『無音』   作:閏 冬月

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初めましての方は、初めまして。
以前に、『無音』を見て下さっていた方は、お久しぶりです。


第1章 友の存在
第1小節 この想い旋律に乗せて


「何も思いつかない……」

 

私、空音 いろはは机とにらめっこをしていた。

音を一から創るというのは、数々の音を聞いたことがないと出来ないことだろう。生憎私は、私の持つ音を消す程度の能力によって、声しか聞いたことがない。声だけ聞こえるのかがよく分からない。

こんな使えない能力、なんで神様は私に与えたのだろう。

家の周りに人の気配を感じ取ることが出来た。気配を感じ取ることは音の聞こえない私にとって、とても大事なことだった。

誰なのだろう。私の家を知っている人はごく一部だ。

 

「おっす、近くに来たからちょっと寄ってみたけど…前より綺麗になってるな」

「あ、魔理沙か、入る?」

「おう!上がらせてもらうんだぜ」

 

私の家の周りにいた人の気配は、私が親友であると思っている霧雨魔理沙だった。私の家には比較的よく来る。

近くに来たという名目で、私の家に寄っては何かを盗んでいく。

魔理沙はさっきまで私がにらめっこをしていた机を見ると、やれやれといった感じで言った

 

「まだ音を創ろうとしてんのか?よくやるなぁ」

 

デリカシーのない部分は確実に傷である。魔理沙自身に自覚はないとは思う。

そんな部分に私は溜息をつくことしか出来ない。

 

「そういえばさっき近くに来たって言ってたけど、この辺りに何か用事でもあったの?」

「ああ、それなんだが……」

 

そう言って魔理沙は顔を俯かせた。

普通の人間がここに来る事は少なすぎる。

博麗神社の裏山に住んでいるため、来るとしても、遭難した外来人、遊び半分で来る妖精、後は巡回と家賃というか土地代を請求しに来る博麗の巫女、博麗 霊夢ぐらいだ。

そして、魔理沙のような普段ならばこんな変な場所に来ない人がここに来る理由はたった一つしかない。

 

「お前の家に遊びに行こうとしたらよ……。迷った……」

 

ここは私の能力のせいで音が全く無い。更には特殊な磁場があるらしく方位磁石や魔法や能力の場所の把握術は意味をなさない。つまりは能力の阻害されるのだ。私の能力が阻害されない理由はよく分かってはいない。

 

「仕方無いよ、ここは樹海なんだし。それに私の能力だってあるしね」

「本当にお前の家って目立つよなぁ」

 

ここの山は遭難した人の噂が絶えない。樹海の中での私の家はかなり目立つものになる。

魔理沙曰く、目印としては本当に良いものらしい。

博麗神社から私の家の方角を見ても、木々が生い茂っているため、家は隠れてしまっている。

 

「もう夜だし、泊まってく?」

「魔導書はあるか?」

「あるよ」

 

音を創る以外特にすることはないため、本を読むことは私の唯一の楽しみだったりする。山には外来本がよく落ちていることで、外の世界について知ることが出来る。

そんな私が何故、魔導書を持っているかというと、魔理沙から音に関する魔法についての魔導書を借りているからだ。

 

「じゃあ泊まってく」

 

その時の魔理沙の笑顔は盗みを働くことを前提に、泊まるような笑顔だった。まあ、あの魔導書もそろそろ返さないといけないと考えていたところだから、都合が良いと言われれば都合が良い。

 

「ふぁあ〜……。もう眠いし、私はもう寝させてもらうぜ」

「晩ご飯は食べなくて大丈夫なの?」

「いろはの飯は確かに美味いが、量が少ないからな。食べても食べないのと一緒だ」

 

酷い言われようである。

確かに私は少食だ。一度だけ、霊夢に作ってもらった朝食だけで、1日は食べずに過ごすことは出来た。朝食はお茶碗のご飯、4分の1だけで充分なのだ。

 

「酷いなぁ。んじゃあ、お休みなさい」

「お休み」

 

