グリモア~守護者~   作:エウラス

6 / 20
今回は急展開ではありますが、クエスト開始のお知らせ。
記念スべき最初の魔物はお察しの通りのアイツですが、その強さは
まったく違います。原作を知っている方ならなんとなーく察しがつくかもしれません
がタイコンテロガなりかけレベルの相手です。
さあ、どんな内容になるかは見てのお楽しみです。


第五話

第5話:緊急クエスト

 

普通に一日が終わる。

そう思っていた俺の気分をぶち壊したのは一本の電話だった。

以前面接していた病院からきた、緊急の中央病院への出張要請。

説明もほどほどに、俺はその電話をきってすぐに向かった。

そんな俺が指定された病院へついてまず思ったのは。

 

紫陽花「酷い……」

 

その一言だけだった。

本来広いだろう受付場所は、簡易に作られたベッドで埋まっている。

その一つ一つに、苦しみに呻く人たちの姿があった。

体の一部分がなくなっている人も見える。

 

医師「君は……見たところ学生のようだが、見舞いかね?」

紫陽花「いえっ! 別の病院から来た魔法使いです!」

医師「! 君が地方からの……」

医師「詳しい話は後だ、すぐに来て欲しい!」

紫陽花「はいっ!」

 

顔色を変えた男の医者に促され、俺はすぐに診察室へ向かった。

それから、服を着替えすぐに全力での治癒魔法で数えきれない人を治していく。

……中には救えなかった人も居た。

それでも、出来る限りの人を助けるために魔法を使い続けた。

 

 

医師「……峠は超えた、か」

医師「君のおかげで、犠牲になった人はかなり少なかった……ありがとう」

紫陽花「……」

 

犠牲になった人……その言葉に気分が沈む。

俺の力が足りなかったから、俺がもっと早く来れていたら。

そう思うとやるせない気分になってしまう。

そんな俺の肩を、軽く叩きながら、医者が隣りに座った。

 

医師「私も同じ気分だ」

医師「……医者である俺が救えるのはほんの一握り」

紫陽花「……」

医師「苦しんでいる人たちが居ることを分かっていても、できることをするしかない」

医師「迷う暇すら与えてくれないんだ」

紫陽花「そう、ですね」

医師「でも、君のおかげで助かった命は多い」

医師「あまり自分を責めすぎてはダメだよ?」

紫陽花「……ありがとうございます」

医師「さて、患者の量も減ったし、後は我々でもどうにか出来る」

医師「他にも魔法使いは呼んである。もう遅いし、君も帰って休んだほうがいい」

紫陽花「はい、わかりました」

 

『報酬は後日、学園へ送っておくよ』とだけ告げて医者は去っていった。

その背中にはどうしようもない無力感を背負っているようで……。

ずっとは見ていられなくて、気が付くと病院の外へ足を向けていた。

 

 

外に出ると、周りはすでに暗くなっていた。

まあ、そうだよな。

放課後に病院に向かってから、ずっと治療しっぱなしだったんだ。

時計を見ると……げっ、もう日付変わる直前じゃねえか!

とある風紀委員の顔が浮かぶ。

 

『門限は順守ですからねっ!』

 

融通の効かなそうな生真面目を絵に描いたような女の子。

その子が口を酸っぱくして言ってたその言葉を思い返す。

ちなみに門限は23時とまあ、割りと寛大な時間ではある。

だけどまあ、すでに日付変更間近で帰るのに30分以上かかると考えればアウトだ。

怒られることも想定に入れながら、俺はため息を吐きながらタクシーを止めた。

 

 

覚悟を決めて学生寮の門を潜ろうとして違和感に気づく。

もう深夜の1時近く、普通に考えれば皆寝静まっているだろう。

そんな時間に、妙に騒がしい空気を感じたからだ。

なんだろう、と思っていると寮から風紀委員の腕章を付けた女の子が出てきた。

 

紗妃「っ! 貴方は……」

紫陽花「げっ……」

 

