ひとつ、私が過去に戻ることが出来るなら、叶えたい願いがある。
それは――この世界に転生する際に貰った能力について。
変えたいなんて贅沢は言わない。
ただ、消し去りたい。
こんな能力、もういらない。
――目の前で同僚が剣を振る。
学園に侵入した、シンボルでもある世界樹が発する魔力を求める魔物を退治するために。
「ちょっと! なにやってるのよ!」
同僚の檄が飛ぶ。
魔物を浄化するための結界の準備をする同僚の時間を稼ぐのがとりあえずの目的だ。
だから私は闘わなければいけない。
麻帆良学園を護る魔法使いの一人として。
今日は警備の役目を負っているのだ――私は闘わなければいけない。
だけど、という接続詞が頭の中を走っている。
だから、私は闘わなければいけない。
恥じらいはある、何でこの歳になってまでとは思う。
だけど――私はこの警備で給与を貰っているのだ。
大人としての責任を果たさなければいけない。
私は大きく息を吸い、覚悟を決めた。
「りりかる まじかる ふれいかる 夜空に輝くお星さま 私に力を貸してっ」
魔力が渦のように胸元から溢れだす。
帯のような光が私のスーツをぺりりっと消し去り、三十路手前の身体が大事なところを隠しただけで周囲に晒される。
くるくるくるっと意味のない回転を空中でなんどか繰り返すと、魔力が武装となり私の頭に、腕に、胸元に、腰に、足に、ふりっふりと衣装となって現れた。
「魔法少女セーラースター 星の力でおしおきしてあげるっ」
星をモチーフにした杖を手にきらきらるり~んとポーズを決めた私には確かに、ぷっと笑いをこらえた同僚の顔が見えた。
――私には前世がある。
前世の私は同じように女性で、魔法少女なるものに憧れていた。
魔法の力を使い、きらっきらでふりっふりの衣装を着て、悪と戦う美少女戦士。
世間的の平均を下回る顔だった私は、周囲からの眼もあり頭の中で考えるだけだった。
それが普通なのだろう。
そんな私は一度死に、この世界に転生者として再び生を受けた。
その際に、私は光に、昔から考えていた魔法少女を望んだ。
結果、私は確かに魔法少女になった。
麻帆良という地で魔法少女として、長らく――10歳から数えてもう二十年ほど、私は闘っている。
望んだ力は魔法少女としての力。
だから、私は何時まで経っても魔法少女。
小学生の時は夢に溢れていた。
中学生の時はまだいけていた。
高校生の時はそろそろきつかった。
大学生の時は完全に痛い子だった。
社会人になってからは――。
止めようにも止めないのは給料が良く、投げだすという無責任な事を許さない褒められるべき心から。
何だかんだ言って憧れ続けた魔法少女。
それなりに整った、魔法少女の格好でも映える容姿も手に入れていた私からすれば、やはりどうしても――。
私は今日も星の力を借りて変身する。
魔法BBA無理すんな、なんていう都市伝説が麻帆良で広まりつつあっても。
私の力で何か出来ることがあるのならば、私はふりっふりの衣装で戦うのだ。
だけどこんな私でも、いつかそのままに受け入れてくれる男の人が現れないだろうか、と考えるのは夢を見過ぎなのだろうか?