グリモア~守護者~   作:エウラス

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第19話

第19話:妹として、姉として(前編)

 

瑠璃川姉妹。その名前を聞けばこの学園の名物の一つだと誰もが言うだろう。その理由というのが実に変わっていて……。

 

春乃「あーきほちゅわ〜ん、お姉ちゃんでしゅよ〜!」

秋穂「お、お姉ちゃん!?」

 

超がつくほどの『シスコン姉』の存在だった。妹である秋穂ちゃんの近くには必ず彼女がいる。むしろいないことがありえないレベルで過保護なのだ。例えば秋穂ちゃんが一人で出かけようものなら即座に気配を消しつつも尾行するだろう。例えば秋穂ちゃんが転びそうなものなら光の速度で彼女を支える。噂によると同時刻に二人の瑠璃川姉の姿が確認された、とかいうのもあるくらいだ。

とまあ、噂の真偽は定かじゃないものの瑠璃川姉の妹へかける想いは本物だ。普通であれば、彼女の目を欺いて二人きりで出かけるなんて不可能に近い。なんとなく察しているやつもいると思うが、交友関係にすらかなり入りこんできているらしいからな。

しかし――。

 

秋穂「もう、お姉ちゃんってば……今日はクエストなんでしょ?」

春乃「うう〜……行きたくない〜……。秋穂一人残すなんて不安なんだもん……」

紫陽花(相変わらず、妹に対してだけ別人のように変わるな……)

 

今日は日曜日。つまり、秋穂ちゃんとの約束の日だ。あの瑠璃川姉が珍しく妹ではなくクエストを優先しているのが気になるが。何度も秋穂ちゃんに説得されながら彼女は渋々と言った感じで出かけていった。

……うん、名残惜しそうに振り返るにしても十単位でってのは予想外だ。どんだけ心配性なんだよ。似たような心境なのか、秋穂ちゃんは深いため息をついていた。苦労してるね、君も。しばらくして、秋穂ちゃんは周囲を見回して気合を入れるように小さな握りこぶしを体の前でつくっていた。そんな姿を微笑ましく見送りながら、俺は一足先に街へと向かったのだった。

 

 

埼玉県風飛市……今更だがそれがグリモア学園を含んだ俺たちの住む街の名前だ。グリモア学園からはバスで30分ほどかかり、近くには学生街と呼ばれる学園生向けの店が立ち並ぶそこそこ大きな商店街のような場所がある。そのため、学園の人間は滅多に風飛市まで足を運ぶことはない。あるとすれば、学生街にないような物を求めたり、クエストのときであったりと様々だ。

 

紫陽花「ふう、思ったより時間かかっちゃったな」

 

学生寮からほぼ全速力で待ち合わせ近くまで来た俺は、まだ秋穂ちゃんの姿が見えないことを確認してから息を整えた。本来であればバスに乗ってくればいいんだろうけど、来る日に向けて多少は訓練をしておくべきだと思っているからだ。ほぼ休みになるんだからこれくらいはな。

などと誰に向かってかわからない弁明を心の中で述べていると、秋穂ちゃんっぽい子がきょろきょろとあたりを見回しながら不安げにしているのが目に入った。

 

紫陽花「おーい、こっちこっち」

秋穂『!』

 

ちょっと遠くてまだ声は聞こえないが、反応からして気づいてくれたようだ。なれない人混みを縫うようにして秋穂ちゃんが俺のところまで駆け寄ってきてくれた。

 

秋穂「お、お待たせしてすいませんでしたっ!」

紫陽花「いや、俺もさっき来たところだから」

 

実際ちょっと前に来たばかりだから嘘はいっていない。そんな俺の返事に、まだ微妙に息を乱しながらもいい笑顔を浮かべてくれた。そんな彼女の笑顔にちらつく過去が少し懐かしい。ちなみに秋穂ちゃんは戦闘服とよく似た白のワンピースに、黄色のカーディガン。そしてオレンジ色のフリルスカート姿だった。年齢的なものもあるが全体的に可愛らしい感じにまとめられており、元気だけど真面目な性格をしている彼女らしい。ひまわりを連想させるな。

 

紫陽花「私服姿ってあんまり見る機会ないからちょっと新鮮だな」

秋穂「へ、変じゃありませんか?」

紫陽花「全然? 秋穂ちゃんらしくていいと思うよ。明るい色がよく似合うね」

秋穂「ありがとうございます! ……とはいえ、実はこれお姉ちゃんが選んでくれた服なんですよね」

紫陽花「お姉さんが?」

秋穂「はい。私の身の回りのものは大半がお姉ちゃんの選んでくれたものでして……」

紫陽花「ほんと、徹底されてるな」

 

