主人公自体はあまり自分の有用性を理解していませんが、周囲はきちんとその価値を
理解し始めているようです。
第7話:三勢力からのコンタクト
退院してから数日。
通い始めの頃はそれこそいろんな人間に構われた。
正直、そこまで騒ぐほどの怪我じゃなかったから困ったもんだ。
何度も体の快調を訴えてようやく普通になったのがつい昨日。
ようやく取り巻きなしに過ごせるようになってほっと一息だ。
そんな放課後のこと。
『リリィクラスの柊紫陽花くん、至急生徒会室へ来てください』
『繰り返します、リリィクラスの――』
紫陽花「……生徒会?」
このクラスにもひとりいたはずだよな。
そう思ってみてみたけど、どうやらすでにいないようだ。
しかし生徒会室か……俺、なにかやらかしたっけ?
紫陽花「行くしか無い、か」
考えていても埒が明かない。
どうせ行かないっていう選択肢はないんだ、素直に赴くとしますかね。
さて、唐突だがこの学園にはおおまかに3つの勢力がある。
一つが水無月が率いる風紀委員。
二つ目が精鋭部隊とかいう来栖がいる集団。
そして……最後が、俺を呼び出してきた生徒会だ。
生徒会には現在、それなりの人員がいると聞いている。
中でも会長はかなりのカリスマと実力を持っているんだとか。
そんなのがいる集まりが俺なんかに何の用なんだろうかねえ。
思考が終わった頃、いい具合に生徒会室のプレートが見えてきた。
ドアの前にたち、数回深呼吸してからノックをする。
紫陽花「柊紫陽花だ」
『来たか、入ってくれ』
さて、ここまで来たらもう逃げられないな。
意を決してドアを開ける。
扉の先には制服をワイルドな着こなし方をしたのが一人。
一見落ち着いた様子で大人びた雰囲気を漂わせたのが一人。
後、唯一互いに顔見知りの結城がいた。
虎千代「わざわざ呼び出してすまなかったな」
虎千代「私が現生徒会長の武田虎千代だ。楽にしてくれ」
薫子「その前に私たちもご挨拶をさせていただきますね」
薫子「私が副会長を務めている水瀬薫子ですわ」
聖奈「私は自己紹介は省くが、書記をしている」
紫陽花「なるほど……俺の自己紹介もいりませんよね?」
虎千代「ああ、それと言葉遣いも自然で構わない」
紫陽花「あ、じゃあ遠慮無くそうさせてもらおう」
ついでに勧められた席にも座る。
うわ、なんだこの椅子……すっげえふかふかだ!
座って沈み込むのとか初めて経験したぜ。
対する武田虎千代は豪華な机と椅子についていた。
堂々とした居住まいもあってか、絵になるな。
虎千代「ふっ、そう対応してもらえると私としても助かる」
虎千代「こういうのも何だが、堅苦しいのは性に合わん」
紫陽花「その方が俺としても好印象だよ」
虎千代「そうか、それは有り難いな」
紫陽花「……で?」
虎千代「うん?」
紫陽花「わざわざ呼び出した理由はあるんだよな?」
紫陽花「どうもタイミングがよすぎる」
薫子「あら、噂以上に鋭いのですね」
聖奈「副会長、少々言葉を選ばれたほうが」
薫子「失礼いたしました、もしご不快に思われたなら謝罪いたします」
紫陽花「良い、ガチの奴らにはかなわないのは分かってる」
俺の色々と考える能力はせいぜい、一般生よりは上くらいだ。
元々そんなに頭が回るほうじゃないから事実を指摘されただけになる。
……ちょこっと上から目線なのが気になるのはあるが。
虎千代「改めて話をさせてもらっていいか?」
紫陽花「ああ、大丈夫だけど……一体何を?」
虎千代「ある程度察しはつくと思うが、お前の能力についてだ」
紫陽花「やっぱ珍しいもんなんだろうか、これ」
薫子「珍しいなんてものじゃないわ」
聖奈「その体質は柊を除き、確認されていない」
聖奈「かなり特殊な能力だと思って貰っていいぞ」
紫陽花「……なんで俺、こんな能力を持ってるんだろう」
虎千代「柊自信が自覚したきっかけは何だったんだ?」
虎千代「そもそも、学園への要請前から覚醒していたんだろう?」
紫陽花「? それって何かおかしいのか?」
聖奈「通常、魔法使いの覚醒は様々なところで監視されている」
聖奈「衛星や、周囲のに人間にな」
薫子「当然、周囲の人間には報告の義務もありますわ」
紫陽花「……そういうことか」
衛星に関しては正直分からない。
