『無音』   作:閏 冬月

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第17小節 時繰異変 2拍

「彩葉ー。あの声、お母さんのものじゃなかったってお母さんが言ってたー。不思議なことがあるもんだなー。彩葉ー?」

 

そう言いながら、彩葉と元居た場所に戻ろうとすると、声が聞こえて来なかった。

いつも、私の言葉に対して返事を大体返してくれるあの彩葉がだ。

寝ているのだろうか?

そう思いながら、元居た場所を覗いた。

 

「彩葉ー?いるー?」

 

覗きこんだ先には彩葉の影も形もなかった。

そして、やんわりと残る妖怪の残り香。

普段の吸血鬼や天狗、その他諸々の普段から神社に来るような妖怪の匂いとは違う、悪意を持った妖怪の鼻を劈くような匂い。

 

ただ、この匂い合致する妖怪は私は知らない。

新種の妖怪?

否。

新しい妖怪は生まれにくいと霖之助さんから聞いたことがある。

私の頭の中に浮かぶ可能性は2つ。

1つ目は封印していた妖怪が封印が解かれたことにより、また暴れ始めた。

2つ目、紫や幽香さんのような古代から生きているかなり力の持った古い妖怪が紫さんの創った幻想郷への復讐。

前者であってほしい。そう思ってしまう。

前者の場合、封印を解いた時にかなりの疲労感に苦しめられる。その状態ならば退治はかなり簡単なのだ。

 

ただ、こういう時の私の願望は100%の確率で外れる。

 

「ほんっと……。人里の人間だとしても助けないといけないけどさ」

 

私の

 

「私の大切な友達の彩葉狙うとか、どうなっても良いってことで良いのかなぁっ!」

 

私は普段能力使わないようにしているけれど、今回は、別に良いよね。お母さん。

 

 

 

 

 

____________

 

 

 

 

 

 

(ここ……は……?)

 

私は目を覚ました。

周りは洞窟と思われるような風景が広がっていた。この変な感覚からするに、私の家の近く。

そして。妖怪に連れ去られたのだろう。そう認識すると、すぐに冷静に慣れた。あの子は確かに非力だ。

私も非力だが。

腕を動かそうとするも、背後で動かそうにも動かせない。

縛られているのだろう。何やら硬質なもので。

 

「やっと起きたー?というか、どっちなんだろうねー?」

 

明るい声だが、一切奥まで、明るいと言えない声だ。

まるでこちらの存在に対して、深い憎悪を纏いながら刃物を突きつけるような、冷たい声。

 

「どっち……というのは?私じゃない方ってことかな?」

「おっ!これは空音 いろはの方かなっ?!」

 

目当ては私だったらしい。

ただ、何が目的なのかがこの子の記憶を少しだけ見ても全く分からない。私に何を求めようとしているのか。

仲間になれ、とでもいうのだろうか。

 

「そうだよ。『無音』の異変の企画・実行者だ」

「すごいよね〜、あの異変。巫女に唯一解決されていない異変だもんねー!」

「その解釈は少し違うかな。あれは公にされていない異変」

 

彼女の声色は冷たい声ではなくなった。彼女の狙いは陽友 彩葉ではなく、空音 いろはだったらしい。

理由は私を仲間に引き入れるため。

この子の記憶の中から引っ張り出してきた。

 

「で、あなたは?」

「そうだね。私は濃い霧と書いて濃霧 咲」

 

こいきり さき……。

濃霧 咲、か。

あの頃から10年以上経っているんだ。

幻想郷に他の文化が入ってくるのも頷ける。

 

「で、ここからが本題」

 

彼女、咲の声は明るい声から冷たい声へと戻った。

ここからは一回でもミスを犯せば即殺すとでも言いたいのだろう。

 

「まず私の方から質問」

「? あなたの方から?ターン制にでもしてくれるの?」

「そうそう。じゃないとフェアーじゃないでしょ?」

 

そう言って咲はなんの企みも無さそうな笑顔を見せた。

ただ、目は薄めているだけで、何かこちらの奥底を見抜こうとしているようだった。

 

「私の質問。空音 いろは、あなたが気付いているのは知ってる。どうやって私たちの異変に気付いた?」

 

ふむ。お相手からしたら私が咲の異変に気付いていることが邪魔で仕方ないらしい。

けれど、私の頭の中で引っかかるのは私たち。

咲だけではなく、他の妖怪も関わっている。

 

「確認。煽っていい?」

「煽っていいか確認する存在を初めて見た。そんなの、答えはNOしかあり得ない」

 

流石に私の確認に驚いたのか、咲は目を大きく見開かせた。どんなに強い妖怪だって、驚くことはあるのだ。

さて、ここからは真面目に答えていくとしようか。

 

「質問の答えはとても簡単。私が別の世界線の人間だから」

「え?どういうこと?」

「私は本来、この時代に在るべきではない魂。私はあくまで人間」

 

咲は不思議そうに首を傾げるが、私は構わず話を続ける。

手を使って演説したいが、現在、私がもたれかかっている岩壁に引っ付いて外れないようなまでに、強固に縛られている。

いや、もしかしたら引っ付いているのかもしれない。

咲はそのことが出来るほどの強さを持つ妖怪……妖怪とはまた違うのだろう。

先ほどの名前から私が予想した種族が合っていればの話だが。

 

「とりあえず、私は一回死んだ魂。本来であれば私はいないはず。この身体はこの子の魂の入れ物なんだから」

 

私は一息つくと、すぐに私からの質問をした。

内容はシンプル。

私に何を求めているのか。それを知らない限り、私はここから脱出しようとも、時間を稼ごうとも思わない。

この子が繰り返されている時間を知っているかは分からない。私の日記がこの子に届いていることを願うばかりだ。

 

「君に求めるのは……まあ、仲間になってほしいってこと。私と力の弱った彼女じゃこの復讐劇は完成出来そうにないからさ」

 

力の弱った彼女と咲。

2人でこの繰り返されている時間を創り出している。

力の弱った彼女というのは、力の弱った今でもかなりの力を持っている。

その考えに至った私は時間稼ぎに努めることにした。

 

「ま、今の時間を繰り返しているのは彼女が力を取り戻すための時間稼ぎって言ったところ」

「で、私が仲間になったところで何が変わるの?」

「ターン制だよ。次は私の質問」

 

私が1番聞きたいことを逸らされて、私は少し不満になる。

それほどまでには私は冷静になっていなかった。

私はとりあえず咲の質問を答えるために、口を開かないようにした。

 

「私からの質問。どの時点で気付いた?」

「答えはとても簡単。時間が繰り返されてから4〜5日後あたり。上手いこと霊夢や魔理沙や紫さんの記憶は消してたみたいだったけど、存在すべきではないものが入り混んでたのは予想外みたいだったね」

「まあ、その記憶を持ってる君がこちらの仲間になればなんの問題はないということ」

「それが、あなたの私を狙う理由?」

 

その時、後ろからダダダダダッ物凄い勢いで走ってくる音が聞こえてきた。

これだけの音だと流石に咲でも気付くだろう。

その証拠に咲は顔を青ざめさせている。

 

「残念だったね。時間切れ」

 

そう言って私が不敵に笑った瞬間、博麗 桜花は洞窟の中に姿を現した。




さて、濃霧の種族が分かった人いますかね?
ヒントはかなり書いているつもりです。

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