ARMORED CORE VERDICT DAY ヴェニデの剣豪 作:D-delta
最近の私はそうおもうのであった。
防衛基地。昼。
霧山はなんとか体調を取り戻し、いつでも出撃できるように第一格納庫の中にあるイスに座っていた。
その霧山の隣にいるフレイドは漫画を片手にイスに座っていた。
座っている位置は霧山のAC付近である。
「そんな身体で大丈夫か?」
先日のこともあってか、フレイドは霧山に向かって心配そうに問う。
当の霧山は特に異常がないように平然としており、なにごともないように返事をした。
「大丈夫だ、問題ない」
「それ、やられるフラグだからな」
フレイドはすかさずツッコミを入れて、霧山の口元が緩んだ。
ツッコミを入れた後の話しが続かないまま、ぼーとしている彼らは扉が開かれた第一格納庫の外の景色を見ていた。
外の景色は先日の死神の一件により、ひどくやられていた。それはまるで行儀の悪い大食いが食卓である基地を荒らした景色だった。
基地に配備されている防御型のほぼ全機はただの鉄塊と成り果て、残機数はたったの三機しかいない状況だ。
その上死神の的確な攻撃により、攻撃ヘリや輸送ヘリ、基地内の防衛砲台までもが全滅しており、唯一残った大型ヘリは二機だけだ。
「この状況で襲われたらどうしようもないな」
フレイドは漫画を見始めながら、呟いた。
漫画を読み進めるフレイドの隣で霧山は自分のACを見つめながら口を開く。
「そのために俺とフレイドがいるんだろう?」
「それは、まぁ死と隣り合わせの苦しい役割だな」
そんな霧山の言葉に苦笑いしかできないフレイドは漫画を読み進めて行く。と、そこで三機の防衛型が彼らの目の前を通って行った。
《我らガーディアンがこの基地をまもーる!》
防衛型の武装は左腕に対実弾仕様のシールド、右腕に連射力の高いガトリングを装備していた。
それらの機体に添えつけられている拡声器によって陽気な声が響き、嫌でも霧山たちの耳に入ってきた。
「あの戦力じゃ無理無理、AC相手なら尚更だぜ」
「相手のACにもよるけどな」
「いやいや、ACなんだからいくらなんでも無理だぜ」
フレイドは漫画を読みながら、霧山はコンクリートの床を見ながら会話した。
そこからまた会話が途切れ、暇で平和な時間が続いていく。
のんびりしている彼らに風が心地よく当たった。それは眠気を誘うくらい心地よく穏やかになれる風だった。
「俺、眠たくなってきた」
「またかフレイド」
「またとは失礼だな」
「事実そうだろう?」
お互い、穏やかな気持ちのまま会話を続ける。その時は幸せな時間が訪れていると言って良いだろう。
風が訪れる。
しかし、今度の風は荒かった。まるで戦いを促がすかのように。
そんな幸せのひと時を壊すかのようにどこか遠くから尋常ではない騒音となにかが着弾する音が彼らの耳に響いてきた。
彼らはその騒音に緊張が走り、イスから飛び起きてACに乗り込んだ。
そしてこの基地にいる唯一まともな戦力、ACが動き始める。
「どこからだ?」
《分からなぇ敵が視認できない》
彼らのACはブーストで急ぎめに第一格納庫から出て、敵を確かめようと周りを見た。すると彼らの目にとんでもない光景が飛び込んできた。
そう、管制塔が無数の弾痕を作って破壊されており、それに隣接している建物は砲弾かなにかの衝撃を受けたように半壊していたのだ。
これでは基地の頭脳がなくなったようなものである。
司令部が壊されて指揮系統を失った周りの兵士は慌てふためき、どうして良いか分からない三機の防御型は格納庫の辺りをうろうろしていた。
《指揮官はいないのか!?》
《こちら歩兵部隊、ミセラブ・ブラッド司令と他数百名の死亡を確認》
《司令官がやられたのか、副指令はどこだ!》
基地内は指揮官が消えたことによってパニックに陥っていた。
歩兵たちは自分の持ち場が分からず、壊された管制塔や半壊した建物からとにかく生存者を探した。
防御型のチームは自らの武器を失うまいと格納庫を見張っている。
《接近してくる機影を確認。リコンを放て》
そのスピーカーからの一報は声を震わしている監視塔の歩兵からのものだ。
