「けっ、やってらんないわよ」千鳥さんは横に寝転がると頭の下に手を入れて肘で頭を支えて半身になって教壇の方を向いた。口にはどこから取り出したのか長い楊枝を加えてピョコピョコさせている。まるでどこかのやさぐれた親父だ。どうでもいいけどこの人Fクラスは嫌だと騒いでいる割には、この中で一番Fクラスに馴染んでいるんじゃないだろうか?
「こほん、Aクラスの試召戦争はともかくとして、各委員を決めるぞ」雄二が場を取り仕切る。
それぞれのクラスメイトがやりたい委員を上げていく。それを書記係に任命された須藤君が黒板に書いていく。
「秀吉は、何委員にするの?」僕は秀吉に尋ねた。
「ワシか。正直言って放課後は部活が忙しいので、休み時間でもできる美化委員にしようかと思うのじゃ」秀吉が答える。
「うん、秀吉に美化委員なんてピッタリだね。衣装も予算で降りるだろうし」
「ちょっと待つのじゃ明久。その衣装というのは何の話じゃ?」
「えっ、だって美化委員って綺麗に着飾ってクラスのみんなを楽しませる委員でしょう。本当に秀吉にピッタリだよね」
「観察処分者以前に、お主が高校に入れたことが不思議でならんのじゃが」
「ねえ、アキ。うちも美化委員にしようと思っているんだけど」美波が言った。
「いや、美波。自覚出来ていれば直せばいいんで、わざわざ委員になる必要はないよ」僕は優しく言い聞かせるように言った。
「何の話をしてるのよ、あんたは?」美波が不思議そうに首を傾げた。
「だって、自分を美化しているのがわかったから美化委員になろうと・・・・・グギュ」美波の見事なチョークスリーパが僕の喉を締め付けた。
「なんでウチが自分を美化してるのよ。木下との違いはなんなの」
「痛い痛い。背中に肋骨がグリグリ当たって・・・・・ギャア」なぜか喉の締め付けが厳しくなった。僕の背中が痛いと言っただけなのに、なぜ美波が怒っているんだろう。
「おい、そこ。じゃれ合うのもいい加減にしておけ。秀吉はマスコットガールでいいんだな」
「ちょっと待つのじゃ。ワシは一言もそんなこと言っておらんぞ。第一そんな委員なぞなかろうに」
「いや、圧倒的多数からの推薦があってな。俺も止めきれんのだ、すまん」雄二が言った。
「しょうがないよ、秀吉。適材適所って言うじゃないか」僕は秀吉を慰めた。
「あ、それと明久。お前もアキちゃんとしてマスコットガールな」
「そのアキちゃんって誰?」僕は叫んだ。
「そうだな。吉井だと正直吐き気がするが、アキちゃんならいい」
「アキちゃんだけでいいくらいだ」
「吉井は追い出せ」
何やら僕の存在を否定する発言が、教室のあちこちから聞こえてくるような気がする
「ムッツリーニはどうする」雄二が尋ねた。
「・・・・・俺は保健委員・・・ウッ(ブシュー)」
「ムッツリーニが鼻血を吹き出したぞ」
「一体何が起きたんだ?」教室は大騒ぎになったが、僕にはムッツリーニの思考がトレースできた。
「姫路さんは体が弱い→保健室に行くのに手を貸す→姫路さんの体に触れる→鼻血」
さすがの想像力だよ、ムッツリーニ。だけど想像だけで鼻血を出すんじゃ、本当にそんな場面になったら姫路さんより先に君が保健室に運ばれると思うんだ。
「相良はどうだ」雄二が相良くんに尋ねた。
「俺か?俺は・・・・・」相良くんが言いかけたのを姫路さんが手をヒラヒラさせながら遮った。
「ああ、ダメダメ。ソースケはゴミ係って決まってるの」
「だが1年の時は、俺はずっとゴミ係だったのだ。俺の特技を生かして、もっとクラスに貢献できる委員があると思うのだ、千鳥」
「本人もああ言ってるんだ。とりあえず意見を聞いてみようや」雄二が言った。
「あっ、そう。じゃ、ご自由にどうぞ」千鳥さんが楊枝をピコピコさせながら言った。どうでもいいが、完全に親父だな、この人。
「で、相良。なんの委員になりたいんだ」
「俺に向いているのは風紀委員だと思うのだ」
「うむ、どういう理由でだ」
「正直今の風紀委員のやり方は生ぬるい。俺が風紀委員になったら、校庭の一角に営倉を作り、高さ3mの金網と有刺鉄線。24時間警護で軍用犬とMPで警護する。校則違反や遅刻者は問答無用で懲罰房に叩きこみ、校内の治安風紀を守るのだ」
「補習室が天国に思えそうな施設だな」雄二があっけにとられて言った。
「ほら。言わないこっちゃない。この男は並みの戦争ボケじゃないのよ」千鳥さんが言った。
「ああ、相良。ほかにやりたい委員はないのか?」雄二が話題を変えるように言った。
「うむ、図書委員などもいいな。かねがね、この学校の図書の蔵書には不満があったのだ」
「ああ、言ってるが、どうだ千鳥」どうやら雄二は相良君のことは千鳥さんに聞くことにしたようだ。
「図書館の本が全部、武器や兵器、戦史なんかに変えられるわね」千鳥さんが答えた。
「なにぃ、美少女文庫が図書館からなくなるのか」
「そんなもん置いてある図書館はないぞ」
「二次元ドリーム文庫なら大丈夫じゃ?」
「もっとハードル高いわ」あまり書いてる人の読書傾向をバラさないで頂きたいものである。
「相良、他にないか?」雄二が尋ねた。
「園芸委員なども興味深い」
「千鳥、どうだ」
「嬉々として学校中の花壇に地雷を埋めて回るわね。勢い余ってグラウンドにも埋めちゃうかも」
「相良、他に・・・・・」
「これもダメなのか・・・・・正直一番自信があるのは体育委員なのだが」宗介は不満気な様子で言った。
「千鳥、さすがにこれは大丈夫だろう」雄二が千鳥さんに尋ねた。
「坂本、うちのラグビー部って知ってる?」
「ああ、最凶最悪のならず者集団って有名な連中だろ」
「今はね。でも去年までは連戦連敗、花とケーキを愛するリリカル集団だったのよ」
「あいつらがか?でもなんでそれが変わっちまったんだ?」
「あんまり負け続けるんで、次負けたら廃部って言われて生徒会に泣きついてきたのよ。それでコーチとしてソースケが派遣されて一週間の合宿をしたわけ」
「ふむ、それで?」
「合宿前は蜘蛛が怖いって逃げまわっていた連中が、合宿後はタックルで倒した相手の顔を踏みつけて唾を吐きかけて「ちっ、殺し損ねたぜ」と捨てゼリフを吐くようになったわ」
「悪質な洗脳だな」雄二が唸った。
「ねえ、ソースケ。あんた体育委員になって何すんの?」かなめが尋ねた。
「うむ、1年間という短い期間だからNavy SealsやSAS、デルターフォースレベルまでは無理だが、習志野空挺団やフランス外人部隊第一空挺師団レベルにまでは鍛えあげてみせよう」
「だそうよ。頑張ってね」かなめが人事のように言った。
「相良」
「なんだ、坂本」
「いろいろ考えて検討した結果、お前にはゴミ係をまかせようと思う」雄二が爽やかな笑顔で言った。