ついこないだ口うるさく校則を教えてくれた女の子、氷川紗妃その人だった。

よりにもよって、今一番会ってはいけない人物に会った気がする。

俺はため息を付いてから、観念して彼女に歩み寄った。

 

紫陽花「すまん、言い訳をするつもりはないよ」

紗妃「一体どこに行っていたんですかっ!?」

紫陽花「中央の病院に」

紗妃「っ! 病院……怪我か病気でもしたんですか?」

 

急に勢いを失い、逆に心配そうなものに変わった。

さすがに申し訳ないので、俺はしっかりと事情を説明する。

アルバイトとして地方の病院へ登録をしていたこと。

魔物の出現により大勢のけが人が出たため、中央病院へ

それらを包み隠さずに正直に答えた。

すべての事情を聞き終えた後、氷川さんは気まずそうにため息をつく。

 

紗妃「……なるほど、それは責められませんね」

紗妃「話を聞く限り、貴方が居なければ救えなかった命があったようですから」

紫陽花「……救えなかった命もあるよ」

紗妃「そうかもしれませんが、貴方が救った命があったことも事実です」

紗妃「ですから、自分を責め続けるのはやめてくださいね」

紫陽花「……ん、ありがとう」

紗妃「それと……今更になりますが、実は貴方を探していたんです」

紫陽花「俺を?」

紗妃「ええ、あなたも知っての通り、町の近隣に魔物が現れました」

紫陽花「確か、観光スポットになってるとこだったよな?」

紗妃「……ええ、人が多く集まるその地に、牛の形態を取った魔物が現れたと」

紫陽花「……ミノタウロス、か?」

紗妃「! よくわかりましたね」

紫陽花「患者の傷と牛って情報からな。サポート役として力になりたくて、今まで出た魔物の情報はなるべく頭に入れてある」

 

牛……そう聞いて想像出来るのはミノタウロスだ。

今日治療した患者の多くが鋭利な刃物で切られたような傷が目立っていた。

そう、ちょうど斧で付けられたといえば頷けるような具合の。

そこに何かに貫かれたような刺し傷もいくつか見た。

そこまで話していると、別の風紀委員腕章を付けた子が数名よってくる。

 

イヴ「氷川さん、寮内には居ませんでした」

イヴ「? もしかしてそちらにいるのは……」

怜「柊じゃないか、どこに行っていたんだっ?」

紗妃「落ち着いてください、皆さん」

紗妃「実は……」

 

氷川さんが合流した風紀委員の皆に説明してくれた。

うん、無駄を省いたいい説明の仕方だ。

おかげで皆も納得したように頷いてくれているのが見える。

そしていつの間にか服部も混じっていた。

一体いつの間に……。

 

梓「いやあ、そりゃ見つからないわけですね」

風子「まあ、それは別にいーっす」

風子「柊さんは柊さんで、出来ることをしてたってことですから」

紫陽花「……出来る限りはな」

風子「色々辛い気持ちは分かります」

風子「そんな時に申し訳ねーんですが、協力を願いてーんです」

紫陽花「協力?」

イヴ「……貴方、デバイスはもらったかしら?」

紫陽花「いや、まだだな」

 

デバイスってのはぶっちゃければ学園で使う限定のスマートフォンだ。

これがあれば些細な情報もすぐに入ってくる。

ちなみにそれぞれの魔法を使う際の制服にもこれで着替えられる。

イメージ的には特撮ヒーローの変身シーンだろうか。

脱線したが、クエストの受注なんかもそれで行うんだそうだ。

こっちに来て結構経つというのに俺のは未だに来ていない。

特注になるからだとか言われたけど実際どうなのかは不明である。

 

イヴ「なるほど、では手短に伝えますが……」

イヴ「例の魔物を討伐するよう、国からの依頼が入りました」

紫陽花「っ! なんだって!?」

 

イヴの言葉に思わず声が上ずった。

幾らか軍が出勤したという話は聞いていたからだ。

実際、病院へ向かう道すがら、軍の車両が何台も走っていったのを見た。

軍が出ていて、まだ事が片付かないっていうのか?

