グリモア~守護者~   作:エウラス

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今回はちょっと主人公くんに対する皆の印象やら、主人公くんの過去にほんの少し触れます。
いわゆる主人公回です(誰得


第6話

第6話:柊紫陽花という人間について

 

 

あの事件から5日くらい経った頃。

噂によると、あのミノタウロスたちはタイコンテロガに片足つっこんでるようなレベルだったようだ。

タイコンテロガってのは通常の魔物に比べて危険性の高い個体を示すランク名のようなものだが、その程度くらいにしかわかっていない。

そんなのを野放しにするわけにはいかず、結局は軍のローラー作戦で殲滅を完了したそうだ。

学園側は途中退場してしまったことでのパッシングも覚悟していた。

しかし、そういう所は一切なかったみたいで俺としても安心したのだが……。

 

ゆかり「自分の体を大事にしないとダメよ?」

智花「そうですよ! 最初に報告を聞いた時は心臓がとまるかと……」

紫陽花「お、大げさだなあ……」

紫陽花「切断まで行ってないからセーフ……」

智花「アウトですよ!」

 

この有り様である。

反論しようにもピシャリと断言されてしまった。

周りも同じ意見なのかしきりに頷いている。

こりゃどういったところで無駄だろうな。

と、まあ俺だって別に理解してないわけじゃない。

もうちょっとやり方はあったんじゃないかと今では思う。

けど、あの場面を目の当たりにしたら頭より体が先に動いたわけで。

そんな回想に浸っていると、ドアがノックされる。

 

紫陽花「どうぞ?」

イヴ「失礼するわね」

智花「冬樹さんっ?」

ゆかり「冬樹さんもお見舞いですか?」

イヴ「ええ」

イヴ「……大丈夫?」

紫陽花「大丈夫大丈夫、もう2,3日すれば腕も普段通り動かせるってさ」

 

無表情の鉄仮面だったイヴの顔が歪む。

ベッドの側に所在なさげに立ち、フルーツバスケットを手にしている。

 

紫陽花「おっ、見舞いの品か?」

イヴ「え、ええ……」

智花「ならこっちに置くといいよ」

イヴ「ありがとうございます」

ゆかり「柊くん、食事制限はないのよね?」

紫陽花「ああ、俺のはタダの怪我だからな」

紫陽花「お見舞いで持ってきてくれたものは遠慮無く食えるぞ」

イヴ「ただの怪我じゃないでしょう?」

ゆかり「普通の医療機関じゃ元に戻らなかった、と言われましたけど?」

紫陽花「あ、あれ~? そんなこと言われたっけ?」

イヴ「……貴方は変わらないんですね」

 

ため息を疲れながら言われるとちょっと傷つく。

だってねえ、あまり気にされるのも嫌だし。

 

智花「まったくもう……何度も言いますけど自分を大事にしてくださいよ?」

紫陽花「善処する」

紫陽花「と、もう行くのか?」

 

政治家ばりの返事をしたら苦笑いしながら立ち上がった皆。

雰囲気的に帰るのだろうと思って声をかけた。

案の定、椎名が頷く。

 

ゆかり「ええ、あの事件以降も魔物の出現情報が多く上がってるの」

智花「柊さんたちが行ったあの場所ほどじゃないんですけどね」

紫陽花「そうか……どうも、最近の魔物は従来のと違う気がする」

紫陽花「事前情報のある魔物だからって気を抜かないようにな」

ゆかり「ええ、わかったわ」

智花「皆さんにもお伝えしときますねっ!」

イヴ「……私ももう行くことにします」

イヴ「風紀委員の仕事が増えてきていますから」

紫陽花「そうか……水無月とかにもよろしく」

イヴ「ええ、伝えておきます」

 

イヴの一言と共に皆が病室を出ていた。

さっきまでキャイキャイと騒がしかった分、寂しい雰囲気。

俺はまっさらな白いベッドに身を任せると少し振り返ってみることにした。

そう、あの時のミノタウロスたちの動きについてだ。

 

紫陽花「あれは……確実に統率のとれた動きだった」

 

普通なら並よりも知力がないミノタウロス。

そもそも、霧の魔物と呼ばれる奴らに知力があるのかは分からない。

細かい情報はほぼ皆無といっても過言じゃないんだ。

それでも、今までこれほどにわかりやすい形で作戦を練ってきたことがあったか?

