魔理沙は大きく驚いた顔をした。
それもそうだろう。死んだと思っていた人間が別の人から人格を借りて現れるなど、妖怪でしか出来ないような芸当だ。
「お前……本当にいろはなのか?」
「そうだよ。あのときから何年経ってるんだろうね。魔理沙は少し大人になってるし、何だか抜かされた感覚」
「そんなことないだろ!」
肉体年齢は歳をとっても、精神年齢はそのままのようだ。少し、安心した。
あたりをぐるりと見渡してみると、最期に見た部屋と全く変わっていなかった。ここは時間の流れが止まっているのではないか。そう思うほどに、何も変わっていなかった。
「ここって、変わらないんだね」
「ああ、それは私が丁寧に丁寧に掃除だったり整理していたからだぜ」
「せい……り?」
魔理沙の整理という言葉は信用してはいけない。何故か?その答えはとても簡単。
私にとっては前世といっても良いだろう。
私の前世で、「いろは!片付けを手伝ってやる!」って言って魔理沙が来たけれど、片付けが終わった頃には本が何冊か盗まれていくのだ。
その為、魔理沙の整理整頓を信用してはいけないのだ。
「何も盗んじゃいないぜ!ただ、魔道書を何冊か……」
「死ぬまで借りるだけだって?知ってる?それを世では窃盗っていうの。ま、私が死んでたし、この体の子が生まれてざっと9〜10年ぐらいでしょ?魔道書は盗んでも良いよ」
「さっすがいろはだな!そんじゃそこらの奴らとは違うぜ!」
私は少し、霊夢のことが気になった。
私の最期を見たのは霊夢だけ。霊夢は立ち直っているのか。今、どんな人になっているのか。何をしているのか。
気になることは山ほどある。
その私の考えを読んだのか、魔理沙はグッと親指を立てて、外へと飛び出した。
なんだかんだ言って、霊夢と魔理沙は私にとっては親友なのだ。
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その頃の魔理沙は霊夢を呼びに行っていた。
「おーい、霊夢ー。ちょっとこっち来てくれー!」
「何よ。魔理沙、私は私で桜花の二日酔いの世話しないといけないのに」
桜花は現在、厠の方で「ウヴォェアァ……」と女の子とは思えない声をあげて、リバースしていた。
魔理沙は顔を顰めたが、霊夢はいつものことと言わんばかりにため息を吐いた。
「いろはが呼んでるぜ」
「彩葉ちゃんが?それなら行くわ」
「霊夢、お前多分驚くぜ」
「どういうこと?」
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コンコンコン
静かなノック。あの、傍若無人で人のデリカシーなんて微塵も気にしなかった魔理沙または霊夢がこんなに静かなノックをするようになった。
少しは成長していることを感じた。人間性も成長していれば良いのに。
「入るぜ」
「どうしたの?彩葉ちゃん」
「……!」
霊夢の姿は20年間ぐらいの時間が経っていた。
あの頃とは違って、大人の綺麗さを手に入れていて私でも綺麗だ。と思う。
あの頃と変わっていないのは、真っ直ぐな芯を持った瞳。どれだけ時間が経っても、霊夢は一切光を見失わないのだろう。
「霊夢?」
「そうよ。どうしたのかしら?」
「久しぶり!」
「久…しぶりって?」
霊夢も魔理沙と一緒で、若干困惑したような顔を見せた。
魔理沙は笑っている。引っ叩いてやろうかな?
「あー、やっぱ面白いなぁ。霊夢、紹介してやるよ」
「大丈夫、私で言うから」
霊夢は更に困惑する。
「久しぶり、霊夢。あの時以来だね。空音 いろはって覚えてるかな?」
「いろは?……本当にいろはなの?」
急に霊夢は抱きついてきた。
私は10歳児前後なので、当然屈んでもらって。
私もギュッて抱きしめ返した。
私の肩に冷たい感覚がある。
「いろは、ごめん…あの時……!」
「……大丈夫、あの時は私が望んでたから」
私が望んで、あの時に存在を刻んでおかないと多分私はいなかったから。