ハンターズギルドは今日もブラック【未完】   作:Y=

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ストーリーを進めろ?
そんなことより一狩り行こうぜ!

お久しぶりです。
新年度ですね。皆さん元気よく頑張っていきましょう。すべては幼女のために。

更新遅れました、ホントごめんなさい。
ダブルクロスその他諸々やってました。
四月からYも諸事情により働きに出ますが、更新速度低下しないよう努めて参ります。


ⅩⅡ モンスターハンター
プロローグ


 

 

 突き抜けるような青い空。包容力のある白い雲。

 大空はいつだって優しくて、残酷で、無慈悲で、誰にでも平等だ。

 クルクルと飛行船のプロペラが回転して、地上のリノプロスの群れを遙か下に見据えて飛び越えていく。

 耳朶をくすぐる風が心地良く、汚れた精神に清らかさを与えてくれるようだ。

 そんな天の柔らかな抱擁の中で、レオンハルトは一人、頭を抱えて力なく横たわっていた。

 

「あれぇ……どうしよう……あれぇ……? 俺、またヤっちゃったのか……?」

 

 ヒーローの意匠で知られる“アスリスタXシリーズ”のマントを勇敢にはためかせつつも、仮面の下の赤い瞳はさながら死んだ魚のよう。

 彼の視線の向こうでは、蒼い鱗を全身に纏った()()()()()()()が、透き通るようなスカイブルーの中を気持ちよさそうに飛んでいる。

 

「全然記憶がないぞ……トぶまで飲んだの何時ぶりだよ……前回のヤっちゃった日以来だよ……このちんぽこ野郎……」

 

 背中を丸めてぶつぶつと呟くその様は、到底腕のいいハンターには見えない。

 さながら、ヒーローのコスプレをしたマダオ(まるでダメなおっさん)だ。

 そんな彼の耳に、平坦さの中に確かな歓喜を乗せた涼やかな声が聞こえてきた。

 

「ハルぅー、一緒に乗ろー? 気持ちいいよー」

 

 背景に溶け込むかのように優雅に羽ばたくリオレウス亜種の背中に、女性版の“鎧裂シリーズ”を身に付けたハンターが乗り、意気消沈のレオンハルトへとしなやかな手を振っている。

 強力なショウグンギザミの誇るコバルトブルーの腕“斬鉄鎌“と、堅牢な甲殻を素材に作りあげた防具だ。

 目に鮮やかな青色のそれは堂々とした風格と気迫を漂わせていて、なるほどトップハンターが着るに相応しいものだ。

 ラファエラの声に、レオンハルトは「落っこちるなよー」と返してから、この世の理不尽に疑問を投げかけた。

 

「どうしたらG級のリオレウス亜種を手懐けるところまで行くんだよ……」

 

 舵取ってるアイルーなんか、涙目で本能的な逃げ腰なのに、脚踏ん張って頑張っている。

 ギルドだって、ラファエラでなかったらあのような行為を許すことはない。

 

 G級序列の一位“【白姫】ラファエラ”と、G級序列二位の“【灰刃】レオンハルト”。

 その差はたった一つでしかない。

 頂点に座す彼女に最も近いハンターは自分だ。

 だというのに、どうしてこんなにも遠いのか。

 

 

 処女雪のような長い白髪をたなびかせながら、何一つ束縛するもののない青空を自由に舞うラファエラは、さながら夢の中ではしゃぐ乙女のようだ。

 その心の汚れなきこそが、彼女と自分との差なのだろうか。 

 

「汚れちまった、悲しみに……」

 

 レオンハルトは虚ろの瞳に悠久の空を映しながら、久しぶりの自作ポエムに挑み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「――どうしてこうなったんでしょうか……」

 

 同じ頃、“火の国”へと向かう気球船の上で、四つん這いになったアナスタシアが、この上ない絶望感に打ちひしがれて、虚空観察にせいを出しながらしくしくと泣いていた。

 

 床に置いた三枚の羊皮紙の一枚目には、『獰猛化アグナコトル等の狩猟』の文字が踊っている。

 詳細を見れば、アグナコトルやブラキディオス、ヴォルガノスが縄張り争いをしている余波に、火の国は恐怖のどん底に落ちているといった内容が叙情的につらつらと書き並べられた後、『ハンターズギルド所属のハンターならば云々』と、やや上からの目線を感じさせる調子で討伐依頼が綴られている。

 報酬金は、依頼の難易度に比べてかなり塩辛い。

 

 一枚紙をどければ、切羽詰まった感じで、『早く腕のいいハンターを云々』と書かれている。

 報酬内容は一枚目よりも随分上がっていて、相場より少し高いくらいか。

 

 最後の羊皮紙を見ると、『お願いします早く助けて姫様がなんでもしますから』とだけ書かれている。

 報酬は『言い値』だ。それでいいのか火の国。

 ここまで酷いクエストは見たことがない。

 これでクエスト達成者がいないというのだから、状況はさらに悪化している可能性もある。

 