過去に起きた事例を考えてみても聞いたことがない。

 

紫陽花「……何かが起きる前兆なのかもしれないな」

 

力押しでやってくるだけの魔物ならどうとでもなる。

それ以上の戦力があれば単純計算すれば勝てるからだ。

だが、不確定要素がある場合はそうも行かない。

そうして幾らか思索に耽っているとドアをノックされた。

忙しい日だな、と思いながらも返事をして入室を促す。

人数は4人、来るとは思ってたけど野薔薇たちだ。

しかし、入ってきた中に見覚えのない女の子が一人いた。

 

結城「気分はどう? 柊紫陽花さん」

紫陽花「えっと、まあ……今は薬とかも効いてるのか特にどうってことはないかな」

姫「本当ですの? 無理はしていませんこと?」

紫陽花「してないしてない」

刀子「そう言っても、無茶はしてきたのだろう?」

自由「そっすよ、報告を聞いた時はさすがに驚きましたよ」

紫陽花「いや、無茶したのはまあ……他の奴の命がかかってたからな」

紫陽花「ところで……」

 

俺はそこで視線をメガネを掛けた女の子に移す。

 

紫陽花「君は? 初対面だよな」

結城「そうだったわね。私は宍戸結城、グリモアの科学者よ」

紫陽花「グリモア……ああ、学園のことか」

紫陽花「にしても、科学者って……同年代にみえるんだが」

姫「結城さんは生徒でありながら、世界有数の科学者の一人ですわよ」

姫「魔法関係の機械の大半が彼女の手によって考案されてますもの」

紫陽花「マジで?」

自由「マジっすよ。先輩もここ来る前に魔力調査されたんすよね?」

自由「それらの機器は大抵、宍戸氏の手によるもんっすよ」

紫陽花「……すまん、宍戸」

結城「? 測定機器の損壊のこと?」

紫陽花「いえす……」

 

色々とつめ込まれたけど、あの機械の制作関係者っていうなら謝っておかねば。

なにせ、派手にいくつか壊れちまったからな。

しかし、そんな俺の内心のハラハラはどこ吹く風。

宍戸は表情もかえずに首を振った。

 

結城「あれは想定内。むしろ、あれ以上の測定器をつくる良い指標になった」

結城「感謝こそすれど、文句はない」

紫陽花「そ、そうか?」

結城「それよりも、貴方の容態をチェックするように生徒会から要請があった」

結城「差し支えなければ、上着を脱いでもらっても?」

姫「う、上着をっ!?」

 

上着を脱いで、の辺りで野薔薇が一瞬で顔を赤くしていた。

薔薇も真っ青な真っ赤具合だ。

 

紫陽花「えっと~……俺は構わないんだけど、野薔薇たちは一旦出たほうが?」

姫「そ、そそ、そうさせていただきますわっ!」

自由「すんません、初心なもんで」

刀子「せ、拙者も失礼するぞっ!」

紫陽花「頼んだー」

 

顔を真赤にして飛び出していった野薔薇を従者二人が追いかけていった。

うん、美しい主従関係だな。

……小鳥遊に関しては面倒くさいとかおもってそうだが。

気を取り直し、俺は言われたとおり上着を脱ぎ始めた。

 

紫陽花「上は裸になったほうがいい?」

結城「そうしてもらえると助かる」

結城「これを直接、上半身の数カ所に貼り付けるから」

紫陽花「うわー……まあ、了解」

 

俺は言われたとおり上半身裸になる。

そんな俺の傍らにある椅子に座り、持っていたバックから幾らかのコードが伸びた。

その伸びたコードの先にある丸い吸着部分を肩やら腰やら腹やらにぺたぺた。

ひんやりしたその感触がなんともこそばゆい。

こういうことには慣れてるのか、宍戸は変わんないな。

まるでちょっと前までのイヴみたいだ。

と、なすがままになっていると、小型の機械をベッドの縁に置いた。

……また壊れやしないだろうな。

 

