皆が席についた頃、担任と思われる体格のいい男性が教室に入ってきた。
「やれやれ、今年も大変なクラスを持たされたもんだな」男はつぶやいた。
「げっ、担任は鉄人かよ」
「先生、卑しくも教育者がそういう発言は如何かと思います」鉄人と呼ばれた教師に一人の生徒が発言した。
「ほう、なかなかいいことを言うじゃないか吉井。お前が観察処分者でなければ納得するところだ。お前が一番手がかかりそうだということを覚えておけ」
何という教師だろう。生徒の真摯な意見を一蹴してしまったと吉井明久は思った。
「確かに周囲の連中を見ていれば手がかかりそうだという先生のご意見には同意致します」宗介がうなずきながら言った。
「分かってもらえてありがたいが、お前は別な意味で手がかかりそうな生徒No.1であることを覚えておけ、相良」
「お言葉ではありますが、先生。自分は無遅刻無欠席、予習復習を欠かさず、品行方正で生徒会安全保障担当補佐という重責を担っている学生の鏡と言ってもいい生徒であると自負しております」
「我が国では、転校してきて半年で校舎破壊3回、靴箱爆破4回、校舎内での銃乱射46回、他校生徒の訪問者脅迫16回を起こすような生徒を品行方正とは呼ばん」
「必要な措置であったと思っております」
「言っておくが学園長が「あのバカの召喚獣は面白そうだね」という理由で不問にしていなかったら、お前は既に30回は退学処分を受けているぞ」
「だが、しかし・・・・・」宗介は不満そうであった。
「ああ、どうでもいいからとにかく座れ。ホームルームが始められん」
宗介がしぶしぶと座った時に教室のドアが乱暴にガラっと開けられて、1人の女生徒が入ってきた。
「千鳥・・・・・」宗介がツブやいた。
「おい、千鳥だぜ」
「ジ・アンタッチャブルか」
「なんでFクラスに・・・・・」
教室に苦虫を噛み潰した顔でズカズカと入ってきた少女の名前を千鳥かなめと言った。腰まである長髪の先を水色のリボンで縛った様子は、黙っていればかなりの美少女なのだが、一度行動を起こせば疾風怒濤・傍若無人・暴力体質として「ジ・アンタッチャブル」の異名で恐れられていた。
「ソースケ、そこどきなさいよ」少女は宗介の側に立って言った。
「千鳥何を言っている。横の席が空いているではないか」宗介が首を捻りながら言った。
「あたしは、どきなさいって言っているのよ」
「だが、しかし・・・・・ドウワ」かなめの回し蹴りが宗介の後頭部に炸裂し、ちゃぶ台を超えて飛んでいった。
「フンっ」かなめはそういうと今まで宗介が座っていた席に座った。
「一体、なんなのだ。その席に何かあるのか?」宗介が頭をこすりながら横の席に座って声をかけた。
「別に何もないわよ。あんたに嫌がらせをしたかっただけよ」
「なぜ、俺がそんなことをされなければならないのだ?」
「自分の胸に手を当てて考えてごらんなさい」
「・・・・・いや、やはりわからん」宗介は胸に手を当てて10秒ほど目を閉じてから答えた。
「本当にやられると腹立つわね」
「結局、何やっても腹を立てるのではないか、君は」
「それだけの理由があるのよ」かなめは更に腹を立てた様子で言った。
「・・・・・・」
「あんたねぇ、2年のクラス分けってどうやってやるか知ってる?」
「いや、よく知らんが」
「1年の終わりにテストしたでしょう。あの結果のいい順番からA、B・・・と割り振られるのよ」
「するとFクラスというのは・・・・・」
「そうよ。もう既に人生の負けが決まった敗残者の群れ。先に希望も何もない初老みたいな人生を歩むような連中のたまり場よ」
「ちっ千鳥、少し小さな声で話してくれ」宗介は周囲を見渡して言った。
「なんでよ」
「君の言葉でクラスの半分が悲観の涙にくれて机に突っ伏して号泣している」
「それはマズいわね」
「それにその基準だと俺がここにいるのはおかしい」
「スゴい自信だけど、そんなにテストの点が良かったの?」
「うむ、何を隠そう2/3の科目は二桁得点だったのだ」宗介は胸を張って答えた。
「あんたねえ、テストの点数を桁だけで比べるんじゃないわよ。それに結局1/3は一桁だったってことじゃない。Fクラスの資格十分よ」
「そういう君だって、ここにいるということはあまり成績がよくな・・・・・グワッ」どこから出したのかかなめの手に握られていたハリセンが宗介の脳天に炸裂した。
「あたしはねえ。Aクラス6席の成績だったの」
「ではなぜここにいるのだ?」宗介が頭を撫でながら尋ねた。
「どこかの戦争ボケを一人にしておくと事件ばかり起こすから、見張りが必要だって言われて、学園長と生徒会長の連名で「Fクラス移籍命令」を渡されたのよ・・・・・クヌクヌクヌクヌ」かなめは目の止まらぬハリセンの連打で宗介を打ちのめした。
「まっ、待て千鳥。落ち着いてくれ」
「返してよ、座り心地のいいソファーと気持ちのいいエアコン。たくさんの種類のあるフリードリンク・・・・・・ううう、あたしの青春が」
「いや、フリードリンクが飲みたかったのならファミレスで奢ってやるが」
「そんなことを言ってるんじゃないのよ・・・・・・クヌクヌクヌ」再びハリセンの連打が始まった。
鬼気迫る様子でいつまでも続くハリセンの連打を止められる者は誰もいなかった。