『無音』   作:閏 冬月

20 / 43
第14小節 人里からの訪問者

あの時の彩葉は違う。

 

そう考えるのは、縁側に腰掛けている博麗 桜花だった。

桜花は予想ではなく、確信している。あの時の彩葉は誰だったのか。母である霊夢に聞きたいのは山々なのだが、先日、彩葉宅で親子(+α)喧嘩になりそうになったため、気軽に聞くことが出来ないのだ。

 

「彩葉の家に行ってもいいんだけど……」

 

その手段はあまり上等とは言えないことはこの桜花、なんとなくで気付いていた。

もし、その乗っ取られていた記憶がなかったら、説明することになる。面倒くさがりの桜花はそんなことをしようとは思わない。そのため、上等な手段ではないと察しているのだ。

 

なんとなくで、裏山の彩葉宅がありそうな部分に目を向けるも、錦を織り成している木々たちが、目一杯に枝を広げて彩葉宅を隠していた。

 

 

 

 

 

____________

 

 

 

 

 

 

 

あいつがいなくなってから、およそ一週間。

昔、起きていた神隠しの再発だとか、妖怪に食われたとか、色々な噂が人里に飛び回っている。

あいつの親にどうしたのかと聞いてみたら、知っていそうな雰囲気を醸し出していた。ただ、どうしたのかという答えは返ってこなかった。

寺子屋の慧音先生は、一週間前の夜に別れの言葉を受け取ったらしい。

最近の悩みはあいつの安否だった。

幼馴染ということで、今のところ、あいつとは一番長くいたという自信はある。だからこそ分かる。

あいつは生きている。彩葉のやつの生命力の強さは俺がよく分かっている。

 

「一旦、神社向かって見るか」

 

一番あいつが行きそうな場所を推測し、走り出した。

その時、なんとなくで見上げた空は、恨めしいほどに晴れていた。

 

 

 

 

 

 

____________

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰か、来る?」

 

桜花がそう感じたのは、野生的勘だったかもしれない。

桜花には白狼天狗のような千里眼や烏天狗のような風を操る能力は所持していない。____やろうと思えば出来る、別の話になるので、それはまた別の機会にて。

神社に現れたのは小さな少年だった。身長は桜花より少しだけ小さく、道中、妖怪にでも襲われたのだろうか、ところどころに爪痕が残っている。

 

「………」

 

本来ならば、少年の目は死んでいたり、疲れきった目をしているはずだ。しかし、少年の目ははっきりと桜花のことを睨んでいた。

そんなこともつゆ知らず、桜花はどこから出したのか分からない、小さな賽銭箱を手に持ち、トタタタと少年に駆け寄って行く。

少年は桜花のその行動に驚いた様子を見せたが、依然睨みつけたままだ。

 

「なんでここに来たの?うちにお参りに来た?」

「ふざけんな!!どうせここに彩葉がいるんだろ!」

 

少年は怒鳴った。

その怒声は境内中に響き渡り、少しだけ木々がざわめいた。

桜花は間近で聞いたため、耳鳴りがしていた。

少年は右手で拳を作り、振りかぶった。

その予備動作はあまりにも分かりやすく、反応が遅れても、余裕で防ぐことが出来る。桜花は拳の向きや目線などから拳が降って来るであろう部分にミニ賽銭箱を挟ませた。

拳はミニ賽銭箱の奉納の奉の文字のあたりに当たった。

 

「桜花ー?どうしたの?怒声が聞こえて来たんだけど」

 

霊夢が先ほどの怒声を聞き取り、桜花と少年がいる場所を見た。

そこには、少年が繰り出した拳をミニ賽銭箱を盾として受け止めている娘の姿があった。

ザッザッザッと走り迫る音が聞こえてきた。

 

「あんた何やってんの!」

 

霊夢は蹴り飛ばした。

 

誰を?ほとんどの人は少年を。と答えるだろうが、今回は違った。というか、今回も違った。

そう、娘の桜花を蹴り飛ばしたのだ。

 

「桜花!賽銭箱は大切にしなさいって何回言えば分かるの!」

「だからと言って蹴飛ばすことはないでしょ!」

 

このときばかりは、桜花が正論だ。

 

「んで?こっちの男の子は?」

「なんか、彩葉のこと知ってるみたい」

「彩葉ちゃんの人里での友達なのかしら」

 

「妖怪神社めが。お前らは妖怪と一緒なんだろ」

 

桜花はその言葉の意味を知っている。

人間が妖怪化することは幻想郷では重罪であり、普段ならば退治されるだけだが、最悪の場合、処刑人によって処刑されることもある。

似たような言葉を、桜花は聞いたことがあるから、意味を知っている。

 

「あんた、彩葉のこと知ってるんでしょ?」

「……それがどうした」

「お母さん、どうする?彩葉の家に連れてく?」

「その辺りは桜花に任せるわ。今から妖怪退治に行かないといけないし」

 

「じゃあ、着いてきて」

 

少年は桜花のことを怪しみながら、着いていった。

 

 

 

 

 

 

____________

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は知っての通り、博麗の巫女、んでもって彩葉の親友の博麗 桜花。あんたの名前は?」

「永井 次冠」

「やけに時間かかってそうな名前ね」

 

桜花と次冠が山を登っている最中の会話はこれだけだった。





永井 次冠は過去に一度だけ出てきたキャラです。
皆様が覚えていらっしゃるかどうかは別の話ですが。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。