結城「心配しないで、これは測定器だけど別のものが対象だから」

紫陽花「別の?」

結城「貴方の体内に霧が蓄積していないかよ」

紫陽花「霧が蓄積?」

 

初めて聞くワードに眉をひそめる。

俺の体に貼り付けられたコードから若干の振動を感じた。

ぼへーっとしてる見た目の割に、宍戸はすごい勢いでキーボードを叩く。

 

結城「……微塵も霧の蓄積の痕跡がないみたいね」

紫陽花「えっと、その蓄積って?」

結城「霧の魔物を倒せば霧になって散ってしまう……」

結城「そして、その散った霧もまた時間をかければ元に戻ってしまうこともしってる?」

紫陽花「……初耳だぞ?」

結城「そう……まだ入学したばかりだものね」

 

宍戸はそうつぶやくと、別の機械を取り出してホログラムを壁に投影し始めた。

その上で部屋の電気を消し、カーテンを閉じる。

白かった壁には、霧の魔物について、と表示されていた。

 

結城「霧の魔物ついて分かっていることはあまり多くはない」

結城「けれど、霧の魔物は倒しても倒しても消滅はしないの」

紫陽花「おい、それじゃどうやって……」

結城「現状、完全消滅は出来ない」

紫陽花「っ」

結城「今のところ、私たちにできることは霧の魔物を霧に戻す……」

結城「これを魔物を払うと私たちはよんでいるわ」

紫陽花「畜生、それじゃあ今まで戦ってきた奴らの努力は一体……」

結城「……彼らの犠牲があってこそ、今の私たちが居る」

結城「そのことを忘れず、私たちは常に最善の方法を模索しなくてはならない」

紫陽花「そんなことは判ってるけどさ……」

 

悔しいんだよ、とは口には出さない。

今まで幾らかの戦場に出たことはあった。

その中で命を落とした人たちももちろんいる。

良くしてくれた人も、難癖つけてた奴も関係なく……。

一瞬の油断や慢心で彼らは死んでいく。

 

結城「……話を戻すわ」

紫陽花「悪い、頼む」

結城「払った霧……これは一定期間を経て一定濃度に達すると再び魔物へと定着する」

結城「だけど、この霧の怖い所はもうひとつあるの」

紫陽花「それがさっき言ってた蓄積か?」

結城「そう、それが引き起こす症状は様々だけれど……」

結城「一定以上、霧に侵食されれば再起不能になるわ」

紫陽花「っ!?」

紫陽花「お、おい……それって前線に出てる俺らもまずいんじゃないのかっ?」

結城「そうね……真偽は定かじゃないけど、魔物化した人間も出たという報告があるわ」

紫陽花「う、嘘だろ……?」

紫陽花「それじゃあ、払いすぎてもやばいんじゃないのか?」

 

霧ってのはほぼ気体みたいなもんだ。

そんなもの、呼吸を止める以外に防ぎようがない。

状況によってはそんな余裕もないほどに魔物もいるだろう。

そんな中、大量の霧の魔物を払ったら……。

 

結城「いいえ、その点に関しては一つ対策があるわ」

紫陽花「対策?」

結城「ええ、体内にある魔力が十分であれば、霧の付け入る隙はすくないの」

結城「つまり、魔力残量がモノを言うわけね」

紫陽花「……でも、それも対策としては心もとないよな」

結城「ええ、でも完全に枯渇しているくらいでなければ大丈夫よ」

結城「その代わり、微量でも蓄積を確認したならすぐに追いださなくてはいけないの」

紫陽花「なるほどね……」

結城「でも、貴方の場合は大丈夫みたいだからもう大丈夫よ」

紫陽花「あいよ」

 

大丈夫と言われたので服を着直す。

……ん? 待てよ。

 

紫陽花「そんじゃあ、俺が皆に魔力を供給してれば大丈夫ってことか?」

結城「ええ、そうなるわ」

紫陽花「やっぱりそうなるのか」

 