 

怜「落ち着け、柊」

紫陽花「だけど、軍が動いてたのも見たんだ」

紫陽花「それでもまだ討伐できてないのか?」

梓「そうみたいっすね……相手がそれなりにいたってのもあるんですけど」

梓「どうも、一匹一匹が普段より強かったみたいでして」

紫陽花「個体が? ……まずいかもしれないな」

イヴ「そう思う根拠は?」

紫陽花「ここ最近に現れた魔物の情報は、分かる限りで調べてる」

紫陽花「強さも少しずつ上がってきているようだし、何より俺たち人間の生活圏に近くなってきてる」

風子「……アンタさん、能力が特殊なだけじゃねーみたいですね」

紫陽花「非力な俺に出来るのは情報収集と分析、サポートくらいだからな」

風子「話を戻しますが、魔物は狡猾に籠城してるみてーです」

紫陽花「籠城? そんな知能があるとは思えないんだが……」

 

今までの通例通りであれば、魔物には本能のようなものしかないと思われている。

たとえば作戦のようなものを立てることもなく、ただ目の前の人間を襲うだけ。

指揮官のような個体がいるわけでもないので統率なんてものもないわけだ。

そんな奴らが籠城となると、俺からすれば違和感しか起きない。

 

紗妃「そうですね……今までであれば、ですが」

怜「奴らの生息圏も、生態も未だに謎が多い」

怜「最大限、警戒しておくに越したことはないだろう?」

紫陽花「そうだな。それで、どうして俺を探してたんだ?」

風子「そこで本題です」

風子「できれば、今回のクエストに協力してもらいてーんですよ」

紫陽花「クエストに?」

 

なんでかな、と思ったがすぐに納得が行った。

相手が籠城しているということはそれなりにこちらにも疲労があるだろう。

交代交代で攻め手を変えたり、場合によっては退く必要もある。

それほどに、魔力を消耗する可能性が高いからだ。

その点、俺が居れば魔力残量に気をつける必要はなくなる。

 

紫陽花「ああ、これ以上被害者が出ないようになるなら」

風子「ごきょーりょく感謝です」

紗妃「具体的な作戦は明日、登校してきてからお伝えします」

紗妃「学園に来たらすぐ、風紀委員室へ来てもらっていいですか?」

紫陽花「ああ、分かった」

風子「じゃー今日は解散っす、皆さんお疲れさんでした」

紗妃「いえ、それでは私も失礼します」

怜「では私も帰るとしよう」

イヴ「私も帰ります。明日の任務に支障が出ますから」

梓「それでは自分も帰るとしますかね、ニンニン」

紫陽花「……はは」

 

騒がしいな、と思いながら沈んだ気持ちがましになった。

そうだな……もっと頑張って、犠牲になる人を減らせばいい。

亡くなった人たちのためにも、俺は決意を新たにしたのだった。

 

 

紗妃「準備はいいですか、皆さん」

一同「はい!」

紗妃「では、作戦通りツーマンセルを組んで行動してください!」

風子「無理をしないよーに、適度に周りと連絡をとってくだせー」

怜「連絡体制はどうなっている?」

梓「抜かりないっすよ。デバイスに短縮設定よろしくお願いします」

イヴ「……足を引っ張らないようにお願いします」

紫陽花「えーっと、まあよろしく……」

 

ふい、と淡白な表情で先へ行くイヴの後ろをついて歩く。

ちなみに冬樹と呼ぼうとしたら、同じ名字のがいるからと断られてしまった。

なるほど、兄弟かなんかがいるんだろうかと頷いて俺も了承。

それぞれの持場に向かうため、俺たちは森の中へと入っていく。

ここでの頑張りが救える命の数を変える……。

自然と、渡されたばかりのデバイスを持つ手に力が入った。

 

紫陽花「戦闘服展開!」

 

その言葉に反応し、デバイスが軽い明滅。

しばらくして俺の来ていた制服が光り、戦闘服へと切り替わった。

黒を基調としたコートと白のインナー。

それにインナーとお揃いのデザインをした手袋とブーツだ。

基本的に戦闘服の形状は関係なく、着ていることそのものに意味があるらしい。

つまり見た目は個人の趣味によるものが強い、と。

そんな説明を聞いた時のことを思い出して苦笑いしていた。

よく見ればイヴのと似てないこともないが……色違いだから!