まるで母親……いや、それ以上にとも言える甲斐甲斐しさだ。その気持ちの一割でも周りに向けてれば瑠璃川姉ももうちょい人付き合いが増えていただろうに。困ったように笑う秋穂ちゃんに、似たような笑みを浮かべながら歩道をあるく。

 

紫陽花「それでどうする? 俺は自慢じゃないがかなりの田舎者だからな」

 

周囲を見れば学生街なんて目じゃないレベルの高層ビルだらけの街だ。風紀委員たちとクエスト行く前、病院に行った時なんかは随分と圧倒されたものだ。学園に来る途中も当然立ち寄りはしたものの、前回同様ゆっくり見て回ることはなかったしな。

話を振られた秋穂ちゃんは可愛らしく人差し指を顎に当て、首を傾げていた。狙ってるわけじゃないと分かるからこその可愛さだな。ちょっとだけ瑠璃川姉が甘やかすのも分かる気がする。

 

秋穂「え、えっと……実は私もそこまで詳しいわけじゃないんですけど……」

紫陽花「えっ」

秋穂「あ、あはは……ノエルちゃんがプレゼント選びなら断然こっちだっておすすめしてくれたんです」

紫陽花「ああ、あの歩く元気の塊のような子か」

 

前世で一度クエストを組んだりなんかもしたからある程度の人となりは知ってる。だが、今回はまだ顔合わせ程度しかしてないからな。当たり障りない言い方しとかないと不審がられちまうだろう。

 

秋穂「ノエルちゃん、元気ですよね。さらちゃんも結構アクティブなんですけど、私はついていくのが精一杯で」

紫陽花「いや、あれについて行けるようになった大変だと思うが」

 

主に姉の心配的な意味で。

 

紫陽花「ということは、今回は目的であるショッピングモールで色々と見て回る感じになるかな?」

秋穂「はい! でもその、それもあるんですけど……」

紫陽花「うん?」

 

それもある、とは……もしかしてこっちは本命でもないってことか?

 

秋穂「実は、クエストによく参加している柊先輩にお聞きしたいことがあるんです」

紫陽花「クエストについて? 俺も転入してきて間もないから教えられることがあるかどうか微妙だぞ」

秋穂「そ、それでもいいので聞かせてくださいませんか?」

紫陽花「うん、まあそれでもいいならいいぞ。だけど、話をする前にお姉さんへの贈り物を探してみないか? その後、残りの時間で話をしよう」

秋穂「そうですね、そうしましょうか。あるきながらだと話ししづらいですし」

紫陽花「学園絡みのことはなるべくひと目の付かないとこのほうがいいだろうな」

 

こうして歩きながら喋っていると、すれ違った程度の人間ですら訝しげな顔をしていた。改めて魔法使いと一般人との間に溝があるんだなと伺える。そこからは周囲の視線から逃れるようにちょっと早足でショッピングモール内に入りこんだ。

 

 

中に入るとほとんど外気と変わらない空気に迎えられた。頬を撫でる微妙に生暖かい空気を感じつつ、俺は物珍しさに思わず周囲を見回す。一階はやはりというかなんというか、大型の食料品売り場が目立つ。他にもケーキやワッフルなどのデザートの店や、少しおしゃれな服を扱う店が目に入った。

 

秋穂「わ〜……広いですね……。それに、いろんな物がいっぱい!」

 

秋穂ちゃんもにたような気持ちなのか、同じように周囲を見回していた。その目がキラキラと輝いていて、微笑ましい気分になる。……と、思っていたのだが。

 

お婆さん「あらまあ、あの子達兄弟かしら。微笑ましいわあ」

お爺さん「そうじゃのう、孫を思い出すわい。ふぉっふぉっふぉ」

紫陽花&秋穂『……』

 

どうやら微笑ましいのは周りから見て俺も同じだったらしい。ちょっとだけ熱くなった頬を覚ましながら、動くことにした。

 

紫陽花「贈り物はやっぱ形に残るものののほうがいいんだよな」

秋穂「そうですね、出来たら常に身につけられて派手じゃないものがいいかなって思ってるんですけど」

紫陽花「うーん、そうなるとキーホルダーか派手すぎないアクセサリーが無難かな?」

秋穂「お姉ちゃんってあんまり服以外にお洒落はしないんです。だから身につけるといってもアクセサリーは厳しいと思うんですよね」

紫陽花「あー……言われてみればそんな感じだよな」

 

