騒動が終わって相良君が周囲を見渡しながら秀吉に尋ねた。
「おい、木下」
「どうしたのじゃ、相良?」
「気のせいかも知れないが、俺と千鳥の席の周囲に2mほど空間ができているような気がするのだが?」
「まあ、愛の形はいろいろじゃからのう。クラスメイトも気になるのじゃろう」
「君は何を言っているんだ?」
「例えば、ああいうことじゃ」と秀吉が美波の方に顎を振った。
「お姉さま~、美晴は会いたかったですぅ。探しちゃいました」いきなり教室に飛び込んできた女生徒が美波に抱きついた。あれは確か清水美春さんとかいう子で美波を(女生徒して)大好きな、あまりお近づきになりたくない子だ。
「だから離れなさいって言っているでしょう、美春」
「Aクラスから順に探していたら遅くなってしましました。まさかお姉さまが、こんなゲロ野郎どもの巣窟にいらっしゃるとは思わなくて」
「ウチもそのクラスの生徒なのよ」
「大丈夫です。美晴はどれだけお姉さまが馬鹿でも愛せる自信があります」
「ウチの点数が悪いのは、まだ日本語に慣れてなくて問題文が読めないからなの。こんなナチュラルに馬鹿な連中と一緒にしないで頂戴」
どうも二人で競うようにしてFクラスを貶めているようにしか思えない。
「木下、Fクラスを馬鹿にするのが愛の形とやらなのか?」相良君が不思議そうに尋ねた。
「いや、そうではなくて見ていればわかるのじゃ」秀吉が言った。
「とにかくどうでもいいからウチに抱きつくのは止めなさいって何度も言ってるでしょう」
「いやです。この胸にスリスリした時に洗濯板のように頬に当たる肋骨の感触はお姉さま以外にはいません」
「あんた、実はウチのこと馬鹿にしているでしょう」
「お姉さまのお言葉とは言え心外です。美春は心からお姉さまを愛しています。「貧乳は希少価値だ。ステイタスだ」と昔の人も仰っておられます。お姉さまは貧乳を誇るべきなのです」
「貧乳言うな。あんたとは一度真剣に話しあう必要があるわね」美波がマジで切れる5秒前のような顔をして言った。一応、女生徒相手には自制心が働くようだ。同じセリフを男生徒が言っていたら、何のためらいもなく2秒で両腕の関節が折られているところだ。
「だからウチは女には興味がないって言っているでしょう」
「喰わずぎらいはよくありませんわ、お姉さま。女には女にしかわからないことがあるのです」
「相良よ、ここからじゃ。よく聞いておくがいい」秀吉が重々しく言った。
「うむ」相良君も心なしか緊張した面持ちで答えた。
「だからウチに女はいらないの。ウチは男の子が好きなんだから」
「おい、島田のやつクラス中に男好きを公言したぞ」
「だが、ぜんぜんお得感がないな」
「まあ、しょせん島田が男好きだろうが女好きだろうが、どうでもいいというか・・・・・」
「うるさいわよ、あんたたち」美波が睨んだ。とたんに連中が黙った。そりゃ新学期早々関節を折られたい奴はいないだろう。
「お姉さまの言いたいことはよくわかりました」
「やっと、わかってくれたのね」美波がホッとしたように言った。
「つまり、あの吉井明久のブタ野郎をブチ殺せばわたしのものになってくれるんですね」
「ちょっ、ちょっと待って、清水さん。今の会話の中に吉井の「よ」の字も出てこなかった気がするんだけど」僕は焦って叫んだ。何しろこの人はやるったらやる人なのだ。
「ふん、ブタ野郎に解説するも時間の無駄ですが、特別に解説してあげますわ。お姉さまと美春の間には愛のホットラインが繋がっていて、お姉さまの考えていることがビビビッと美春の脳に直接伝わってきますの」
「いや、それ受信しちゃいけない毒電波だから。とりあえず僕は抜きにして二人だけで話あってくれないかな」
「わからん。吉井を殺すことが愛の形とやらなのか?だが、木下。戦闘行為で民間人を殺すのはハーグ条約で禁止されているのだが」相良君が言った。
「いや、ちょっと想定外の方向に話が進んでいるのじゃ」珍しく秀吉がうろたえるように答えた。