 G級ハンターに上がってくる依頼というのは、上位ハンター二人以上が大怪我を負うか、行方不明または死亡確認となってからというものが大半だ。

 残りは、現地の被害があまりにも甚大である、または甚大になる可能性が大いに高く、早急な対応が求められる場合だ。

 今回は前者である。

 控えめに言って最悪だ。

 

「いったいどうして、こんな危険なクエストに、私とナッシェの二人で行かなきゃいけないんですか……」

 

「アナ先輩、それは私たちが誉れ高きG級ハンターだからですよ。自覚が足りてませんね。しっかりしてください」

 

 ふと、床にひざを突くアナスタシアの横で、簀巻きにされた星座仮面のハンターがやれやれといった風に言葉を発した。

 

「……お前がワケの分からない意地を張らなければ、こんなことにはならなかったでしょう」

 

「別に? 私が先生にこの上ない寵愛を受けているという事実に依拠した行動をとったまででございますのよ、痛い痛い痛い!」

 

 ナッシェの仮面を引っ剥がして得意げに膨らむ小鼻をつまみあげていたアナスタシアは、次には何もかもどうでもいいという目で仰向けに寝転がった。

 ああ、この気球船のバルーンぶち割ったらどうなるかなぁ……。

 

「……あのー、アナ先輩? 私、先生になら縛られてもいいというか、むしろ縛られる推奨なのですけれども、さすがにアナ先輩に縛られても何も感じないというか、まあ少しは興奮しますけれども」

 

「黙りなさい、この変態。お前など“【城塞】オイラー”の所に逝ってくればいいんです」

 

「止めてください何も発展しません」

 

「変態同士、好きなだけ語り合ってくればいいんです」

 

「それはもう済んでますので」

 

「…………」

 

 アナスタシアは、ナッシェの顔から奪った星模様の仮面を見つめる。

 古龍ダラ・アマデュラがイメージ元とされる『邪蛇座』の星座が描かれたそれは、元々はナッシェが顔を隠すために使い始めたものだけれども、こんなものを装着していれば、かえって奇異の視線を集めるだけではないだろうか。

 

「……今回はどうしてこれなんですか?」

 

「それは当然、生贄なんて野蛮な風習を今でも続けてるような辺境に行くんですから、そういう不吉な星座の仮面ハンターが来たら、『アイツには手を出したくない』みたいな風になるでしょう。簡単に言うと脅しですね」

 

「おいハンター、人々の安寧を守りなさい」

 

「それは無理な相談ですねー」

 

 のんきに笑う少女に深いため息をついて、アナスタシアは再び虚空観察に戻った。

 この問題児と二人での狩り。

 嫌な予感しかしない。

 

 

 

 

 

 そよ風が重なって茂る木の葉を優しく揺らして、カサカサとのどかな音を立てた。

 森のさざめきに身を委ねるように、ナギは静かに目を閉じて、肺からすべての空気を押し出すように息を吐いた。

 心臓の鼓動を見つめるような感覚。脈は速い。

 自分の中にある緊張の糸を静かに手繰り、蜘蛛の巣を解いていくような感覚でまぶたを上げた。

 緑色の森の奥で蠢く暗緑色の巨体を見据える。

 風を読み、空気の流れをそっと嗅いだ。

 自然界で最も成功したハンターの一種であるクモの生態をモデルにして作り上げられた弓、“スキュラヴァルアロー”を構え、右手の指先に摘まんだ矢をつがえる。

 褐色の強靱なフレームがしなやかにしなり、クモの糸を加工した弦が静かに張り詰めた。

 滲む汗の感覚も、狭まっていく視界も、今は全く意識に上らない。

 思考もなく、雑念もなく、あるのは必中と討伐の念のみ。

 

 大丈夫、私は独りじゃない。

 

「——ッ」

 

 ビンッ、シュッ、と矢が森の中を駆け、ちょうど標的のモンスターの眼窩へと吸い込まれていく。

 計算され尽くした狩人の鏃が、イビルジョーの飢えに血走った目を穿った。

 

「グギャォォォォッ!?」

 

 痛みへの悲鳴と怒りが混じった咆哮があがる。

 ()()が此方へと向く前に、その巨体に向かって三人の影が飛び掛かった。

 過去に狩ってきたイビルジョーから剥ぎ取った、大量の素材から厳選して製作した一級品の防具と武器。

 血に飢え憎悪の込められた一撃が、盛り上がった筋肉へと吸い込まれていく。

 

「……よし」

 

 大丈夫、私はハンターだ。

 今まで散々に経験を積んできた。

 いくつもの修羅場をかいくぐってきた。

 どれだけの研鑽を、この日のために積んできただろうか。

 恐れることは何もない。

 私は、全力で皆のサポートをすればいい。

 

 “()()()()()()()()”と呼ばれる銀色の全身鎧を木漏れ日の中に踊らせながら、ナギは次の矢をつがえて走った。

 




強気の女は尻が弱い(ボソッ

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