グリモア~守護者~   作:エウラス

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はい、後半辺りでついにオリジナル展開に突入です。今更? そうかもしれませんね。
少しだけネタバレしますと、私の書いてるグリモアの世界線では、霧の守り手・共生派などの反魔法団体を主においてあります。
本編との辻褄が合わない部分などもありますが、あくまで色々なことの中心に奴らが居る、というコンセプトで話を書いていきますのでご了承を。


第8話

第8話:野薔薇と愉快な仲間たちといく小旅行

 

この学園に来てから早2ヶ月近く。

俺はあれから授業で知識を得つつ、クエストをこなす日々を送っていた。

特段誰かに絡まれるようなこともなく、適度に誰かと接する。

最近まではひっきりなしにいろんな奴がクエストを組みたがったから有り難い限りだ。

やたら女の子ばかりが来るもんだから冷や汗がひどかったけどな!

主に、男連中のやっかみの視線が……。

 

紫陽花「うぇ~……大分気温が上がってきたな……」

 

そんな俺は、30度近くまで上がり始めた気温に茹だっていた。

基本的に寒さに強く、暑さに弱いのでこれからの時期は嫌いだ。

部屋や校舎は冷暖房完備だが、外にそんなものがあるわけがない。

そういう意味じゃ氷魔法が使える奴がうらやま……あ、私用では使えないんだっけ。

 

紫陽花「ええい、やめだやめだ!」

紫陽花「ジュースでも買おう……」

 

冷たいものでも飲めば気がまぐれるだろう。

そんなことを思いながら、購買へと向かう道すがら。

ポケットに突っ込んでいたデバイスが特有の音と共に振動する。

……クエストの配信か。

 

紫陽花「県外の山中に出た霧の調査か……」

 

オレンジジュースを飲みながら内容を見てみる。

どうやら濃度が魔物を発生させるほどの濃度に達しているんだとか。

調査人数は二人以上十人以下か……。

山中だと大勢で受ければ色々と統率が難しくなるからか。

 

姫「あっ、こちらに居たのですね! 柊さん」

紫陽花「ん?」

自由「待ってくださいよ、お嬢ー!」

刀子「拙者と一緒に居てくだされー!」」

紫陽花「野薔薇と……小鳥遊に支倉じゃないか」

紫陽花「どうしたんだ?」

 

右手にデバイス、左手に缶ジュースという風体のまま出迎える。

野薔薇はそんな俺のデバイスを持った手を見ていた。

なぜだかその顔が嬉しそうに見えるんですがなんでですかねえ。

なんとなしに嫌な予感がしつつも言葉を待つ。

 

姫「調度良かったですわ」

姫「私たち、そのクエストを受けようと思っていますの」

紫陽花「このクエストを?」

自由「ええ、自分と刀子先輩が行くのも決まってます」

刀子「姫殿が行くのに拙者が行かないわけにはいかんからな」

姫「それで、出来れば柊さんにもご同行を願いたいのです」

紫陽花「俺も?」

 

言われて野薔薇は満面の笑みで、後ろの二人は苦笑いだ。

付き人だからことわれないんだろうね、二人は。

俺はもちろん気分次第でどうとでも言えるけど……行くか。

以前のこともあるし、こうやって張り切ってる時の彼女は失敗しがちだ。

念には念をおれておかないとな。

 

紫陽花「ああ、分かった」

姫「! ありがとうございますですわ!」

紫陽花「お、おおう?」

 

ブンブンと手を取ってお礼を言われて目が点に。

別にクエストを受けること自体はそう珍しいことじゃないだろうに。

後、飲み終えてたから良かったけど中身はいってたら大惨事だったぞ?