具体的な対策は今のところ、魔力を枯渇させないこと。

なら、その対策に対して俺はうってつけだろう。

俺が居ればまず魔力の枯渇はないだろうからな。

片付けが済んだのか、宍戸はカバンをを持って立つ。

 

紫陽花「行くのか?」

結城「ええ、貴方のデータは非常に興味深かった」

結城「色々と研究に役立ててみせるわ」

紫陽花「あっ、もし帰りに野薔薇さんたち見たら声かけておいてくれよ」

紫陽花「ろくにお礼も言えなかったからさ」

結城「……ふふ、分かったわ」

紫陽花「頼んだぜー」

 

軽く頷いて応えた後、宍戸は部屋を出た。

さてさて、いろいろ考えなくちゃいけないことが多いな。

そう、霧の魔物のことを。

 

 

◯ガールズ視点

 

姫「ふぅ……危うく殿方の裸体を見てしまうところでしたわ」

自由「いや、上半身だけっすよ?」

刀子「何を言うっ! 上半身だけとはいえは、はだっ……」

刀子「不潔極まりないっ!」

自由「大げさっすねえ」

 

内心ため息をつきたくなるのを必死に抑える自由。

彼女には同年代の二人がそこまで恥ずかしがるのが理解できないのだ。

自由も女の子だ、完全な裸体だというのであれば話は別である。

だが、今回はそうじゃない。

男の上半身裸なんてテレビでも雑誌でも、学園だって見る機会はある。

そもそも、プールでの授業はどうなるのか。

そんな堂々巡りな考えをしていると別のグループが現れた。

 

智花「あれっ? 野薔薇さんたちじゃないですか」

姫「? あら、南さんたちも柊さんのお見舞いに?」

ゆかり「ええ、相変わらずのほほんとしていましたよ」

刀子「まったく、腕の切断一歩手前だった割に呑気なやつだ」

智花「もうお見舞いにはいったんですか?」

自由「いやあ、先輩が上着を脱ぎ始めたもんで二人がにげだしちゃいまして」

智花「えっ!?」

ゆかり「……女の子の前で服を脱ぐなんて、ちょっとお説教が必要かしら」

刀子「ま、待て待て! 自由、その言い方は語弊があるぞっ!?」

自由「そっすかね?」

結城「そうね、それは私が要求したから取った行動よ」

智花「あ、あれ? 宍戸さんまで?」

 

急に現れた結城の声に、智花は驚いていた。

宍戸結城という少女は基本的に研究一筋。

そんな彼女がここに来ていることに驚いていたのだ。

 

結城「霧の影響がないかの調査へ来たのだけれど……」

結城「特に問題はなかったわ」

智花「あ、そういう感じなんですね」

結城「後、野薔薇さん方。柊くんが礼の一つも言えなかったとぼやいていましたよ」

結城「戻ってあげたほうがいいんじゃないかしら」

姫「うっ、そ、そうでしたか」

姫「彼、傷の具合はどうなんですの?」

結城「……そうね、肩口の傷は魔法による治癒を限界以上に施されてたわ」

結城「強いて一つ上げるなら、それ以外の傷に驚いた」

自由「それ以外っすか?」

結城「ええ、彼の体には大小様々な傷跡が残っていた」

結城「その中でも特にひどかったのが背中のものよ」

刀子「……今回の怪我ではないのか?」

結城「多少の怪我はあったでしょうけど、あれは多少なんてものじゃないわ」

結城「巨大な魔物にでも抉られ、引き裂かれたかのような爪あとよ」

ゆかり「そんな傷まで……」

自由「つくづく分からない人っすね、先輩って」

自由「でもまあ、その傷も誰かを庇ったかなんかでしょ?」

 

自由の言葉に皆頷きはしないものの、内心ではそうだろうと結論づけていた。

今回の件は、そう思わせるには十分過ぎるほどの内容だったからだ。

 

