ハンターズギルドは今日もブラック【未完】   作:Y=

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オストガロア討伐から二年後……。
こらそこ、ONE PIECE方式とか言わない。

今夜は二話投稿


ⅩⅠ Two Years Later
プロローグ


 

 

 

 かつて、ハンター養成所で講義をしてくれた教官は、HR(ハンターランク)について説明するとき、こんな話をしてくれた。

 

『G級は魔窟だ。普通の人間では到達できない。ごく一握りの、本当に才能あるハンターのみが届く場所。それが、G級だ』

 

 俺は昔、そこを目指して、一度挫折した。

 俺には、何においても才能がなかった。

 調合のセンスもなく、教官に叩き込まれた素振りもまるでだめ、筋が通っていない、センスがない、生き残りそうにない、ない、ない、ない、ないもの尽くしのガキだった。

 

 そんな俺も、同い年のラファエラ=ネオラムダが放っていた、純白の輝きに魅せられて、彼女の隣に立ちたいと必死でもがいて、苦節十六年。

 俺は、G級ハンターになっていた。

 その心境は、若輩者の俺には言葉で表すことは難しい。

 一言で語るにはあまりにも多くの出来事と苦難と葛藤があった気もする。

 言葉を尽くして説明しようとすれば、水中を漂う泡沫のように立ち消えてしまう気がする。

 だけど、G級昇格の許可を得て、【灰刃】の称号を貰って、その気持ちを強いて言い表すのならば、この言葉が適当だ。

 

 

 こんなハズではなかった。

 

 

 

▼ △ ▼ △ ▼ △

 

 

 

 ブーツが土を削り、照りつける日差しを反射した武器が、風を切って飛竜の頭を強打した。

 

「ギャァァァ!?」

 

 禍々しくも悲痛な叫び声と共に、身体の黒ずんだリオレイアが地面へと倒れ込む。

 手に伝わる、頭蓋を砕いた確かな感触。

 ギリギリの状況で、命を懸けて正々堂々戦い続ける、最高の闘争がここにはある。

 

 黒紫色の尻尾が砂山へと勢いよく突き刺さり、びっしりと生えた毒棘が周りに散った。

 

 

 

 “紫毒姫リオレイア”。

 ハンターズギルドが二つ名を与えたリオレイアは、爪や鱗に劇毒を仕込んだ、特別な個体だ。

 通常種を遙かに上回る凶暴性と、強力な火炎や毒による攻撃から、並のハンターでは到底太刀打ちできる相手ではない。

 

 通常のリオレイアは、全身が緑色の空飛ぶトカゲである。

 陸の女王と称されるだけあって、その力は人間を遙かに上回るが、こちらから余計な刺激を与えたり、繁殖期の個体に近づかない限り、積極的な攻撃をしかけてくることはあまりない、比較的温厚なモンスターである。

 飛竜を狩れるハンターというのは、よっぽどのことがない限り、このリオレイアやフルフルの若い個体を狩ることに慣れたハンターを指す。

 

 それに対して、この紫毒姫は、全身に返り血を浴びたような錆びた赤の体色を持ち、体中に猛毒を仕込んで獲物を執拗に追い立て回す、獰猛なハンターである。

 繁殖期だろうがそうでなかろうが、リオレウスのような強い縄張り意識を持ち、同族でない生き物は皆敵とばかりの闘争心に身を焦がす。

 

 下位のハンターは当然、ギルドが許可を出さなければ、上位ハンターも挑むことを禁じられるほどの危険なリオレイア。

 その毒は、通常種のものよりも遙かに強く、ギルドが調合法を公表している解毒剤を服用しなければ、毒を体内に入れてから二分ほどで成人男性が死に至るほど。

 食欲も旺盛、抵抗されようが何しようがお構いなし、旅の竜車も空の高いところを飛ぶ気球船も、紫毒姫の目に入ったが最後、危険極まりない毒の餌食となる。

 

 そんな危険なモンスターが、十数頭にまで繁殖している地域が旧砂漠に存在していることが判明して、ギルドからG級ハンターへクエストが下された。難易度はとても高い。

 複数体の危険な個体を狩るクエストであり、古龍討伐に匹敵する危険性があるとして、熟練したパーティー狩猟が出来るハンターたちを派遣することを、G級会議総議長のエイドスさんが決めた。

 これが、昨日の話。

 

 

 現在。

 

「グ、ァオオォォ……」

 

 ズシン、と身体の芯に響くような地響きを起こしながら、一頭の二つ名リオレイアが地に倒れ伏した。

 闘争心に酔って充血した真っ赤な瞳に生気はなく、ドクドクと流れ出る血は完全な致命傷を負ってしまったことの証。

 この個体も、もうまもなく死ぬ。

 

 周りには、五体分のリオレイアの亡骸が転がっている。

 ここから半径二十キロ圏内ほどを縄張りとしていた彼女たちは、辺りの生態系における揺るぎない王者だった。

 個体で生きるより、群れで生きることを選んだ、厄介なリオレイアたちだった。

 幸か不幸か、リオレウスの姿は見当たらない。

 リオレイアだけが群れとなって生きているところを見る限り、カマキリ型の生態系を持っていたのかもしれない。

 哀れな雄である。

 どこか、親近感を覚えざるを得ない。

 

「ふぅ……」

 

