ARMORED CORE VERDICT DAY ヴェニデの剣豪   作:D-delta

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Chapter07 目覚め

「霧山」

 

 フレイドは霧山の身体の皮が剥げた部分を見つめていた。

 皮膚の下に敷き詰められている精密機械群は意識のない霧山のことなど気にせず勝手に稼働しており、その様は気持ち悪いの一言で言い表せることができる。

 遠くにしばらく連続的な爆発音と大きな発砲音が鳴った。

 最後に大きな爆発音がなると、それ以降は爆発音が鳴らなくなった。

 

「戦闘が終わったのか?」

 

 フレイドはACの上に立って遠くを確認した。

 その時にはいくつかの硝煙が上がっているだけで爆発の光りや火線はなかった。

 確認し終えたフレイドは今一度霧山の負傷具合を確認した。

 

「改めて見ると怪我が酷いな」

 

 霧山の負傷は顔の右頬の皮膚が剥げ、そこから血肉と精密機械群が剝き出しになっている。右足と右腹部、右腕がやられており、そこも同じく血肉と精密機械群が剝き出しになっていた。

 とにかくフレイドは霧山が負傷した部分に携行していた止血帯を使う。

 これで血をなんとか押さえることはできたが、流れてくる物はいまだ流れてくる。

 フレイドは回収部隊が早く来ることを望んだ。

 

「早く来てくれよ」

 

 その一言を言った直後、フレイドの望んだことが叶ったように大型ヘリの特徴的なうるさいローター音が聞こえてきた。

 音のする方向にはローター音の通り四機の大型ヘリが彼らを回収しに来た。

 ただ、四機の大型ヘリに混ざって一機だけ明らかに違う機種の輸送ヘリが回収部隊の中にいた。

 四機の大型ヘリは破損した彼らのACを固定ハンガーに固定して運搬する中、輸送ヘリから戦場に似つかわしくない白衣を着た研究者が五人降りてきた。

 五人の研究者たちは霧山の乗るACに真っ直ぐ向かい、ACから霧山を引きずり出して担架に乗せた。

 

「ちょっと、待った。霧山をどこに持って行く気だ?」

 

 呼び止められた研究者たちはフレイドを少し見ただけでそのまま霧山を担架で輸送ヘリへと運んで行った。

 

「待てよ、俺の話しが聞こえないのか!」

 

 フレイドの叫びが届いたのか、貫禄のある老いた研究者がフレイドに近付いた。

 老いた研究者の目は非常に厳しい目でフレイドを見ている。

 フレイドと目が合ったところで溜め息を吐いてから口を開いた。

 

「さっさと基地に戻れ。それが君のためになる」

「そんなことだけ言われて納得しろと?」

「納得もなにも我々は霧山を救わなくてはならない、それに君も見たのだろう? 中に敷き詰められている物を」

「それでも――」

 

 必死に理由を訊こうとするフレイドに、研究者は「しつこい」と一言言って輸送ヘリに乗り込んでいった。

 老いた研究者が輸送ヘリに乗り込んだところで輸送ヘリはローター音を立てながら飛び立ち、基地のある場所とは別の方向へと飛んでいく。

 

「あいつらを信じるしかないのは(しゃく)に障るけど、待つしかないか。戻って来いよ霧山、お前がいないと俺は出世も一緒に酒を飲むこともできないんだからな」

 

 フレイドは少しながら気を落として自分のACを回収した大型ヘリの後部座席に乗り込んだ。

 

《こちら輸送部隊、大型ヘリだとタンクの脚部を回収するのが難しい、大型トラックをこちらへ回してくれ》

 

 前部座席に乗るパイロットが基地へ大型トラックの要請を送り、大型ヘリは一足先にUNACと戦ったこの戦場から離れる。

 

「必ず戻って来いよ」

 

 フレイドはそう願って後部座席から輸送ヘリを見つめていた。

 

 

       ※※※

 

 

 負傷した霧山と五人の研究者を乗せた輸送ヘリはタワー付近の施設の前に着陸した。

 五人の研究者たちは担架に乗せられた霧山を輸送ヘリから施設内へと運んでいく。

 白い一面の廊下、白一面の自動扉、白衣を着た人間。

 だが、たまに白一面の廊下に血の色が張り付いていることがあれば、臓器が転がっていることもあった。

 その状況を見て分かる通り、この施設はマッドサイエンティストの溜まり場だった。

 

「こいつを調整室に持って行け」

 貫禄のある老いた研究者がここまで同行してきた四人の若い研究者たちに命令する。

 四人の若い研究者たちは『強化兵士』を調整するための研究室へ向けて霧山を担架で運んでいた。

 霧山を運んでいる研究者たちが調整室へ行く途中にも研究室はあった。

 一つの研究室では子供たちが薬物を投与されていき、適性でない者は死んでいく光景が見ることができた。そういう研究室もあれば、ある程度成長した子供の身体を解体して随所に機械を詰め込む研究室もあった。

 

「これで量産数は三人、先は長い」

 