 

紫陽花(ま、いい感じに緊張はほぐれたかな)

 

入りすぎていた力は抜け、リラックスした状態で歩き出した。

 

自然公園。

それが俺たちが今いる場所の名前だ。

その名の通り、草木豊かな公園。

遊具なんかも極力作らず、あってもベンチや噴水くらいという徹底ぶりだ。

季節ごとに人気のブースがあり、四季の花を楽しめることもあってそこそこの人気。

だけど、そんな観光スポットも今日に限っては物々しい空気に包まれていた。

 

イヴ「はっ!」

 

氷の魔法で発見したミノタウロスを数体、塵へ変える。

汗一つ掻かないイヴの後ろに立ち、俺は魔力の供給と身体強化を行う。

相手によって俺のポテンシャルは大分変わるが、彼女なら十二分に活かしてくれそうだ。

しかし……。

 

イヴ「……次、行きますよ」

紫陽花「なあ、ちょっと奥へ行き過ぎじゃないか?」

紫陽花「他のペアの状況を確認してからで……」

イヴ「ミノタウロスを見つけ次第に粉砕します」

イヴ「それだけでしょう? 不安なら貴方だけ待っていてください」

紫陽花「ちょ、ちょっと待てって!」

 

この冬樹イヴという女の子、危機感がなさすぎる。

いや、冷静でかつ強いからこそ生まれる過信といったほうがいいかもしれない。

更に誰も頼らない性格なのも助長して、彼女は単身で奥へ進もうとしすぎるんだ。

たしかに彼女は強いし、俺がいればそうそう怪我をすることはないだろう。

だがそれでも、イレギュラーってのは発生する。

彼女は心配をよそに、どんどんと霧の濃度が高い場所へと進んでいく。

ここは森の中、整備された開けた場所とは違う。

もし死角から襲われでもしたら……そう考えていたら視界が開け始めた。

森から出る……位置的には滝がある場所かな?

 

イヴ「……もう一匹、居たわ」

紫陽花「……一匹だけか?」

イヴ「魔力もあそこにしか感じないもの」

イヴ「行きます!」

紫陽花「おい! ……ちっ、本当にいうこと聞かないな!」

 

一人森から飛び出したイヴを追いかけて飛び出す。

開けた空間……やっぱり、結構な高さの滝がある人気スポットの一つか。

そんな場所に、ミノタウロスが一匹で立っていた。

……なんだ、この違和感。

 

イヴ「はぁっ!!」

 

激しい氷の嵐を巻き起こしながら突っ込んでいくイヴ。

それをただ待ち構えるかのように『滝の近く』に立っている魔物。

そこで初めて、俺は全力で彼女の後を追う。

すでにイブの魔法はミノタウロスを捉えていた。

しかし――。

 

ミノタウロス「おおおおおおおおおっ―――!!!」

イヴ「きゃっ!?」

紫陽花「うっ……!?」

 

地響きを伴うほどの断末魔を上げ、ミノタウロスは霧散した。

あまりの音量を近くで聞いたせいか、イヴさんはふらふらしている。

俺だって彼女ほどじゃないが近かったせいか、ちょっと頭がいたい。

ふらつく体でどうにかバランスを取る。

 

イヴ「……往生際の悪いことを」

紫陽花「……本当にそう思うか?」

イヴ「何を……」

イヴ「っ!?」

紫陽花「……ハメられたな」

 

