及び、こちらもとある方からのキャラリクエスト話です!
物語の関係上確実に絡んでくる勢力とのお話ですが、今回はそのウチの1キャラに絞った内容になります。
ではでは、どうぞお楽しみくだされ!
第4話:風紀委員
紫陽花「風紀委員?」
簡単なクエストをこなしながら過ごしていたある日。
寮の郵便受けに入っていた手紙の中にまたしても気になる手紙が入っていた。
いや、これは手紙というよりは呼出状みたいなもんだろう。
何やら色々とかいているが、つまりは風紀委員室へきてくれってことらしい。
紫陽花「ほーむ……」
おかしいな……呼び出されるようなことをした覚えはないんだが。
それにしてもこの前といい、手紙での呼び出しが続いてるな。
でも、無視したら多分面倒くさいことになるだろう。
そうと分かればさっさと従うに限る。
帰宅早々、俺は風紀委員室を目指して学園へと向かった。
風紀委員には2種類の人間がいるんだとか。
すごく積極的に活動しているのと、比較的穏便に活動している奴だ。
んでもって、多分だが寮に手紙を送ってきたのは積極的な方々だろう。
今でもまったく身に覚えはないが、些細な事でも風紀委員的には気になるのかもしれない。
無理矢理納得して風紀委員室を目指す。
……いや、正確には目指そうとした。
ここで根本的な問題に気づく。
紫陽花「……風紀委員室ってどこだ?」
こちとら転校してきてまだ1ヶ月程度。
主要な教室や部屋位は覚えたものの、風紀委員室なんてそうそういくもんじゃない。
放課後の校舎をウロウロすること30分。
つまり、絶賛迷子中である。
参ったな……どうすればいいのか。
そう思っていたところで、見覚えのある顔が歩いてくるのに気づく。
紫陽花「おお、そこを行くは神凪じゃないか!」
怜「? 確か……柊だったか? しばらくぶりだな」
紫陽花「ああ、久しぶり」
紫陽花「いきなりで悪いんだが、風紀委員室って知ってる?」
怜「む? 知ってるも何も、私も所属しているぞ」
紫陽花「あれっ、そうなのか?」
『これを見ろ』と、風紀委員の字が書かれた腕章を見せてくれた。
風紀委員だったのか……気付かなかったぜ。
だがそれならなおさらちょうどいい。
俺は郵便受けに入っていた紙を神凪に渡す。
最初こそ訝しげに受け取った神凪だったが、内容を見てすぐに思い当たったようだ。
怜「……恐らく、これの差出人は委員長だな」
怜「気になるし、私もついていくとしよう」
紫陽花「むしろ案内してくれ、マジで迷うから」
怜「ふふっ……」
怜「ああ、責任を持って案内しよう」
紫陽花「笑うなよ、こっち来てまだ1ヶ月経たないくらいなんだし」
怜「ふむ……言われてみれば、まだそれくらいなのか」
紫陽花「おうよ」
梓「およ、珍しい組み合わせっすね」
紫陽花「どわっ!?」
真後ろから声が聞こえて飛び上がりながら悲鳴を上げた。
慌てて後ろを見ると、小さい女の子の姿が。
おかしいな、さっきまで人の姿なんて一切なかったはずだぞ。
おまけに何の気配もしなかったんだけど……。
当の本人は笑いながら神凪と話しているわけだが。
というか、知り合いなのか?