秋穂ちゃんの前にいない時のあいつはいろんなものに無頓着だ。強いて言うなら、秋穂ちゃんに降りかかるあらゆるものに対してのみ意識を向けている。そのせいか年頃の女の子が気にしそうな着飾るアイテムを持ち合わせてないっぽい。実際は分からないが、そういうのをつけそうなタイプにも思えなかった。

おっと、考え事していたらいつの間にか秋穂ちゃんがいない。『うーん……』と、可愛らしくうめきながらも小物コーナーを探す秋穂ちゃんが目に入った。

 

紫陽花「へえ、モールにもこんな店があったのか」

秋穂「はい、なんか不思議な雰囲気のお店ですよね」

店員「ははは、たしかに不思議ではあるかもしれねえな」

秋穂「す、すみません。失礼でしたよね」

店員「いんや、間違っちゃいねえしな。がっはっは!」

 

ファンシーな物から一種の神秘さを感じる小物が並ぶ店。その店の店員と言うには随分と豪快な人だなってのが第一印象だ。彼も秋穂ちゃんが可愛いのだろう。見る目が娘を見るような温かい視線だった。

 

店員「二人は仲がいいな。兄弟か何かか?」

秋穂「ええっ!?」

紫陽花「俺にこんな可愛い妹はいないって」

秋穂「かわっ!?」

店員「おっと、そりゃわりいな」

紫陽花「そりゃいいんだが、ここら辺にあるのは全部手作りなのか?」

店員「ああ、俺のもあるが嫁さんが作ったのが大半だ」

 

嫁がいたのか……まあそれはおいといて。なるほど、小奇麗に飾られているモール内で違和感を感じたのはそれが理由か。ぱっと見乱雑に置かれてはいるものの、温かみのある商品やレイアウトに気づいただからだ。ホワイトボードには丸みのあるフォントで『一つ一つ真心込めてます』と書かれていて、傍らに猫のデフォルメされたキャラが『大切に拾って(買って)にゃ』とユーモアある商品説明が書かれていた。

 

秋穂「わ〜……どれもきれいですね!」

店員「まあな、城ちゃんたちは何か探してる雰囲気だったが贈り物か?」

紫陽花「察しがいいな。実は秋穂ちゃん……この子の姉さんに贈り物を探しててな」

秋穂「出来たら学校で持っていても不自然じゃなくて、身につけやすい物を探してるんです。もしくは携帯できるものを」

店員「ふーむ、それならストラップかお守り、それにシールとかワッペンなんかでもいいんじゃないか? 今日日そんなのは当たり前だし、それにとやかく言うやつもそんなにいねえだろ。いたとしても家族からの大切な贈り物だっていやお咎めもなしだと思うぜ」」

紫陽花「うーん、秋穂ちゃんはどう?」

秋穂「そうですね。お姉ちゃんの性格上、私から送ったものはなんでも喜んではくれると思うんですが……お姉ちゃんのことを考えるとお守りかなって思います」

紫陽花「……たしかに無茶しそうだしな」

 

妹のためなら、を地で行く奴だからな。それこそ相手が動物だろうが人間だろうが魔物だろうが関係なくたちむかっていくだろう。お守りがどの程度効力があるか分からないが、気持ち的には理解できる。まさか風紀委員もお守りまで取り上げるような強行組織ではあるまい。

 

店員「手作りのお守りってんならこれに手書きの文章、もしくは中に入りそうな小物を入れてやるといい」

紫陽花「よくこんな本家が持ってそうなのを持ってるな」

店員「こいつは嫁さんの手作りでな。裁縫関係は嫁さんの得意分野なのさ」

秋穂「……うん、これにします! おいくらですか?」

店員「うーん、そうだな。税込み1000円ぽっきりだ」

紫陽花「安っ!」

店員「な~に言ってんだ。よく他の商品を見てみろ。これでもうちの店じゃ高い方なんだぜ」

秋穂「え、えーと……いいんですか?」

店員「いいも何も、お嬢ちゃん次第だな」

紫陽花「どうする?」

秋穂「じゃあ、これにします!」

店員「あいよ、毎度あり! 簡単に包めるプレゼント包装セットもつけといてやるから、オリジナルのお守りが出来たら渡してやるといい」

秋穂「あ、ありがとうございます」

紫陽花「何から何まですまんな」

店員「ま、趣味見てえなもんだからな。この店は。売れるだけこっちとしてはありがてえってもんだ」

 