そう言って、ベッドのある二階へと魔理沙は階段を登っていった。

ある程度、魔理沙の気配が遠のいたところで、もう一度、机に向きなおる。

私が聞こえる音が出来るまで、何度でも試行錯誤を繰り返そう。

そう決意を決めても、思いつかないというか何もないという状態のため、何も出来なかった。

 

「誰かがヒントをくれたら多分いいんだろうけど……」

 

私の狭い交友関係からしても、音に関しての知識が深そうな知人は一切いなかった。

 

もう寝よう。

そう決めた私は二階の自室に向かった。

あ、そういえば、唯一のベッドって魔理沙に使われているような。仕方あるまい。今日はソファで寝ることにしよう。

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

 

 

朝、起きると家の棚が荒らされているように見えた。

大慌てで二階へと向かう。

ベッドの上には掛け布団の中に蹲る何かがあった。

 

「ねえ魔理沙、昨日誰か入って来・・・魔理沙?」

 

ゆすり起こそうとしたが、触れた感覚は人間の物ではなかった。ゆっくりと沈んだのだ。

掛け布団を剥がすと、そこにはどこから持って来たか分からない、バスタオルが丸め込まれてあった。つまり、ベッドの上には誰もいなかった。家の内にも姿は無い。魔理沙は帰ったと判断しても良いだろう。

そして、ここに来る荒らしそうな人は霊夢ぐらい。霊夢が来たら大体、大騒ぎするから爆睡中の私でも起きる。そこから導き出される答えはただ一つ。

 

「……まさか魔理沙が荒らした!?」

「朝からうるさいわね……もうちょっと静かにしてくれる?」

「れ、霊夢……」

 

来たのは霧雨 魔理沙ではなく、博麗 霊夢。親友である。それに、魔理沙よりも付き合いはずっと長い。

 

「もしかしてあんたまた音創ろうとしてんの?良くやるわね」

 

何の躊躇いもなく、人に傷をつけていくのはとても似ている。本人たちは一切の自覚がないのが、タチの悪さを引き上げている。

 

「魔理沙はうちの神社に寄ってから帰ったわよ。あと音を創ろうとするならアンタらしさを最大限に活かした音を創れば」

「私らしい音……か」

 

私らしさを最大限に活かしたと言われれば、一つにしか絞ることが出来た。

1番のヒントが、与えられたのだ。

 

「じゃあね、私は魔理沙からこの言葉を言ってあげてって言われただけだから」

 

そう言って、霊夢は私の家を立ち去ろうとする。

 

「ホントは優しいくせに「殴られたいの?」すみません調子に乗りました」

 

霊夢からとんでもない量の殺気が放たれたので、私はすぐさま謝った。立場を瞬時に切り替えることが出来ないと、霊夢とは付き合いきれない。

 

「でも…ありがとうね、霊夢」

 

私がそういうと、霊夢は後ろ手にひらひらと手を振って私の家から出て行った。

 

一度だけ、やったことがある。幻想郷中の音という音を全て消し去ってしまったことが。その時は霊夢にこっぴどく怒られたが、今回は許しが与えられた。

 

無機質な無音じゃなければ、無音にだって感情は無限に近いほどある。それら全てをコントロールすることが出来るのが、私の能力。音を消す能力ではなく、無音を操る能力。

やってみよう、私にしか出来ない音を、この私の想いをみんなに届ける。一時的に幻想郷中の音を消す。その『一時的』は、私の今までを詰め込んだ曲が終わるまで……。

5分12秒。これが私の限界だ。

 

 

届け、この想い旋律に乗せて

 

 

 

『無音』

 

 

 

 

それは、彼女にしか聞こえない音。

それは、彼女以外にしか聞こえない感情。

 

それ以来、空音いろはは外へ出た。

何故、彼女の能力が消えたのかは分からない。それは誰も一緒だろう。

その音は、一応、異変として位置付けられた。

しかし、博麗の巫女がしばかなかった異変で、珍しい異変だった。

その異変は、こう呼ばれた。

 

『無音』

と……。

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