどよろしくお願いします!」
紫陽花「……」
なんてこった、まさか他の受注者が中等部の子たちだったとは。
後、一人だけちょっと勘違いされそうだからやめようね?
周囲のゴミでも見るような視線がとても痛いです。
俺は断じてロリ◯ンではない。
ノエル「お兄さん?」
紫陽花「はっ!?」
紫陽花「あ、ああ……悪い。まさかこんな小さい子たちばかりとは思わなったもんで」
ノエル「むっ! 私達だって立派なレディなんだよ?」
さら「そうなんでしょうか?」
秋穂「わ、私はその……確かに小さいですし」
ノエル「そういう問題じゃないんだよ、二人共っ」
ノエル「これは女の子としての尊厳を保つための主張なの!」
紫陽花「……」
なんというか、温度差が激しい。
よくよく見ればこの騒がしい子、名前は分からないが見覚えはある。
確かこっちに来てすぐくらいに廊下でぶつかった子だ。
他の二人は……残念ながら見覚えがない。
お団子頭の女の子は特に幼気な雰囲気が強く、その腕に小さい白犬を抱いている。
もう一人は見ているだけで守ってあげたくなるような保護欲を掻き立てられる女の子だ。
水色のベレー帽が目新しいな。
なお、この中でダントツにインパクトが強いのは言うまでもなく目の前の子だ。
こうしている間にも『乙女心が分かってない』とかくどくど言っている。
明るい茶色の髪色から察するに留学生かハーフなのだろうか。
紫陽花「悪かったって、あまり女の子と接する機会がなかったから疎いんだ」
ノエル「分かったならいいのだよ、むふっー」
満足、といった具合で張るものもない胸を張る女の子。
なんだろうか、まだクエストは始まってすらないのに疲れが酷い。
主に精神面で。
秋穂「あ、あのっ! まずは自己紹介をしませんか?」
秋穂「私は瑠璃川秋穂です」
さら「言われてみればまだでしたね。私は仲月さらですぅ」
さら「後、この子はシローっていうんですよぉ」
シロー「わんっ!」
ノエル「ふっふっふ、そして最後がこの私!」
ノエル「皆のサポート役、冬樹ノエルちゃんだー!」
紫陽花「お、おう……よろしく」
紫陽花「俺は知ってるかもしれないが、柊紫陽花だ」
ノエル「うんうん、よろしくね」
紫陽花「……ところで、冬樹って姉妹とかいたりするか?」
ノエル「あっ……」
冬樹という名前を聞いて一番に思ったのがイヴのことだ。
アイツの苗字も確か冬樹。
しかも、なんか以前同じ名字のが居るって聞いた覚えがある。
だからもしかしたらと思ったのだが……。
紫陽花(……何か、訳ありだったか?)
どうにも話題に上げた途端に彼女の表情が曇ったことからなんとなく察してしまった。
この子は間違いなく、イヴと姉妹の関係なんだろうと。
そして同時に、何らしかのしがらみがあるのだろうということが。
紫陽花「悪い、知り合いに同じ名字のやつがいてさ」
ノエル「! お姉ちゃんのこと、知ってるの?」
紫陽花「……ってことは、やっぱイヴの?」
ノエル「うん、イヴお姉ちゃんの妹だよ」
無理やりに作ったような笑みを浮かべながらVサインを見せる。
後ろに立つ仲月や瑠璃川の反応からみてもあまり踏み込むべき内容じゃないんだろう。
紫陽花「そうか、じゃあノエルってよんでも大丈夫か?」
紫陽花「嫌なら冬樹って呼ぶが」
ノエル「ううん、お兄さんならノエルで大丈夫だよ」
紫陽花「そんじゃ、改めてよろしくな」
紫陽花「皆はクエストの参加経験は?」
さら「私たちは初めてですぅ」
紫陽花「いきなり討伐系で大丈夫なのか?」
相手はかなり弱い部類に入る狼に擬態した魔物だ。
とはいえ、あいつら単体は弱くても集団になると話は別。
そもそもな話、あいつらの真骨頂は物量での戦いなのだ。
一応報告では大きな群れは存在しないと言われてはいるが絶対ではない。
さら「大丈夫です。学園の人からも事前に許可をもらってますから」
さら「こう見えても、10年以上はグリモア似通ってるんですよぉ」
紫陽花「じゅ、10年? でも仲月って……」
秋穂「くすっ、やっぱりそういう反応になっちゃいますよね」