それにしても……うーん、県外への出張クエストか。

一応、野営の準備位はしとくべきかな。

 

刀子「そう言えば、お主は自衛の手段は持っておらぬのか?」

紫陽花「ん? うーん……悪いけどないんだよな……」

自由「そうなると、自分たちで護衛しないとですね」

姫「ええ、もちろんですわ!」

紫陽花「すまん、その代わり支援と魔力、治療は任せておいてくれ」

自由「頼りにしてるっすよ、先輩」

紫陽花「ういうい」

紫陽花(でも、自衛の手段か……考えておくべきかな)

 

俺の場合は障壁での防御と阻害魔法のコンボくらいだからな。

とはいえ、俺はできるだけ魔法での攻撃は控えたい。

実のところただひとつを除いて攻撃魔法を使えないことはないんだが……。

これを使うのは本当の意味で奥の手だしな。

使うとすれば命を落とす覚悟をする状況でのみだ。

……とと、意識が逸れた。

改めて話に耳を傾けるとどういう準備をするのかという話になっているようだ。

 

姫「準備に関しては自由に任せますわね」

自由「へーい、とりあえず先に言っておきますが紅茶とかは淹れたて無理っすよ」

姫「えっ?」

自由「県外、それも片道6時間以上かかる距離っすよ?」

自由「調査をするのにどれくらいかかるかわからない以上、野営も視野に入れるべきっす」

刀子「な、なんと! では湯浴みはどうすれば……」

自由「我慢するか温泉でも湧いてるのを祈るくらいっすかねえ」

姫・刀子『……そんな』

 

がくり、と膝を折ってうなだれている。

アルファベットで表すなら『orz』だな、見事に。

というか二人は想定してなかったのか、その可能性を。

野薔薇の場合はなんとなく分からなくはない。

だが、支倉……わりかしうっかりさんなのか?

 

自由「しっかりしてください。刀子先輩、お嬢」

自由「何なら今回は私と先輩だけでいきます?」

姫「な、何を言っているんですの!?」

刀子「そ、そうだ! そのくらいで一度決めたことを曲げはせぬ!」

紫陽花「えっと、無理はしなくていいぞ?」

紫陽花「クエスト備考欄にも『日数指定なし』とか書いてるし……」

自由「それじゃ、なおさら何日かかるかわからないっすね」

自由「一応、周辺に宿泊施設もないことはないらしいすからそれでどうにかしましょう」

紫陽花「とはいえ、野営の準備を必須だろうからしておくか」

自由「そっすね~……とりあえずテントと寝袋は確定っすよね」

紫陽花「そうだな。他にも食料……日持ちする奴がいいな」

刀子「日持ちか……干物とかか?」

紫陽花「んー、それもいいけどそれだけじゃ味気ないだろ?」

紫陽花「そういう味気ないのは後半に置いといて初日は俺が弁当を作ってくるよ」

野薔薇ズ『……弁当?』

紫陽花「おい、なんだよその珍しいやつ見たって目は」

 

こいつら、俺が料理できないって思ってるな?

だが甘い!

 

紫陽花「俺は色々あって家事炊事は得意なんだよ」

紫陽花「そりゃあ高級な料理には敵わないけどな」

姫「い、いえ……殿方が料理というのは聞いたことがなくてですね……」

刀子「男子厨房に入らずというではないか」

自由「先輩、つくづくサポート気質っすよね」

紫陽花「三者三様の答えをありがとう」

紫陽花「まあ、期待はしておいてもらってもいいぞ」

自由「へえ、先輩の手料理っすか……何か楽しみっすね」

姫「庶民の料理というのはあまり口にしませんが、きっと美味しいんでしょうね」

刀子「拙者、握り飯が食べたいぞっ!」

紫陽花「ふむ、具は結構限られるぞ?」

紫陽花「最近暑くなってきてるし、傷みやすいのはまずいからな」

自由「うわっ、それ主夫の発言っすよ!」

紫陽花「ほっといてくれっ!」

 

今まで散々言われてきたことだが、同級生に言われるとぐさっと来る。

俺は別に専業主婦を目指してるわけじゃない。

それにしても、霧の調査か……大事にならなければいいんだが……。

と、そういう心配をよそに日は過ぎて……。

 

 

調査出発日の早朝。

 