リコンが監視塔から放たれ、ACのモニターにリコンの位置が表示される。
数秒経つとリコンによってその位置一帯の情報がACのモニターに表示された。
地形データやその周りにある機影のデータが入ってきて、モニターに映し出される。そして入ってきた情報の中に衝撃を受けるものがあった。
2/R.I.P.1/Aという名前の機影。
その機体名はいままで戦ってきた死神とほぼ同じである。
霧山たちはブースト移動で、死神と思しき者のいる地点に向かう。
ブースト移動の勢いが付いたジャンプで基地の鉄柵を飛び越え、荒れた大地に足を着いた。
荒れた大地の上をブーストで駆けていくと、それは姿を現した。
右手にACの装甲を弾数で押し潰すほどの強烈な連射を発揮するオートキャノン、左手にACを確実にひるませるほど半端の無い衝撃力を持ったキャノン、そして焼き尽くすためのレーザーブレード、黒い装甲に赤いライン、CEミサイルが積み込まれたボックス型の腕部、早く動くための中量二脚、優秀な性能を持つアンテナのような頭、王冠を被ったドラゴンのエンブレム。
それはまさしく死神だ。
《霧山、あの死神はキャノン系の武器を持っているぞ。構えている隙を狙うか?》
「く……そうしよう」
胸に違和感と若干の痛みを感じ、霧山はたまらず胸を押さえた。
フレイドはその様子に気付き、声をかけた。
《おいおい、大丈夫か?》
「やれる!」
霧山はいつも通り敵に全意識を集中し始める。
そうして霧山は操縦桿とフットペダルを巧みに動かし、隙を作るために死神へと突撃する。
フレイドは霧山の突撃を援護するように動いた。
《PとGを倒したのはお前たちか、ならばこの私、Aが全力でお相手しよう》
その余裕の声は渋い男の声だ。
こうしてAが話している間に霧山のACはその高い機動力で目の前に接近。Vendettaの刃は死神の頭上へと振り下ろされる。
《良い戦い方だ》
Vendettaの刃はAではなく、地面を穿つ。
そう、ブーストを使わない無駄のない動作と最小限の動きだけで、必中とも言える攻撃とスピードのある凶刃を予測して回避したのだ。
Aは『ハイブースト』を使った機動でゆらゆらと動きながら、オートキャノンとキャノンを構えずに折りたたんだ状態から砲撃モードへ変更。
《お前たちの力を見せてみろ》
オートキャノンとキャノンの砲撃と同時に、凄まじく鼓膜などいとも簡単に破る爆音が響いた。
放たれた砲弾と弾幕は霧山目掛け、飛んでいく。
「うおぁ……!」
霧山はその放たれた弾幕と砲弾に意識を集中して、確実に当たるはずだった弾丸を三倍にも及ぶ機体操縦によって辛くも避けた。が、その身体を動かしたことによって霧山も霧山の身体も悲鳴を上げていた。
そんな霧山の悲鳴を上げているのを特に気にすることもなく『ハイブースト』によるゆらゆらとした機動を保ちながらAからの砲撃が続いた。
それに応じて霧山は次々に襲いかかる的確な狙いの砲弾と弾丸をその三倍に及ぶ機体操縦で避け続けた。
もしも、これが当たってしまえば霧山のACは凄まじい衝撃力の餌食になり、動きが完全に止まって無数の弾丸によって形成された弾幕に穴だらけにされるだろう。
《霧山、援護するぞ》
フレイドのACは霧山とAを中心にして弧を描くようにセントリーガンを設置しながらガトリングによる援護を行った。
その援護によりAはフレイドのACが放つ攻撃にも気を配って攻撃の手を止めてまで回避するようになり、多少の隙が生まれた。
それを見逃さず霧山は操縦桿を前に倒してフットペダルを全力で踏んだ。
《動きは見えている》
死角からそしてもう目前にまで接近してVendettaを振り下ろそうというところでAは霧山の方へ機体を向け、オートキャノンとキャノンの照準が霧山のACのコアへと付けられる。
その銃口からマズルフラッシュが発生すると共に弾丸と砲弾が発射された。
Aは勝利を確信した。
霧山は必死に生きようと機体を操縦した。
たったその0.6秒の間のことだった。
霧山はより素早く動かせる身体を使って機体を操縦。オートキャノンとキャノンの射線上から一瞬で抜けたのである。
