色々とドタバタやっているうちに先生が教室に入って来た。美波が清水さんを廊下に蹴りだし、男生徒がまだ失神している椿君を廊下に放りなげた。
「クククッ、カシムこれから色々とよろしく頼むぜ」ガウルン君が相良君を挑発するように言った。
「貴様が何を企んでいるのかは知らんが、常にこれがお前を狙っていることを忘れるな」相良君が制服の襟を開けてホルスターに入っている拳銃を見せた。
「疑り深い奴だ。俺はただの高校生の山田ガウルンだと言っているだろうに」
「うるさい、お前の言うことなど信用できるか」相良君が怒鳴り返した。
「さてっと」相良君の言葉など聞こえないかのように、ガウルン君が内ポケットから分厚いメガネを取り出してかけた。
「ガウルン、貴様メガネだったのか。AS乗りの視力が悪いのは致命的だな。兵士としてのお前は終わったということだ」相良君が言った。
「ああ、長年ASのパネルを眺めていたせいか、最近本の細かい字が読みづらいんだ」ガウルン君が答える。
「あんたねぇ、それは単なる老眼。17歳の高校生じゃ絶対にあり得ない年寄りの目の衰えなの」千鳥さんが呆れたように言った。
「ほう、日本にはそういう風土病があるのか」
「日本だけじゃなくて世界中でそうなの。いいかげんに高校生という設定は諦めて、せめて先生として赴任して来なさいよ。というか日本人って設定どこ行ったのよ」この2人は何の話をしているんだろうか?
「では、教科書の4頁目を開いて・・・・・」先生が言った。今日の1時間目は古文だ。
「『少年老い易く學成り難し。一寸の光陰輕んず不可ず』。相良、これの意味を言ってみろ」先生が無謀なことを言った。
「はい、『老いた少年は安いが、学という名前は珍しいので高く売れる。ちょっとの光は軽くて測れない』という意味であります」相良君が自信満々に答えた。
「一体、どうやったらそんな脳が腸捻転起こしたような解釈ができるんだ?」先生は怒りを通り越して感心しているようだ。
「フフフ」ガウルン君が失笑する。
「何がおかしい、ガウルン」
「静かにしてくれないかね、相良君。先生のお声が聞こえないんだが」ガウルン君が言った。
「「ハアッ?」」千鳥さんと相良君が同時に叫んだ。
「ちょっ、ちょっとどうしたのよ、あんた」千鳥さんが尋ねた。
「ん?僕が何かおかしいことを言ったかな、千鳥かなめ君?相良君が少し騒がしいようだったから注意をしただけなのだが」ガウルン君がメガネの真ん中を持ち上げながら言った。
「おかしいもおかしくないも、全然キャラ変わっているじゃないの。あんた本当にガウルンなの?」というか、メガネをかける前は野獣のような風貌だったのが、今や知性まで感じさせる顔に変わっているんだけど。人間の進化というのを目の当たりに見た気がする。
「ガウルン、しっかりしろ。俺が誰だかわかるか」相良君が言った。
「同じクラスの相良宗介君じゃないか。僕の記憶に何か間違いがあるのかな?」
「いや、それは間違いではないんだが・・・・・何かが間違っている」相良君が言葉に詰まりながら答えた。
「あんた、本当にガウルンなの?」千鳥さんが疑り深そうな目で尋ねた。
「ハハハ、おかしな事を言う子だね、君は。僕はちゃんと本田ガウルンだよ」
「山田、山田。いいかげんに設定固めなさいよ」千鳥さんが小さな声で注意した。
「そうそう、その山田ガウルンだ。どこも変わったところはない」
「いやいや、ビリー・ミリガン並に人格が変わってるわよ。ソースケ、これあんた達が使う何かの技なの?」
「いや、奴のこんな態度は見たことがない。俺を油断させるつもりだろうか?」
「ああ、お前たちうるさいぞ。転校生の山田、今のところの意味を言ってみろ」先生が言った。
「はい、『少年老い易く學成り難し。一寸の光陰輕んず不可ず』とは、『若いうちはまだ先があると思って勉強に必死になれないが、すぐに年月が過ぎて年をとり、何も学べないで終わってしまう、だから若いうちから勉学に励まなければならない』という意味です。ちなみにこの言葉は長らく朱蒙の『偶成』という漢詩が出典だとされていましたが、近年の研究によって観中中諦の『青嶂集』が出典であるとする説が主流となっております」うん、ガウルン君が何を言っているのか全く理解できない。
「ほう、よくそこまで知っていたね」先生が感動の面持ちで言った。
「いや、聞きかじりの知識をお披露してしまいお恥ずかしい限りです。昔、中国の古典に興味があって、いろいろと読みあさっていたものですから」
「いや、素晴らしい。みんなも山田君を見習うように」
「過分なお褒めの言葉を頂き恐縮です」ガウルン君が頭を下げた。
「ねぇ、誰なのこの人」
「いや、ガウルンなはずなんだが・・・・・」
「なんでこうも変わるのよ。全然別人じゃないの」
「いや、俺に聞かれても困るんだが。さっきと奴が変わったところと言えば・・・・・」相良君が答え終わって正座で座ったガウルン君のメガネを外した。
「いきなり何をしやがる、カシム」獣の顔に戻ったガウルン君が言った。
「普通だわね」
「普通だな」再び、相良君がカシム君にメガネをかけた。
「全く、いきなり人のメガネを取るなんて、無礼だとは思わないのかね。どんな躾を受けてきたんだね、君は」メガネを直しながらガウルン君が言った。うん、Aクラスにいてもおかしくない理知的な顔つきになっている。
「なんかメガネかけると変なスイッチが入るみたいね」
「奴にこんな一面があったとは・・・・・」
「君たち、授業中の私語は慎み給え。他の人達の勉学の邪魔だよ。まさに先生が仰った『少年老い易く學成り難し。一寸の光陰輕んず不可ず』そのままじゃないか」ガウルン君がメガネを光らせながら、千鳥さんと相良君に注意をした。
「言われていることは正論なんだけど、何でこんなに腹が立つのかしら」千鳥さんが拳を震わせながら言った。