背後……つまり俺たちが駆け抜けてきた森から10を超えるミノタウロスが姿を現す。

俺たちが立っているのは崖っぷち……完全に囲まれていた。

扇状に散開したミノタウロスがじりじりとこちらへ近寄ってくる。

 

イヴ「数が増えたところで……やっ!!」

イヴ「……なっ!?」

紫陽花「気づかないのか……こいつら、さっきまでのと違うぞ!」

 

イヴの放った氷の刃をいともたやすく打ち消した魔物。

これは正直言ってかなりまずい状況だ。

ちらっと魔力感知したところを見ると、さっきまでの奴の5倍は強い。

そんなのが10以上の数居て囲まれている。

しかもそんな奴らが、俺たちを囲むための『知恵』を持っていた。

ここまで考えて、明らかに奴らに何か作戦があると踏んでいる。

 

紫陽花「……イヴ、聞いてくれ」

イヴ「何ですか?」

紫陽花「奴らはさっきまでのやつらと違って5倍くらいの魔力を感じる」

紫陽花「身体強化を持ってしてもまともに一発くらったらアウトだ」

イブ「障壁は?」

紫陽花「障壁ももちろん使う……が、あまり期待しすぎないほうがいいな」

イヴ「だから何ですか? 逃げろと?」

紫陽花「いや、逃げたくても退路は絶たれている」

紫陽花「それよりも、あいつらの行動がおかしいって思わないのか?」

イヴ「……組織的なのは気になりますね」

 

優秀と言われるだけあってかそういう所は察しがいい。

出来ればその上で慎重になってくれると有り難いんだが。

会話の最中であってもあいつらゆっくりと斧を構えて近づいてくる。

扇状に、徐々に俺たちを崖側に追い詰める形で。

 

イヴ「なら、全力の大魔法を放ちます」

イヴ「魔力はよろしくお願いします!」

紫陽花「ま、待て!!」

イヴ「はああっ!!」

 

止めようとした俺の声は、イヴの掛け声でかき消される。

ちっくしょう、明らかに怪しい動きしてんのに突っ込みやがって!

とはいえ突っ込んじまったもんは仕方がない。

身体強化分を少し削って魔力供給に集中。

しかし――。

 

イヴ「う、嘘でしょ……!?」

 

イヴ渾身の大魔法は5匹のミノタウロスの連携でかき消される。

それでも多少なりとものダメージは受けているのか、魔物の動きは少しだけ鈍った。

だが、それでも進行を止めるほどのレベルではなかったらしい。

唖然としていたイヴを狙って打ち下ろされた斧が振り下ろされる。

 

イヴ「しまっ……!?」

紫陽花「させるかあああっ!!!」

イヴ「きゃっ!?」

 

足に身体強化を絞り、魔物との距離を一気に縮めた。

間一髪、イヴを後ろに飛ばして斧を受け止め――。

 

紫陽花「ぐっ――!?」

イヴ「ひ、柊さんっ!?」

 

られなかった。

障壁や身体強化に回して居た部分を全て足に回したせいだ。

瞬間的に障壁に魔力を回したが遅かった。

大部分の勢いをカットすることは出来たが、完全には無理だったらしい。

左肩に浅くめり込んだ斧から、転がるようにして抜け出し距離を取る。

傷口が熱い……心臓の鼓動と同調するように血があふれだすのを感じた。

だけど……腕は握れる、まだ動く。

咄嗟に体の軸をずらしたこと、障壁を展開できたことが幸いだったが……。

敵の攻撃はまだ終わっていなかった。

俺たちから少し離れた場所で斧を振り上げるのを見て、俺は悟った。

ちっくしょう、そういうことか!

