「まあ、とりあえず問題はないようだし、朝のHRはこれで終わる」鉄人が関わりあいになりたくないとばかりにそう言ってそそくさと教室から出て行った。問題がないどころか問題しかなかったような気がするんだが。
「ククク、そういう訳だ。これからよろしく頼むぜ、カシムとお嬢ちゃん」
「あのねぇ、あたしには千鳥かなめって立派な名前があるの。お譲ちゃんって呼ぶの止めてくれる」千鳥さんがガウルン君に噛み付くように言った。
「千鳥の言う通りだ。彼女は決してお嬢様ではない・・・・・グワッ」千鳥さんの見事なアッパーが決まった。
「君の言うことを肯定してやったのに、なぜ俺が殴られるのだ?」相良君が納得いかないといった表情で言った。
「お譲ちゃんとお嬢様じゃ意味が全然違うのよ」
「別に相良は間違っちゃいないよなぁ」
「千鳥をお嬢様なんて表現したら金田一京助先生が釘バット持って殴りこんでくるぜ」
「お嬢様は昼飯買いに「ヤキソバパン~」とか言いながら、廊下を駆け出さないだろう」Fクラスの連中が口々に言った。
「あなた達もお黙りなさい・・・アチ」
「使い慣れないお嬢様言葉使おうとするから舌なんか噛むんだ」さすが雄二だ。誰もが思っていても言えないことを口にすることに何のためらいもない。
その時、教室のドアが吹っ飛んだ。
「相良ぁ~」そう言いながら飛び込んできたのは、確か空手同好会とかいうクラブの会長をしている椿君だ。
「くそぅ、逃げまわりやがって。Aクラスから順番に探していたら、余分に30人も倒しちまったじゃねぇか」一番近くにいた須川君の胸ぐらを掴んで怒鳴っている。
「つまり全く無関係の30人を殴り倒してきた訳ね、椿君は」千鳥さんが呆れたように言った。
「全く迷惑な男だ」
「第三者面してんじゃないわよ。あんたが原因なんだから何とかしなさいよ」
「いや、俺は相良じゃない、須川だ」須川君が怯えたように言った。
「むっ、すまんかった」椿君は顔がくっつくほど近づけて確認して人違いだと分かったようだ。
「相良ぁ、女子の制服なんか着て隠れようなんて、どれだけ卑怯なんだお前は」椿君は今度は美波の胸ぐらを掴んで言った。ドラゴンの尻尾の上でブレイクダンスしてますよと忠告してあげた方がいいんだろうか?
「なに訳のわからないこと言ってるのよ。相良はあっち。ウチは立派な女の子よ」美波が怒鳴った。
「嘘をつけ。スカートはいていてもその胸ですぐに・・・・・ギャア」美波の飛び付き型腕ひしぎ十字固めが見事に決まった。忠告する暇すらありゃしない。
「初対面でどんだけ失礼なこと言ってるのよ、あんたは」今日の美波の関節技のキレはいいようだ。
「わかった、わかった。お前は女の子ということにしておいてやる」
「まだ余裕があるようね。関節があと何cm持つかしら」美波が更に締めあげた。
「いえ、女の子です。立派な女生徒です。タップ、タップ、タップ」
「一体あいつは何がしたいのだ?」相良君が不思議そうに言った。
「椿君もいいかげんにメガネかければいいのに」千鳥さんも呆れたように言った。どうやら椿君はかなりのド近眼らしい。それでも区別がつく美波の胸って・・・・・いけない、これ以上考えてたら美波に思考が伝わってしまう。最近の美波は気配まで読めるのだ。
「それよりさっさと何とかしなさい。椿君も含めて色々と被害が増えるから」千鳥さんが相良君を前に蹴り出した。
「おい、椿。俺はここだ」相良君が西部劇の主人公のように颯爽と言った。
「相良ぁ~、Fクラスなんぞに隠れてやがって、お前を見つけるのに俺がどれだけ苦労したと思ってやがる」
「いや、普段のソースケ見ている椿君が、なんで宗介がAクラスにいると思ったのかが不思議なんだけど。最初からFクラスに来れば30人も無駄な犠牲者を出さなくて済んだのに」千鳥さんが小首を傾げながら言った。どうやらまだお嬢様にこだわっているらしい。
「その通りだな」
「Fクラス以外ないだろう」
「一人Gクラスでもいいくらいだ」とクラスの連中が言っているが、自分たちもFクラスということを忘れているんじゃないのだろうか?
「そこまでこいつがバカだとは思わなかったのだ」椿君が言った。確かにその通りだとは思ったのだが、同意してしまえばブーメランとなって自分に返ってくる。
「そういうお前はどこのクラスなのだ?」
「Eクラスだ」
「大して変わらんだろう」
「そんなことはどうでもいい。今日こそ決着をつけるぞ」椿君が構えた。相良君も腰を落として身構える。
「どおりゃあ~」椿君が飛びかかろうとした瞬間、相良君が背中に手を回して銃のような物を取り出すと椿君目がけて撃った。
「ボスッ」鈍い音がして椿君がうずくまった。
「ボスッ、ボスッ」更に追い打ちをかけるように立て続けに2発撃つ。
「どうやら勝負あったようだな」相良君が椿君に近づくと、足先で白目を向いている椿君を仰向けに転がした。
「念のため、もう2~3発喰らわしておく・・・グワッ」もはやFクラスの風物詩となりつつある千鳥さんのハリセンが相良君の後頭部に炸裂した。
「何をするのだ、千鳥」相良君が振り向いて言った。
「何をするのだじゃな~い!!毎回毎回、どんだけド汚いのよ、あんたは。相手は素手なんだから正々堂々と素手でやり合いなさいよ」
「そんな馬鹿な素手でやりあう戦闘など聞いたことがな・・・グワッ」
「だから、これは戦争じゃなくて決闘、ケンカ、ストリートファイト。素手でやり合ってこそ「漢」と書いて「おとこ」と読むってもんじゃないの」どうでもいいが、この人生徒会副会長だったはずなんだけどケンカを推奨していいものなのだろうか?
「君が言ってることは、全くわからないのだが心配はない。これは暴徒鎮圧用のショットガンで、硬質ゴム弾頭だから当たりどころが悪くない限り死ぬことはない」
「それは当たりどころが悪かったら死ぬって言ってんのよ・・・・・クヌクヌクヌ」
「ククク・・・・・」ガウルン君の笑い声が響いた。
「何がおかしいのよ」
「こいつの言う通りさ。どんな相手でも過小評価はしない。勝つためにはどんな手だって使う。それが戦場で生き延びるコツだ。俺たちはそうやって生き延びてきたんだ、愛してるぜカシム」
「あんた、もう自分の設定忘れてんのね」千鳥さんが呆れたように言った。