紫陽花「……なあ、支倉さんよ」

刀子「なんだ? 急に他人行儀にしおって」

紫陽花「その荷物は一体なんだ?」

刀子「調査に持っていく荷物に決まってるであろうっ」

紫陽花「小鳥遊……」

自由「自分もちゃんと説得したっすよ……」

 

疲れたような顔で返されて合掌。

意味がわかっていないのは野薔薇と支倉だけのようだ。

まあ、小鳥遊はわかっていても野薔薇の意見には逆らいづらいんだろう。

仕方ない……少々アレだが……。

 

紫陽花「悪いが選別させてもらうぞ」

刀子「なっ!?」

 

反論される前にパンパンに詰まったリュックを物色。

出るわ出るわ、最低限とはいえない道具たち。

まあ、洗面具とかそのへんは理解出来る。

だがなんだ、この折りたたみの椅子やらティーセットは!

明らかにかさばる上に、むしろよくここまで持ってこれたと逆に感心するわ!

てきぱきと必要最低限の物を選別して行く。

ここまで5分、もちろん反論は許しません。

 

紫陽花「まったく……よくもまあここまで詰め込んだな」

刀子「い、いきなり乙女の荷物を物色するとは……」

姫「酷いですわ……」

自由「なーに言ってんですか。先輩、ちゃんと衣類関係はスルーしてくれてますよ」

自由「むしろ優しい方じゃないんですかね?」

紫陽花「裕福な生き方をしてきた分、色々と不便をかけるがこれは遊びじゃないんだ」

紫陽花「なるべく、動きやすいようにしないとだ」

姫「……そうですわね」

刀子「うむ、少々浮浮ついていたようだな」

紫陽花「分かってもらえたようで何より」

紫陽花「とりあえず……この荷物どうする?」

自由「こうなることはだいたい予想できたんで、業者呼んでますよ」

 

準備がいいことで。

程なくして現れた業者さんとか言うトラックに荷物を任せて移動を開始。

まだ夜明けも来たばかりなのに……ご苦労様です。

さて、ここからは駅に向かって電車で4時間、バス2時間か。

学園から外に出て、

改めて考えると結構しんどいな。

 

紫陽花「幸い、時間の指定はあまりないから1日目はあまり気負わずに行こうな」

姫「ええ、分かりました」

刀子「拙者はいまいち楽にするというのが分からんが……善処しよう」

紫陽花「気を張り続けるのも疲れるだろ?」

紫陽花「いつも全力なのが悪いとは言わないけどな」

自由「そっすよ、自分なんて遠足気分ですし」

紫陽花「小鳥遊はもうちょっと緊張感もとうな!?」

 

やれやれ、ほんとこの従者コンビは両極端過ぎる。

足して2で割ったくらいがちょうどいいんじゃないか?

 

姫「まずは駅ですわね」

紫陽花「ああ、時間には余裕を持って集合してるから大丈夫だ」

刀子「そうか……拙者、どうも電車は苦手でな」

自由「電車っていうか、近代文明全般っすよね」

自由「デバイスだって、もあっとと通話くらいじゃないすか」

刀子「う、うるさいな」

紫陽花「もあっと?」

姫「あら、ご存じないのですか?」

紫陽花「ん~……ちらっと説明されたような……」

紫陽花「でもうろ覚えだな。なんだっけ、それ」

自由「簡単にいえば、デバイスでやるチャット機能ですよ」

紫陽花「へえ、セコイプみたいなもんか」

自由「そっすそっす」

自由「デバイスのここに……て、先輩結構な数のトークきてるじゃないですかっ」

紫陽花「えっ、マジで?」

 

まったく登録した覚え無いんだけど……。

やたらメール着信音が響いてたから迷惑メールだろう、とか思っていたらそういうものではないらしい。

 

姫「もあっとは電話番号だけで登録が出来ますわ」

姫「ですから、学園内の大抵の人は登録できているはずですが」

紫陽花「えっ、そうなん?」

刀子「うむ、デバイスには全校生徒の電話番号が入っている」

刀子「余程のことがない限りは制限がされないそうだ……どういう理屈かはわからぬが」

紫陽花「へえ、それで直接やり取りしてなくても来てたのか」

自由「もあっとは基本装備みたいっすからね」

紫陽花「ふーむ……どれどれ?」

 

