神社の方から、祭囃子の音が聞こえてくる。
大切な大切な夜の読書の時間を潰されたのは、とても腹立たしいことだ。しかし、博麗神社が祭を行うということは滅多にないことだ。
どれだけ人がいるか、見てみよう。
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「結構人がいる……」
人外もちらほら見受けられるが。
本殿の方では、お賽銭をたかる……もとい集めている霊夢さんの姿が見えた。ただ、桜花の姿は見つけることができない。
少しだけ山の方に戻ると、何処からかバキッという音が聞こえる。音の方には、遠目で分かりにくいが、何かを叫んでいる桜花がいた。もう少し近づいて、話を聞いてみよう。
「あ……なにしてん…」
一歩だけ、近づいてみよう。
「うちの金づるに手ぇ出したら次は撃退じゃすませないからね!」
撤退。
「あ!彩葉!」
捕捉されました。
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「お母さん、金づ…参拝客の人からちゃんとお賽銭もらってた?」
金づると聞いた。桜花にとっては参拝客=金づるらしい。これだから、博麗神社のお賽銭は入らないし、参拝客も減っているのではないだろうか。
そんな思考は当然桜花には届かないので、独り言で言っていない限り伝わらない。
「ま、こんなこと口が裂けても言えない」
「何考えてたの?」
「何もない」
完全に独り言が出てしまった。
桜花は不思議そうにこちらを見つめるが、無理やり笑顔を作って見つめ返す。
現在、2人で山道を降っている状態だ。
「そういえば、なんで今回、お祭とか開こうと思ったの?」
「えっと確か、夏だから夏祭を開いた」
「うん。だから?」
「建前ではそれだけど、本音では、夏祭に行くことができなかった人が気分だけでもっていう理由で書「それ以上はいけない」
なぜだろう。本能的に桜花の言葉を遮らなくてはいけないような気がした。こう……物語のタブー的な部分に触れてしまいそうだったのだ。
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博麗神社に到着するや否や、霊夢さんが桜花に自由時間を与えた。というわけで、2人で屋台を回ることになった。
一緒だというだけで不安になってくるのは、桜花と2人で行動することが多い私ならではだろう。実際、私の財布からどんどんと小銭が消えていっているのだ。
「はほはひ、おいひいへ」
「うん、何言ってるか分かんないから飲み込んでから言おう?」
なんとなくは伝わった。
たこ焼き美味しいね。と言いたかった。と思う。
桜花は口の周りに青のりをつけながら食べているので、お手拭きで桜花の口の周りを拭く。
「ご苦労」
疲れる。
そう思ってしまうのは仕方ない。
少し離れたところに、よく見る姿が見えた。普段ならば魔女らしい帽子を被っているのだが、今日は違うようだ。そして、隣にはあまり見ない男の人がいた。
「魔理沙さーん?」
「お?その声は彩葉か?」
私が魔理沙さんを呼ぶと、魔理沙さんは空を飛んでこちらに向かってきた。
あの男の人は誰なのだろう。彼氏さんとかかな?
「よっす!桜花も一緒にいるのか!」
「桜花、久しぶりだね」
「あ、霖之助さん、こんばんはー。相変わらずもやしですねー」
「桜花、どこでそんな言葉を学んだんだい?」
この男の人は霖之助さんというのか。ふむ、なるほどよくわからん。
3人が楽しそうに話していると、私は蚊帳の外のような気がして、そそくさと帰りたくなった。そんな私を見て、霖之助さんは私のことを聞いてきた。
「この子は?」
「香霖は初めてか。こっちは陽友 彩葉、私の管理している家に今、住んでいる奴だ。こっちのもやしが森近 霖之助。魔法の森の近くで古道具屋やってる奴だ」
「はじめまして、霖之助さん。幻想郷最弱にして幻想郷きっての平和主義者、陽友 彩葉と申します」
「長いね。初めまして、森近 霖之助だ。何かあれば香霖堂に立ち寄ると良い」
法外な値段でぼったくられそう。あ、幻想郷には法律なんてものは一切なかった。
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あの後、魔理沙さんと霖之助さんは2人で、博麗神社夏祭を回ると言っていたので、なるべく早めに離れた。あの時の魔理沙さん、妙に楽しそうだった。多分、霖之助さんのことが好きなのではないか?
こんなおばさんみたいな発想をしてしまうのは、私も歳をとってきたということだろう。老化はやいなー。
「あ、お賽銭しとく?」
「まあ、いいか。博麗神社の神様って何?」
「龍神様だったと思う」
アバウト過ぎなのでは。
少し本殿までは遠いが、5円玉を財布から取り出し、放り投げた。お賽銭箱に入ったかどうかは知らない。
とりあえず願うべきだ。
二礼、二拍手、
願って
一礼
あまり願うことは無いけれど、願望ならあるんだ。
みんなとまだまだ一緒に居たいので、この縁が切れないよう、お願いします。