嘆きのクローン   作:佐渡 譲

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第五話

 彼らは何も知らずに成長し、やがて大人になって、セレブや要人たちに臓器を提供するドナーになる運命なのだ。

 従って、クローンの健康状態は頻繁にチェックされ、彼らがいる町には健康を害する飲み物や食品は一切置いてない。

 そして、代理の母親が産んだクローンにはただちに尻尾が移植される。それは、人間が牛に焼印を押すのと同じ理屈だ。

 クローンの尻尾は、色や模様で持ち主を表し、同時に人間とクローンとを識別する…つまり彼らは誰かの持ち物なのだ。

 クローンを育てる代理の親も尻尾を着けているが、それは子供に怪しまれないための取り外し式のイミテーションだ。

 けれども、クローンの尻尾は本物で、ちゃんと神経も通っている。だから彼らは人間には尻尾があると思い込んでいる。

 そうして、親や学校の教師が教える通りに、外にはテロリストがたくさんいるから、町の外に出たら危険だと信じている。

 稀に好奇心から町を出ようとするクローンは、警官に射殺される…だが、彼らはそれをテロリストの仕業だと思い込む。

 セレブや要人が、自分たちの欲望から生み出した町…医学を利用して人の形をした家畜を飼育するための臓器牧場。

 母は、グロウレイクタウンでセレブや要人たちに臓器を提供するために飼育されていた人間型の家畜だった。

 私の母には、産まれた時からすでに人間としての権利などはなかったのだった。

 

 男から我が身の真実を聞かされた母は、ショックの余り気を失いそうになった。

 そこへ警官隊が踏み込んで来て、男は逮捕され、母はグロウレイクタウンに連れ戻される事になった。

 町に連れ戻された母は、執拗に身体を検査され、町の外で食べたり飲んだりした毒物を排出する治療を受けた。

 それが済むと、幼かった私と母は一緒にグロウレイクタウンの町の矯正施設に入れられ、そこで生活する事になった。

 部屋が与えられ、広い施設の敷地を散歩するのは自由だったが、施設の外へは一歩も出してもらえなかった。

 それでも、監禁されている事を除けば、生活必需品や食料はすべて無償で提供され、生活そのものは快適だった。

 その施設で母は、何年も掛けて私を育ててくれた。学校に行く権利の無い私に、読み書きや算数まで教えてくれた。

 人間ではないクローンの子には学校に通う権利はない。それならば、何のために私は生まれて来たのだろうか?

 その意味が分かったのは、それからしばらく経ってからの事だった。

 

 ある日、白衣を着た数人の男たちがやって来て、母に何かを告げて連れて行こうとした。

 母が嫌がって抵抗しようとすると、一人の男が私の側にやって来て、いきなり私の首を掴んだ。

 抵抗していた母はそれを見て大人しくなった。そして、男たちに言われるままに服を着て黙って部屋を出て行った。

 その時私は、臓器を提供するクローンドナーの人質になるために生まれて来たと言う事を初めて知った。

 人間が臓器を取るための家畜として飼育するクローンに子供を産ませるのは、そう言う理由からだったのだ。

 

 男たちに連れられて部屋を出て行った母は、随分長い間帰って来なかった。

 ようやく帰って来た時は、母は歩くのも辛そうなくらいげっそりやつれていた。

 お風呂の中で見た母の背中の腰の辺りには、大きな手術の痕があった。

 後になってから、母がどこかのセレブの身体に移植するために、肝臓を摘出された事を知った。

 

~続く~

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