紫陽花「いや、見るからに自分より年下だし……どういうことなのかなと」
ノエル「さらちゃんはまだ赤ちゃんに近い時に覚醒したらしいよ」
ノエル「それからはずっと学園で生活してるからね~」
紫陽花「……そんなに前からか」
さら「一応、本当のお母さんやお父さんもいるみたいなんですけど……」
さら「私からすると、学園で育ててくれた人みんなが家族ですよぉ」
シロー「わんっわんっ!」
さら「ふふ、大丈夫だよ。シロー」
自分も家族だ、と言わんばかりに吠えるシローを優しい笑みを浮かべて撫でる。
その様子からも本当に心を許しあった仲なんだろうとは察することができた。
俺もいろいろある方だとは思ってたけど、やっぱり色んなしがらみがあるんだな。
とは言え皆俺以外は中学生や小学生くらいの女の子だ。
しっかり守ってやらないとな……そう考えて学園の門を潜った。
秋穂「やぁあー!」
ノエル「わわっ、危なっ!?」
紫陽花「俺がいるからそいつらくらいなら安心して突っ込んでいいぞ!」
さら「よぉし、私も行きますよー!」
シロー「ぐるるっ……わんっ!」
クエスト指定場所にたどり着いた俺達は早速の出迎えに応戦していた。
どうやらかなりの数が街に向かって移動を始めていたようだ。
今は街の端から出て30分ほどしたところにいる。
予定よりも早い接触になったが、思っていたよりも皆の動きは悪くない。
瑠璃川の魔法は水が基準の泡を使ったものだ。
それを使ってまず、相手の足元に滑らせる液体をばらまく。
その上を通って滑りこんできた魔物を仲月とノエルの二人が倒す。
そう、魔法使いとしてやっていく上で大事な連携がきちんと出来ているんだ。
それは彼女たちがもともと仲が良かったというのも理由なんだろうけど。
ともあれ、心配していたようなことはあまりなく俺は支援に徹している。
この調子なら、クエスト指定の群れのボスまでそう遠くなさそうだ。
ノエル「ふぅ~……助かったよ、お兄さん」
紫陽花「それはこっちのセリフだよ」
紫陽花「俺は攻撃魔法は撃てないからな」
さら「でも、魔法をいくら使っても疲れないです」
秋穂「それに、狼さんが飛びかかってきてもバリアーがありますし!」
紫陽花「それくらいしかやれることは少ないしな」
紫陽花「それでも皆かすり傷はしてるだろ? ちょっと見せてくれ」
秋穂「あ、ありがとうございます」
手近に居た瑠璃川の様子を見てから軽く回復魔法を使う。
淡い光を発して、そのまま擦りむいていた膝なんかの傷を癒していく。
紫陽花「……?」
秋穂「? どうかしましたか? 先輩」
紫陽花「いや……多分気のせいだと思う」
瑠璃川の傷の具合を看ようと膝元に目を向けた途端に感じた悪寒。
さらにその悪寒に追って殺気のような視線を感じて思わず振り返ってしまっていた。
そこにあるのはただの茂みで特に何かあるわけでもない。
念の為に感知魔法を使ってみたが、何の気配も感じ取れなかった。
紫陽花(気のせい……ならいいんだけど、ちょっと警戒しとくか)
と、その時は楽観的に考えていたのだが……。
秋穂「きゃっ!」
紫陽花「おっと、大丈夫……!?」
秋穂「あ、ありがとうございま……先輩?」
紫陽花「あ、ああ……どういたしまして」
何かのはずみで転んでしまう瑠璃川をかばって抱きとめて居た時も……。
秋穂「先輩って頼りになりますね! 憧れちゃいます!」
紫陽花「そ、そうか? そう言ってもらえるとありがたいなあ……ははは」
障壁魔法を手放しに褒められていた時も……。
秋穂「先輩、お料理も出来るんですかっ!?」
紫陽花「ああ、まあ……数少ない趣味の一つだから」
昼飯に作ってきた弁当を食べている時も……。
何故か『気配の無い殺気』を感じるのだ。
それも決まって、瑠璃川が近くにいる時に限って。
もしかして瑠璃川自身が? とも思ったが……。
秋穂「?」
本人はまったくもって悪意のない表情で目を丸くしていた。
その口にエビフライの尻尾をみせつつ。
さすがにそんなおちゃめな彼女が殺気なんて放つわけがない。