刀子「あやつはどうも、自分のことを二の次に考えているように感じるな」

自由「刀子先輩もっすか?」

刀子「ああ、あまりにも……危うく感じる」

ゆかり「そうね……誰かを助ける」

ゆかり「その事自体は素晴らしいことだけど……」

智花「うん、自分のことももっと大事にして欲しいね」

 

噛みしめるようにそう言う智花の言葉に、皆深く頷いたのだった。

 

 

◯紫陽花視点◯

 

入院からまるまる1週間が経った頃、ようやく俺は退院を許された。

手続きやら手厚~い検査のせいでやたら時間がかかったわけだが。

傷自体はすでに治っていたのに、心配性なんだから……。

 

紫陽花「ん~……! はぁっ、久しぶりの外だな!」

 

やんわりとした日光を受けながら、俺は盛大に伸びをする。

多少歩きまわったりとかはしてたけど、あまり動けなかったからな。

もう肩にはこれといって特に支障はない。

全くもっての快調である。

 

紫陽花「ん……?」

 

何気なく泳がせた視線が目新しい物を見つけた。

華やかな外装をした、小さなお店。

その看板にはアイスクリームの文字が。

アイスかあ……俺の故郷にはアイスの店はなかったんだよな。

そう一度でも思ってしまうとついつい食べたくなってしまう。

迷わず店の前へ移動。

結構女の子が多いけど、まあクラスに居ると思えば問題ないな。

むしろクラスのほうが狭い分すごく気を使うからね。

 

自由「あれっ? 先輩じゃないっすか」

紫陽花「んっ? あれ、小鳥遊?」

 

振り返ってみれば、あまり見慣れない私服姿の小鳥遊だった。

フード付きのパーカーにショートパンツスタイルか。

ボーイッシュに感じるが、小鳥遊の性格からすると妥当な組み合わせだな。

 

自由「ちっす、そういや今日が退院の日でしたね」

紫陽花「そういやって……地味に酷くない?」

自由「いやあ、見舞いに行った時は元気そうでしたしね」

自由「先輩、あまり心配されるの好きじゃないっしょ」

紫陽花「よくわかったな」

自由「何となくっすけど、自分より誰かが傷つくほうが嫌いなんじゃないかなっと」

自由「だからでしょ? 今回の怪我も」

紫陽花「さてね」

 

本音を言えば図星だけど適当にはぐらかせておく。

ニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべちゃいるが、すぐに意識が別の方へいったようだ。

どうやら俺が寄ろうとしていたアイスクリーム屋に目が行ってるらしい。

いつのまにか並んでいた列が少なくなっていて人もはけてきていた。

早速その隙に店へ。

何にしようかな……初めて見たけどかなり種類があって目移りしちゃうぜ。

 

自由「先輩、ここの店を選ぶなんて良いセンスしてるっすね」

紫陽花「? もしかして小鳥遊はよく来るのか?」

自由「週3,4で来るっすね」

紫陽花「来過ぎじゃね!?」

 

いつの間にかついてきてた小鳥遊が驚きの事実をさらっと言う。

週に3,4って……よくお腹こわさないな。

いや、それだけアイスが好きだってことなんだろうか。

言われてみれば、ショーウィンドウを覗きこむ顔は明るい。

いつも意味深な笑みを浮かべるか気だるげにしてるのが目立つからな。

こういう素直に感情を出した顔を見るのは新鮮だ。

 

自由「どうしたんすか? 先輩」

紫陽花「いや……小鳥遊も女の子何だなって思っただけ」

自由「な、なんすか急に……失礼な人ですね」

紫陽花「いやあ、好きな物を前に純粋に笑ってるのを見るとな」

自由「そういうことですか……改めて言われると恥ずいっすね」

紫陽花「あ~……小鳥遊はここよく来るんだよな?」

自由「そっすね」

紫陽花「何かオススメとかあるか? 好き嫌いはないが」

自由「オススメっすか?」

自由「そうですね……」

 

『あれか……いや、コレも捨てがたい』とかつぶやいてる。

笑ってはいるが真剣に選んでくれているみたいだ。

最終的に、二つに絞れたらしい。

 

自由「先輩、自分的にはこの二つっす」

紫陽花「マックスナッツとベリーチーズケーキか……」

自由「ええ、マックスの方は食感が良くて香ばしいんすよ」

自由「チョコレートが基本ながら、そこまでしつこくない甘さなのもグッドっす」

紫陽花「ふむふむ、もう一つは?」

自由「チーズケーキの方はあれっすね」

自由「簡単にいえばチーズケーキの上に苺ジャム乗っかってるみたいな味?」

紫陽花「おいっ」

 

なんかチーズケーキの方、説明雑じゃないか?