だが、周囲の人間の監視ってのに関しては納得がいった。
薫子「それでひとつ、柊さんに聞きたいことがあるのですが……」
薫子「7年前、県外れの村で起きた事件をご存知ですか?」
紫陽花「!」
紫陽花「……知ってるも何も、俺はその村の生き残りだ」
虎千代「な、何だとっ!?」
虎千代「あの村に生き残りは居なかったという話だが……?」
紫陽花「知ってるのか?」
7年前の事件。
そのワードを聞けばおのずと何のことかは分かる。
そして武田たちも俺の様子で判断したようだ。
虎千代「なんていうことだ……生存者がいたんだな!」
紫陽花「まずかったか?」
虎千代「そんなわけがあるか!」
虎千代「私は当時、覚醒したてでな……救えなかったと思っていた」
紫陽花「! 武田も出ていたんだな」
紫陽花「……あの町の生き残りとして礼を言うよ、ありがとう」
虎千代「っ!」
虎千代「……ああ」
方向性は違うが、彼女もあの時の事件を辛く思っていてくれたんだな。
俺にとってはそれだけでも十分だ。
確かに魔法使いの到着が間に合わなかったのは事実で、当時は恨みもした。
けど、それが筋違いだったってことは7年の間によく理解したつもりだ。
だから、彼女には感謝することはあっても恨むつもりはない。
さて、大分話がそれちまったな。
紫陽花「えっと、魔法使いとしての覚醒を自覚したのは事件の最中だ」
紫陽花「……いろんな人間の助けで、どうにかして村を出て軍の保護に入った」
虎千代「そうか……」
薫子「なるほど、軍の方なら魔力を感知できないでしょうから……」
薫子「でも、どうしてそれから7年もの間放置されていたのですか?」
紫陽花「あーうん、田舎の中の田舎みたいなとこだったからさ」
紫陽花「俺は当時、魔法使いは危険なやつだっていう認識があったんだよ」
聖奈「む、それは今でもある考えではあるな」
紫陽花「まあ、そういうのもあってさ、話したら怖がられると思ったんだ」
紫陽花「だから、魔法の本とかを貰ったり探したりして手に入れて修行してた」
虎千代「ということは、今の魔法は全て独学か?」
紫陽花「ほぼそうだな」
魔法使いという存在はある程度浸透し始めていた。
そのこともあって、新米の魔法使いに向けた技術書なんかも探せばどうにか見つけられたしな。
もちろん最初はまったくうまく行かなかったもんだ。
挙句、自分の傷を自分で治せない事もあって修行自体も困難だった。
それでも、幸いにして親身になってくれる軍医の先生のおかげでそれもどうにかできたっけ。
そこからあの人にあって、ここへの編入を勧められたんだっけか……懐かしいな。
虎千代「では魔力の譲渡はどこで知ったんだ?」
紫陽花「それは半年くらいまえだったかな……」
紫陽花「その頃には俺も魔物が出たって情報があったら現場に向かってたんだ」
聖奈「無茶なことをするのは何も今だけではなかったわけか」
紫陽花「ま、まあそれはいいじゃないか」
紫陽花「で、魔物は全部倒されてて、そこで一人の魔法使いに会ったんだよ」
虎千代「何? 一人か?」
紫陽花「ああ、魔法使いっていうよりは格闘家って外見だったけどな」
紫陽花「なんていったっけ……確か生天目つかさだっけ?」
虎千代「な、生天目つかさっ?」
紫陽花「うおっ?」
がたんっ、と椅子を倒して立ち上がるもんだから驚いた。
すぐに我に返ったのか、『すまん』と言いつつ椅子を直して座る。
なんだろう、結構な有名人だったりするのか?
虎千代「生天目つかさは私のライバルでな」
虎千代「しかし、あの頃も勝手に魔物と戦ってるのか」
紫陽花「あの頃もっていうと……しょっちゅうなのかあれ」
薫子「ええ、困ったものです」
聖奈「こと肉弾戦でだけなら彼女は学園でもトップクラスの魔法使いだ」
聖奈「しかし、強さを求める性格故に単独での戦いを好む」
薫子「学園でのクエストは原則、二人以上で組むことになっているのですけど……」
紫陽花「あー、言われてみればあの時も一人だったもんなあ」
虎千代「ちなみに、彼女はこの学園の生徒だぞ」
紫陽花「ふぁっ!?」
それは初耳なんだけど!
なるほど、去り際に『また会おう』とか言ってたのはそういうことか!
当時はもう合うことも早々ないと思って不思議に思ったけど!