そもそも、さっきの発信源が明らかに何らしかの物陰からだからな。
そんな俺の様子に気がついたのか、ノエルが怪訝な表情のまま近寄ってきた。
ノエル「ねえ、お兄さん。さっきからやけに周りを気にしてるみたいだよね?」
ノエル「魔物がいるの?」
紫陽花「……いや、それが不可解でさ」
俺はさっきから感じていることをかいつまんで説明した。
その説明を最初は真剣に聞いていたが、徐々にその表情が変わってくる。
あちゃー、という感じに。
紫陽花「心あたりがあるのか?」
ノエル「えっと……秋穂ちゃん?」
秋穂「うん……多分、お姉ちゃんだと思う」
紫陽花「お姉ちゃん?」
秋穂「はい、瑠璃川春乃っていう姉が居るんです」
秋穂「ですがちょっと……いえ、かなり過保護でして」
さら「いつも気が付いたら秋穂ちゃんのちかくにいますよね~」
紫陽花「……えっと、もしかしてさっきから感じてる不穏な気配って?」
秋穂「はい……恐らく、私に近い先輩をよく思ってないみたいです」
秋穂「お姉ちゃん、私のことを心配してくれるのはいいんですけど……。
人付き合いに関してもすごく慎重で、特に男の子と話そうものな
ら気がつけば疎遠になってしまうくらいで……」
紫陽花「……筋金入りってレベルじゃないな」
何だその過剰な程の過保護っぷりは。
でも説明されれば発生条件にも合うし、そうとしか思えない。
今も何やら突き刺さるような視線を背中に感じるし。
……ああもう、やりにくいな。
紫陽花「……とりあえず、今はクエストに集中しよう」
さら「はいですぅ」
ノエル「大丈夫? お兄さん」
紫陽花「大丈夫……とは言いづらいけど、皆を危険にさらす訳にはいかないからな」
秋穂「お姉ちゃんがすみません……」
紫陽花「大丈夫大丈夫」
そう言って自然と瑠璃川の頭に手を置いてポンポン、と軽く叩く。
恥ずかしげにしながらも、その顔には笑顔が戻っていた。
こいつらは笑っている方がいい。
そう、いくら俺に突き刺さる視線が物理的に突き破りそうになってたとしても。
これから先も続くだろうその重圧に軽くため息をつきながらだし巻きを口に放り込んだ、
女子「……少し良いか? 転校生」
紫陽花「そう来ると思ってたから良いぞ」
あれから3人とクエスト達成して帰ってきた。
4人でクエストの完了を報告し、また会おうと約束して別れた俺は一人の女子に捕まっている。
まあ、恐らく彼女が瑠璃川春乃という秋穂ちゃんの姉だろう。
『潔いな、ついてこい』とつぶやき、組んでいた腕を解いて歩き出す彼女についていく。
歩いている先を進行方向から予想している間に、人目の付かない校舎の端に到着。
そこでこちらに向き直る春乃と向き合う形になった。
春乃「私は瑠璃川春乃……今日、お前が一緒にクエストに言っていた秋穂の姉だ」
紫陽花「ああ、知ってるよ。秋穂ちゃんもそうじゃないかって言ってた」
春乃「秋穂ちゃん、だと?」
ぴくり、と眉が動いたのが見えた。
どうやら下の名前で読んでいるのが気に食わないようだ。
不機嫌な空気も表情もまるで隠そうとしていない。
紫陽花「ああ、妹さんに直接頼まれた」
春乃「貴様は秋穂をどうするつもりだ?」
紫陽花「……はい?」
春乃「だから、あの可愛くて素直で疑うことを知らない秋穂をどうするつもりだと聞いている!」
そう叫ぶように尋ねながら、片足を踏み込む。
ビシィッ、というクモの巣状のヒビが出来上がるくらいに。
……魔法で強化してるんだと思うが、とんでもないな。
そんなふうに冷静に見ている俺が面白くないのか、春乃は更に苛立っている。
春乃「返答次第では貴様をこの場で捻り潰す」
紫陽花「……大事にしてるんだな、秋穂ちゃんのこと」
春乃「当たり前だ! 私にとってはたった一人の妹……大事でない訳がないだろう!」
春乃「例え誰を敵に回そうと、秋穂は傷つけさせはしない!!」
紫陽花「……そっか」
春乃「……?」
そんな春乃を見ていて俺が感じたのはなんだっただろうか。
悲しみ? それとも懐かしさ?
