『無音』   作:閏 冬月

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第6小節 降り頻る雨が意味するもの 後編

パチィイン

 

と、頰を叩いた甲高い音が家の中に響いた。

多分、家の外は雨の音がかき消している。

 

「彩葉!あなた、博麗神社に行ってたのね!」

 

…見られていた?

有り得ない。毎回、行くときはお母さんは家の中で用事をしている。

なら、どこから来たのか。

もしかしたら、他の私を知っている子が私が博麗神社に向かっているところを見て、お母さんに言ったのかもしれない。

しかし、そんなことはどうでもいい。

今、このときは桜花をどう博麗神社に帰すかを考えないと。桜花は隠れていると思うけれど、私の部屋をお母さんが探索してしまったら、桜花は見つかる。

早く、なんとかしないと。

 

「早く何か言いなさい。私はあなたに聞いているの」

 

お母さんは、怒りながらも極めて落ち着かせた声で私に語りかける。

しかし、私は答えない。

どんなことを聞かれても、私は答えないでおく。

何故か。それは解らない。

 

「彩葉、早く答えて」

 

私は答えない。

 

「ねえ、彩葉」

 

私は、答えない。

桜花が外に出るまで、私は答えない。

精一杯の時間稼ぎだ。

 

「ねえ、知ってる?あそこの巫女は妖怪化した元・人間なんだって」

「違う!あそこは私たちにとって、とっても大切な場所なんだ!」

 

……引っかかった。

カマをかけられたのは、気付いていた。

けれど、反論するしかなかった。

もしここで、黙ってしまうとそれは肯定をしてしまうと、同じことなんだ。

沈黙は是なり。

 

「そう、あそこに行っているのね」

 

お母さんは憐れむような目で私を見る。

 

何か、嫌な予感がする。

 

「だから何?」

「もう、神社に行かないのなら家にいていいわ。けれども、また神社に行くというなら、出て行きなさい」

 

 

 

 

 

 

私は、少ししかない感謝を示すために、お母さんにお辞儀をした。

 

そして、部屋の中へと上がった。

そこでするのは、ある程度の準備。

 

服や私が鈴奈庵で借りている本等を自分の鞄に入れる。

母のいない居間を抜け、玄関に足を運んだ。

戸を開けると、雨はざあざあと降っていた。

 

「傘は…いらないか」

 

私は慧音先生の寺子屋へと、走って行った。

 

 

 

 

_______________

 

 

 

 

 

「彩葉か、どうした?」

「明日から来ません。今まで、ありがとうございました」

 

そして、私は何処かに向かうように歩いて行った。

後ろから慧音先生の声が聞こえたような気がしたけれど、無視した。

 

 

 

 

 

 

_______________

 

 

 

 

 

 

 

私は博麗神社への道を歩いていた。

正直、どこにも行くべきところがない。

だったら、神社の裏山のあの家にいけばいいんじゃないか、そう考えたのだ。

 

「彩葉!」

 

桜花が私を呼んだ。

桜花も傘を差さずに来たのか、随分と濡れていた。

 

「彩葉、どうしたの?」

「桜花こそ。風邪ひいたら霊夢さんに怒られるんでしょ?」

「そんなことよりもだよ!彩葉は私たちを庇って家を追い出されたんだよ!友達として怒ってるの!」

 

庇った。

それならもっと、私は頭が良かった。もっと友達を作れた。

 

私は、人里の中でも異端だった。

 

「庇ってなんかないよ。私の思ったことを言っただけ」

「尚更じゃん!彩葉はいろいろと背負い過ぎてるんだよ!1人でなんとかしようとしないで!無理なら私も背負うから!」

 

そのとき、不意に涙腺が緩んだ。

困ったことに、私の瞳から溢れる雨は止まりそうにない。

私は、桜花の肩の上で周りの雨が降る中、涙を流した。


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