どこぞのストリートファイターのような男前な笑顔を思い出しながら頭を抱える。
……まあいいや、とりあえず置いとこう。
改めて脱線しまくってるな、ほんと。
紫陽花「まあ……当時は魔力渡せるのも知らなくてさ」
紫陽花「治療したついでに魔力を渡してたみたいなんだ」
虎千代「それで珍しくアイツが気を回したのか」
虎千代「だが、そのおかげで貴重な戦力を得られたのは確かだな」
紫陽花「あの人的には腕試し候補を調達した程度に思われてそうだけど……」
薫子「それは否定できませんわね……そういう人ですし」
聖奈「ええ、私も同意見です」
学園側からしてみてもそういう印象なのか。
まあ、さっきも言ったが某格闘家にすごい似てるからね。
違う点があるとするならもっと凶暴で女だってことか。
ここまで話して皆一息つく。
虎千代「色々と予想外の話も出たが、柊の力については分かった」
虎千代「重ね重ねになるが、いらない話までさせてしまってすまないな」
紫陽花「いや、むしろこっちからすれば有意義だったよ」
虎千代「そう言ってもらえると助かる」
紫陽花「今日の要件はこれで終わりか?」
虎千代「ああ、もう少し話をしたいところなんだが……」
薫子「会長、そろそろ会議の時間ですわ」
虎千代「と、いうわけだ」
紫陽花「はは、それは仕方ないな」
紫陽花「それじゃあ、俺は行くよ」
虎千代「ああ、いつかクエスト協力の要請が行くかもしれない」
虎千代「その時は協力してもらえると助かる」
紫陽花「あいよ。じゃあな」
軽く返事をして、部屋を後にした。
……ふう、やっぱりわかっていても緊張するな、生徒会室ってのは。
相手も怖い奴ってわけじゃないけど、相応の威圧感は持っていたし。
ただ、武田よりも水瀬とかいう副会長のほうが威圧ひどかった気もするけど……。
ま、気のせいってことにして帰りますかね。
そう思って昇降口へ向かおうとして――。
メアリー「ヘイ、そこのボーイ」
紫陽花「うんっ?」
聞きなれない言葉で呼び止められ、思わず足を止めてしまった。
同時に振り返っていた俺の目には金髪でスタイルの良い女子……かな?
とにかく、外国人っぽい女子が含んだ笑みを浮かべていた。
……何か嫌な感じだな、この人。
メアリー「おっと、そう警戒しないでくれよ」
紫陽花「そう言われてもな……何か企んでる感じがプンプンするんだけど?」
メアリー「人聞き悪いな……まあいい。あたしはメアリーっていうんだ」
メアリー「今暇か? 噂の特異体質」
紫陽花「ついさっき暇になったところだが、とは言え付き合う理由もないよな?」
メアリー「付き合わない理由もないだろう?」
面倒くさいタイプ……苦手な相手だ。
どうあがいても結果的に要件を聞かされそうだ。
どうせ聞かされるなら素直についていったほうがいいか。
やれやれ、いつになったら帰れるのやら。
紫陽花「分かったよ、要件を聞こう」
メアリー「最初から素直にきいておきゃー良いのに」
紫陽花「その人を喰ったような態度が気に食わなかったんだよ」
メアリー「ずいぶん嫌われたもんだな」
メアリー「まあいい、精鋭部隊の訓練所についてきてくれ」
紫陽花「特殊部隊?」
3つの勢力のうちの2つ目……偶然か?