紫陽花「神凪、紹介プリーズ」
怜「ああ、直接の面識はなかったのか」
怜「彼女は服部梓。彼女も風紀委員だぞ」
梓「どうも、自分は服部梓っす」
梓「ふっふっふ、お見知り置き願いますよ。先・輩」
紫陽花「……お断りします」
梓「ええっ!?」
紫陽花「なんてな、俺は柊紫陽花。よろしく」
梓「冗談きついっすよ……」
紫陽花「悪い悪い、なんか軽いノリが通じそうだったもんで」
梓「あれれ~、それは喜んでいのかわからないんですが」
怜「まったく、二人して何をやっているんだ……」
怜「ほら、風紀委員室へ急ぐぞ」
紫陽花・梓『あーい』
神凪に促され、俺たちは間の抜けた返事で返す。
うーん、服部か……割りと好きなノリかもしれない。
ちょっと違うが、小鳥遊と居る時みたいに気兼ねなく喋れる。
それにしても最近、新しい知り合いが増えていくなー……。
そんなことをぼんやりと考えていると、風紀委員室のプレートが見えてきた。
紫陽花「こんなとこにあったのか……通りで見つからんわけだ」
怜「まあ、少々わかりづらいかも知れないな」
梓「そっすねー、まさか図書館のある棟に入ってるとは思わないでしょう」
紫陽花「そうそう、俺もここはないだろって思って文化部棟に行ってた」
梓「あっちには生徒会室がありますからねぇ」
梓「まあ、これでもう迷わないっすよね」
紫陽花「ああ」
図書館棟には他にこれといって目立つ部屋がない。
だから次に来いって言われたら行ける。
出来ればそうならないことを祈るばかりだが。
怜「入るぞ」
数回のノックの後、ひと声かけて神凪が部屋に消えた。
しばらくしてから顔を出して手招き。
うん、有り難い気遣いだ。
紫陽花「失礼しまーす」
別に矯正されたわけでもないのに自然と敬語が口に出てしまった。
なんかこう、権力あるって感じの部屋とか苦手なんだよね。
中に入ると、数人の女の子が椅子に座ってこっちを見ていた。
ふむ、金髪ツインテールとポニーテール女子か……。
後、空気のようにひっそりと隅っこに座ってる子もいる。
やはりこういう委員に所属してるせいか、キツそうな顔したのが多いな。
紫陽花「そういう意味では服部は風紀委員らしくないとも言える……」
梓「何かしれっと貶められてないっすかね!?」
紫陽花「あ、ごめん。つい本音が」
梓「それ弁明になってないですから!」
風子「あ~……漫才してもらうために来てもらったんじゃねーんですが……」
紫陽花「あ、悪い……つい」
風子「まあ、堅い話をするつもりもねーんで気楽にしてくだせえ」
風子「ウチは風紀委員長の、水無月風子です」
紫陽花「……委員長?」
風子「そーですが、何か問題でも?」
紫陽花「あ、いや……」
怜「水無月はしゃべり方や雰囲気は独特だが、れっきとした委員長だぞ」
委員長らしくないなっと思ったけど、そうでもないのか。
なんか風紀委員としていいのかって思う言葉遣いだが。
後なんというか、気だるげに見える。
紫陽花「そ、そうか……ところで氷川って?」
紗妃「私が氷川紗妃と申します」
紗妃「ところであなた……服装が乱れてますよ!」
紫陽花「えっ」
紫陽花「あ、ほんとだ……いつの間に」
俺はズボンから飛び出していたYシャツを入れなおす。
うーん、もうひとつキツイベルト買わないとダメだな。
紗妃「……思ったよりもしっかりしているのですね」
紫陽花「何か酷く心外な発言されてるんだけど……」
紗妃「いえ、私が聞いた情報ではだらしない人だと聞いていたので」
紫陽花「うっ、そうなのか……」
個人的にはきちんとしていたつもりだ。
だが、風紀委員の目からすればまだまだ甘いらしい。
うーん、一体どこがまずかったのだろうか。
一方、俺の様子に氷川は少々やりづらそうな顔をしていた。
風子「氷川……本当に監視対象になりそーなんです?」
紗妃「ま、間違いありませんっ!」
紗妃「幾らか匿名の情報が上がっているんですからっ!」
風子「まー……それはウチも聞いてますけど……」
風子「柊さん、アンタさんに聞きてぇことがあるんですよ」
紫陽花「お、おう?」
席を立った水無月がゆらゆらと俺の目の前に立つ。
……目の前に立たれたら余計に小ささが際立つな。
こちらの心境はさておき、相手はこちらを指さしてとんでもないことを言い放った。
風子「アンタさんには、不純異性交遊の疑いがかかってるんですよ」
紫陽花「……はっ?」
不純異性交遊……いわゆる、ちょっと桃色な内容を含む事柄だ。
だけど、振り返ってみてもそんな内容にあたる出来事は思い浮かばない。
紫陽花「いやいやいや! あらぬ誤解をかけられても困るんだがっ!?」
梓「先輩……そういう人だったんスね……」
紫陽花「変に煽るのやめてもらえるかなっ!?」
梓「さっきのお返しっすよ、グフフ……」
なんてやつだっ!
