『無音』   作:閏 冬月

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第4小節 人里での一幕

「なあ、お前はどこにいるんだよ」

 

そう言うのは、寺子屋で一緒の永井 次冠だ。

今は、秋の美しい夕陽が橙に染まった妖怪の山の方向に沈んでいく頃。つまりは、寺子屋からの帰り道である。

私、陽友 彩葉と永井 次冠はお隣さんということで、一緒に帰っていた。

 

「え?どういう意味?ここにいるでしょ?」

 

次冠の疑問はふわふわしていて、意味がよく分からない。

何かの比喩なのだろうか。

いや、次冠の頭が悪さから考えてそんなことはできないだろう。

それなら、更に意味がよく分からない。

 

「最近のお前さ、かんっぜんに心ここにあらずって感じだからよ。なんのこと考えてんのかなって思ったんだよ」

 

そんなことはないと思うけど。

 

そう反論しかけたが、思い当たる節はある。

例えば、いつの間にか授業が終わってたり、他の子から髪の毛にいたずらされても気付かなかったり。

 

「あ、もしかして私のこと心配してくれてるの?」

「バッ!?そんなわけ………」

 

私がそう言うと、次冠は顔を茹でダコのように紅くして、顔を隠した。

 

「そんなわけ…あるよ」

 

いや、そこは、

 

そんなわけあるかよ。

 

って感じのことを言って、つんでれを試すところだろう。

つんでれというのは、外の世界の本で学んだ。

 

 

外の世界のことを知るなら、外の世界と幻想郷を行き来出来る八雲 紫さんより、外の世界の本を数多く取り扱っています貸本屋 鈴奈庵へ(宣伝費はちゃんともらいますよ?)。

 

 

「で、お前はどんなことを考えてんだ!」

 

次冠がキレてきた。

普通に答えよう。

 

「うーんと。友達となるべく一緒にいたい、とかお小遣いもうちょっと増えないかなー?って事ぐらいだよ」

「聞いたことがあるんだけどよ。お前、あの妖怪神社に入り浸ってんのか?」

「質問多いね。次冠らしくない」

「さっさと答えろ」

 

うーん。

ここは真面目に答えていいのか悪いのか。

悩みどころではある。

 

そんなことを考えながら歩いていると、向かいから歩いてきた人とぶつかった。

 

「あ、すみません」

「……。君が『いろは』?」

 

ぶつかった人は、背が高く、黒い法衣みたいなのを身に纏っていた。

顔は口が見える程度。

 

 

「はい。幻想郷最弱にして、随一の平和主義者、陽友 彩葉ですけど。どこかで会ったこと、ありましたっけ」

「失望だ」

 

その人は、それだけを私に言い放ち、通ってきた道を引き返していった。

 

「なんだあいつ?」

「私が聞きたいよ」

 

次冠は恐怖を感じたらしく、道の端っこの方に寄っていた。

チキンめ。

男らしくないぞ!

男なら女の子守れ!

 

次冠は私の心の中でブーイングを発していることに気づかずにいる。

 

「あと、お前の自己紹介、マジで意味不明だったけど」

「事実」

「了解」

 

そして、次冠は私への質問の内容を忘れて帰った。

それに対して私は、次冠の背中を見ながら、小さくガッツポーズをとった。

 

 


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