オススメという割にはちょっと哀れなんだが。

とは言えどちらも捨てがたい。

味は何となく、小鳥遊の言ってたのでイメージはつく。

ナッツ類も俺、割りと好きだからなあ。

でも、チーズケーキアイスとかも珍しいし……むむむ。

 

店員「あの、お客様……もしかしてこういったお店は初めてでございますか?」

紫陽花「えっ!」

紫陽花「え~っと……すいません、実はそうなんですよ」

自由「ありゃ? そうなんですか?」

自由「フォーティーワンはそこかしらにあると思うんスが」

紫陽花「俺の地元にはなかったんだよ……」

店員「もしお迷いのようでしたら、テイスティングも出来ますよ?」

紫陽花「テイスティング?」

店員「はい、試食のことですね」

紫陽花「おおっ、そんなこと出来るのか!」

自由「本当に知らなかったんすね……」

紫陽花「ああ、こういう店に来たのすら初めてだ」

店員「ふふ、どうぞ」

紫陽花「おお!」

 

店員さんが微笑ましそうに笑ってるのはこの際スルーだ!

差し出されたプラスチック製のスプーンが二つ。

一つ一つに違うフレーバーが乗っていて、とりあえず一つを受け取る。

こっちは黒いから……マックスナッツか。

今更ながら他のお客は大丈夫かなと思ったけど必要のない心配だったらしい。

すでに時間がかかることを悟った店側が別の列を作ってくれていた。

なんだか申し訳ないな。

と、思いつつアイスを口に入れる。

 

紫陽花「お、おおっ……!」

 

口に入れた瞬間に広がるほろ苦くほのかに甘いチョコレートアイス。

そして、砕かれたナッツの香ばしい風味と食感。

マックスナッツと謳うだけあって、かなりの量のナッツ類が一口で味わえた。

コレは文句なしに旨い!

甘さもしつこくないし、これなら普通に食えそうだ。

そしてもう一つを受け取ってこちらも口に入れる。

 

紫陽花「へえ……本当にチーズケーキ食べてるみたいだ」

自由「でしょ? だからああいう以外に説明のしようがないんですよ」

 

口の中に入れて思ったのは、コレはアイスか? という感想。

というのも、アイスの中にスポンジらしき食感を感じたからだ。

これは単純にチーズケーキ味のアイスじゃないな。

そして、その酸っぱさを苺ジャムがゆるめてくれる。

うん、酸味がきついかと思ったけどこれも悪くないな。

 

自由「どうでした?」

紫陽花「ああ、どっちも美味いな!」

紫陽花「店員さん、マックスナッツとベリーレアチーズください!」

店員「ふふ、かしこまりました。カップとコーンどうしますか?」

紫陽花「んー、やっぱこういう時はコーンかな」

自由「個人的にはコーンを押しますね」

紫陽花「じゃあコーンで。後、サイズはレギュラーでお願いします」

店員「はい、かしこまりました」

店員「それで自由ちゃん、今日は何にするの?」

自由「ちーっす、じゃあいつもので」

 

さすが常連。

店員さんと顔見知りでもあれば『いつもの』まであるなんて。

そう思ってみていると、出てきたのは俺とは違う組み合わせだった。

ふむ、あれはあれで美味しそうだな。

 

自由「じゃあお代を……」

紫陽花「はい、これでお願いします」

自由「ちょっ、先輩?」

紫陽花「色々教えてくれた礼だよ」

紫陽花「店員さん、お願いします」

店員「はい、レギュラーサイズのダブル、カップお2つで1000円です」

店員「丁度でございますね、ありがとうございました!」

紫陽花「よし、早速食べようっと!」

 