いや、そもそも自業自得なんだけども!
俺に味方は居ないのか……。
怜「委員長、私もあまり彼をよく知っているわけではないが……」
怜「そういうことをするような男ではないと思うぞ?」
紫陽花「おおっ!」
味方は居たのか……!
いつもと同じはずの神凪に後光が差してるようにすら見える。
南つながりであまり交流は多い方ではないが、やっぱりこちらの意見も汲んでくれるな。
と、感心しているとパタンッ、と本を閉じる音に目を向けた。
まだ自己紹介を済ませていない唯一の子か。
基本的に無表情っぽいが、わずかに眉がゆがんでいる。
イヴ「私がここにいる必要はなさそうですね」
イヴ「不正の取り締まりは結構ですが、私は私のやり方を通させていただきます」
紗妃「イヴさんっ! あなたはまたそうやって……!」
風子「あぁ~……それでいーですよ」
風子「きちんとやるべきことはしてくれてるみてーですから」
紗妃「しかし……!」
イヴ「では、私はこれで」
紫陽花「おっと……」
出口の延長線上に立っていたため、邪魔にならないようにどける。
通り抜ける瞬間、ほんの少しだけこちらに目を向けた気がした。
……なんだったんだ?
深い溜息をつく氷川と苦笑いを浮かべる神凪と服部。
さらに何事もなかったような表情で『やれやれです』と肩をすくめる水無月だ。
今更ながらに何故俺はこんなとこにいるんだろうかと思ってしまった。
わずかの沈黙の後、氷川が盛大にため息をつく。
紗妃「すみません、彼女は冬樹イヴというのですが……」
紗妃「優秀な反面、仲間意識というのが皆無なんです」
紫陽花「ああ……なんかそう言われるとしっくり来る」
風子「ま、冬樹のことはいーです。仕事はしてくれてますしね」
風子「今の問題はアンタさんです」
紫陽花「……俺に対して不純異性交遊の疑いがかかってるのは分かった」
紫陽花「だけど、俺には心当たりが全くないんだ……詳しく説明してもらえるか?」
紗妃「柊さんには自覚がないかしれません」
紗妃「ですが、複数の女子と仲良くしてる姿が目撃されているのですよ!」
紫陽花「……それだけ?」
紗妃「普通にお話をする程度なら問題ありません」
紗妃「しかし、上げられた情報には食堂でイチャついていたというものもあります!」
紫陽花「食堂……?」
ここ最近で食堂といえば、多分冷泉とあった時のことか。
だが、特段風紀委員が目の敵にするようなことがあったとは思えん。
一緒に飯食って、お互いの料理をシェアし合ったくらいだ。
どこをどう間違って伝われたそれがイチャつくことになるのか。
ちょっと顔が
梓「食堂……アレを不純異性交遊っていうのはちょっと違う気がするっすよ?」
紗妃「? 服部さんはその現場を見たのですかっ?」
梓「まあ、ちょろっとですけどね」
梓「一緒にお昼を食べてただけみたいでしたけど」
紫陽花「そうだな、強いていうなら互いの飯をシェアしたくらいだ」
風子「あー……それくらいならまあ……準監視対象くらいですかね」
紫陽花「それでも準なのかよ!」
風子「ま、あくまで準です。そこから男女の仲にならないと否定出来ないでしょ」
紫陽花「あのなあ……冷泉はクラスメイトだぞ?」
紫陽花「そもそも、俺みたいなのとは釣り合わんだろ」
言ってて悲しいが、これは事実だろう。
学生らしい生活は送ってこなかった俺の話題は偏っている。
容姿がよければそれでもまだ救いはあったかもしれんが。
悲しいかな、俺は平凡などこにでも居るような顔をしている。
……あっ、なんかちょっと本気で悲しくなってきた。
と、ここまで言っているのにもかかわらず氷川の目は疑いに満ちている。
どんだけ危険視されてるんだよ、俺は。
風子「……あー、氷川?」
風子「これといった確証も無しに、処罰は出来ねーですよ?」
紗妃「うぐっ……!」
紗妃「ですが、怪しいのは確かですっ!」
風子「じゃー、こーしましょー」
紫陽花「ん?」
風子「明日から3日間ほどアンタさんを直接監視させてもらいます」
風子「登校してから寮に帰るまででどうです?」
