華麗なる戦車道一族 まほチョビエリみほバミューダ愛里寿その他戦車道乙女の家族計画 作:光森 千影
高校戦車道OGの間ではベビブームが巻き起こっていた。
「Oh! pretty baby! ……デイジィ、よく頑張ったわね」
産婦人科のベッドで小さな赤子を抱き、乳を与えるダージリンと、赤子の頭を優しく撫でるケイ。
慈母と、優しい父と、一粒種の娘との美しい聖家族の一コマ。
「ねぇ、ケイ」
「なぁに?」
「この子が2歳になったら、次はあなたの番よ」
「オッケーオッケー、私、デイジィの赤ちゃん産むわ。……男の子がいいかなぁ」
「法律が変わって、妻側しか子供を産んでいけないなんてことにならなければいいけれど」
「No problem! 何のための同棲婚よ、どっちも子供を生めば人口減がストップするわ!」
「……女に産まれて、よかったわ。ケイ」
「……私もよ、デイジィ」
お乳をのませるために、大きくなった胸をはだけたままのダージリン。
ケイは彼女の首筋に、そっとキスをした。
英国流子育て? 米国流子育て? そんなものはどうでもいい。
ケイとダージリンの二人で精一杯の愛を注いで、育てていこう。
二人は肌を寄せ合いながら、そう、固く誓い合った。
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「福田、大丈夫か」
「はい、大丈夫であります……」
「難産だったな。……すまない」
「隊長、お言葉ですが、自分はもう西であります……」
「そうだったな。すまん、定子」
保育器に入った赤ちゃんに会えるには、もう少し時間がかかりそうだ。
両親を説得し尽くして福田を娶り、絹代の細胞を採取・培養・受精させして無事に妊娠したが……135cmの身体には大きな負担がかかった。
絹代は自分が産めば良かったと後悔したが、そこまでは両親を説得できなかった。父親が子供を生むのはいかがなものか、と。
出産は難産となり、帝王切開。
こうして、喋れるようになるまでにも3日かかった。
「名前は……どうしようかな」
「竹のように成長し、一番になる。どうでしょう」
「えーと、それはご先祖様に畏れ多い。ちょっと考えよう」
「はい! あ、んん……」
絹代がベッドで横になったままの元福田の頬をそっと撫でると、彼女はちょっとだけ甘い吐息を漏らした。
「西……絹代……定子……竹……一」
今頃、親は宮様に名付け親をお願いしてる頃だろうが、自分たちでも名前を考えておきたい。
ベッドの横の椅子に座る。
疲れて寝息を立てはじめた定子の横顔を見つめながら、自分たちの愛の証の名前を、静かな気持ちで考え続けていた。
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「おぎゃぁ! おぎゃぁ!」
「おぎゃぁ! おきゃぁ!」
安斎千代美は夜昼問わず泣き続ける2人の赤ちゃんの世話で手一杯。
おしめを変えてお尻を拭き、母乳を与えて寝かしつける。
ひととおり終えて眠りに付こうとすると、こんどはもう1人の赤子が泣きはじめる。
「あ、あと3時間で、みほと交替でき……る……」
そのとき、静かに襖が開き──そこには、寝間着姿のベージュ髪の女が立っていた。
「千代美さん、もう大丈夫ですよ。みほと交替まで私がやりますから、向うの部屋で休んでてください」
「逸見……お前、大丈夫か?」
「千代美さんやみほよりはよっぽど元気ですから……。
お乳は出ないけど粉ミルクは作れるし、おしめを変えるのも完全に覚えました。さぁ、休んできて、千代美さん」
「ありがとう、エリカ……」
ふらふらと部屋を出ていく西住千代美を見送り、エリカが赤ん坊をあやしはじめた。
普段はめったに見せない、明るい、底抜けに明るい笑顔で。
「ほーらちほちゃん、泣いちゃだめよー。おばちゃんがいいこいいこしたげるからー。
あ、エミはちょっと待ってねー、泣かないの泣かないの、パパがすぐ抱っこしてあげるねー」
正直、自分の事を「パパ」と呼んでいいのか迷っていたエリカだったが──、割り切った。
ママが二人いても子供が混乱するだけだから。
(隊長は子育て苦手だからなぁ……ちゃんと覚えてもらわないと大変だけど、私と千代美さんとみほとで、三人がかりなら……)
「おぎゃぁ! おぎゃぁ!」
「はーいなかないの、おちっこでちゃった? うんうんでちゃった?」
逸見エミが泣き始めた。ああ、これはおむつの交換かな?