迫り来る魔物の群れから一人、また一人と俺をかばって倒れていった家族。
その光景が脳裏に蘇ってきて、歯を食いしばった。
彼女が妹を護ると決めた過程は分からないが、その気持ちは痛いほどまっすぐだ。
だからこそ、俺は迷っていた。
紫陽花「……どうするのか、という質問に対していうなら」
紫陽花「多分、友だちとして付き合っていくつもりだと答えておくよ」
春乃「友人、か……本当にそれだけだといえるのか?」
紫陽花「証明は出来ないし、人付き合いなんて絶対じゃない」
紫陽花「だから絶対にそれだけとは言えないとだけ言っておく」
春乃「……ふむ」
思うところがあったのか、さっきよりも感じる重圧が緩和された。
幾分か彼女の表情も緩んでいるように思える。
……とはいえ、さっきまでが烈火とするならば今は無だが。
考えこむように腕を組んで顎に手を添えていた春乃の目がこちらに向く。
春乃「大抵の男どもは出来ると即答してきた」
春乃「そう言ってきた男を信用した結果、秋穂をふしだらな目で見ていた男を逃したこともある」
紫陽花「……」
春乃「私も別に全てを全て否定するつもりはない。きちんとした友人関係は認めてやりたいとは
思っている。仲月さらや冬樹ノエルはいい例だな。あの二人は心の底から秋穂と友だちに
なりたいと思って行動していた。いつも観察していたが、それは確かだろう」
紫陽花「そうだな、あの二人に裏があるとは思えない」
そう俺が苦笑すると、春乃の方もようやく口元を緩ませてくれた。
春乃「今日一日、お前のことも見ていた」
紫陽花「あの殺気のこもった視線はクエスト中にだすの勘弁してほしいんだが」
春乃「秋穂を護るためであれば仕方ない。お前も我慢しろ」
紫陽花「無茶苦茶だなお前!?」
春乃「何が無茶だ? 全てに置いて秋穂が優先される」
春乃「故に、秋穂を護る事が最優先だ」
紫陽花「……ま、まあそれは分かったよ」
紫陽花「で? 俺についてはどう思ったんだ?」
春乃「……お前の秋穂を……いや、皆を見る目は慈愛に満ちていた」
紫陽花「じ、慈愛?」
春乃「自分でも気づいていないのなら、それこそ素なんだろう」
春乃「とにかく、お前を見ていて思ったのは自分を盾にしても周りを守ろうとする覚悟だ」
紫陽花「っ!?」
春乃「その顔は図星だな?」
紫陽花「……」
春乃「まあ、そこはいい。私が言いたいのは、今までの猿どもととは違うということだ」
さ、猿って……まあ、なんとなくそれが指す意味はわかるが。
春乃「お前なら、秋穂の側に置いてやっても良い」
春乃「監視はさせてもらうけど」
紫陽花「監視はあるのか……まあ、別にいいけどさ」
春乃「後、これはその上での忠告だ」
紫陽花「?」
春乃「周りが無事なら、自分を犠牲にしても構わない」
紫陽花「っ!?」
春乃「そういう考えが少しでもあるのなら改めておけ……秋穂も悲しむだろうからな」
紫陽花「……ああ」
春乃「さて、私はそろそろ秋穂の様子を見に行かねばならないから行くぞ」
春乃「秋穂ちゅわ~ん! 今行くからね~!」
紫陽花「……う、うわあ」
突然だらしない笑みを浮かべて廊下を走って行く春乃に軽く引いた。
さっきまでのクールビューティーな姿が音を立てて崩れるレベルだ。
気のせいかもしれないが、若干口の端に涎が……いや、やめておこう。
彼女の名誉のためにも。
紫陽花「……自分を盾にしてでも、か」
言われてみれば、俺は無意識に近いレベルでそうしているのを理解していた。
イヴを守ろうとした時だって体が勝手に動いたし、今日だってそうだ。