怜「水無月、それはさすがに……」
紫陽花「まあ、それで満足するならいいけど……」
怜「い、良いのか?」
紫陽花「だって、ここでごねてもどうせ怪しいってなるだけだろ?」
風子「ふふ~、よくわかってるじゃねーですか」
風子「まー、気持ちよく生活するためです……協力願いますよ」
紫陽花「まあ……仕方ないから付き合うよ」
やれやれ、一体どうしてこうなった。
俺、別にそこまで女の子と親しくしてるつもりはない。
野薔薇たちはまあ……例の一件もあって特別仲はいいかもしれないが。
それ以外で言うならせいぜい、クラスメイト同士の付き合いだけだ。
まー、納得してないなら見てもらうまでか。
そうその時は軽い気持ちで思っていた。
風子「来ましたね、早目に登校してるのはこーいんしょーですよ」
えらく気合入った感じで、水無月が校門の前に立っていた。
まあ、登校してからと言ってたから間違いではないか。
紫陽花「ああ、おはよう。水無月も早いんだな」
風子「こー見えても風紀委員長の名を預かってんです」
風子「遅刻とか周りに示しのつかねーことはしませんよ」
紫陽花「それはそれは……と、そろそろ行くぞ」
風子「あいあい」
風紀委員とは思えないほどに間延びしたしゃべり方するやつだな。
そのせいか監視されてるって気にならない。
特にこれといって何もなく、教室へ。
風子「じゃーウチはここで」
紫陽花「ああ、また後でな」
紫陽花「……ふう」
水無月がもっさりした動きで去っていくのを見送り一息。
やっぱり監視されるってのはあまりいい気分じゃないな。
水無月の態度がサバサバしてるのが唯一の救いか。
智花「柊さん、おはようございます!」
紫陽花「ああ、おはよう」
智花「さっき……風紀委員の人と居ませんでした?」
紫陽花「ああ……それがさ……」
変に誤解されないように事の発端を説明してやる。
ふむふむ、と聞いていた南の表情が徐々にあー、という感じになっていた。
智花「氷川さんの耳にその情報が入っちゃったなら仕方ないかもです」
紫陽花「融通利かなさそうだったもんな」
智花「でも、それで水無月さんが動くのも珍しいですね」
智花「確定的なものに対しては積極的な人ではあるんですけど」
紫陽花「……そんなに疑わしいのだろうか」
不純異性交遊なんて自分には程遠い罪状だと思っていただけに凹んでしまう。
なにげに困ったような笑みを浮かべられるだけなのは肯定ととっていいのか?
紫陽花「ともあれ……冷泉にはこのことは秘密にしといてくれ」
紫陽花「自分のせいでと気に病みそうだから」
智花「ふふ、分かりました」
智花「普段通りにしていれば大丈夫だと思いますよ」
紫陽花「ああ、ありがとう」
あくまでこれは俺が疑われた結果だ。
なら、冷泉まで巻き込む訳にはいかない。
努めて平静を保ってその後の授業を受けた。
あれから約束の3日。
特にこれといった事件もなく、時はすでに放課後。
夕飯は何食うかなーと思い席を立つと、入り口に見覚えのある金髪が見えた。
ああ、帰りまではついてくるのね。
半ば諦めに似た感情もあるが、俺は苦笑いを浮かべる。
風子「おっと、やっと来やがりましたね」
紫陽花「むしろそっちが早いな」
紫陽花「まだチャイム鳴ってそんなに経ってないだろ」
風子「アンタさんはいろんな人に人気ですからね」
風子「早めに確保しねーとどっか行っちまうかもしれねーですし」
紫陽花「人気ってわけでもないんだが……」
紫陽花「水無月って普段はこの時間どうしてるんだ?」
風子「そーですねー、大抵は見回りですよ」
紫陽花「見回りか……大変じゃないか?」
風子「大変なんてもんじゃねーですよっ!」
紫陽花「うおっ?」
風子「毎日毎日、何度注意しても言うこと効きやがらねー奴が多すぎるんです。
子供じゃねーんですから何度も同じこと言わせないで欲しいんですがね。
それに聞いてくだせーよ! 昨日は氷川の奴が事もあろうに『もしかし
て委員長まで柊さんに毒されてませんよね?』とかいう始末ですよ!
