『無音』   作:閏 冬月

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第18小節 時繰異変 3拍

さて、ここからは私、空音 いろはではなく、この子の役目だ。

後は頼んだよ。

陽友 彩葉。

 

 

 

 

____________

 

 

 

 

 

 

 

「彩葉、大丈夫?」

 

桜花は私に対して、そう聞いてきた。

特に怪我もないため、大丈夫だと答えた。

1つだけ無事ではないと言える部分は両手であろう。

洞窟の壁に拘束されている。

私は妖怪のような怪力は持っていないため、岩壁を破壊して拘束を解くということは出来ない。

 

「博麗の巫女……か。まだまだ未熟そうだねぇ」

 

彼女、濃霧 咲は不満げにそう言った。

理由は言うまでもない。

桜花は何も言わず、濃霧 咲と対峙した。

 

「あんたの名前は」

「濃霧 咲。君は?」

「博麗 桜花」

「綺麗な名前だねー。憎い名前も継いでさ!」

 

咲は手を地につけ、周りにある岩や石を浮かせた。

 

「ごめんだけど、弾幕ごっこだっけ?私はそういうの分からなくてさ、自分の戦い方でやらせて頂くよ!」

 

その浮かせた岩や石をこちらに飛ばしてきた。

私程度であればこの弾幕と言えるような礫で充分だろう。

ただ、咲の相手は桜花だ。

この程度、母である霊夢さんの弾幕に比べて空けて見える。

桜花は前に突っ込み、岩1つ1つを砕いていた。

 

「そう。偶然にもね。私も弾幕ごっこは、苦手でさ。肉弾戦の方が得意なんだよ、ね!」

 

ただ、1つだけ砕けない岩があった。

咲自身の能力であろう。

 

「流石の怪力だけどさ。私自身が創り出した岩は砕けないよね。鬼と同じぐらいの力がないと」

 

やはり。

いろはさんの推測は当たっていた。

いろはさんの推測は、ノーム。

欧米の土精である。大地と密接な関係を持っている精霊だ。妖精に近いが、かなり力が強い。

その力を持つ自身から岩石を創り出せば、それはそれはたいそう硬いものが出来るだろう。

 

ただし、桜花であれば。

 

「鬼と同じぐらいの力が必要?」

 

鬼と同じくらいの力が必要なのであれば。

 

「鬼と同じくらいの力で砕けばいいだけの話でしょ?」

 

桜花の能力、それは妖怪の力を扱う能力。

例えば、先ほどのように鬼と同程度の怪力を発揮したり、天狗のように高速で空を飛ぶことが出来る。

あくまで、妖怪と同じ力を使うだけであって、その他の妖怪個々の能力、風を操ったり密と疎を操ったりすることは出来ない。

 

そして、岩を砕いた。

 

 

「なんで……いつもいつもこうなんだ……。彼女の力を借りてこの幻想郷に私の存在を示してやろうと思っていただけなのに……」

 

ノーム。

本来であれば、この幻想郷の中に存在するはずのない欧州の精霊。

存在するはずのない存在ならば、幻想郷は身体の中に入った異物を排除しようと考える。それが彼女には、存在を否定されたように感じたのだろう。

 

「本当、異変を起こす妖怪って自分のことばっかり。周りの環境を考えないからそういう風に思えるんだろうね」

 

桜花は吐き捨てるようにそう言った。

ならば、私の中にいる、空音 いろははどうなのだろう。

唯一、解決されていない異変、『無音』は自己のことしか考えていなかったのだろうか。

そうだとするならば、空音 いろはという人物はどのような人、なのだろうか。

 

「そういやあんた、彼女って言ってたね。そいつの居場所、教えなさい」

「誰が……教えるもんか。彼女の封印をやったの思いで解いたってのに」

 

その時、思考を強制的に停められた。

あまりにも大きすぎる恐怖がこの空間の中に現れたのだ。

 

「紫……と誰……?」

 

そこにはこの幻想郷の賢者、八雲 紫と得体の知れない何かがいた。

私の中の記憶では、見覚えがあった。どこで会ったかは覚えていない。ただ、一度だけ、私ではなくいろはさんが会った。

 

「桜花、ありがとうね。そこにいる子、彩葉だっけ?お疲れ様。後は禊に任せればいいから」

 

私は数瞬、呆気にとられた。手柄を横取りされたような気がするからだ。

私や桜花がやってきたことはなんだったのか。

そう思わずにはいられなかった。

 

「ねぇ紫、それってどういう意味?私はここまで彩葉とやったのに、見ず知らずのそいつに手柄渡せって?ふざけてる」

「正直に答えるわね。これは明るみに出してはいけない異変。過去の遺物の封印が解かれたというのは、博麗の巫女にとっては大きな失態となる。だから影で葬るのが一番なのよ」

「なら、その禊ってのはなんなの?」

「処刑人」

 

私と桜花はその言葉に、絶句した。

この幻想郷において、そのような役職が与えられるのは有り得ない。なのに、その役目があるということは。

 

「処刑人って、何するのよ…」

「裏での博麗の巫女的存在ね。ただ、こっちはかなりしんどいものになるけれど」

 

 

「意識の断絶」

 

 

得体の知れない何か、処刑人の禊がそう呟いた瞬間、私の意識は途絶えた。


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