《なんだ!?》
Aにとってそれは驚くことだった。
放たれた弾は確実に霧山のコアを貫いて搭乗している人間を殺すはずであり、その搭乗している人間――霧山は死の運命を拒否するように一瞬で射線上から逃げて行ったのだから。
「うぐぅ! うぐあぁぁ!!」
ただ、その運命を回避した代償として霧山の身体は心臓部の小型低出力ジェネレーターの出す過剰な発熱量に苦しめられた。
それはACにとって多少の発熱量だが、人間にとってとても高い発熱量であり、身体の内臓を溶かしてしまうほどである。
しかし霧山はその発熱量を全力で耐えて、全意識を敵に向けて機体の操縦を続けた。
「殺すぞ、お前を殺してやるぞ」
射線上から離れたことによって距離が離れてしまい、その距離を詰めるために『ハイブースト』で接近。相対距離が10を示したところで左腕に持つMURAKUMOの刃が煌めき、振られた刃はAの持つオートキャノンの四つの砲身を一気に切り裂いた。
続けて右腕のVendettaの凶刃を振り下ろしてAの左手に持つキャノン自体を切り裂く。
《この力、懐かしく感じる。ここは一旦退くとしよう》
そう言ってAはミサイルを撃ち続け、そしてフレイドの攻撃を巧みに回避しながらを後ろに退いていく。
霧山はそのミサイルたちに意識を集中。あり得ない操縦速度で回避していき、ミサイルを発射し続けるAを切り裂こうとするも後一歩というところでミサイルに当たってしまう。
爆風で発生した黒煙を払いのけAを探り、視界が開けた時には既にAの姿はなかった。
代わりに霧山の視界に入り込んで来たのは自らの鮮血だった。
フレイドの方にミサイルは飛んでいったが、フレイドにはシールドがあるおかげで避ける必要がなかった。よって飛んできた分のミサイルをシールドで受け止めていたのだ。
ただ、フレイドの視点でもその時にはAの姿はなかった。
視界に入ったのは地平線に向いて立ち尽くしている霧山のACと荒れた大地。そして地平線に沈み行く太陽だけだった。
《逃げられたか、補給するために戻るぞ霧山》
フレイドは通信で霧山に言いかけるが、返事がなかった。
その時、フレイドの脳裏にいやな予感が走った。それはこの前の吐血の件。心配していたことがまた起こったのかとフレイドは慌ててコックピットハッチを開き、荒れた大地の上へと足を踏みいれる。
《霧山、今助けるぞ!》
フレイドは霧山のACへと走る。
走り、霧山のACの脚をよじ登り、コックピットハッチを開ける。
「大丈夫か!? 霧山!」
フレイドの見たコックピット内部は半分以上が霧山の鮮血で染まっていた。ただ、今度は吐血だけではなく目と鼻からも血を出しており、出血量は前より大幅に上がっているのが見ただけでも分かった。
「この程度の出血量なんて気にすることなんてない。俺はまだ戦える」
顔の半分以上が自らの血に濡れている霧山は余裕の表情を作り、既に限界を迎えた身体を自力で支えながら限界ギリギリの震えた声を発する。
そのまま霧山は手を震わせながら操縦桿を握った。
「俺のことを頼れよ。待っていろよ、今助けを呼ぶから」
フレイドはそう言って霧山を安心させて血に濡れている通信機で今の状況を的確に説明し、防衛基地に助けを呼んだ。
霧山は安心した表情になってふと口を開いた。
「ありがとうよ」
今の霧山は感謝することだけで精いっぱいだった。
それを聞いたフレイドは焦りから笑みに変わる。
「今更そんなお礼、恩は出世で返してもらうぜ」
「分かっているよ」
フレイドのそんな現金な話しに霧山は笑い混じりに答えた。
互いに笑い合い、信頼し合っていると、大型ヘリの特徴的なうるさいローター音が二つ聞こえてきた。
「なんとか助かったな」
「ああ……」
それまで意識を保っていた霧山の緊張の糸が解れ、自らの血で汚したコックピットの中で眠るのであった。
フレイドは二人で入るには狭い霧山のコックピットから抜け出し、自分のACのコックピットへ戻った。
霧山が眠っている間に大型ヘリは霧山たちのACを回収。彼らが安息できる唯一の場所、防衛基地へと大型ヘリは戻って行った。
騙して悪いがもう一話あるんでな、彼らの結末は次の話で。