ハンターズギルドは今日もブラック【未完】   作:Y=

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Ⅱ サービス残業不可避の模様
プロローグ


 

 

 ――そこは、久遠の時を生きる生が根ざす神秘の森の、その奥地。

 太古の空気を今に伝え、幾千万の年を不変のまま、ひっそりと静めた息づかいを連綿と繋げてきた、『古代林』の深層域。

 

 蒼白い燐光を発する(いにしえ)の菌類が、ふとした拍子に僅かな胞子を飛ばす。

 地を這う幾筋もの白き根が床や壁を形成し、更なる下層へと広がっていた。

 ふわりと立体的に広がった不思議な空間は、踊るように差し込む仄かな夜明かりが眩しく感じてしまうほどに静かで暗い。

 屋根を支える柱のように太く伸びる古代樹、その枝葉は、厚い雲の肩から顔を覗かせた蒼白い月見を喜ぶかのようにざわざわと揺れている。

 

 森の奥底の暗闇に、縦へ横へと走る数多の植物の根や身体が、古代林の地下で幾星霜の時を紡ぐ大迷宮を形作り、大昔に古代林を住処とした生き物の化石は、旧き面影を残しながらも流れ続ける時間の波から取り残され、寂しげに埋もれていた。

 

 

 露わになった断層の横縞から、ポロリと赤い砂が落ちて、灰色のパーツが幾つも結合したような形の雲が音もなく動き、中天の月を覆い隠す。

 ほわり、ほわりと浮かぶ胞子が、虫のいない草むらへと飛び込んだ。

 

 古代樹の枝から落ちてきた一枚の葉が、カサリと小さな音を立てる。

 厚い雲の上から再び顔を出す純白の月が、幾重もの暗い雲を青く照らし出し、そよ風が静寂に包まれる森の中を通り抜けた。

 

 何者にも侵される事なく、長い時間をかけて大自然の神秘が織り成した生態系の聖地に、無言の緊張が走る。

 

 そうして、舞台は整えられた。

 

 

 

「――グァァ……」

 

 太い筋肉と荒々しく重厚な甲殻に覆われた強靭な脚部が脈動し、柔らかな大地を踏みしめる足の鋭い爪が白く苔生した木の根をえぐり出す。

 吐き出す獣の息づかいは血に飢えて、巨躯が身動(みじろ)ぎするたびに鋭い体表が触るもの全てを傷つけた。

 紅蓮の体躯に走る幾つもの古傷には、自然界の絶対強者へ成り上がった者としての矜持がにじみ出る。

 ミシリ、ミシリ、グワシ、グワシと大地を(きし)ませ、古代林の深層へと入り込んできた彼は、やがて、ゴツゴツとした頭部で白い菌糸の壁を突き破りながら、木の葉の間を通って降り注ぐ木漏れ日のような月光の下に、その威容を堂々とさらけ出した。

 

「…………」

 

 せり出した甲殻の上、ギラギラと輝く鋭い眼光は油断無く辺りを警戒し、他者を威嚇するように尖った重厚な顔面は肉を噛み千切る顎が特に発達している。

 頭部に向かって反り返る黒々とした背熱殻――体温を調節する背中の部位――が青白い光の世界で陰影を作り、全身を支える蹄のような足は万物を砕かんとするかのような凶悪さを秘めている。

 

 何より目を引くのは、全長のおよそ半分に迫らんとする蒼色の尾。

 肉厚で幅広の刃のような鋭いそれは、彼が尾を武器に生存競争へ臨むのであろうことを否が応でも弱者(エサ)に認識させ、怯ませんとするかのような圧倒的存在感がにじみ出ており、雲間より差し込む月の光を受けて不吉に煌めいていた。

 古代林の奥地を侵し、ひっそりとした静けさに無言の騒がしさを、揺るぎなき自然の摂理を与えるそのモンスターを、人は研ぎ澄まされた極太の尾に畏怖を込め、“斬竜”ディノバルドと呼ぶ。

 

 熱帯地方や火山地帯などを主な生息域とするディノバルドは、太古の昔から噴火を繰り返す“ウガディング火山帯”の端に位置するここ古代林へと進出してきた、生態系ピラミッドの王者が一角。

 

「……ゴォ」

 

 しかしながら、月の光が照らす開けた空間へと侵入したディノバルドが帯びるのは、覇者が醸し出す驕慢(きょうまん)などではなく、むしろ、生態系の頂点を争う“敵”の様子を伺い、何時(いつ)如何(いか)なる襲撃を受けようと、万全の体勢で迎撃し、仇の首を噛み千切らんとする、勇敢なる戦士のそれであった。

 

 勝者の傲慢を成すは(おご)りに(あら)ず、真の勝者は、常に臆病且つ大胆に、敵の胸元を切り裂く者なり。

 歴戦の彼は、自然界の摂理を身を持って知り、それに従ってきたからこそ、王者の風格を持ち、今ここに立っているのだ。

 ディノバルドは一瞬の気の緩みをも見せず、必ずいるであろう、自らの相対すべき敵影を探る。

 臆病に神経を張りつめながら、大胆に大地を踏みしめ、本能に訴えかけてくる外敵の感覚に頭を僅かにもたげたとき。

 

 

 

「……なるほど、油断はしないのね」

 

 突然、潜めた息さえ大きく聞こえるような静寂を切り裂き、ディノバルドの背に向かって意味と意思を持つ声が投げかけられた。

 それすなわち、言語と頭脳という武器を持ちながらも、非力で()()()人間――恐らく成人男性――が、生きとし生けるものの王者に向かって、()が高くも接触してきたということ。

 

 弾かれたように振り向く王者ディノバルド。

 その視線の先にいたのは――

 

「……なぜ人は、俺が話しかけても反応してくれないのだろうか。

 個で生きていくモンスターは話しかければすぐに振り向いてくれるのだから、俺の声は聞こえているはずなんだが。解せぬ……。

 やはり、俺が個で生きる孤高の狩人であるからなのだろうか。

 あまりにも圧倒的な力を持ってしまった者は、常に集団から疎まれ、敬遠されてしまうのだから」

 

「もし旦ニャ様が人に話しかけて無視されていると思っているのなら、それは旦ニャ様が話しかけたつもりになってるだけニャんじゃニャいかと、あちきはそう思いますニャ。声ちっさいし。

 あと独白(モノローグ)が冗長ニャ」

 

 ――赤黒い岩に寝そべっているアイルーの背中に腰を下ろす、灼熱色の防具を身に纏った一人の狩人(ハンター)であった。

 

 

 

 

 

 




主人公装備
EXレウスS一式剣士装備
頭部のみキャップ、
スロ5 研磨珠×5

おまもり
攻撃+8広域+10スロ3 友愛珠【2】【1】サポーターなら神おま待ったなし(なお)

なるかみの音鈴の乙鳴
スロ1 友愛珠【1】

発動スキル
広域+2 攻撃【大】 痛撃 南風の狩人 研ぎ師

当小説では、楽譜入力はゲームの通りではありません。


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