 気を抜かないよう気をつけながらも、思わず安堵の息が漏れた。

 G級に昇格したと言っても、人間の体は脆く弱い。

 このリオレイアの毒を喰らえば、いくら解毒薬があるとは言えど、どうなっていたか分からない。

 辺りに生き物の気配はなく、俺と彼女のワルツに怯えて逃げてしまったものと思われる。

 

 しかし、このリオレイアも運がなかった。

 いくら強かろうと、孤高の最強ハンターである俺に出会ってしまえば最期、死の運命を逃れることなど出来やしない。

 不運(ハードラック)(ダンス)っちまったってやつだな。

 

 

「…………なんて、二年前の俺なら言ってたよなぁ、きっと……」

 

 あの頃は、俺も若かったし、ケツの青いガキのままだった。

 今でもそうだろうと言われればそうなのかもしれない。

 

 当時は、ディノバルドみたいに正々堂々とやり合えるモンスターならばまだしも、紫毒姫みたいな厄介さを併せ持つ強力なモンスターは相手にするには大きすぎた。

 毒持ちモンスターなど、ソロハンターの大敵。

 解毒薬を飲む暇さえ自分で作り出さなければならない。

 モンスターは、特に上位種になって長く生きている個体ほど、自分の毒をいかに効果的に運用するかに熟知している。

 当然、解毒の隙など作るはずもない、動きが鈍ったところをガブリだ。

 ネルスキュラこわい。

 

 ソロハンターは、毒持ちモンスターと戦うときは、一度も毒を食らってはならないのだ。

 その点、紫毒姫などは最悪だ。

 瞳を覗けばキマってる赤紫色のリオレイア、地面に毒びしを撒き散らし、体に触ってしまえば不揮発性の猛毒が肌から侵入して、フラついた瞬間を丸焼きか噛みつきで仕留める。

 そんなモンスターを狩れるまでに強くなったのだ。

 これも、毎日毒テングダケの蒸し焼きや、ニトロダケの味噌汁といったキノコ料理を食べた努力の賜物である。

 人間、頑張れば案外伸びるものだ。

 決して、小麦色の女の子が鍋の中の加熱調理で生み出してしまった混沌茸を食べたからではない……うっ、頭痛が……。

 

 

 

 思えばこの二年間、本当に色々なことがあった。

 ラファエラが家に住み着き、ナッシェが家に住み着き、アナスタシアの家が原因不明の火事で焼けて、そうかと思えばモミジさんにドンドルマギルドへの転勤を命じられ、ドンドルマに来たと思ったらマイホーム予定地にナッシェ達三人が住み着いていた。

 

 ようやくモミジさんの奴隷から解放され、罪を許されたのだと喜んでいたら、ドンドルマの担当受付嬢はモミジさんだった。

 カウンターで再会したあの時ほど背筋に怖気が走ったことはないと思う。

 女性の微笑みというのは、どうしてこう、乳首を心地よく刺激してくるるのだろう。

 

 そんな感じで色々あって、G級ハンターになって約二年が経ち、俺はモミジさん専属奴隷のG級ハンターとして、今日も元気にギルドの家畜(ギル畜)生活を送っている。

 俺も四捨五入したら三十代の男になったが、幸運なことに、体の衰えはそれほど強く感じない。

 

 何を言っているのか分からないと思うが、俺にもさっぱりだ。

 安定の暴虐ぶりに悦んでなどいない。そんなことは断じてありえない。

 クエストの内容が鬼畜になったおかげで、毎日元気に働けているとか、そんなことがあるワケない。

 

 

 俺の周りの人間も、随分と変わった。

 

 あれだけ手の掛かっていたアナスタシアは、涙がでるくらいに献身的な真面目キャラにジョブチェンジして、本当によく俺を支えてくれるようになった。

 素直に師匠の指導を聞き入れてくれていたナッシェは、先生の言うことを聞かない反抗期に突入してしまった。

 そして、訓練所を卒業してから11年もの間、こちらからの問いかけにすら一言も応じなかったラファエラは、かえって困惑するほど俺に甘くなった。

 それは、ある意味ではいい変化だったのだろう。

 変わらなかったこともある。

 ナッシェは相変わらず可愛いままだったし、アナスタシアはアホの子っぷりを遺憾なく発揮する時があるし、ラファエラは未だに意図の読めない行動に踏み切ることがある。

 それらは、状況によって判断は違ってくるが、概ね大した問題ではないのだ。

 

 厄介なことは、俺ことレオンハルトくん、ラファエラ、アナスタシア、ナッシェのG級四人で組んでいるパーティーの中にある。

 戦力の都合上、レオンハルトと別れてリオレイアの“サーチ&デストロイ”に勤しんでいる彼女ら三人は、俺に対する明確な好意を示してくれている。

 俺は、オストガロア討伐からの二年間で、自惚れや勘違いなどではなく、人生最大のモテ期に突入していたのだ。

 これが、目下最大の案件なのである。

 

 最初は喜んでいた。

 俺の努力が報われた、俺の魅力がようやく理解された、そうやって喜んでいた。

 端から見れば、世の男が羨むべきハーレムだった。

 G級ハンターのハーレムとか聞くだけで怖い。

 ぶっちゃけ、美人四人に囲まれ、一人は僕の女王様、三人は僕を好いてくれている、とても調子に乗っていた。

 もうそれはそれは喜んでいた。

 

 最初のうちは。

 今は、最高に頭が痛い問題になってしまっている。

 

 …………断じて、手のかかる案件に悦んでなどいない。

 

 




大連続狩猟って、たぶんこんな感じ。

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