なんだか妙な違和感を覚えながら、俺はメアリーと名乗る女子の後ろについていった。
幾らか歩いてようやく目的地についた。
そこにはすでに何人か集まっていて、見覚えのある奴もいる。
でも基本的に知らないのもいるな。
軍人っぽい人とか、何やら騒がしい女の子とか。
ある程度近づくと気づいたのか、各々の反応で出迎えてくれた。
焔「来たのかよ」
紫陽花「いや、やむなくって感じだな」
紫陽花「こいつ相手に屁理屈こねても結局同じ気がした」
メアリー「おいおい、どんどん扱い雑になってんぞっ!?」
エレン「そういう判断をされるように振る舞った自業自得だ、メアリー」
エレン「さて、急に呼び出してしまってすまないな」
紫陽花「いや、大丈夫だよ」
紫陽花「色々といったけど、暇であるのは確かだし」
メアリー「あたしの時とエライ態度の違いだな」
紫陽花「~♪」
口笛で軽くごまかしたら舌打ちされた。
外国の人って短気ですね。
月詠「ちょっとあんた!」
紫陽花「うん?」
月詠「あたしは守谷月詠、あんたが噂の転校生なの?」
紫陽花「噂がどうなのかわからんが、そうだな」
月詠「なら、ツクと勝負しなさいよ!」
紫陽花「……勝負と言われてもだな」
焔「おい、月詠。そいつは攻撃魔法は使えないぞ」
月詠「えっ?」
メアリー「それも本当だったのか」
浅梨「ええ、先輩いわく本当だそうです」
メアリーの視線での問に頷いて答える
攻撃魔法が使えないってのは周知の事実になりつつあるらしい。
人のうわさ恐るべしってやつだな。
しかし、この守谷とかいう子……メアリーとは違った意味で面倒くさいな。
ここ、現時点でまともなのってあの赤髪の……軍人? くらいだぞ。
眼帯を付けているが、目を患っているのかもしれないな。
エレン「むっ、私としたことが礼儀にかけていたな」
エレン「改めて名乗ろう、エレン・アメディックだ」
紫陽花「エレンか、よろしく」
エレン「ふむ、しかしこうして近づいただけではあまり魔力を感じないな」
紫陽花「? そうなん?」
浅梨「ええ、私も今はまったく感じません」
焔「私が最初にお前をなめててたのはそれが原因だよ」
紫陽花「おいっ」
なめられてたのかよ!
いや、確かに攻撃できないんだからなめられてもおかしくないんだが。
それにしても、やっぱりここも俺の能力についてなんだろうな。
紫陽花「呼び出されたのは能力の件か?」
エレン「ああ、そのとおりだ」
エレン「とはいえ、事実の確認は来栖、我妻の両名からできている」
紫陽花「? それじゃ一体何の?」
エレン「柊の魔力を得る際のタイムラグなどを測りたい」
エレン「魔力補填が出来るのは重要だが、時間がかかっていては大問題だからな」
なるほど、それは一理あるな。
だけど俺の魔力補充でほぼノータイムなんだけどな。
まあ、言うよりは体験してもらったほうが早いか。
来栖や我妻は俺の能力を少なからず体験してるからか微妙な表情してるが。
エレン「ひとまずは我々の魔力をある程度減らさなければならないわけだな」
紫陽花「そうなるな」
エレン「では幾らか魔力を使ったら合図をするので頼めるか?」
紫陽花「ああ、分かった」
エレン「では……行くぞ!」
紫陽花「えっ?」
そう言って彼女が取り出したのは銃だった。
魔法を使うって言ってたけど、身体強化関係か?
そう思っていた俺の目の前で、とんでもない光を放たれた。
確かに銃身から飛んでいった。
驚きに目を丸くしていると、メアリーが楽しげに説明してくれた。
メアリー「柊っつったか、この手の魔法は初めてか?」
紫陽花「あ、ああ……あれって魔法なんだよな?」
メアリー「ああ、銃自体は本物だけどな」
メアリー「打ち出す弾を魔力で作ってるってわけだ」
月詠「それにしても……結構な量を使ってるけど、大丈夫なの?」
メアリー「まあ、そこは柊の力次第だろ」
エレン「ふう……柊、頼む!」
紫陽花「分かった!」
掛け声を貰ってすぐに魔力の譲渡を始める。
その瞬間、目を見開いて驚いた表情でこちらを凝視した。
エレン「……なるほど、な」
エレン「これは重要な存在だと言われるのも頷ける」
メアリー「おいおい、どういうこった?」
エレン「掛け声をかけてから柊が反応するまでに2秒弱」
エレン「そこから私の魔力が回復するまでにかかった時間がわずか3秒だ」
月詠「う、嘘っ!? さっきの、結構魔力を使ってたはずよ!?」
エレン「ああ、5割程度の魔力を使用していた」
エレン「それをものの3秒で回復させたのだ、認めざるをえないだろう」
紫陽花「……すごいって言われてるのかな?」
焔「私に聞くなよ」
浅梨「そうだと思いますよ」
浅梨「エレンさんは他の方よりはるかに魔力がある方ですから」
紫陽花「ふむ……」
とはいえ、こちらはまったく魔力を消費した感じはしない。
一人分だし、当然といえば当然なんだけど。
そんなことをつぶやいていると、反応しづらそうな表情で返された。
いや、だって俺の感覚ではそうなんだって……。
エレン「ふむ、これなら十分に作戦運用が可能なレベルだな」
エレン「しかし驚いたぞ、まさかここまで一瞬で魔力を戻されるとはな」
紫陽花「まあ、実際の戦闘中なら合図もいらないぞ」
メアリー「あん? どういうこった」
紫陽花「基本的にこの魔力譲渡の範囲は俺の目が届く距離までだ」
紫陽花「だけど、減ったらその分だけ回復できるように持続的にかけてる」
エレン「ほう……」
メアリー「へえ……」
月詠「……」
焔「な? 想像をはるかに超えるって言ったろ?」
浅梨「すごい魔力容量ですよね」
浅梨「お姉ちゃんですらはるかに超えちゃってる気がします」
メアリー「どうせホラだと思ってたんだが、こりゃとんでもないな」
ガシガシと紙をかき乱しながらため息をつく。
年頃の女としてどうなんだろうと思う。
まあ、表情見るに満足してくれているみたいだからここもこれくらいで終わりかな?