ウチはかまいませんが、柊さんにしつれーじゃないですか、ねえ?」
紫陽花「お、おおう……」
マシンガントークとはこういうことを言うのか。
矢継ぎ早に語る口調はいつもの水無月と違って感情がはっきりしている。
やっぱ、規律の厳しい集まりのトップに居るってのはストレスがたまるんだな。
小さな体全体で鬱憤をまき散らしているのを見て笑ってしまった。
風子「何笑ってやがるんですかー!」
紫陽花「いや、ちょっと新鮮でさ」
紫陽花「水無月もそんな感じで感情爆発させることもあるんだな」
風子「ウチだってれっきとした人間です」
風子「愚痴の一つや二つくらいいいたくなるもんですよ」
口を尖らせながら、いつの間にかついていた昇降口で靴を履き替える。
それに習い俺も靴を履き替えに行ってから合流。
まだ日は高いな……うん。
紫陽花「なあ、水無月」
風子「なんですかー?」
紫陽花「今日はちょっと買い物の予定があってさ」
紫陽花「街に出る予定なんだが……良い?」
風子「そりゃーアンタさんにだって都合はあるでしょうからごじゆーに」
風子「もちろんウチもついてきますよ」
紫陽花「ああ、分かってるよ」
そう答えながらも内心、ニヤリと笑っていた。
買い物があるってのは建前。
目的は水無月のストレス発散のためだ。
とはいえ、普通に誘えば素直についてきやしないだろう。
だからこういう遠回しな誘い方になったわけだ。
風子「街中は賑やかですね」
紫陽花「そうだな」
学園からバスに乗ってしばらくした頃。
そうかからない内に近くの街についていた。
詳しいことは分からないが、この街は結構発展しているんだそうだ。
理由としては魔法学園という拠点があるということが大きいらしい。
まあ、俺たちのモチベーションを上げることで任務の達成率を上げる目的もってわけだ。
そんな背景は置いておこう。
隣を歩く水無月は相変わらず気だるげだが、周囲を忙しなく見ている目が輝いている。
風子「で、アンタさんは何を買いに来たんですか?」
紫陽花「ん、実は料理道具を少々……」
風子「……料理?」
紫陽花「意外そうな目で見るなって」
そう答えながら予定の入っていた店に入る。
けして綺麗とはいえない店構えの店内は、これまた古臭さに満ちていた。
水無月も物珍しいのかきょろきょろと見回している。
本当は今日でなくても良かったんだが、まあそこは仕方ないとしよう。
店主「む? おお、お前さんは……」
店主「なんじゃ、もう取りに来たのか?」
紫陽花「うん、ごめん。例のはできてる?」
店主「出来とるよ」
紫陽花「おー! ピッカピカだ」
風子「包丁?」
紫陽花「ああ、前使ってた包丁が折れちまってさ……」
紫陽花「それを打ちなおして貰ったんだ」
店主「ほっほっほ、うちは刀鍛冶兼、包丁屋じゃからの」
風子「この街にこんなとこがあったんですね……」
紫陽花「ああ、俺も神凪に聞いた時は驚いたもんだよ」
風子「あ、そういうつながりですか」
紫陽花「ありがと、じっちゃん」
店主「切れ味が悪くなったら持ってこい」
