グリモア~守護者~   作:エウラス

20 / 20
第19話

第19話:妹として、姉として(後編)

 

春乃「んもぅ、秋穂ちゃんってば私のためにこんな素敵なものを用意してくれるなんて!」

秋穂「お姉ちゃん、痛いってば……」

紫陽花「……」

春乃「でもでも、お姉ちゃんがいないときに一人でお出かけなんてダメよ?」

春乃「街中には狼がいっぱいいるんだから!」

秋穂「お、お姉ちゃん……私一人じゃ……」

紫陽花「……」

春乃「あっ? まだいたのあんた? さっさとどっかいきなさいよ」

秋穂「お姉ちゃん!?」

 

偶然……偶然、なのか? まあいいや。

昼食を取った後に店を出た俺たちは、秋穂ちゃんの姉である春乃に出会ってしまった。

最初こそ鬼の形相で俺をにらみつけていたが、妹からのプレゼントの話になると途端に破顔。

それこそだらしなさすぎるほどに顔をほころばせて妹とのスキンシップに移ったのだ。

ある意味では助かったといえるが……。

そこからそれなりの時間、一緒に歩いているのに存在が無視されているのはどうなんだろうか。

あっ、もちろん秋穂ちゃんはこちらを気にしてチラチラ見てきてるけどね?

 

紫陽花「まあ、俺としては保護者である姉が来てるなら帰ってもいいんだけど」

春乃「あ、そっ……。じゃあさっさと帰りなさい」

秋穂「お姉ちゃん!!」

紫陽花「ははは、まあまあ。俺は気にしてないから。それじゃ」

秋穂「あっ……!」

 

これ以上姉妹の時間を邪魔するのもよくないだろう。

俺は嫌味にならないように別れを告げて家への道を進んだ。

去り際、なんだか悲しそうな顔をした秋穂ちゃんの顔が見えたのが心残りだが。

 

 

そして、秋穂ちゃんとのプレゼント選びが終わった翌週のことだ。

 

春乃「秋穂が……秋穂が全く反応してくれないんだ! 何とかしろ!」

紫陽花「……はあ」

 

髪はぼさぼさ、目は血走っているのにクマが出来ている春乃が俺のところに来ていた。

今日は土曜日、学園は休みでまったり過ごそうかなと思っていたらこれである。

普段が普段なだけに、ここまで憔悴しきっているのは初めて見る気がするが……。

 

紫陽花「あの秋穂ちゃんがか? 瑠璃川姉の……」

春乃「春乃でいい……紛らわしいだろうからな」

紫陽花「……こほん、春乃のためにプレゼント探すようないい子がなんでまた?」

春乃「そ、それがだな……先週、お前に冷たく当たったことが原因らしいんだ」

紫陽花「先週って……あれくらいなら普段と変わらなくないか?」

 

言っちゃ悪いが、あれはある意味で秋穂ちゃん以外への接し方の代表例だ。

ぶっちゃけてそれで怒るならすでに姉妹間の仲は最悪のはず。

 

春乃「……秋穂にとってお前は頼れる先輩という、少し特殊な立ち位置なんだろう」

春乃「おまけにお前は男だ。あの年ごろなら夢見がちになるのも仕方あるまい」

紫陽花「うん? どういうことだ?」

春乃「そうか……お前はそういうやつだったな」

 

どこか呆れたような表情を浮かべながらも、幾分か和らいだ気がする。

ただ、あまりにも荒れ果てた風貌で台無しだが。

 

紫陽花「ったく、それも大事だろうけどな? お前、ちゃんと寝てるのか?」

紫陽花「その調子じゃ飯もまだだろ」

春乃「当たり前だ! 全ての優先順位は秋穂が中心なんだぞ!?」

紫陽花「その狭すぎる視野をもうちょっと何とかしろって言ってんだ」

春乃「狭すぎる、だと?」

紫陽花「ああ、例を挙げて言うぞ? お前に取り立てて親しい友人がいないから秋穂ちゃんをあげよう」

紫陽花「もし、誰かに秋穂ちゃんを貶められたらお前はどう思う?」

春乃「地の果てまでも追いかけて生きていたことを後悔させてやりたいな」

紫陽花「怖すぎだろお前!?」

 