エレン「柊の能力はある程度理解した」
エレン「今後、クエストに出ることがあれば要請があるかもしれない」
紫陽花「ああ、そういうことか」
紫陽花「その時に他のクエストを引き受けてなければでよければいいよ」
エレン「ああ、もちろんだ」
紫陽花「じゃ、今日はこれで帰っても大丈夫か?」
メアリー「ああ、あれだ……悪かったな」
紫陽花「ん、今度からは普通に誘ってくれればいい」
メアリー「ああ、そうさせてもらう」
紫陽花「じゃあな」
軽く手を上げると、各々の反応を見せて見送ってくれた。
紫陽花「ふう……」
訓練所を後にして、俺は深い溜息をついた。
やれやれ、なんでまた今日はこうも招待されるんだろうか。
まあ、精鋭部隊の構成と人となりについてある程度の理解が得られたからよかったが。
とはいえあまり面識のない勢力と立て続けにとなると少し疲れる。
どっかで休めたらなー……。
風子「おや、そこに居るのは柊さんじゃないですか」
紫陽花「ん? おお、水無月じゃないか」
風子「ういーっす、元気そーで何よりです」
相変わらず気だるそうな感じだな。
変わらない様子に喜びと同時に苦笑いを浮かべる。
特に理由もなく、俺たちは並んで歩き始めた。
風子「どーです? 調子は」
紫陽花「んー、ぼちぼちかな」
紫陽花「つい最近までは皆が過保護にしてきて困ったよ」
風子「ま、アンタさんにも原因はあるでしょ」
紫陽花「否定はしない」
風子「それにしても、ずいぶんお疲れのよーですがどーしたんです?」
紫陽花「ああ、ちょっと生徒会と精鋭部隊に呼び出し食らってな」
風子「……あー、さっき虎のとこが呼び出してましたね」
風子「なにかされちゃいませんか?」
紫陽花「いや、基本的には能力の確認をされただけだよ」
風子「そーですか……まーそれなら疲れるのも納得ですかね」
風子「良ければ風紀委員室で休んでいきません?」
紫陽花「風紀委員室で休憩って……休めるか? それ」
風子「取り締まりしてない時は普通の一室ですよ」
風子「紅茶と茶菓子もありますし、ご迷惑でなければ」
ふむ……確かに気づかれしてるのは確かだ。
それに、体が糖分を欲している現状で茶菓子は魅力的な提案だ。
一度はクエストを共にしたわけだし、今更気兼ねするのもあれかな。
と、軽く考えてから頷いた。
風紀委員室、別名懲罰房行き控室。
水無月や氷川なんかはすごくやる気がある。
それこそ取り締まりに関してはすごく積極的だ。
それに対して、神凪や服部なんかは穏便に進めるタイプだな。
ちなみに、イヴはどちらかと言うと消極的。
ただし、明確な理由などが定まってる場合などは容赦がない。
以上、軽い風紀委員情報のおさらいでした。
風子「ぼーっとして、何か考え事でも?」
紫陽花「いや、単にぼーっとしてただけ」
紫陽花「それにしてもこの紅茶、すごい美味いな」
紗妃「そうですか? 普通に淹れただけですが……」
紫陽花「いやいや、あまり紅茶に慣れてない俺でも美味しいと思えるよ」
紅茶って甘いお茶っていうイメージだったが、そういうわけでもないんだな。
渋めで名前の通り紅い色をしているが、基本的に香りの違うお茶って感じ。
それに好みで牛乳や砂糖を入れるんだとか。
試しにオススメの配分で砂糖と牛乳を入れてみたんだが……これが美味い。
ミルクティーっていうんらしいが、お茶に牛乳とは斬新な組み合わせだ。
合わせて出されてるスコーンとかいう洋菓子もシンプルだけどうまかった。
見た目はクッキーっぽいが、パイのようなパンのような不思議な食感だ。
ああ、疲れた神経に染みわたるわあ。
怜「あんみつはないのか……」
梓「いや、あんみつを茶菓子として出すのには無理がありません?」
怜「だが、あんみつは美味いぞ?」
紫陽花「あんみつかー、俺食ったことないんだよなあ」
怜「なっ!? あ、あんみつを食べたことがないだと?」
怜「人生の8割は損しているぞ!」
紫陽花「何その割合っ!?」
梓「あはは、神凪さんはあんみつに目がないんすよ」
言われてみれば、神凪と服部は湯のみに緑茶か。
神凪は巫女、服部は忍者っぽいしイメージには合ってるな。