振り下ろされた斧は岩盤を砕き、俺たちのいた崖を『割り落とす』。

 

紫陽花「イヴっ!!」

イヴ「えっ……!?」

イヴ「きゃああっーーーー!?」

 

驚きに目を見開いているイヴを抱き、すごい勢いで滝壺へと落ちていった。

 

◯イヴ視点◯

 

イヴ「……うっ」

 

夢を見ていたような気がする。

自分のことを省みるような、そんな夢。

頭がボーっとしてはいるけれど、すぐに直前のことを思い出して跳ね起きた。

でも……。

 

イヴ「……洞窟?」

 

ミノタウロスの姿はなく、洞窟の中に居ることに気づいた。

微かに激しい水音が聞こえるから、落ちた近くであるみたいだけれど。

少し離れた場所に川が流れているのが見えるし間違いではないみたいね。

ふと、そこまで思案していたところで、視界に赤いものが映った。

 

イヴ「……! 柊さんっ!?」

紫陽花「よっ、起きたか……」

 

◯主人公視点

 

紫陽花「調子はどうだ……? 治療はしたけど、あまり無茶するなよ」

イヴ「わ、私は大丈夫です」

イヴ「それより、貴方肩がっ!」

紫陽花「はは……もうちょっと格好よく助けられたらよかったんだがな」

 

肩口から流れ出る血の量は大分減った。

だがそれは傷が落ち着いたってわけじゃない。

単純に量が少なくなったってだけだ。

現に、手足が震えるし体温も下がっているような気がする。

もらった制服は事前知識の通り直ってはいるが、俺の血で真っ赤に染まっていた。

さっきまでは考えられないほどに動揺した様子で駆け寄ってくる。

おまけに体を揺らされるという暴挙つきだ。

 

紫陽花「いててっ!? あんまり動かすなって……」

イヴ「ご、ごめっ……!」

紫陽花「大丈夫大丈夫。それよりイヴ、治癒魔法使える?」

イヴ「無理だけど……簡単な止血と手当くらいなら」

紫陽花「ないよりマシだな……麻酔は自分を少し麻痺させればいけるか」

紫陽花「悪いけど頼める?」

イヴ「え、ええ……」

 

了承してくれたところで、俺はゆっくりと上着を脱ぐ。

左肩の感覚が鈍い。

下手をすれば一刀両断されるところだったがまあ大丈夫か。

左手が動かしにくいんで難儀したが、どうにか脱ぐことが出来た。

その直後、何やら息を呑む気配がして振り向く。

 

紫陽花「うん?」

イヴ「ひ、左肩……予想以上に酷いじゃないですか!?」

紫陽花「ああ、うん……だから最低限、止血しといて欲しいんだけど」

イヴ「分かってます!」

紫陽花「調子出てきたな、うんうん」

イヴ「軽口叩いてる場合ですか!?」

 

怒りながら素早い動きで消毒液とガーゼなどを出す。

俺はそれを横目で見て、意識を保てる程度に痛覚を麻痺させる。

麻痺してるんだけどこう、触れられてるのはわかるというすごい違和感。

無言で俺の傷を手当していたかと思うと、ふとイヴが口を開く。

 

イヴ「……どうして庇ったのですか?」

紫陽花「……そりゃ庇うだろ」

紫陽花「誰かが傷ついたりするの嫌いだし」

イヴ「でも、私は貴方の忠告も何度も無視しましたよ?」

紫陽花「それでもだよ……仲間だろ?」

イヴ「……私みたいなのを、仲間というなんて……つくづくおかしな人ですね、貴方は」

 

困った色の混じった笑い声が聞こえる。

んー、どんなやつだって死んだら悲しいじゃん。

よっぽどのことがない限り、俺は仲間を見限らない。

 

イヴ「……それと、いくつか気になることがあるのだけれど」

紫陽花「ん~……?」

イヴ「貴方、どうして自分の傷を治さないの?」

紫陽花「あ~……それか」

紫陽花「どうにも、俺は自分の魔法の影響を受けにくいみたいでな」

イヴ「えっ? でも、貴方身体強化はしてますよね」

紫陽花「ある程度はね。でも皆にかけてる奴でも4分の1くらいしか効果ないよ」

紫陽花「専門家いわく、特異体質と関係があるのかもってことらしい」

イヴ「それじゃあ、治さないんじゃなくて……」

紫陽花「……そ、治せないんだ」

 