予想以上の超反応で帰ってきた言葉に、思わずあとずさりする。

表情もさっきまでと違って悪鬼のそれだ。

子供が悪さした時のしつけにちょうどよさそう……じゃなくて。

 

紫陽花「極端すぎるが、まあ嫌な気分になるよな? お前がしてるのはそういうことなんじゃないか?」

春乃「何?」

紫陽花「秋穂ちゃんにとって、傷つけられたくない友人を傷つけられた……それも実の姉にだ」

紫陽花「つらいのはたぶん、秋穂ちゃんだと思うぞ?」

春乃「――……!?」

 

息を呑む春乃の目が丸くなる。

素で驚いているみたいだが、こいつのこんな表情は初めて見た。

それからしばらく何かを考え込むような仕草で立ち尽くす。

 

春乃「……そうか、私は……間違っていたのか?」

紫陽花「それもまた難しいな。だって、春乃にとって秋穂ちゃんは唯一無二の存在だろ?」

春乃「ああ、当然だ」

紫陽花「その気持ちも、全部とは言えないけど一割くらいは分かる」

紫陽花「だからさ、表面上だけでもいい。せめて普通にとげのない会話できる程度には態度を変えたほうがいい」

春乃「ふむ……」

紫陽花「秋穂ちゃんが世間知らずで、ちょっと危なっかしいところがあるのも否定しないよ」

紫陽花「でもさ、それで何もかも攻撃的に始末してたら、あの子の友達は今より増えない」

紫陽花「毎日見てるんだから分かるだろ? あの子が散歩部で見せてる笑顔は」

春乃「……」

紫陽花「見守るのは構わない。多少口うるさくなるのだって愛情の裏返しだ」

紫陽花「でも、せめて……そういう態度を取るのは明らかに秋穂ちゃんに害があるときに限定してやれ」

紫陽花「あの子自身のためにも」

春乃「……」

紫陽花「……って、土曜の休み……それもこんな男子寮の真ん前で何言ってんだか」

 

俺は今更になって自分の言った言葉が恥ずかしくなって少しだけおどけて見せる。

実際、周囲には何事かと遠巻きにこちらを見ている奴もいくらかいた。

あっ、卯之助までいやがる! 助けに来いよ!

などと思っていると、顔を伏せていた春乃がどこかすっきりした表情を浮かべていた。

 

春乃「お前が言うことはいちいち癪にさわる」

紫陽花「表情とセリフが一致しなくね!?」

 

なんでさわやかな表情浮かべてけなされてんの俺!?

 

春乃「だが、お前の言っていることは多分……間違いじゃないんだろう」

紫陽花「……春乃」

春乃「私はまだ、全てを信じられるわけじゃない。何としてもあの子を守らなくてはならない」

春乃「だが、せめてもう少し……あの子がいらない心配をしない程度には悪意を隠そう」

紫陽花「そうだな。俺的にはもうちょっと社交的になってくれたらいいなと思うが」

春乃「それは難しい相談だ。私は今まで秋穂しかみてこなかったからな」

 

自慢げに言ってるがそれは自慢するところじゃないとおもうんだが。

まあ、ここでいらんこといって素直になってるのをつぶすのもなんだから黙っておこう。

 

紫陽花「まっ、すぐにとは言わないさ。ほら、散歩部のやつらとかいるだろ?」

紫陽花「まずは秋穂ちゃんの周りにいる奴らから慣れていけばいいじゃん」

春乃「ああ、そうするよ」

紫陽花「うんうん。……というわけで、だ」

春乃「? なんだ?」

紫陽花「お前はまず色々と休むべきだな。おい、卯之助! ちょっとこっち来い!」

卯之助「げっ!? ……な、なんだよ?」

 

声をかけられて警戒しながら近づいてくる。

そこで彼も気が付いたのか、春乃の顔を覗き込むようにしてうなずいていた。

 