障壁だけじゃ危ないと理解した途端、体が反応してしまう。
冷静な立場である周りからの意見は初めて聞いたが。
紫陽花「このままじゃ、行けないんだろうなあ」
忠告を受けた俺は、小さくため息をつくのだった。
香ノ葉「あぁん、柊はんやないのぉ~」
紫陽花「うおっ!?」
香ノ葉「ひゃんっ!?」
ぼーっと自分のあり方を考えていると、聞き覚えのある声が聞こえた。
……と、ほぼ同時に背中に何かが突進してくる。
身構えていなかったこともあり、俺はそのまま押し倒される形で地面に突っ伏した。
香ノ葉「あいたた~……だめやよぉ、女の子の一人くらい受け止めなぁ」
紫陽花「ふ、不意打ちはノーカンだろ」
香ノ葉「……ん~?」
紫陽花「っ!?」
俺の顔をまじまじと見ていたと思うと、白藤が真剣な目をしてこちらを覗きこんでくる。
あまりにもすっと近づかれたので反応ができなかった。
白藤のふわりとした甘い匂いを感じて更に思考が麻痺していく。
大して彼女は何かを悟ったような顔で頷き、体を離してくれた。
や、やっと離れてくれたか……助かったぜ。
体に感じていたぬくもりとか柔らかさも離れていき、ちょっとだけ寂しいなとは思ったが。
香ノ葉「何や深刻そうやなぁ。なんかあったん?」
紫陽花「……何のこと?」
香ノ葉「まあまあ、ええからええから」
紫陽花「ちょっ、引っ張るなって!?」
核心を突かれて慌てている内に香ノ葉に引っ張られて連れて行かれた。
場所はいつぞやか見学させてもらった茶道部の部室だった。
今日は他の二人や別の部員がいないところを見ると、すでに終わったあとなのかもしれない。
時間的にも夕方って言うよりは夜に近くなってるしな。
俺を手近な座布団に座らせると、白藤は『ゆっくりしといてな』とだけ言って奥へ消える。
やれやれ、どうしてこんなことになったのやら。
まあ、少々気づかれしていたのは確かだが。
程なくして白藤は茶菓子の乗ったお盆などを持って現れた。
香ノ葉「時間が時間やし、今日はこれで堪忍な」
紫陽花「いやいや、急須で入れるお茶もいいじゃん」
差し出されたのは急須から注がれた緑茶の入った湯のみだ。
受け取ってそのまま口に含む。
……うん、緑茶の香りって落ち着くよなあ。
なんとなくいやされた気分を味わいながら、茶菓子にも手を伸ばす。
今回は豆大福のようだ。
香ノ葉「で、どないしたん? そんな暗い顔して」
紫陽花「……そんなわかりやすかったか?」
香ノ葉「んー、どうやろな? ウチ、こう見えてよく柊はんのことみとるからね」
香ノ葉「なんてゆうんやろ、何かに悩んでるってくらいしかわからんよ」
紫陽花「……実はさ」
一瞬、相談しようか迷ったが結局いうことにした。
どうしてかと聞かれても分からない。
ただ、こうして尋ねてくれたことが純粋に促してくれたのかもしれない。
一つ一つ、今までのことを話した上で春乃に言われたことを話す。
それをふむふむと頷きながら聞いてくれていた白藤は『そっか』と短く頷いた。
香ノ葉「そら仕方ないんちゃう?」
紫陽花「へっ?」
香ノ葉「そういう向こう見ずで手放しな優しさも、柊はんを構成する一部やと思うんよ。そりゃあ、友人であるウチも出来るなら無茶はしないでほしいと思うで? でも、そういうところってもう変えようがない思うんよ。悪いことでも良いことでもないけどな」
紫陽花「……」
香ノ葉「周りからはいろいろ言われる思うけど、ウチから言えることはただひとつや」
そこまで言って、白藤はいつもの様に朗らかに笑って――。