朗らかに笑いながら見送ってくれるじっちゃんに手を振って応える。
店内から出る前にしっかりとカバンに包丁をしまう。
銃刀法違反とかで捕まりたくはないしね。
さて、寄り道はこれで終わりだ……本題に移ろう。
紫陽花「なあ、水無月。ちょっと小腹すかないか?」
風子「んー……昼を食べ損ねちゃいましたから割りと空いてますが……」
紫陽花「ほう、ならちょっと休んでいこうぜ」
風子「はっ? ですがウチは風紀委員としてそういうのはちょっと……」
紫陽花「まあまあ、良いから良いから」
風子「ちょ、ちょっと待ってくだせえー」
想定内の言い訳を並べる水無月を置いてさっさと歩く。
こういう奴はささっとこちらのペースに載せるのが一番だ。
そう考えて予め決めていた店のある場所へと入っていく。
店員「いらっしゃいませ~」
風子「こ、これはっ……!?」
いつも気だるげな水無月の様子が一瞬で変わった。
まさかここまでとは思わなかったが、情報に間違いはなかったようだ。
紫陽花(感謝しとくぞ、服部)
この場に居ない功績者に胸の中で礼を言う。
つい昨日、彼女から声をかけられて頼まれたことでもある。
水無月って疲れてそうだよなって話題をふったら提案されたのだ。
梓『水無月先輩ってばあんなでしょ?』
梓『ちょっとでも息抜きさせて上げられないすかね』
と。
軽そうだけど、見るところは見ている。
それだけ水無月が信頼、慕われているからというのもあるかもしれないが。
ともあれ、その服部から受け取った情報……。
『無類のリンゴ好き』であるというのは間違いではなかったようだ。
目の前にあるリンゴ専門のスイーツショップの前で目を輝かせるくらいだし。
紫陽花「今日付き合ってくれた分、奢るよ」
風子「い、いーんですかっ?」
紫陽花「ああ」
紫陽花「あ、店員さん。俺はアップルパイで」
店員「はい、かしこまりました!」
風子「うー……りんご飴も捨てがたいですが……」
風子「このリンゴたっぷりクレープでおねげーします」
店員「はい、では2点で1260円でございます」
紫陽花「一緒に払うんでこれで」
店員「丁度ですね、では左にずれて少々お待ちください」
勘定を済ませると横にずれる。
イベントなんかで見かける、移動式の店だからこうしないといけないんだろう。
後ろにはそれなりに列もできているし、結構人気なんだな。
程なくして、俺のアップルパイと水無月のクレープが出来上がった。
風子「ふお~……!」
紫陽花「なんともすさまじい見た目をしているな……」
風子「いーじゃねーですか、このボリュームは食べごたえが有りそーです」
紫陽花「喜んでくれてるなら何より」
目を輝かせてスライスリンゴのはみ出まくったクレープをかじる水無月。
実に食べにくそうではあるが、たっぷりの生クリームは実に美味そうだ。
そう思いながらアップルパイに手を付けようとして――。
風子「……アップルパイも美味しそーですね」
紫陽花「……半分いるか?」
風子「ふふ、ありがてー申し出です」
そんな肉食獣みたいな目で見られたらだれでもそう言うわ!