うわ、南とか椎名とかからも来てるな。

履歴を見てみれば、ミノタウロスの一件前からちらほら来てたようだ。

通りで一時、バイブ機能が乱発してたわけだな。

まったく気が付かない俺もあれだけど。

どうせ移動の間は暇なんだ、しっかり返しておこう。

 

姫「あ、あの……柊さん?」

紫陽花「うん?」

 

駅までの道すがら、歩きながら返事をかいていると野薔薇に声をかけられた。

自分のデバイスを持って何やらもじもじとしている。

……なんだ?

 

姫「も、もしよろしければなんですが、私とももあっとの登録を……」

紫陽花「え? ああ、良いよ」

紫陽花「野薔薇も変なところで律儀だな」

姫「こ、こういうものはお互いの同意があって初めてするものでしょうっ?」

刀子「拙者もそう思うな」

自由「自分はその時の気分次第っすかねえ」

自由「別にいきなり送られても、大抵は相手にしますよ」

紫陽花「俺も多分小鳥遊と似た感覚かな」

紫陽花「てわけで、ほら俺の方から送ってみたぞ」

姫「っ! はい、ありがとうございますですわ!」

 

『これでいつでも』とつぶやいていたが、何をする気なんですかね。

まあいいや。

野薔薇のことだ、別段おかしなことをすることはあるまい。

折角だし支倉と小鳥遊とも交換しとくかな。

とか思ったら小鳥遊はすでに送ってきてた。

しかも顔文字だらけだ。

さすがのネトゲーマーと言わざるをえない。

 

紫陽花「小鳥遊……すまんな、送ってきてくれてたのか」

自由「ん~? 別にいいっすよ」

自由「知らなかったみたいですからね」

紫陽花「ああ、サンキュ」

紫陽花「後あれだ、野薔薇と小鳥遊はしてるんだし、支倉もしとこうぜ」

刀子「せ、拙者もか?」

刀子「……う、うむ」

 

やや慌てながらも努めて冷静な反応を返してくれた。

耳まで真っ赤だがそこは指摘しないでおこう。

こういうことに慣れてないんだろうか。

 

自由「刀子先輩ってば顔真っ赤じゃないですかやだー!」

刀子「や、やかましい!」

 

とか思ってたら思いっきり小鳥遊がヤブ突っついてましたね。

かくゆう俺は袋入りの薙刀を振り回しながら追いかけ回すのを笑ってみていた。

どんどん先へ行く二人を特段急ぎもせず、ゆったりと歩く。

 

紫陽花「仲、良いんだな」

姫「……ええ、最高の付き人……いえ、友人ですわ」

紫陽花「そっか」

姫「ええ」

 

柔らかい笑みを浮かべ目を細める野薔薇に少しだけ見惚れる。

いつも自信の塊のような笑みを浮かべることは多いが……こんな顔もできるんだな。

大切なものを見るように微笑みに、野薔薇姫という人間の素顔を見た気がした。

ちょっとした発見をしていたら、疲れたのか二人が息を切らしながら戻ってきた。

あ、小鳥遊が頭さすってる……合掌。

 

刀子「まったく! 貴様というやつはいつもいつも!」

自由「暴力反対っすよ~……ちょっとした冗談じゃないっすか」

姫「もう、二人共……喧嘩はだめですわよ?」

刀子「も、申し訳ないです」

自由「うっす、気をつけます」

紫陽花「……」

 

羨ましいな、と思う。

あの事件せいで、俺には気心の知れた友人はほぼ居ない。

あれから自分を磨くことだけを一番に考えて行動してきたから。

出来れば俺もこの学園で、野薔薇たちみたいな関係を作れる相手を探したいな。

仲よさげに話す女子三人を後ろから見ながら、しんみりとするのだった。

閑話休題。

 