観念して笑いながら答えた。

振り返ってみるとイヴの顔は怒ってるような困ってるような表情にそまっていた。

 

イヴ「そんな情報、聞いていませんよっ!?」

紫陽花「聞かれなかったからな」

イヴ「……治せないのを分かってて、私を庇ったのですか?」

紫陽花「言ったろ? 誰かが傷ついたりするのを見るが嫌なんだよ」

紫陽花「……俺は昔、色々と目の前で失ったからな」

イヴ「……」

イヴ「……この、体中についてる傷跡もそうやって誰かを庇って?」

紫陽花「色々かなあ」

紫陽花「……終わった?」

イヴ「えっ? ええ」

イヴ「でも、応急処置だからすぐにちゃんとした手当をしないといけません」

 

傷が深いせいか違和感があるが仕方ないか。

左肩は動かせないことはないが、あまり動かさないほうがいいな。

脱いでいた上着をしっかりと着込んでっと。

ふらふらと立ち上がりながらデバイスを手に取る。

 

紫陽花「さて、一応状況は他の班に伝えといたから救援もくるだろう」

紗妃「柊さん、イヴさん! いますかっ!?」

梓「むむっ、人の気配がしますね」

怜「ここであっていたか……おーい、返事をしてくれー!!」

紫陽花「あー、もうちょい奥にいるーー!!」

紫陽花「……噂をすれば、だな」

イヴ「……ええ」

 

笑って声をかけると、イヴも控えめ笑ってくれた。

慣れてないのか少し、硬いようにみえるようなものだったけど。

3人分の足音が近づき、やっと皆の姿が見えた。

安心したような表情もつかの間、一瞬で表情が固まった。

 

紗妃「っ!? ひ、柊さん……その制服はなんですかっ!?」

紫陽花「え、伝えたじゃないか。ちょっと左肩をきっちゃったって」

怜「馬鹿者! その出血量はちょっとという次元を超えているだろう!」

紫陽花「いででで、ちょっ、揺らさないでっ!?」

 

またしても盛大に揺らされるという暴挙。

何なの、この子たち!

痛がっていたら慌ててイヴが皆をひき剥がしてくれた。

はぁはぁ……あやうく意識が飛びかけたぞ……。

 

イヴ「待って、皆! 彼の怪我は大きいんです」

イヴ「今は応急処置をしていますが、すぐにちゃんとした機関へ見せないと……」

梓「んん? でも先輩、治癒魔法がつかえるんじゃ……」

紫陽花「あはは、自分に自分の魔法はほとんど効果ないんだよね、実は」

怜「な、何だとっ!?」

紗妃「じゃあ貴方まさか……自分の怪我を治せないのですか!?」

イヴ「そうらしいです」

紗妃「……色々言いたいことは有りますが、まずは医療機関へ搬送ですね」

 

うわあ、なんだろう。

危機は去ったはずなのにこの気まずい感じ。

冗談はさておき、結構心配させてしまってるらしい。

なんだか申し訳ないな。

そう思っていると、神凪さんが肩を貸してくれた。

 

怜「ふらついているぞ、肩を貸す」

イヴ「私も手伝うわ」

イヴ「……彼が庇ってくれなかったら、私は死んでいたかもしれないですから」

怜「……そうか、なら手伝ってもらおう」

紫陽花「なんか悪いな……今回はちょっと血が抜けすぎたわ」

紗妃「無用な心配です」

紗妃「服部さん、先に戻って委員長へ報告をお願いします」

梓「了解です、ニンニン」

 

返すやいなや、一瞬で姿が掻き消える。

格好から察するに、忍者かなんかなんだろうか……。

 

怜「それでは行くぞ」

イヴ「少し揺れますが、辛抱してください」

 

頷いたのを確認すると、二人は慎重に俺を運んでくれた。

やれやれ、こりゃ周りに色々と言われそうだな。

そんなことを心配しながら、俺は学園へと帰るのだった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。