逸る気持ちを抑えつつ、俺は席へと移動した。

まだまだ夏には遠いけど、さすがに外に出たら溶けちゃうもんな。

席はやっぱりというかなんというか、女の子が多い。

男も居ないことはないけどカップルばっかりだな。

……爆発スレばいいのに。

 

自由「先輩、ゴチになります」

紫陽花「ん? ああ、気にしないでいいって」

 

声をかけられて振り返ってみれば、近くの椅子に座る小鳥遊だった。

気恥ずかしげに笑いながらアイスを食べている。

よくよく考えれば、傍目から見れば俺たちも周りと同じようなもんか。

 

紫陽花「こっちこそ、美味いのオススメしてくれてサンキューな」

紫陽花「こりゃしばらくはハマっちまいそうだ」

自由「ふっふっふ~、それは自分も一ヶ月間はハマっちゃいましたからね」

自由「でも最近はあまり食べてないんっすよ」

紫陽花「じゃあ少し食うか?」

自由「えっ、いいんすか?」

紫陽花「ああ、ほれ」

自由「うは~……先輩に声かけておいて良かった~」

自由「じゃ、失礼して」

紫陽花「えっ?」

自由「ん~……! やっぱこの二つは最高っすね!」

 

ご満悦な表情でそう大げさな声を上げている。

『俺の齧ってたアイスを直接口につけて』。

こ、これはいわゆる……あれじゃないのか!?

 

カップル女「あら、あの子達ってば見せてくれるわね」

カップル男「なんだ、お前もやりたいのか? しかたねえな」

カップル「いやん、マサオってば♪」

紫陽花「……」

自由「? どうしたんすか?」

紫陽花「い、いや……なんでもない」

 

気にしないでおこう。

小鳥遊の方も特に気にした風でもないみたいだしな。

……そう考えるとなんか、男として意識されてないみたいだけど。

ぼやっとそんなことを考えながらアイスを食べる。

これ、さっき小鳥遊が口をつけたんだよなあ……。

なんだかそれだけで、さっきより甘酸っぱく感じるのは気のせいだろうか。

 

自由「それにしても、先輩はどんなとこに住んでたんすか?」

自由「今日日、アイス屋の一つも見たこと無いってのは珍しいっすよ」

紫陽花「ん……こっから電車で2時間くらいいった県の外れだ」

自由「県の外れ……あれ?」

紫陽花「どうした?」

自由「いや、その……確か数年前に県の外れで魔物の被害があったって話を聞いたんすよ」

自由「まあ、さすがにそこが先輩の地元と関係なんて……」

紫陽花「……そこだよ」

自由「えっ……?」

 

こわばっていた表情が本格的に固まった。

うーん、こういう話をするつもりはなかったんだけど。

苦笑いをしながら少しだけ溶け始めたアイスの表面を舐める。

 

紫陽花「その時の被害で、色々あってさ」

紫陽花「紆余曲折あって今に至るって感じかなあ」

自由「す、すいません……なんか答えづらいことを聞いちゃいましたね」

紫陽花「んー、別に気にしなくていいぞ?」

紫陽花「ただまあ……そん時のこと、今は話したくないから突っ込まないでくれ」

自由「……了解っす」

 

さっきまでのドキドキとした雰囲気は消えてしまった。

ホッとしたような残念なような。

しかし、まさか『あの時』のことを話題に上げることになるとは……。

当時を思い出して、背中の傷が疼くのを感じて顔をしかめる。

隣で気まずそうにアイスを舐める小鳥遊を見て、少しだけ心が落ち着く。

 

紫陽花(二度と、あんな思いはしたくない)

紫陽花(……絶対にだ)

 

誰かを護ることも出来ずに嘆いた日々はもう終わり。

俺は魔法使いとして覚醒し、魔法学園の生徒になったんだ。

ここでしっかりと皆を守る方法を学ぶ。

もう決して、あの時のように後悔はしたくない。

そんなことを新たに決意しながら、俺はアイスを齧った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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