 

紫陽花「ここか、クエスト指定の調査場所は」

姫「ええ、間違いありませんわ」

 

電車に揺られて4時間、バスに運ばれること2時間。

クエストに指定されていた山らしき麓に到着。

デバイスで見てみたがここで間違いはないようだ。

さほど標高が高いようにも見えないが、言われてみれば霧が目視できた。

 

紫陽花「……一旦荷物を整理してから様子見してみよう」

姫「そうですわね」

刀子「自由、近隣の宿場はどこに?」

自由「えーっと……珍しいですね、山の中に一件あるみたいっす」

紫陽花「山の中に?」

 

『ほら』と差し出された地図アプリを開いたデバイスを覗きこむ。

確かに位置情報からみても、目の前の山の中にあるようだ。

ちゃんと舗装された道もあるようだし、そっちに回ってみるか。

ついでに旅館にも荷物を置かせてもらったわけだが……。

 

紫陽花「……なあ、野薔薇」

姫「ええ……」

 

全員で霧が発生していると思われる付近まで来た時に異変に気づく。

相当量の霧が出ており、視界を確保することすら難しい。

たしかにこれだけの霧が出ていれば、非常に危険な状況だ。

いつ霧の魔物が出現慕っておかしくない……そう。

これが『魔物を生み出す霧』であればの話だが。

 

自由「どう見ても普通の霧っすね……」

刀子「『でばいす』でも魔力の濃度が0になっておるな……」

姫「どういうことでしょう……?」

自由「もっと上じゃないと分からないとか?」

刀子「それはなかろう」

刀子「多少の濃度の違いはあろうと、これだけ霧が出ていて0はありえぬ」

紫陽花「ああ、俺も支倉と同意見だ」

紫陽花「だがそうなると……クエストの依頼者が勘違いをしたということにもなるが……」

 

そんなことはあり得るものなのか?

一般人であれば霧の見分けがつかないのも無理はないだろう。

だが、こういった依頼を出してくるのは大抵が魔法とつながりのある相手だ。

軍しかり、国しかり。

 

紫陽花「とりあえず生徒会に連絡をとってみる」

紫陽花「クエストの管理位はしているだろうし」

姫「そうですわね」

 

自分のデバイスを取り出して早速武田に連絡を入れてみる。

何回かのコール音を残して、不在通知アナウンスに切り替わった。

水瀬の方に掛けてみたが同じだ。

 

紫陽花「……結城なら」

 

最後の頼みの綱、結城にコールを始めた。

何度目家のコール音の後――。

 

聖奈「柊か? 確か今はクエストの最中ではなかったか?」

紫陽花「良かった! 結城には通じた」

聖奈「何か問題が生じたか?」

 

電話の向こうからの声に少しだけ緊張が感じられた。

ちょっと慌てていたこともあって無駄に心配させてしまったようだ。

 

紫陽花「いや、問題といえば問題なんだが……現状はそう深刻じゃない」

紫陽花「今回の調査依頼先に到着、ついさっき様子見で依頼場所付近にきたんだが……」

聖奈「確か霧の濃度が異常で、魔物の出現有無を調べる旨のものだったな」

紫陽花「ああ……だが変なんだ」

聖奈「変、とは?」

紫陽花「……霧は霧でも、これはただの霧だ」

聖奈「……何?」

紫陽花「デバイスでも確認しているが、濃度数値が0なんだよ」

聖奈「……それが本当ならば、調べる必要があるな」

聖奈「会長たちに相談してみる。少し時間を貰えるか?」

紫陽花「ああ、頼む」

聖奈「柊たちは念のため、調査場所付近で宿を取って待機していてくれ」

紫陽花「分かった、他に何か注意しておくべきことはあるか?」

聖奈「そうだな……いつでも連絡を取れる状態にしていてくれ」

紫陽花「連絡を取れるようにだな、分かった」

姫「……どうでしたの?」

 