赤ちゃんのおむつに顔を近づけてちょっと匂いをかいでから、布おむつを手に取る。
おむつカバーを取ると……ちょっと不思議な匂いがする……。おしりを綺麗に拭き、慣れた手つきでおむつをかえる。
(菊代さんやお義母様は、まだ二十歳になる前から……隊長やみほのおむつ、変えてたのよね……)
おむつをかえ終わって、じぶんの娘をあやしていると、そっと襖があいて……逸見みほがやってきた。
「エリ……あなた、ありがとう……」
「エリカでいいって何度も言ってるわよ。それとも『おまえ』って呼んでほしい?」
ちょっとだけお疲れ気味のみほが、上目遣いにもじもじして、おへその下で指をからませた。
「ちょっと恥ずかしいかな、エリカ……」
「いま二人とも寝たとこ。すこしの間お話しましょうか、いろいろとね」
「うん……」
二つのベビーベッドで眠る、髪の色の違う赤ちゃんを見ていたみほに、エリカがそっと肩を寄せた。
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「アズミ、おめでとう!」
「ありがとう。ごめんね抜け駆けして」
「ううん、アズミが勝ったんだから恨みっこなしだよ……さぁ隊長、次は私の番です!」
「いいえ、わたしです!」
「……ええと、その、まだ、早いと……おもう」
おめでたが分かった島田愛里寿・アズミ夫妻と一緒に暮らすメグミとルミ夫妻が、照れ照れのアリスをサンドイッチして抱きしめる。
「あ、ちょ、恥ずかしいよ……!」
「頑張って育てるから二人一緒でもいいですよぉ」
「細胞サンプルのすり替え手段はばっちりですから、二人とも隊長の赤ちゃん産めますよ!」
「あのー、そのー」
公然と『自分たちの赤ちゃんではなく、愛里寿の赤ちゃんが産みたい!』と言われると……、
そのインモラルぶりについていけない彼女は、さらに頬を赤らめた。
(産まれてきた子が私そっくりだったり、遺伝子検査でバレたらどうすんだろ……)
「大丈夫です! まれに生殖細胞の培養に失敗する女性もいるそうですから……代わりに隊長から種を貰えば……あいたっ!」
「こらメグミ、ちょっとがっつき過ぎよ!」
「って、結婚して出来ちゃったアズミはいいけど、私らにとっては死活問題なんだからっ!」
愛里寿の奪い愛。それは壮絶な戦車戦で決められた。
3日間にわたって繰り広げされたパーシング3両での乱戦は……事情を知った乗員たちと一心同体となり──。
それはそれは鬼気迫る戦いだったという。
勝者はルミとメグミを撃破したアズミ。最後は……愛欲の強さ、本能の強さの勝負だった。
「家族計画はゆっくり考えましょ、家元にバレると面倒だし」
「……隊長、ぜったいに家元には内緒ですよ」
「……うん……」
瞳がぎらぎらする三人のお姉さんに囲まれては……島田流戦車道の天才少女も、ただ俯いてうなづくのが精一杯だった。
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「梓ちゃん……」
「なぁに、紗希」
「……かわいい」
「そうね、赤ちゃんって可愛いね……私たちも昔はみんなこうだったんだよね」
「赤ちゃんも可愛いけど、梓ちゃんも……」
丸山紗希はそっと母と赤子の二人の頭を撫で、ニッコリとほほ笑んだ。
いろいろな経緯を経た結果結婚し、紗希の子供を授かった丸山梓だが……こうして親子水入らずで過ごしていると、こんな幸福な時間は他に考えられるだろうか、という気持ちになってきた。
(あとは、結婚式でのキスと、病院でおめでた、ってわかった時かなぁ……でも、この時間はずっと続くんだ)
紗希のお父さん、梓からみた義理の父も、色々と世話を焼いてくれる。
本当は紗希に子供を生んで欲しかったみたいだけど、まずは妻となった梓が産む。
「この子が大きくなったら、つぎは紗希の番かな」
「……うん」
はにかむ紗希。この顔を見られるのは妻である自分だけの特権。
赤子にお乳を飲ませながら、梓は目を細め、ぽろりとひとしずく、涙を零した。
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「……なんか納得できないけど、ノンナがお父さん、クラーラがお母さん、私が養子……って事で決着したのね」
『Да(ダー)』
相変わらず身長が130cmを超えないカチューシャが、肩を並べるノンナとクラーラの膝の上で寝そべって腕組みをする。
「カチューシャが一生ノンナの赤ちゃんを産めなくなるわよ! それで本当にいいのね!?」
「……カチューシャ様、なんども産婦人科に通いましたが、妊娠は母胎へのリスクが高すぎると、どのお医者様も仰いまして」
「我々がカチューシャを失ってしまったら、生きる望みはありません」
「あなたたち、ときどき喧嘩するけどだいじょうぶ?」
「カチューシャ愛しさゆえの喧嘩ですから」
「ふたりでカチューシャ様を愛することが出来れば、なんの問題も無いのです」
うっとりとした瞳でカチューシャを見下ろす青い瞳と水色の瞳に、小さなカチューシャはちょっとだけ怖気を感じた。
二人が結婚して、自分が養子になったら……その次の展開は目に見えている。
「ノンナ、クラーラ、お願いだからどっちが先に産むかで喧嘩しちゃだめよ! 生殖細胞は凍結しとけば何年でも──」
『同時にカチューシャ様の赤ちゃんを妊娠します!!』
「あ……ああ……そう……なるのね」
声を揃えて自信満々に言い切った二人の大女に、もう何か口を差し挟む元気がなくなってきた。
三角関係が三位一体になるとは、まさか地吹雪のカチューシャも予想していなかったのだ。
「ん、んっ……」
共通項はカチューシャ愛。
カチューシャの同志として、憎しみを愛に変換した黒髪の日本人と金髪のロシア人が、愛娘の上で濃厚なキスを交わし始めた。
(娘の前でセッ……愛の営みを見せつける気満々ね……やるのは私……長女の前だけにしてほしいわ!)
軽い頭痛を覚えたカチューシャがこめかみを抑えると……。
ぽたっ、と、二人の唾液が服にこぼれ落ちた。