卯之助「こりゃひでえな」

紫陽花「だろ? 身だしなみ云々は男の俺じゃ出来ないけど、飯くらいなら準備できる」

紫陽花「調理室使用の許可をもらえるか?」

卯之助「うん? まあ、そりゃ問題ないと思うな。花梨ならその辺も察してくれるだろ」

紫陽花「花梨?」

卯之助「里中花梨っつー調理部の部長やってる奴さ」

紫陽花「もしかして休みにも学園にいるのか?」

卯之助「部活動してないお前にはわからんかもしれんが、割と普通だぞ?」

紫陽花「悪かったな! ……じゃあ、そういうわけで行くぞ」

春乃「はっ? ど、どこへ……」

紫陽花「調理室。お前、その様子じゃなんも食べてないだろ?」

春乃「そ、そうだけど……別にそれくらいなら自分で作るから」

紫陽花「そんなやつれたやつに包丁はおろかピーラーすら持たせられんわ」

紫陽花「ほれ、ぐずぐず言ってないで行くぞ」

春乃「お、おい!?」

 

まだ何か言いそうな春乃の手を取って無理やり連行。

こういうたぐいのやつは多少強引に行かないと平行線だ。

今なお後ろで何か騒いでいるのをスルーしながら学園へと向かった。

 

 

卯之助「……あいつ、ある意味この学園最強だな」

 

 

学園へと来た俺たちは、まっすぐに調理室へ向かっていた。

ちなみに、あの後一回引き返したのは言うまでもない。

調理道具はまだしも、肝心な具材なしで何を作ろうというのか。

というわけで今の俺の片手にはビニール袋に入った材料がぶら下がっている。

 

春乃「しかし、柊は料理するんだな」

紫陽花「ん? ああ、小さいころからずっと料理はしてるんだぜ?」

春乃「小さいころから? お前にだって親くらい……」

紫陽花「いや、俺は7年前からずっと一人だよ。軍の人たちはいたけど」

春乃「……何?」

 

足音が止まり、俺は慌てて止まって振り返った。

その表情はどこか固い。

 

春乃「じゃああんた、家族がいないの?」

紫陽花「まあ、そういうことになるかな」

春乃「そうか……悪いことを聞いたな」

紫陽花「別に大丈夫だって。もう7年も前のことなんだぜ?」

紫陽花「もうとっくに割り切って――」

春乃「小刻みに震えながら、そんな顔色でいわれても説得力がない」

紫陽花「えっ?」

 

言われて、俺は手に持っているビニール袋がカサカサ音を立てていることに気付いた。

確かに体が震えているらしい。

顔色までは分からないが、春乃の反応を見るにあまりよくなんだろう。

 

紫陽花「すまん、気を遣わせたか」

春乃「それはこっちのセリフよ。……調子狂うやつね」

春乃「……それで料理ができると」

紫陽花「ああ、そういうこと。とはいえ、俺の場合はしなくてはならないからしてきただけだ」

紫陽花「今となっては好きでやってるけど、あんまし味は期待するなよ?」

春乃「ああ、分かってる」

 

そこで否定しないところが春乃らしい。

俺は苦笑いを浮かべながら、再び廊下を歩き始めた。

 

~春乃side~

 

春乃「……」

 

前を歩く柊の背中を見ながら、私はらしくなく動揺していた。

あいつが家族の話をするときになって見せた表情。

あれは恐怖と後悔……そういう風に見える。

 

春乃(思えば、私はこいつに対してもそうだが……何も知らないんだな)

 

秋穂のことならいくらでも羅列できる情報がある。

だが、私はこの目の前にいるたった一人の人間の情報すら大して持っていない。

今までならそんなことを気づきもしないだろうし、気にもしなかった。

それでも今の私は、無性に気になって仕方がない。

思えば、あいつの秋穂を見る目はどこか優しい……まるで妹を見るような目だった。

あんな目……実際にそういった存在のいない奴にできるだろうか。

もしかしてあいつは……?