 研究室の中を見ることができる窓から兵器として完成した子供を見て研究者の一人は言う。

 若い研究者たちは進んで行き、調整室と呼ばれる研究室に着いた。

 室内は先ほどの廊下と同じ真っ白であり、改造や実験に必要な器具はあらかじめ室内の奥にある棚に揃えられていた。

 霧山はそこに運び込まれ、調整台に上に乗せられた。

 一人の若い研究者は霧山の寝る調整台の周りに人体を解剖するための器具を用意する。

 

「さぁて楽しい研究の始まりだ」

 

 器具を用意し終わると四人の研究者たちは手を洗ってからゴム手袋を着用、そのまま器具を持って彼の身体へと向かう。

 

「まずはこのプロトタイプの身体を切り開くぞ」

 

 研究者たちは解剖を始めた。

 そして中の物が見え始めた。

 中の物は精密機械群と元々から入っている血肉、人工的に作られた臓器、光ファイバーと化した神経系、が入っていた。

 しかしそのどれもが傷ついている。

 

「これはもうボロボロだ、中の物をほとんど取りかえる必要がある」

「好都合じゃないか、研究主任から新しい改良プランが出されているんだ」

「あのおじさんから?」

 

 若い研究者の一人が内ポケットから二枚の改良プランを取り出して周りに見せた。

 周りはそれを見て懸念する。

 

「このプラン通りにしたらプロトタイプは一ヵ月もしない内に死んでしまうぞ」

「分かってないな、プロトタイプだからこそ出来るところまで改造するんだ」

 

 若い研究者の一人がそう言うと周りは若干の不安がある中、霧山を完全な実験兵器として割りきり、やれるところまでやると納得した。

 四人の若い研究者たちはそのまま霧山の身体をいじり続け、一人は改造プランを実行するための機材を取りに行く。

 

「これで、霧山は更に強くなれる。黒い鳥にさえ対抗できるほどの力をお前は得ることができるのだ」

 

 改良プランを周りに見せた若い研究者は自分の研究物が強くなれることを喜んだ。

 研究者たちの狂気の改良プランは二週間続いた。

 

 そして十五日目。

 彼は更なる力を持って目覚めた。

 

「テストだ、霧山」

 

 彼はぼんやりした意識の中、日本語を話す若い研究者に言われるまま実験場へ連れて行かれた。

 実験場にはACのコアが縦に三列、横に四列並べられており、そのコアは戦闘シミュレーターをするための物だ。

 彼は研究者たちによってACのコックピットに乗せられた。

 コックピット内の構造は一般のACと同じであるが、唯一違うのはコックピット内にカメラが設置されていること。

 それはパイロットを監視する役目を担っている。

 五人の研究者たちは監視室におり、そこから監視カメラを通して霧山のことを監視している。

 

《やり方は覚えているな?》

 

 通信から日本語で言われたその質問に、彼は意識をぼんやりさせながらもコクリと頷いた。

 彼は今までの手順通りにACを起動する。

 そしてモニターに映ったのは真っ暗の空間。

 

《シミュレーターを起動します》

 

 若い研究者がオペレートすると、モニターに映る真っ暗な光景は全く真逆の周り一面が白で統一されていて眩しいほどの空間となった。

 ACの腕部や脚部、武器、その全てがモニター上に映し出された。

 機体の構成はUCR-10/Aを中心とした中量二脚型ACの基本的な機体であるが、左腕が武器腕ブレード――A11 Vendettaとなっていた。

 右腕は通常の腕部であり、装備されている武器はレーザーライフルだ。

 

《マップとターゲットを表示します》

 

 それまで白一面の場所が徐々に荒れた大地へと変わっていく。

 どこまでも続いて行きそうな荒れた大地と地平線に見える太陽に変わった時、その大地の上に赤と鋼の禍々しい色をしたACが立っていた。

 

 単眼を持つ頭部、特殊弾頭に対抗するためのコア、エネルギー対策の取れた腕部、実弾防御に優れた脚部、最強の発掘兵器、赤い鳥のエンブレム。

 

 そのACの風貌はまさに王者と言える。

 それもそのはず、そのACはヴェニデ創設者である『セサル・ヴェニデ』が乗っていたのだから。

 

《戦闘プログラム起動します、戦闘を開始してください》

 

 研究者の口から戦闘開始というゴングが鳴らされる。

 赤い鳥のACは初手から『ハイブースト』と『グライドブースト』を多用した高速機動で動き、霧山のACに正確な照準を合わせる。

 

 赤い鳥が照準を合わせ終わり銃口から弾が放たれようとしたその時、赤い鳥の動き、赤い鳥のACを見た霧山はぼやけた意識から一変して意識がクリアになり、全身がうずき始めた霧山の視線は赤い鳥のACを確実に捉える。

 

 赤い鳥のACは左手に持つバトルライフルによる弾幕を張りながら右手に持つ最強の発掘兵器の一つ――LR-81 KARASAWAのエネルギーをフルチャージする。

 フルチャージを終えて放つ瞬間、エネルギーが一筋の光となる前に、霧山は弾幕を回避しながらその光輝く銃口に意識を集中した。

 そして一筋の光が放たれようとしたその瞬間、バトルライフルによってLR-81 KARASAWAの射線上に誘導されているにもかかわらず『ハイブースト』による回避でバトルライフルによる弾幕とLR-81 KARASAWAから迸る光の射線上から逃げた。

