嘆きのクローン   作:佐渡 譲

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第七話

 やっとの思いでここまでたどり着いて、牛が飼われている牧場を見つけた。

 人が住んでいそうな家があったので、何か食べ物を分けてもらおうと思って近付いて行った。

 そうして、祖父がコヨーテ避けに仕掛けておいた罠に掛かってしまったのだった。

 

 祖父は、尻尾の生えた女の子の話を聞いている内に涙が出て来た。

 何とかこの女の子を助けてやりたい…どこか遠くへ連れて行って逃がしてやりたいと思った

 だが、もうすでに手遅れだった…牧場の前に止まったパトカーから、数人の警察官が下りて来た。

 しまったっ!と思った祖父は、急いで女の子を抱え上げて奥の部屋に隠した。

 部屋の前に立って入り口を塞ぎながら、入ってきた警官に「知らぬ存ぜぬ」とシラをきった。

 けれども、警官は乱暴に祖父を突き飛ばし、づかづかと奥の部屋に入って行った。

 でも、そこにはもう女の子はいなかったらしい。窓から逃げ出した後だった。

「裏口の方に回れっ!」警官のリーダーが大声で部下たちに怒鳴った。

 足の折れたままの女の子が、どうして屈強な警官たちから逃げおおせる事ができるだろう。

 まもなくして、何発かの銃声が聞こえて来た。

 祖父が窓の外を見ると。警官たちが撃ち殺した女の子の脚を無造作に掴んで、ズルズルと引き摺っていた。

 それは、まるで狩りで仕留めたヘラ鹿でも引き摺って行っているようだった。

 それが、祖父が尻尾の生えた可哀相な女の子、ルーシーを見た最期だった。

 仕事を終えた警官は、出て行く間際に呆然と立ち尽くしている祖父に、凄みのある声で言った。

「命が惜しかったら、今日見た事は誰にも喋るなっ!国家はお前一人ぐらい消すのはわけないんだからな」

 祖父はただただ恐ろしかった。国家は、事故死でも毒殺死でも、誰にも疑われぬように国民を殺せるのだ。

 そう思った祖父は、今日の今日まで、その事を誰にも話さずに隠し通して来た。

 第一、仮に誰かに話しても、きっと誰も信じてはくれないだろうと思っていた。

 

「なぁ、マーサ…わしは牧場でずっと牛を飼って来た。餌をやり、安全な寝場所を与え、あいつらの世話をした。そうしておいて屠殺業者に売り渡した。あいつらは自分が殺されるために育てられているとは、これっぽっちも思わなかっただろうなぁ」

 そう言って、祖父は悲しそうな目をしてじ~っと私を見た。

「考えてみりゃ、育てる者…屠殺する者…肉をさばく者…肉を売る者…食べる者。どこがどう違うんだろうな…みんなおんなじ罪を犯している共犯者じゃないか?きっと、神様から見りゃぁこの世は罪人だらけに見えるだろう。この世には、ただの一人だって善良な人間なんぞいやぁしないよ」

 そうして、話を終えた祖父は、天を仰ぐように上を向いて静かに目を閉じた。

 痴呆症も進行していたし、きっとおかしな夢でも見て、現実と混同しているんだろう…と私はその時は思った。

 

~続く~

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