口元にクリーム付けたままの姿は小動物そのものだが。
それから特に会話もなく、水無月は一心不乱にクレープを頬張っていた。
紫陽花(こうしてみると歳相応の女の子なんだよな……魔法使いって言っても)
そう、こうやって普通に過ごしていれば俺たちは普通の学生だ。
だけど俺たちは一般人とは違う。
覚醒してしまった時点で、人並みの生活は送れない世の中だ。
俺自身はそういうのを悲観したことはないが、皆はどうなんだろう。
ふと、隣を見るとクレープを食べ尽くして満足気な女の子がいた。
それを見て少しだけ吹き出しそうになってしまう。
紫陽花「ほれ、顔クリームまみれだぞ」
風子「すいませんね」
俺の渡したティッシュで口元を拭き、一息ついて笑った。
紫陽花「多少はストレス発散になったか?」
風子「? そーですね。本来はあまりよくないんでしょーけど……」
風子「おかげ様で、日頃の鬱憤は晴れましたよ」
紫陽花「ま、あまり溜めすぎるなよ? 服部の奴も心配してたから」
風子「服部が?」
紫陽花「これは内緒だぞ? 本当は服部にも黙っててくれって言われたんだ」
風子「……気ー遣わせちゃいましたかね」
困ったように笑いながら、ベンチの背もたれに身を預けていた。
ちょうど空を見上げるような形だ。
沈み始めた夕日によるためか、彼女の顔もほんのり赤く染めていく。
風子「ウチは風紀委員としての誇りがあります」
風子「こうして気だるそうにしてるのも、演技なんですよ」
紫陽花「えっ、そうなのか?」
風子「ま、そーやって驚いてくれてるなら作戦は成功してるわけですかね」
紫陽花「自然すぎてまったく……でもなんで?」
風子「こーしてれば、やる気なさそうだなって油断するでしょ?」
風子「そーいう心の隙を突くんです……利かないのも多いんですけどね」
紫陽花「そういう事情があったのか……」
あの独特な気だるげ雰囲気にそんな理由があるとは。
なんとなく、雰囲気にも負けて掛ける言葉が見つからない。
ちょっと困って、ごまかすように視線を夕日の方へ向けた。
風子「アンタさんの不純異性交遊の疑いですが」
風子「保留にしようかと思います」
紫陽花「……保留?」
風子「自分のことを疑ってるよーな相手にまで優しくするんです」
風子「相手によっちゃころっといっちまいますよ?」
紫陽花「冗談きついな」
風子「本気で言ってます?」
紫陽花「? 何がだ」
風子「なーるほど、アンタさんはそーいう……」
『これは厄介な相手ですね』と一人つぶやいてる。
一体何だと言うんだ。
良くは分からないが、納得されているみたいだが……。
うーん、結果的に保留ってことはまだ監視は続くのか?
そうなると困るんだが。
風子「だいじょーぶですよ」
風子「たまーに、あった時にでも話を聞くくらいにしときます」
紫陽花「あ、そういう感じなのか」
風子「こー言うのもなんですが、ウチも暇ではねーんで」
紫陽花「買い食いしておいてどの口が言うんだ一体……」
風子「ふふ、何のことですかね?」
風子「今日はアンタさんに無理矢理誘われただけですから」
紫陽花「ぐぐっ……!」
否定出来ないだけに痛いところをっ!
紫陽花「まったく、いい性格してるよ。お前」
風子「それはどーも」
風子「……感謝はしてますよ、柊さん」
紫陽花「感謝は俺じゃなく、仲間にしといてやれ」
紫陽花「さり気なくな」
風子「アンタさんがそれでいーならそーさせてもらいます」
紫陽花「ああ、そうしてくれ」
風子「じゃー帰りますか」
風子「これ以上は風紀委員的に言い逃れ出来ねーんで」
紫陽花「あいよ」
多少元気になったっぽい水無月の言葉に頷き立ち上がる。
バス停に向かおうと思い、歩き出したところで背中辺りの服を掴まれた。
紫陽花「とと……どうした?」
風子「……えーっとですね」
目を逸らしながら、珍しく言いよどむ。
微妙にしおらしいその姿が、普段とのギャップもありドキッとした。
夕日のせいか顔が赤く染まっているようにみえるのも助長させる。
暫くの間迷うように視線を彷徨わせた後、決意したようにまっすぐこちらを見た。
風子「……アップルパイ、貰っていーですかね?」
紫陽花「……はあ」
風子「な、なんです?」
紫陽花「思わせぶりな反応はやめてくれ……」
そう言ってアップルパイの入った包を渡してやった。
まったく、柄にもなくドキドキしてしまったじゃないか。
この風紀委員め、自覚がなさそうで困る。
だが、まあ……。
風子「ふふ……帰ってからの楽しみが出来ましたよ」
紫陽花「そりゃよーござんしたね」
風子「む、ウチの真似をしないでくれません?」
紫陽花「へいへい」
風子「む~……態度が生意気です」
風子「これは色々捏造して懲罰房行きですかね?」
紫陽花「やめーい、お前は暴君かっ!」
風子「あはは、そんなんじゃつかまりやせんよーだ」
無邪気に笑いながら逃げ惑う水無月を見てたらどうでも良くなった。
色々と振り回されてばっかの数日だったけど……。
それはそれでいい思い出になった、そう思う一日だった。