 

 

 

~紫陽花side~

紫陽花「おーい、春乃? 調理室はここだって、どこ行くんだよ?」

春乃「っ!? あ、ああ」

 

どこかぼーっとしていたのか、春乃は声をかけられて気づいたらしい。

調理室のプレートを見てから少しだけ行き過ぎた道を戻ってくる。

まあ、寝不足なのは間違いないだろうからそのせいだろう。

飯を食わせたらすぐに休眠をとらせないとだめだな。

などとこの後の予定に思考を巡らせながら調理室の戸をノックしてから入った。

 

 

紫陽花「さて、出来たぞ」

春乃「あ、ああ……」

 

どこか戸惑いの強い表情を浮かべる春乃の前にできたての料理を並べる。

とりあえず、胃が弱ってるだろうから消化によさそうなうどんを中心にしてみた。

後は鶏肉とキャベツの炒め物だ。

うどんは基本的なかけうどんに定番のきつね揚げ、それに少量の天かすとネギ、すりおろし生姜をいれたものを。

炒め物は味付けはマヨネーズをベースに卵や塩、コショウと少しばかりの酢を入れてある。

まあ、ネットで調べて作ったもんだから俺のレシピというわけではないが。

 

紫陽花「しかし、あの花梨っていう子……びっくりするくらいしっかりした子だったな」

春乃「……そうだな。ちらっと聞いた話だと、生徒会も頭が上がらないという噂があるくらいだ」

春乃「ほかにも、皆のおふくろさん、という通り名もあるらしい」

紫陽花「本当に俺より年下なのか!?」

 

うどんをすすってもぐもぐしてる春乃に突っ込みを入れる。

まあ、こいつに突っ込んでも仕方ないのは分かってるんだが。

 

紫陽花「まずくはないと思うけど、どうだ?」

春乃「そうだな……まあ、悪くないと思う」

春乃「それに、私の様子から胃にやさしいものを作ってくれたようだしな」

紫陽花「明らかに飯食ってませんって感じだったし」

春乃「確かにそうだな。しかし、久しぶりに誰かの作った料理を口にしたよ」

春乃「……その、ありがとな」

紫陽花「どういたしまして」

 

慣れてないのか、例の一言を告げたらあとは無言で箸を動かしていた。

大分、態度が軟化したような気はするがどうなのだろうか。

今は精神的にも弱っているところみたいだから、こうなっているだけかもしれんし。

等と思っていると、箸がおかれる音に現実に戻される。

 

春乃「その、なんだ……ご馳走様」

紫陽花「どういたしまして」

 

照れくさそうにそういう春乃に笑って返してやり、小さくうなずいた。

きれいに片付けられた料理を見て思わずほおが緩んだ。

やっぱり誰かに食べてもらえるっていうのはいいもんだな。

 

紫陽花「さてと、食器はここのだし洗っておかないとな」

春乃「それぐらいなら私も――」

紫陽花「はいはい、今日はいいからしっかり休んでおけって」

春乃「う、むぅ……」

 

何やら釈然としない雰囲気ではあるものの、結局何も言わなかった。

そんな春乃の様子を少し可笑しく思いながらも、俺は洗い物を始める。

とはいっても、使った食器もそうは多くないから時間もかからないが。

しばらくの間、水の流れる音と食器の立てる音が響く。

 

春乃「……もしかして、だけどな。お前にも、妹がいたのか?」

 

ガシャンッ、という派手な音を立てて皿を一枚割れる。

 

 

春乃「おい、ひいらっ――!?」

 

 

春乃sade

 

紫陽花「……ああ、すまん。ちょっと手が滑っちまって」

 

そういって照れくさそうに頬を掻く柊の顔にはおかしなところはない。

しかしだ、一瞬だけ見せたさっきと同じ悲しげな顔が全てを語っていた。

恐らく、さっきについで最大級の地雷を踏みぬいたのは確かだ。

その証拠に、柊の動きはかなりぎこちなく、行動がから回っている節もある。

何と声をかけるか迷っている間に、柊は持ち直したのか困った笑みを浮かべていた。

 

紫陽花「……妹、か。うん……いたよ」

春乃「……すまん」

紫陽花「謝らなくてもいいさ。ちょっと過敏に反応しちゃってこっちこそ悪い」

 