おっさんはそれだけ言い残して、一旦店の奥へと引っ込んだ。

 

 

あれから俺たちはおっさんの渡してくれた諸々のプレゼントアイテムがはいった紙袋を渡されてモールから離れて街を歩いていた。理由は一つ、なるべくひと目の付かない飲食店を探していたからだ。だが時刻はまさに昼飯時の12時台だ。

 

紫陽花「うーん、なかなかないもんだな。穴場って」

秋穂「仕方ありませんよ、この辺りは人通りも多そうですし。何より、まさにお昼時という時間ですから」

紫陽花「確かに。そこそこの部分で割り切って適当なお店に入るか」

秋穂「はいっ! そうしましょう!」

 

秋穂ちゃんは両手に抱えるようにして持つ荷物を時折、確認するようにしてみていた。そんな彼女の頬が見るたびにゆるんでいるのがほほえましい。あの二人の間にあるのは確かな姉妹同士の愛情だ。幾分か行き過ぎているように感じる姉がいるのはまあ……気にしないでおくことにしよう。

ほどなくして、俺たちは気持ち落ち着いた喫茶店を見つけ、そこでランチを取ることにした。中に入ってみると落ち着いた外装に違わぬゆったりとした雰囲気が場を占めている。お客さんもそれなりに多いのだが、不思議と不快になるほどの雑音や話し声がしない。

 

秋穂「私、お姉ちゃん以外でお店に来たのは初めてなんです」

紫陽花「ありゃ、そうなのか? ……ってまあ、あいつならそうでもおかしくはないか」

秋穂「あはは……お姉ちゃんのことはご存じなんですね」

紫陽花「ん……まあ、あれだけアクの強い人だとどうしてもな」

紫陽花「でもいいんじゃないか? それだけ大事にしてもらってるってことだろうしさ」

秋穂「そうなんですが……私としてはもうちょっと信用してほしいなって思います」

 

ほお、珍しいこともあるものだ。

秋穂ちゃんはほんの少しだけ不満を表情に出していた。思春期におけるちょっとした背伸びしたい子供の気持ちなんだろうなっていう気がするが。数年しか違わない程度の年齢で何言ってんだって感じではあるが。

 

秋穂「先輩のおかげで条件付きでクエストへの参加はできるようになりましたけど、それでもまだまだ心配みたいで……。普段のこうしたお出かけだって、ほとんど一人じゃ出歩けないくらいなんです」

紫陽花「だよな。あいつはいつも秋穂ちゃんを追っているらしいし、うわさによると二人いるんじゃないかっていう疑惑が出ているくらいだし」

秋穂「お、お姉ちゃんが二人いたら大変すぎますよっ」

紫陽花「そ、そこまで言わなくても……いや、言いたくもなるか」

 

あれは姉妹だから周りもそこまで危険視はしてないものの、立派なストーカー行為である。あんなのが二人に増えたと思うと、ストーカーされてる立場からすればたまったもんじゃない。だが同時に、あの春乃が二人に増えたら妹を取り合いそうでそれはそれで面白そうな絵面になりそうだが。

 

紫陽花「ま、気を取り直して料理を選ぼう」

秋穂「あっ、そうですね。う~ん……何にしようかなあ」

紫陽花「俺、あんまし外食する癖がないからこういうところくると迷うんだよな。学食にも最初は慣れなかったしさ」

秋穂「その気持ちわかります。私も普段はお姉ちゃんがご飯を作ってくれるので」

紫陽花「えっ、あいつ料理できたの?」

秋穂「すっごくおいしいんですよ? お姉ちゃんが出来ないのってお掃除くらいですから」

紫陽花「掃除ができないのか……それはそれで意外だな」

秋穂「お料理はできるのに何故か洗濯や掃除が苦手みたいなんですよね。ですから定期的にお部屋の掃除をしないととんでもないことになってて」

紫陽花「マジか。逆に掃除とかはできるけど料理できないってイメージあったわ」

秋穂「そんなことないですよ! 機会があったらお姉ちゃんのお弁当分けて上げますから、試してみてください」

紫陽花「興味はあるが、下手な好奇心で命の危険にさらされそうだな」

 

