嘆きのクローン   作:佐渡 譲

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第八話

 こうして祖父はこの世を去り、それから私は、しばらくして大好きな彼氏と結婚して家庭を持った。

 夫婦の仲もよくて、一緒に食事に行ったり、二人で映画を観たり、毎日幸せな結婚生活が続いていた

 ところが、夫がふとした過失から、一生掛かっても払えないような莫大な負債を背負ってしまった。

 途方に暮れている私たちの元に、ある日一通の書簡が届いた…その書簡にはこう書かれてあった。

 

 「代理の母親をしていただければ、当方が負債をすべて肩代りし、報酬もお支払いいたします ~保健衛生局~」

 

 保健衛生局…と言えば国が管轄している公社だ。何でこんな書簡を私たちのところに送って寄こしたのだろうか?

 最近は医学が発達して、人工授精が盛んに行なわれていると聞くが、大金を払って代理出産する人を募集してるのだろうか?

 にっちもさっちも首が回らなくなっていた夫は、送られてきた書簡の内容を見るなり乗り気になった。

 そこで私たちは保健衛生局まで足を運び、負債の肩代りと高額の報酬と言う好条件を提示され、契約書にサインをした。

 まぁ、3~4年で夫が背負ってしまった巨額の負債が返済できる上、報酬までもらえるなら悪くはない話だと思った。

 

 そして、契約を果たすためにある町に住む事になった私たち夫婦は、保健衛生局の職員の運転する車に乗った。

 引越し費用も荷物も何もいらなかった。住む家も用意されていて、家具も調度品もすべて整っているとの事だった。

「風光明媚ないい町ですよ。あっ、そうだっ!町の中ではこれを着ける決まりになっていますので…」

 そう言って職員に手渡されたのは、奇妙なベルトだった。そのベルトには不思議な事に、動物の尻尾が付いていた。

 私は、とっさに祖父から聞いた話を思い出した…なんと言う因果だろう。祖父の話は本当だったのだ。

「さぁ、着きましたよ…ここがあなた方ご夫婦の職場になるグロウレイクタウンです」

 保健衛生局の職員は事もなげにそう言った。私は暗澹とした思いに囚われた。

 ロッキーの麓に建つ湖畔の町、グロウレイクタウンは高いフェンスに囲まれ、出入するゲートは一つしかない。

「綺麗な町じゃぁないか。景色もいいし…こんな所に住めるなんて夢みたいだ」何も知らない夫は気楽そうだった。

 人は誰しも、知らず知らずの内に自分が重い罪を重ねている事に気付いていない。

 人の生は、それが動物であれ人間であれ、誰かの犠牲の上に成り立っているものなのだ。

 これから私は、クローンの卵子を子宮に移植され、要人やセレブのために人間の姿をした家畜を産み落とすのだ。

 その子は、産まれるとすぐに尻尾を移植される。持ち主を表す牛の焼印と同じであり、人と家畜を識別する目印でもある。

 そして、その子は祖父が牧場で飼っていた牛のように、何も知らずに育ち、やがて人間に屠殺される運命にある。

 すべては人間の欲深い業(カルマ)の為せる技から出た事だ…私はつくづく人の罪深さを思い知った。

 

 だから、もしあなたが不幸に見舞われたとしても、決して人を憎んだり、恨んだりしてはいけない。

 人はみんな罪を犯しながら生きているからだ…例え不幸になっても、あぁ、やっぱりそうだったのかと思うだけだ。

 人に欲深い業がある限り、人は誰しもみんな救いようがないし、この世には誰一人救われる者などいないだろう。

 だって、この世は罪人だらけで、ただの一人も善良な人間などいやしないのだから ~マーサ・ブライアン~

 

嘆きのクローン (完)

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