それに対して、氷川とイヴ、水無月は紅茶を飲んでいる。
しかし、この風景だけ見るととてもじゃないが風紀委員には見えないな。
あの堅物っぽい氷川ですら、スコーンを口に満面の笑顔だし。
イヴだけはいつもと変わらずマイペースに本を読んでいた。
怜「ところで」
紫陽花「ん?」
怜「妙に疲れていたようだが……」
怜「やはり生徒会で何か妙な事に巻き込まれたか?」
紫陽花「……そんなわかりやすく疲れてる?」
無言で全員にうなずかれた。
本に集中してるようでちゃんと聞いてるのね、イヴ。
んー、と呟きながら答えに迷う。
紫陽花「生徒会では特に……ただ、思いがけない話になったもんで驚いたくらいかな」
風子「思いがけない?」
紫陽花「ああ、実は俺がここに来ることになったのは生天目つかさって人のお陰でね」
一同『生天目つかさ!?』
紫陽花「うおっ!?」
一部は椅子を蹴倒さんばかりに立ち上がりその名を叫ぶ。
一体何なんだ……名前出しただけだぞ?
なんて呑気なことを考えながら紅茶を一口。
梓「あの人に会ってよく五体満足でいられましたね……」
紫陽花「いや、初対面の時はあっちのほうが大怪我してたんだよ」
紫陽花「その時、俺が治癒魔法をつかったことで魔法使いって気づいたみたいでね」
風子「その時点でいきなり喧嘩をふっかけられてもおかしくないんですけど」
紗妃「そうですね……クエストにもいつも単独で勝手に参加してるようですし」
紗妃「ただ強い相手と戦いたいというだけの理由でですよ?」
紫陽花「改めて聞いてもほんと、戦闘狂って言葉が似合う人だな」
怜「ああ、強い相手を見ると戦わずにいられないらしい」
怜「ゆかりがよく心配していたよ」
紫陽花「ゆかり……ああ、椎名か。あの人とつながりあったんだ?」
梓「世話を焼くのが好きな人ですからね、椎名さんは」
梓「ふらっと消えては怪我して帰ってくれば……ね」
紫陽花「なるほど、そう聞けば頷ける」
クラス委員長であり保健委員でもある椎名だ。
俺も左肩をやっちまった時はこっぴどく叱られた。
だけどその説教も、本当に心配してるからこそくるものだと分かる。
そうやって心配されることはあまりなかったから嬉しかったのをよく覚えてる。
きっとそういう人なんだろう、椎名ゆかりという人間は。
紫陽花「まあ、生天目との出会いが無かったらもっと入学は遅れてたかもな」
イヴ「逆に、いつ頃覚醒したかはわかりませんが……」
イヴ「生天目つかささんと接触するまで、どこの機関にも気付かれなかったのですか?」
紫陽花「ああ、その辺は……事情もあってな」
俺は生徒会のメンツにも話した内容を伝える。
『そうですか』と短く答えて、それ以上は特に突っ込んでこなかった。
彼女たちなりに察してくれたんだろう。
紗妃「確かに魔法使いは一般人からすれば魔物と変わらない……」
紗妃「そういう偏見があるのも事実ですからね」
風子「あの時の事件にですか……」
風子「何かあったとは思ってましたが、アンタさんも大変でしたね」
紫陽花「そうでもないさ。俺よりひどい目に遭ってる奴だっていっぱいいる」
紫陽花「俺は、そういう人を少しでも救えるようになりたくてここに来たんだ」
闇雲に魔物を探したりしたり警戒したところで個人でできることは限られてる。
だから、あの時生天目と会ったのは転機だったんだと思う。
実際、もし俺がここに来ていなければ死んでいたかもしれない命があった。
おごるつもりはないけど、それでも本当に良かったと思っている。
さて、長く居座っちまったな。
俺はぐいっと紅茶を傾けると、ティーカップを置いて立ち上がった。
風子「ありゃ、もー行くんですか?」
紫陽花「ああ、十分気晴らしになったよ。ありがとな」
風子「別に礼を言われるほどのことはしちゃーいませんよ」
紫陽花「はは、そうか」
紫陽花「ま、なんか俺に手伝えることがあったら気兼ねなく言ってくれよ」
風子「ええ、その時はお願いしやすよ」
最後の言葉に頷いて応え、風紀委員室を後にした。
◯風紀委員視点◯
いつものように人のよい笑みを浮かべて去っていく少年を見送った。