落ちて割れた皿の破片をしばらくの間、無言で拾う。

私もそんなあいつに対して何を言ってやればいいのかわからない。

 

紫陽花「……妹はな、生きてればちょうど秋穂ちゃんくらいの年齢だったと思う」

春乃「秋穂と?」

紫陽花「俺の家族はここから数駅離れたところにある村に住んでいたんだ」

 

柊は何でもないような顔をしながらそんなことを話し始めた。

そこからは聞くに堪えないようなつらい出来事の連続だ。

まさかとは思っていたが、どうやら柊は私と同じ境遇で……。

私とは違い、妹すら失ったのだ。

 

紫陽花「最後は妹に庇われて……それでも魔物は止まらなかったよ」

紫陽花「死ぬんだなって、そう思った時に現れたのが軍の人だった」

春乃「……」

紫陽花「最初は俺も死のうと思ったんだ」

紫陽花「でも、さ。死ねなかった」

 

困ったように笑うその横顔はもろくて、今にも泣きそうに見えた。

ふと、気づいたように柊は目を丸くする。

 

紫陽花「……そんな顔しないでくれって。今はみじんもそんなことは考えてないから」

春乃「っ!?」

 

相当ひどい顔をしていたのか、柊はおろおろしている。

図太い神経をしているのか繊細なのか、本当にわからないやつだ。

 

春乃「それじゃあ、お前が誰かを守ることに躍起になるのはそういう理由からか?」

紫陽花「まあ、そうなるのかな」

紫陽花「俺は、俺を守ってくれる人の背中を多く見てきたからさ」

春乃「そう、か」

 

ああ、と小さく答えてから柊は洗い物の続きを済ませていた。

そんな姿にほんの少しの居心地の悪さを覚える。

相手の深いところをふみぬいてしまっただけにどうにもきまずい。

そんな気持ちがなぜか抜けず、そのまま調理室を後にすることになった。

 

 

紫陽花side

 

うーん、まいったな……。

俺はちらっと背後を言葉少なについてくる春乃に視線を送る。

さっき話した内容を気にしているのか、どうにも動揺しているようだ。

正直な話、俺もなんであのタイミングで昔のことを口にしたのかはわからない。

兄と姉という違いはあれど、どこかシンパシーを感じたのだろうか?

お互いにこれといって会話をすることもなく、気づけば寮の前まで来ていた。

 

紫陽花「さてと、俺はこっから先に入るのはまずいから後は頼んだぞ?」

春乃「あ、ああ。分かってる。……今日は世話になった」

紫陽花「気にすんな。……っと、どうやらお迎えみたいだぞ?」

春乃「えっ?」

秋穂「お姉ちゃんっ!」

春乃「あ、秋穂っ?」

 

言葉に振り返った春乃に突撃したのは秋穂ちゃんだ。

怒られていたということもあってか、春乃はどう反応すればいいのやらッて感じになっている。

相変わらず秋穂ちゃんの前だとクールな美人さんがどっかにいっちゃうんだな。

そんな光景にほほえましいものを覚えながら、俺はそのまま静かに男子寮へと歩いて行った。

 

 

男子寮に戻ると、俺は多少の荷物を部屋の中に適当に放り投げベッドに身を投げた。

昔の話をするのはかなり久しぶりで、俺なりに揺れているのかもしれない。

昔に……あの日にすべてが壊れていたと思っていたけど、俺はまだ人間なんだろう。

目をつぶれば蘇る村の人たちの顔と最後の光景。

そしてそれに呼び起されるようにしてちらつく前の世界での皆の死に顔。

そこまで思い返して、俺はこぶしを握り、目を開いた。

 

紫陽花「……もう二度と、あいつらを死なせたりなんかしない、絶対にだ」

紫陽花「ん?」

 

一人、決意を胸にしているところでノックが響く。

おかしいな、俺はまだ男子に友達なんていなかったと思うが。

首をかしげながらドアを開けに行くと、そこにいたのは――。

 

つかさ「ほう、うわさを聞いて戻ってきたがやはりいたか。柊」

 

学園の問題児の筆頭格である、生天目つかさその人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。