電話を終えた俺に、様子をうかがうようにして野薔薇が尋ねてきた。

異例な事だから彼女も戸惑っているんだろう。

見れば後ろの二人も訝しげだ。

『ああ』と短く答えて、さっき話していた内容を伝える。

それらを聞き終えたら皆、それぞれの表情を浮かべていた。

 

自由「生徒会ですら認知してないって……ちょっと問題あるんじゃないすかね」

刀子「ちょっとどころではないっ!」

刀子「場合によっては危険もあったやもしれんのだぞっ?」

紫陽花「そうだな……結城もかなり驚いているみたいだった」

紫陽花「本来であれば、こんな事はまずありえないことなんだろう」

姫「ええ……これほどまでに根本的な間違いは初めてですわ」

紫陽花「……ふむ」

 

俺だけでなく、皆もそれなりに動揺が見て取れる。

時には命にかかわる可能性のあるクエストの情報だ。

それが万が一、『間違っていました』では話にならない。

まあ、いまいますぐに動くことは出来ないし待機するしかないだろう。

 

紫陽花「とりあえず俺たちは待機命令が出ている」

紫陽花「今日はさっきの旅館に泊まっていこう」

姫「そうですわね……」

刀子「調子が狂うでござるな……」

自由「気を張りすぎても、本番で真価発揮できないっすよ?」

刀子「うぐっ……!

刀子「しかしだな……」

姫「自由の言うことも一理ありますわ」

姫「何か連絡があるまでは気楽にしておきましょう」

刀子「ご命令とあれば……」

紫陽花「はは……」

紫陽花「それじゃあ、ちょっと拍子抜けじゃあるが帰るか」

 

仕事をしに来たわけだが、仕事が無いんじゃ仕方ない。

未だに渋る支倉を説得しながら、俺たちは旅館への岐路についた。

 

 

◯生徒会視点◯

 

虎千代「クエスト依頼の誤報……か」

 

紫陽花たちが聖奈に連絡をしてから半日近く経った頃。

聖奈からの連絡を受けた内容に驚き、確認のために連絡にこじつけたのが3時間程前。

返事が帰ってきたのは日付が変わりかねない時間だった。

 

聖奈「これは重大な過失だ……一体国は何をやっている?」

薫子「今までこのようなことはありませんでした……」

薫子「どう思われますか? 会長」

虎千代「人ならば間違いはある……と、言いたいところだが」

虎千代「どうも妙だな」

聖奈「わざと、間違った情報を流した……と?」

 

聖奈の問いに、ほんの少しだけ迷ってから虎千代は頷く。

 

虎千代「以前にも話したが、柊の情報がすでに外部に漏れていると考えたほうがいいだろう」

薫子「! と、言うことは……」

虎千代「国が何らかの意図で柊を学園から引き離した……」

虎千代「いや、おそらくは国ではなく……個人か、組織?」

聖奈「どちらにせよ、国の職員の中に内通者が居るのは確かだろう」

薫子「そうですわね……私たちへクエストの依頼を出してくるのは主に国ですから」

虎千代「水瀬、悪いが明日一で宍戸博士のところへ調査の依頼を出してくれ」

虎千代「それと、双美心にもだ」

薫子「承知いたしましたわ」

虎千代「……必要ならば、最悪遊佐鳴子にも連絡を取れ」

薫子「遊佐さんですか……少々抵抗はありますが、致し方ありませんね」

虎千代「結城、お前は柊たちに現地で引き続き霧の調査を続けるように連絡を取ってくれ」

聖奈「すでに魔物との関係性が無いと気づいているようだが……」

虎千代「そうだな……万が一にも霧の魔物が出ないとも限らない」

虎千代「一日に一回の計3日、滞在するよう頼んでくれ」

聖奈「無理を言う……まあ、了解した」

虎千代「すまないな……私はこれから少し出る」

薫子「どちらへ?」

 

着崩していた制服をきちんと着こみ、虎千代はドアへと歩く。

そして、ドアの前で立ち止まり――。

 

虎千代「風紀委員のところだ」

 

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