あいつのことだ。『秋穂への愛のこもった料理を貴様に食わすわけにはいかん!』とかいってどっかの物陰から飛び出してきそう。いや、失礼極まる考えなのかもしれないが、彼女に関してはそれがありうるんだから仕方ない。ぶっちゃけこうしてる今もどこかにあいつの姿があるんじゃないかと気が気じゃないんだから。

 

秋穂「あっ、私はこのオムライスにしようかな」

紫陽花「おっ? いいんじゃないか。俺もオムライスにするかな……いろいろ種類あるみたいだし」

 

秋穂ちゃんが見ていたメニュー表からちらっと確認したが、ソースやら中のライスの組み合わせやらで結構な種類があるのがわかっている。どうやらオムライスに力を入れている喫茶店のようだ。2ページ分丸まるオムライスメニューが並んでいるあたり間違いないだろう。しばらくして、俺たちはそれぞれの料理とドリンクを注文する。

 

 

店員「お待たせ致しました。ホワイトソースのオムライスと、ビーフシチューソースのオムライスでございます。お飲み物はこちらに置かせていただきますね」

紫陽花「おぉ!」

秋穂「おいしそうです!」

店員「ふふっ、ありがとうございます。では、ごゆっくりどうぞ」

 

なんだかほほえましいものを見るような目で俺たちを見ると、店員さんはそのままカウンターの奥へと歩いて行った。あの目は間違いなく、兄妹かなにかと誤解されていると思う。変に恋人扱いされてないだけよかったと思うことにしよう。

秋穂ちゃんはというと、さっそくという具合でホワイトソースのついたオムライスをほおばっていた。うん、年相応の可愛さだ。その姿に癒されながら、俺も自分の注文した品を口にする。瞬間、広がる濃厚なビーフシチューの味とそれをつぶさない程度に感じるチキンライスの風味。具だってしっかりその存在を感じられるほどの質感を感じながらも、しっかりと火は通っている。

 

紫陽花「むむっ……これはなかなか」

秋穂「おいしいですよね! お姉ちゃんの作るオムライスも好きですけど、お店のはまた違った味がして新鮮です」

紫陽花「うーん、悔しいがこのレベルを作るのは今の俺じゃ無理だな。特にこの卵のふわトロ具合!」

秋穂「ですよね。たぶん、腕もあるんだと思いますが……火力の違いもあるのかもしれません」

紫陽花「あー、一般の住居と比べたら火力違うんだよな。飲食店のって」

 

俺たちグリモアの生徒寮が一般といえるのかどうかはさておきとして、飲食店についているのは火力の高いものが設置されていることが多い。まあもっと詳しく言えばそれぞれの料理に合った形式もあるみたいだが。それに比べて、寮にあるのはごく普通のIHだ。個人的にはIHよりもガスコンロのほうが火力調整とか楽なんだけど。

 

紫陽花「それにしても、お姉さんへのプレゼントが決まってよかったね」

秋穂「はいっ! これも先輩のおかげです!」

紫陽花「一緒に付き合って歩いてただけだけどね」

 

満面の笑みに対してごまかし笑いで返す。実際、狙ってあの店を見つけたわけではない。完全に道すがらに見つけた偶然の産物である。ぶっちゃけて俺がいたからと言って何かあったとは思えない。

 

秋穂「そんなことないですよ。先輩がいてくれたおかげで、私も安心して街中を歩けましたし」

紫陽花「んー、確かにこの人込みを一人で歩くのは不安だよね」

秋穂「はい、学園と違って知らない人ばかりですし。それに、土地勘もあまりないので迷子になってしまいそうですから」

紫陽花「あー、確かに。仕方ないとはいえグリモアって人里から離れてるからな」

秋穂「魔法使いへの偏見はどこにでもあるみたいですから」

 

困ったように笑いながら、秋穂ちゃんはオムライスを口に運んでいた。

魔法使いへの偏見、か。それが巡りまわって前回の世界のような結果に陥った可能性もある。そう考えると、単なる世間の評価だととらえるのが難しい。出来ればそういった偏見を取り除きたいところではあるがすぐには無理だろう。

 

1時間ほどゆっくりと話をした後、俺たちは喫茶店を出ることにした。その時である。

 

春乃「貴様……私がいない間に秋穂とお出かけだとぉ!?」

紫陽花「げっ……」

秋穂「お、お姉ちゃん!?」

 

秋穂ちゃんのお姉ちゃんこと、瑠璃川春乃と遭遇してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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