 そして放たれる。

 確実に当たるはずだった光は先まで霧山のACがいた地面を溶解させた。

 

《凄い! セサル様の攻撃を確実に避けている》

 

 戦いを観戦していた若い研究者たちは感嘆して霧山とプログラム上で再現されたセサルの戦闘の間、通信越しから分かるほどに興奮していた。

 

 赤い鳥の攻撃を回避した霧山は右手に持つレーザーライフルによる射撃を開始する。

 しかし放たれた光りは赤い鳥に全く当たることがなく、地面を溶かした。

 

《調整しようともやはり射撃はダメか。霧山、近接攻撃に切り替えろ》

 

 日本語で言われた指示に霧山は従う。

 右手に持つレーザーライフルを捨てて、左腕の武器腕を中心とした戦い方に変更した。

 霧山は『ハイブースト』による回避を適度に繰り返し、赤い鳥からの正確な攻撃を辛うじて躱しながら徐々に距離を詰める。

 

 霧山と赤い鳥の距離が200mより下回ると、再びLR-81 KARASAWAの銃口に光りが集まった。

 霧山は再び光りが集まる銃口に意識を集中した。

 

 150mを下回る。

 LR-81 KARASAWAの銃口には先ほどより多くの光りが集まる。

 霧山のACは斬る構えを取った。

 対して赤い鳥のACは左手の兵器をバトルライフルからLR-81 KARASAWAと並ぶ最強の兵器――LB-66MOONLIGHTに切り替える。

 

 100mを下回る。

 霧山のACが一度地に足を着いたところでLR-81 KARASAWAのチャージされたエネルギーの塊が飛んだ。

 霧山は素早い反応速度で『ハイブースト』を繰り出し、その超高温なエネルギーの塊を避ける。

 避けたところで『グライドブースト』の高速移動で近付く。

 

 50mを下回る。

 ここまで距離が縮まるとどちらも近接戦に入ろうとした。

 

 そして10m。

 お互いの刃が閃いた。

 赤い鳥からは超高温の光りの刃が繰り出され、霧山のACを焼いた。

 霧山は重さと切れ味を武器にした刃で赤い鳥のACを斬った。

 

 霧山のACの装甲は表面の方は溶解又は蒸発して機体内の機械群を焼かれていく。

 しかし、焼かれても斬ることを霧山はやめなかった。

 霧山の凶刃は確実に赤い鳥のACの装甲を斬り、中の機械群を斬り、そして人間が乗るところ――コックピットを斬った。

 

《そこまでだ、霧山》

 

 日本語で言われた制止された霧山は操縦桿を握るのを止めた。

 そしてコックピットハッチが開かれる。

 ハッチが開いた先には貫禄のある老いた研究者が立っていた。

 

「よくやった、これでお前は最強の兵器であるアーマードコアを更に強くする部品となることができた。喜びたまえ」

 

 笑顔を作る老いた研究者の英語が分からずに霧山は反応してなんとなく微笑んで見せた。

 そして老いた研究者は霧山の首筋に麻酔の入った注射の針を刺した。

 霧山はコックピットに入ったまま眠り込んでしまった。

 研究者たちは霧山をACのコックピットから運び出して調整室に戻した。

 調整室で霧山が寝ている間、老いた研究者と日本語が話せる研究者は話し合っていた。

 

「ようやく完成しましたね」

「ああ、霧山もこれで二体目の『強化兵士』と同じくらいの帰還率になるだろう」

「そうですね、二体目より能力が遥かに高いとはいえ、帰還率が低いとなると戦力になりませんしね」

「うむ、それでは記憶を消した後に霧山を戦場に戻すとしよう。あの第16支部防衛基地にな」

「はい、私は輸送ヘリを用意してきます」

「頼む」

 

 日本語が話せる研究者は調整室から出て行き、老いた研究者は不敵な笑みを浮かべながら霧山を見つめ、霧山の後頭部を開いた。

 中には脳みそとそれにへばり付いている接続可能な装置があった。

 老いた研究者はへばり付いた装置にコンピューターのケーブルを繋げ、多数のファイルがコンピューターの画面上に映し出された。

 

「ここでの記憶は消させてもらうぞ、霧山。悪く思わないでくれ」

 

 そう言って老いた研究者はファイルの一部を消去していく。

 そうして霧山はこの施設での出来事を忘れていくのだ。

 粗方記憶を消し終えたところで調整室内にノックする音が響いた。

 自動扉が開き、日本語が話せる研究者が入ってきた。

 

「研究主任、輸送ヘリの準備が出来ました」

「こちらも丁度終わったところだ。霧山を運び出せ」

「承知しました」

 

 日本語が話せる研究者は霧山を調整室から、そして施設から運び出し、輸送ヘリ内に運び込んだ。

「後のことは任せる」と日本語が話せる研究者は輸送ヘリに乗る兵士に言って、施設内に戻って行った。

 輸送ヘリは飛び立ち、霧山はフレイドたちのいる第16支部防衛基地へと向かって行った。

 

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