ハンターズギルドは今日もブラック【未完】   作:Y=

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真面目な顔してアホなこと言ってます。



Ⅸ 走れナッシェ
プロローグ


 

 

 

 チチチチ…………。

 

 目を閉じても、見えてくるのはどこまでも続くお花畑。

 目を開けても、そこに広がるのは綺麗な花束の海。

 

 

 

 ベッドから身を起こすと、白くて長い髪が見えた。

 髪を切らなくちゃ。

 寝起きの頭でそう思った【白姫】ラファエラ・ネオラムダは、とりあえず一房持ち上げた前髪に、()()()()()()()解体用ナイフを当てた。

 

 邪魔。

 なんと言うこともなく刃を滑らせようとして、ふと、ラファエラはフリーズした。

 

 

 

『か、か、かみ、髪、のっ毛が、長いと、かっこいいくて美しいと思いました、長い髪を結っているの、いいですよね、あ、小並で、す、すまま、すみませ、あ、は、話しすぎて、ご、ごめんなさいねん、ふ、フひっ』

 

 

 

 チチチチ…………。

 

 花園の中で、ただ一人()()()()()男の子は、その目と同じくらいに顔を真っ赤に染めながらそう言っていた。

 

「むむ」

 

 髪が長いというのは、どれくらいのことだろう。

 髪の毛は雑草のように伸びてくる、お花を摘むのに髪の毛が邪魔になってしまうくらいに伸びる、邪魔な髪の毛を切るのはお花を摘むようなもの。

 だって、わたしの髪の毛は白くて綺麗だもの。

 

 伸ばして育てたら良いかもしれない。

 うん、良いこと思いついた。

 昨日も思いついた気がする。

 だって、白くて素敵だもの。

 

「小さなフルフル、白くて可愛いフルフル。…………もしかして、わたしのベイビー? ハルはフルフル、首をふるふる。調合ふるふる。雪が降る。雪は白い。だけどわたしは春がすき。だってハルだもの。おはよう、ハル。うん、いま起きたの」

 

 ぶつぶつと呟きながら、ラファエラは髪の毛をかき上げて、すくっとベッドの上に立った。

 モミジに髪を結ってもらおう。

 きっと可愛い。

 だってモミジは髪が長い。

 髪を結ったら可愛い。

 ハルも大好き。

 かんぺき。

 わたしって天才。

 さて、ここはどこかしら。

 

 ウサギのような赤い瞳をキョロキョロと動かして、小さな顔に空腹の二文字を浮かべながら状況を整理していく。

 ベルナ村の外来ハンター用ホーム、綺麗に整頓された──中身のない──お道具箱、壁に立てかけられた燼滅銃槍ブルーア(ぷりりん)、お花の絵、お花の絵、お花の絵。

 つまり、ベルナ村。

 

 ホームの外に立っている、お花の顔じゃない人。

 団長さんとみた。

 

 ポンポンとテントの壁がノックされる。

 

「おーい! 我らがハンター、起きているかー?」

 

 スチャッ、と床に降り立ったラファエラは、足取り軽くのれんのような入り口へと歩み寄って、バサッと開けて答えた。

 白い髭をたくわえた、壮年の男性。

 団長さんだ。

 

「おはよう」

 

「ああ、おはよう。今日はご機嫌じゃないか。何か良いことでもあったのか?」

 

「うん。ハルが来たの」

 

「春? …………アーッハッハッハッ、さては夢の話だな? お前さん、春はまだ来ないぞ? ちと気が早いな」

 

「…………そうなの?」

 

「ああ。もう少し待てば春が来るさ」

 

 団長さんは、言葉で話をしないと分からないのだ。

 “でりかしー”が足りていない。 

 でも、お花の顔の人ではない。

 

 団長はニコニコと楽しそうにしながら、

 

「それはそうと、お前さんよ、もうすぐ【我らの団】はベルナ村を離れるぞ。明日にはドンドルマに向けて出発するから、やり残していたことがあったら今日のうちにやっておくといい」

 

 それを聞いて、ラファエラは少し考えて、

 

「…………明日?」

 

「ああ、明日だな」

 

「…………ハルは来ないね」

 

「うん? 春はまだ先だなあ」

 

 それを聞いて、ラファエラは手に握るナイフの刃を指でなぞりながら、また少しだけ考えてから団長に向き直り、

 

「うん、それじゃあばいばい」

 

「…………ん?」

 

「がんばってね」

 

「…………んん?」

 

 団長は、白くたおやかな手をフリフリと振るラファエラのことを不思議そうに見て、

 

「お前さんは、この村に残るのか?」

 

「うん。ハルが来るまで待ってる」

 

「春まで!?」

 

 一冬をベルナ村で越すつもりだったとは、と団長は普通に驚いていた。

 元からその予定だったのだろうか、なら一言言ってくれても良かったのに、まあこの子はそういう子だからなぁ、突然決めたという可能性もある。

 全く、誰に似たのやら。

 

「じゃあ、がんばってね。わたしは寝るので」

 

 一方的にそう言い残すと、きびすを返したラファエラは、白く長い髪をふわりとたなびかせながら家の中に戻ろうとして、

 

「そうだ。モミジに髪をやってもらうんだった」

 

 そう言って、一転龍歴院の方へとてくてく歩いていった。

 秋だからだろうか、上は白い長袖のシャツを着ているのに、下は太ももを大胆に露出させたショートパンツだ。

 肌寒さの中に舞い降りた天使に、ベルナ村の人々の目が、男女問わず釘付けになった。

 ショートパンツから伸びる白い美脚が、緑色の草原に映えて眩しく輝いている。

 腰まで届く長い髪は、なるほど【白姫】の称号に相応しい美しさだった。

 

 そんなG級ハンターの不思議な後ろ姿を眺めながら、団長はふむと暫し考えて、ようやくポンと手を打った。

 

「なるほどな、“白雪姫”にも(ハル)が来たのか。雪解けだなぁ、うん」

 

 変なところで察しの悪い団長は、ウムウムと娘の巣立ちを見送る親のような心地で、周りの視線など存在しないかのように歩くラファエラを見送った。

 

 実際に、彼女は周りの人間など見ていないのだろう。

 道行く野菜運びの(あん)ちゃんの見とれている顔も、ムーファから刈った毛を抱える少女の羨望の表情も、彼女には“花”に見えているのだそうだから。

 

「ククッ、ルーキーの奴が聞いたらさぞ慌てるだろうな。…………ここは一つ、アイツには黙っておくか」

 

 いたずらっ子の笑みを浮かべて企む【我らの団】の団長は、早速団のみんなに根回しをしようと行動を開始したのだった。

 

 

 





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