その後、ほんの少しの間無言になり、陶器の音だけが室内に響く。
そんな時、ふと――。
風子「柊さんは、よく壊れずにいられますね」
そ、風子はポツリと湧いて出た疑問を口にする。
それはその場に居た皆が少なからず思っていたことだ。
彼の失われた故郷からの生存者は0。
実際には紫陽花がいたが、それが示すことはつまり……。
怜「あいつはずっと、独りだったんだな……」
そう、当時の彼を本当の意味で知る人はもう居ない。
そんな環境に陥って、はたして狂わずに、捻くれずにいられるか。
自問自答してみても彼女たちの中に答えは出なかった。
同じような環境でもないのに出せるはずもないからだ。
怜「それでもなお、捻くれず、崇高な目標を確固として持っている」
怜「私はアイツが危ういと思う反面、眩しく思うよ」
紗妃「そうですね、私もそう思います」
イヴ「……もう少し自分の身を優先することも覚えたほうがよさそうですが」
風子「おや、珍しーですね。冬樹が他人相手に気遣うなんて」
イヴ「……恩人だからです。妙な勘ぐりはやめてください」
そうそっぽをむく彼女の頬がほんのり紅い。
そこに気づきながらも皆何も言わなかった。
今まで他人に対して無関心で、協力もしてこなかったイヴ。
そんなひねくれた彼女がほんの少しでも、柔らかくなってきていたから。
風子(さて、この変化をもたらしたのは一体だれなんですかね……?)
夕日のさしこむ窓から学園の外を眺めながら、風子はふわりと笑う。
そうやって飲む紅茶は不思議と、いつもよりも美味しく感じた風子だった。
◯精鋭部隊視点◯
紫陽花が訓練室を後にしてから1時間くらいたった頃。
ひと通りの訓練を終えたエレンたちは息を整える。
エレン「本日の訓練はここまでだ」
エレン「守谷、我妻。お前たちはやはり基礎体力がまだまだ足りない」
月詠「ぜぇぜぇ……す、すいません……」
浅梨「はぁっ、はぁっ……が、頑張ります!」
エレン「来栖、お前はもう少し連携を覚えろ」
エレン「魔物相手に単騎での戦闘は避けるほうが効率が良い」
焔「……独りで十分だ」
メアリー「駄々こねてんじゃねえよ、ガキ」
焔「何!?」
メアリー「良いか? どんだけグループ組んで行っても死ぬときゃ死ぬ」
メアリー「それが魔物との戦いだ、よっくここに刻んどけ」
焔「……ちっ、分かったよ」
舌打ちを吐きながら訓練所を出て行く後輩を、メアリーはため息をついて見送る。
メアリー自身ももう少しいい方をよくしようと努力はしていた。
しかし、性格というのは早々にかえられるものでもなく、結果いつもどおりだ。
罪悪感と苛立ちをないまぜにした感情を募らせながら髪をかきむしる。
エレン「アイツにもアイツの事情がある」
エレン「だがアイツは馬鹿じゃない……きっと伝わっているさ」
メアリー「……だといいんだがな」
月詠「大丈夫よ、いつかは私が嫌でも従わせてみせるんだから!」
メアリー「へー、そりゃ頼もしいな」
月詠「うぐぐっ……!!」
明らかに棒読みの適当な返事をもらい、月詠は悔しげに訓練所を出て行った。
それを見た浅利もどうしようかと迷った挙句、彼女の後を追う。
静かになった訓練所の中で、メアリーは肩をすくめる。
エレン「もう少し愛想よくできないか?」
メアリー「そっくりそのまま返すぜ、ほぼ無表情な面してる奴が何言ってやがる」
エレン「ふっ、それもそうだな」
エレン「……メアリー、お前の目から見て彼はどう思う?」
メアリー「良い線はいってるな」
メアリー「だが、アイツは色々背負いすぎだ」
エレン「背負いすぎ、か……」
メアリー「1週間前くらいにあった風紀委員とのクエスト」
メアリー「聞けば勝手に単独行動取った奴を庇ったらしいじゃねえか」
エレンもその話は聞いていた。
イヴは精鋭部隊からしても優秀な生徒だ。
だが、彼女もまたワンマンプレイが目立っていた。
それが故に起きたのが今回の一件とも言える。
メアリー「戦場じゃ、命令聞かねえ奴や統制を守れねえ奴から死んでいく」
メアリー「アイツはそんな奴も見捨てやしない……例え自身が傷つこうが関係なしだろうな」
エレン「なるほど」