香ノ葉「五体満足やのうてもええ、ちゃんと帰って来てくれればええんよ。生きて帰ってきてくれさえすれば、怒ってあげることも喜んであげることも出来るんやから」
紫陽花「……正直驚いた」
香ノ葉「うん?」
紫陽花「白藤ってそういうことも考えられるんだなって」
香ノ葉「ちょっとぉ、失礼ちゃうっ!?」
ぷりぷりと怒りながら、その様子を見てまた一つ笑ってしまう。さっきまで感じていた空気の重さもあっという間に吹き飛んでしまった。こういう、相手の空気を変えてくれるのはありがたい。良くも悪くも、彼女の底抜けの朗らかさを目の前にしていると、悩んでいたのがなんかバカらしくなってしまった。
紫陽花(そうだ。俺が今さらこの考え方を変えることなんて出来ない。だから、その代わりにもっと俺は強くなる……そう)
紫陽花「……俺なりに、全部を護れるくらいに強くなってやる。周りに文句言われないくらいに、な」
香ノ葉「……もう大丈夫そうやね」
紫陽花「ああ、ありがとう。俺のやるべきことが改めて確認出来た気がするよ」
そう答えて、俺はよっこらしょっと言いながら立ち上がる。
うおお、思っていたより長く座りすぎたか?
足首から先全体から鈍い痛みと更にちりちりとした痛みが走り、思わず顔をしかめてしまった。同じくらい長い間座っていただろう白藤が涼しい顔をしているのはあれか、慣れってやつなのか。
紫陽花「……痛、結構痺れてるな」
香ノ葉「慣れてないとそうなるやろうなあ。ウチも最初はそんな感じ……」
紗妃「何をやっているんですかっ! 二人共!」
紫陽花・香ノ葉「へっ?」
スパァンッ、という戸が開け放つ音の後に耳をつんざく笛の音。
更に追撃のように、いつぞやからか聞き慣れた風紀委員の声が茶道部内に響き渡った。だが、俺達は純粋に驚いていたためか目を丸くして固まってしまう。
紗妃「まったく、下校時間もとうに過ぎているというのにまだ電気が点いていたので来てみれば……」
紗妃「不純異性交遊は校則違反ですっ!」
香ノ葉「うえぇぇっ? そ、そういうんとはちゃうよ!? 今日のは純粋な相談事に乗ってただけで……」
紗妃「問答無用です! あなたはどうにも普段から不純異性交遊に走る傾向がありますからね。校内で探知魔法を使っているのがバレてないとでも思っているんですかっ!?」
紫陽花「……使ってたのか?」
香ノ葉「~♪」
見事なまでの典型的なごまかし方を……。なまじ口笛もうまいのが腹立つ。
一方、その様子に腹が立っていたのは氷川のやつも同じだったのだろう。みるみるうちにどす黒い気配が立ち昇る。白藤もまずい、と思ったのだろう。直ぐに何かを口にしようとしたところで首根っこを掴まれていた。
紗妃「どうやらちょっと『お話』が必要そうなので、これから風紀委員室へ来ていただきましょうか」
香ノ葉「い、嫌やわぁ……ほんのちょっとしたお茶目やん?」
紗妃「お話は署の方で聞かせていただきますので」
香ノ葉「い、嫌やぁー! 助けて柊はぁぁぁん……」
紫陽花「……な、なむ」
首根っこ掴まれて引きずられるようにして連れて行かれる白藤を見送りながら言えたのはそれだけだった。変に突っ込んだら俺まで巻き込まれそうだったし……。でもまあ、相談には乗ってくれたわけだし今度何かしらで買えそう、うん。そう結論をつけて茶道部を後にしたのだった。
その後、俺はここ数日会っていた相手が学園の中でも多く例にあげられる問題児ばかりであったことを知った。しかも、その問題児の中に何故か自分も入っていたのだが……それはまた別のお話。