「いろは、ごめん取り乱して」
「大丈夫。っていうか2人とも飲み込みっていうか私が空音 いろはっていうことを疑わなさすぎじゃない?もしかしたら、こっちの体の子が嘘吐いてるだけかもしれないのに」
魔理沙と霊夢はやれやれだ。と言うように頭を横に振って、ため息を吐いた。
変わらない。いつまで経っても変わらない。
だから、ふたりは私の親友でいられるのだ。
「まず、そんなことを言ってる時点でお前は彩葉じゃなくていろはだ。音だけだったら変わんないけどな」
「それにあんたの魂、いろはの物と完全に合致しているわよ。そんなこと、本来ならありえないはずなんだけどね」
魂の形……。そんなものが見えるのは神職に就いている霊夢ならではだろう。
コンコンコンコンコン
ノックにしては叩く回数が多い。
昔の霊夢や魔理沙より俄然マシだが。ただ、私の記憶にはここに来ることが出来る人は霊夢と魔理沙以外知らない。ならば、このノックをしているのは誰なのだろう。
現在の私はこの身体を持っている『彩葉』という子から、人格を借りているという感じなので、『彩葉』の記憶は持っていない。
もしかすると、『彩葉』の友達かもしれない。
「あ、そういえば桜花を置きっ放しにしてたっけ」
「桜花って?」
「紫が拾ってきた私の娘みたいなものね。私の次の博麗の巫女よ」
娘みたいなものって、なんててきとうな。とは思ったが、それが霊夢なので無理矢理納得しておく。
あと、置きっ放しって酷いような。
そんな私の考えを一切知らず、魔理沙はドアを開けた。
家の中からミシッ…と聞こえたような気がする。
どんな勢いで開けたのだろうか。
あとで小一時間、いや一日中説教だ。
「おっ、桜花か。どうした?」
「お母さんってここにいる?」
「おう、いるぜ」
霊夢の予想通り、霊夢の娘である博麗 桜花が来たようだ。
私としては会いたくない。私が『彩葉』を演じきれる自信がない。
「お母さん、晩ごは……!?」
「どうしたの?桜花」
桜花という少女は(私も少女なのだが)私を見て固まった。今のうちに桜花について観察しておこう。
霊夢には若干似ている。霊夢より貧乏性な感じがする。例えば、RPGの主人公よろしく、町の壺のなかを漁ったりとか。
「お母さん……彩葉じゃないでしょ。この人」
「だから?」
「妖怪なんでしょ。私の友達の身体から出て行け!」
そう言って、桜花は御札を投げてきた。
私は霊力とか魔力とかは全く分からない。ただ、嫌な予感というか、当たったら確実に死ぬ。そんな感じがする。
私は避けることも考えず、まっすぐに私に向かって飛んで来る光る御札を目の前に捉えながら、目を閉じた。
すぐに、爆発音のような音が聞こえた。
目を開けた。
御札か私に届くことなく、私の周りには護符らしきものがフヨフヨと浮かんでいる。
「なにやってんの。お母さん」
「いくらあんたでも、いろはに手を出すのは絶対に許さない。逝かれるのはもう嫌なのよ」
カチャと魔理沙がミニ八卦炉を構えた。
「私も許さないぜ。彩葉といろはは同一人物だ」
「何?2人とも、私の敵なの?彩葉はもういないの?」
いや、違う。
彩葉は私の中で一生懸命に3人を止めようとしている。
「ねぇ、暴れるんだったら出てって」
そう言って、3人を無理矢理外に出した。
私はこのやり方で良かったのかと私の中にいる、もう1人の彩葉に問いかけた。