エレン「だが、柊はあれで良いと私は思っている」
メアリー「……そうか」
エレン「自分の身を護ることを疎かにするのなら、周りがそれを補えば良い」
エレン「それもまた、『チームワーク』だ
メアリー「へっ、物は言いようだな」
悪態をつきながらも、メアリーは笑っていた。
彼女自身も本当は紫陽花の生き方を否定はしていない。
ただ、危ないと思っているだけだ。
だからこそ、エレンの答えはまさに彼女のそれと似たようなもの。
付き合いが長いと考え方もにるものだな、と彼女はそう思っていたのだ。
エレン「四六時中というわけにはいかないが……」
エレン「クエストに協力を願う際は全力で守ろう」
メアリー「そうだな、その代わりしっかり働いてもらうが」
エレン「当然だ」
珍しく表情を緩ませながら、エレンはそう頷いた。
◯生徒会視点◯
虎千代「柊紫陽花、か」
薫子「気になりますか? 会長」
虎千代「柊の力を目前にしたわけじゃないが、あいつが認めるくらいだ」
虎千代「気にならんとはいえんよ」
虎千代は困ったように笑いながら頬杖をつく。
会長という立場上、自由に動けない我が身を軽く呪いながらため息をつく。
目の前にある山のように積まれた協議書を見て。
虎千代「実際に柊の魔法を受けた身としてはどうだ? 結城」
聖奈「そうですね……ばかみたいな魔力総量でした」
聖奈「リリィクラスのほぼ全員に、上級レベルの身体強化魔法を使いながら治癒魔法も併用でしたからね」
薫子「一人にかけても結構な負担になるはずの魔力を使うはずですわよね……それ」
聖奈「ええ、あの来栖焔でさえ渋々とは言え認めていました」
虎千代「あのひねくれ者をか」
愉快そうに笑いながら、虎千代は書類に目を通しながら判子を押していく。
実質的な内容の吟味は実のところ、薫子がやっている。
つまり彼女の仕事は判子を押すべき書類に判子を押すだけなのである。
武田虎千代という人間は非常に優れた統率力があった。
しかし、残念ながらそこまで要領がいい方ではない。
そういう意味では薫子の存在は虎千代をよく支えてる関係といえた。
虎千代「風紀委員はもとより、精鋭部隊も接触しているだろう」
虎千代「柊の力はそれ程に強力だからな」
薫子「……手を回しておいたほうが?」
虎千代「いや、その必要はない」
薫子「失礼ですが、何故でしょう?」
虎千代「あいつは特定の誰かでなく、『皆を守る』ことを目的としている」
虎千代「だからあいつがどこか特定の相手につくことはないさ」
聖奈「そうでしょうか……」
虎千代「ほとんどは勘だがな」
虎千代「それよりも危惧すべき点がもう一つあるだろう?」
薫子「……共生派や霧の守り手、ですか?」
部下の優秀さに虎千代は笑みを浮かべながら頷く。
実質、魔物相手の護衛はこれほどにないほどの戦力が学園にはいる。
それよりも怖いのは、魔物よりも同じ人間だと虎千代は考えていた。
最近は特に両組織の動きが活発になっていることもあってだ。
虎千代「なるべく、柊の情報が外にもれないようにしろ」
虎千代「アイツの力はまさに規格外だ……利用しようとする奴はでてくるだろう」
薫子「承知いたしました。後ほど宍戸さんとも話をしておきますわ」
聖奈「人間相手にも警戒か……私たちは何と戦っているんでしょうね」
虎千代「……まったくだ」
虎千代「だが、アイツ相手には人間の不明確な悪意は天敵だ」
聖奈「そうですね。彼は少々、人が良すぎますから」
虎千代「風紀委員が学内を、精鋭部隊が魔物を警戒するだろう」
虎千代「私たちは外部とのつながりも深い……そちら方面から護るとしよう」
薫子・聖奈『はい』
虎千代(とはいったものの、問題は山積みだな……)
そもそもな話、現時点で柊の情報が漏れていないのかどうか。
それを確かめるすべがない以上、どうしても後手に回ってしまう。
気づいた時には取り返しの付かないことに、なんてこともあると虎千代は考えていた。
虎千代(私には、全生徒を安全に導く義務がある……!)
決意を新たに、虎千代は立ち上がり窓を開け放つ。
夕日に染まる校庭を歩く一人の少年の背中を見送って。