「どうも愛というのがよくわからん」相良君が顎に手を当てて考え込みだした。
「ふふふ、いつもいつもわたしとお姉さまの愛のコリーダを邪魔するブタ野郎を始末してやるです」僕の方を振り向いた清水さんの右手にはいつの間にかランボーが持っているようなナイフが握られていた。
「ほう、スミス&ウェッソンのコンバットナイフではないか。だが、女生徒にあの長いエッジのナイフが使いこなせるのか?」相良君が妙な感心をしていたが、そんな感想を抱く暇があったら清水さんを止めて欲しいんだけど。
「ロンリー地獄ツアーに出かけるがいいです」清水さんは迷うことなく、僕の心臓に向かってナイフを突き出してきた。僕は危うくそれをかわした。
「往生際が悪いゲロです。手間をかけるのではないのです」清水さんの更にすばやく2~3回突き出してくる。
「ほう」相良君が感心したように声を上げた。
「どうしたのじゃ相良」秀吉が尋ねた。
「いや、あの女生徒。かなりのナイフ格闘のプロだな」
「わかるのかの」
「うむ、基本的にナイフ格闘の時には、相手をナイフを持った手の外側に追い込んで行くのだ。内側に回りこまれると腕が交差する形になって射程が短くなるし動きも効かない。それにナイフの刃が横になるように突き込んでいる。刃を縦にすると肋骨に当たって心臓まで届かないことを知っているのだ。あの女、特殊部隊レベルの技術を持っている」
そこから逃げ回っている僕も褒めて欲しいと主張したいところだが、そんなことを言っている場合ではない。
「ちょっと美波、清水さんを何とかしてよ」僕は美波に叫んだ。
「あ、つい見とれてたわ。こら美春止めなさい」美波が清水さんを羽交い絞めにして止めた。
「お姉さま、どうして止めるのです。美春は2人の愛の障害をどけようと・・・・・」
「全く、愛を語るなら二人だけでやってよね」僕は美波に抗議した。
「愛じゃないって言ってんでしょう」美波が怒鳴り返してきた。
「木下よ。つまりは結局何なのだ?」相良君が秀吉に聞いた。
「まっ、まあ。愛にはいろいろな形があるということじゃ」秀吉が汗をかきながら答えた。
「ううう・・・・・」相良君にショットガンを叩き込まれた椿君が息を吹き返したようだ。
「大丈夫ですか?あんまり無理しない方が・・・・・」心配して付き添っていた姫路さんが言った。
「うるさい。俺に構うな」椿君が立ち上がろうとしてバランスを崩し、姫路さんの方に倒れかかり、無意識に伸ばした手が姫路さんの胸を掴んだ。
「キャア~!!」姫路さんが思わず繰り出した見事なアッパーカットが椿君の顎を捕らえて椿君の体が1mほど吹き飛ばされた。
「おい、椿が吹き飛んだぞ」
「あれはタイソンでも確実にノックアウトだな」
「姫路のバストは魅力だが、あれは喰らいたくないな」
「椿に懲罰を加えたいところだが、これ以上やると確実に死ぬな」Fクラスの連中が好き勝手を言っている。そんなことを言っている場合じゃないだろうに、男だったら命をかけても姫路さんのバストを・・・
「アキ、遺言があったら聞いてあげるわよ」いつの間にか後ろに回っていた美波が清水さんのナイフを僕の首筋に当てていた。
「なっ、何を言うのさ、美波。僕は純粋に椿君の心配をしているんじゃないか」いけない、美波が気配を読む技を習得しているのをすっかり忘れていた。命が惜しければ余計なことを考えるな僕。
「ふむ、あの女生徒の近接格闘術も特殊部隊レベルだな。Fクラスというのは、なかなかに素晴らしい人材が揃っているようだ」相良君が感心して言った。
「おい、この椿ってのは超実践空手を標榜して空手部を半殺しにした空手同好会の会長じゃなかったのか?」雄二が言った。
「確かそのはずだけど・・・・・」僕が答えた。
「その最強の男が、うちの女生徒2人に手もなく捻られているんだが。こりゃあ、試召戦争じゃなくて直接戦闘の方が俺たちに有利だな。学園長のババアに提案してみるか」雄二が真剣に考えこんでいた。